万全
「それにしても、本当に急だったな。俺、そんなすぐに出ていきそうな雰囲気とか出してたか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
ミリオは少し言葉尻を詰まらせるようにそう言った後、視線だけでクレアの方を一瞥すると、すぐにこちらに視線を戻し、意を決したように口を開いた。
「本当は内緒にしてって言われてたんだけど、クレアに聞いてくれるように頼まれたんだよ。自分で聞くのは怖いからって」
「怖い? なんで?」
クレアへ視線を向けると、まるで裏切りにでもあったような驚愕の表情でミリオを見ていたが、俺と目が合うと恥ずかしそうに頬を赤く染めて目を逸らされた。
「クレアはアスマにべったりだからね。もしその話をして、すぐにでも家を出るなんてことになったら、離ればなれになっちゃうから、それが怖かったんだって」
「あー、そういうあれか」
せっかく仲良くなれたのに、これからは別々の場所で暮らすってなったら確かに寂しいもんな。
そんなクレアを安心させるために、俺はクレアの傍に寄りその頭に手を伸ばし、丁寧に撫でる。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。言っただろ? 俺はクレアと一緒に居たいんだって。だから、クレアが嫌にならない限りは、何があっても絶対に俺は離れていったりしない。約束するよ」
本心から、一切の偽りなく笑顔でそう伝えると、クレアにも俺の気持ちがなんとなく通じたのか、先程よりも表情が柔らかくなり、こちらを見上げる瞳にも活力のようなものを感じた。
「ははっ、本当に仲良くなったね二人とも」
「おう、まぁな。でも、俺はまだまだもっと仲良くなるつもりだからな。覚悟しておけよ」
いずれは以心伝心で思っていることを分かち合えるような間柄を目指したいと思う。まぁ、それはさすがに冗談だけど。
「さてと、それじゃあ話にも一区切りついたところで、そろそろ小休止も終わりにして行こうか」
「あぁ、そうだな。クレア、疲れは大丈夫そうか?」
疲労が溜まった状態での戦闘は危険なので、念のためにそう尋ねてみたが、元気そうに頷きを返してきたので、どうやら大丈夫みたいだな。
そう。森の入口で雑談、というには少し込み入った内容だったが、話をしていたのは何もそれが本題でという訳ではなく、あまり街の外へ出ることのないクレアの体力を気遣って、軽く休憩を取っていただけだ。
まぁ、変に気を緩めないためにあくまでも小休止程度だが、一度戦闘に入ってしまえば、次にいつ休憩できるか分からないので、休める時に休んでおくことは重要なことだ。
いざとなればクレアを抱えて森の外へ退避することも可能だが、不測の事態に備えて万全の状態を保って行動することは、魔物の生息域に入る場合は当たり前の配慮というわけだ。
さて、それじゃあ気を抜かないように慎重に行くとしようか。