一緒に
そして、出発してから数時間が経ち目的地の森へと到着した。
「おぉ、ここに来るのも久しぶりだな。最後に来たのは本格的に鍛える前だから、半年前か?」
「そっか、あれからもうそんなに経つんだ。時間が経つのって早いね」
「だな。でも、ミリオたちと一緒に生活するようになったのもそれぐらいなんだよな。なんかずっと前から一緒にいるような気がしてたから、そう考えてみるとまだ半年かって気もしてきた」
まぁ、その半年間俺が何をしてたかって言ったら、ひたすら自己鍛練をしてただけなんだけどな。
でもそのお陰でようやくスタートラインに立つことができた。たったそれだけのことに随分と時間を掛けてしまったけど、やっとのことで冒険者の資格を手に入れることができたのは、今思い出しても感慨深いものがある。
「ははっ、確かにね。半年間一緒に暮らしてたからかな、僕もアスマとはもっと長い付き合いだと思ってたよ。何ていうか、もうアスマのことは他人とは思えないんだよね。クレアもそう思うよね?」
ミリオの問い掛けに対して、クレアは何度も首を縦に振ることで同意を示す。
本当は思念会話を繋げて会話ができるようにしてあげたいんだけど、これから戦闘することを考えると、その前に魔力を消費するのは避けたいところなので、帰る時までは我慢してもらうしかない。
でも、そっか。二人も俺のことをそういう風に思ってくれてたんだな。俺の中でも二人の存在は、もう他人とは思えないぐらいに大きなものになっている。
正直、これは俺だけが一方的にそう思っているだけだと考えていたから、なんか嬉しいな。
「あぁ、俺もだよ。二人は俺にとって特別だからな」
そう、特別だ。他の何にも代えられない大切な存在だ。
この二人を守るためならば、俺はどんな犠牲も厭わないだろう。たとえそれがどんなものだったとしても……。
「あ、そうだ。丁度良い話の流れだからアスマに聞いておきたいことがあるんだけど」
思考が変な方向に逸れかけたところでミリオから声が掛かったので、その考えは忘れ平常心でそちらに向き直る。
「ん? 何?」
「ほら、僕らの家に来てすぐの頃に言ってたじゃない。ずっと家に居座るのは迷惑だから、準備ができたら家を出ていくって」
「え?あー、そういえば」
そんなことを言ったような気がする。というか、あの家に帰るのが当たり前になっててそのことを完全に忘れてた。
……いつ出ていくの? みたいな話じゃないよな? 流れ的には。
「そのことでなんだけどさ。アスマ、このまま僕らと家で一緒に暮らさないかな?」
「……」
「駄目、かな?」
俺が無言でいることを否定的な態度と取られたのか、ミリオの態度が少し弱気なものになり、クレアも少し表情が暗くなる。
「あ、いや、ちがっ! そうじゃないよ、ごめん。あの、ちょっとびっくりして言葉が出なかっただけだから。その、そう言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう。でも、いいのか? そんなこと言われたら、俺本気で出ていかないぞ?」
「うん。いいよ、それで。本当はこんな場所で言うつもりじゃなかったんだけど、アスマがいつ家から出ていくのか聞いてなかったから、早めに切り出しておいた方がいいかなって」
「ははっ、そっか。うん、そっか」
……正直、かなりほっとした。
会話の流れで、なんとなくこういう結果になるというのは予想できてはいたが、実際にミリオの口からその言葉が出てくるまでは気が気じゃなかった。
もし今この二人に拒絶されていたら、俺は間違いなくしばらくは立ち上がることもできないほどに意気消沈していたことだろう。
俺にとってはこの二人に嫌われることはそれほどまでにショックなことだ。だから、本当に良かった。うん、良かった。