癒し系
武器や防具などの装備を身につけ、外へ向かう準備を完了させて、部屋を出ようとしたタイミングで外から扉をノックされた。
「はい?」
それに返事を返し即座に扉を開くと、そこには装備に身を固めたクレアが片手を上げ扉を叩く仕草を残したまま立っていた。
ノックをした直後に扉を開かれたことに少し驚いたようで、それが顔に表れている。
「あぁ、クレアか。呼びに来てくれたのか?」
俺の質問に肯定を示すように首を縦に振るクレア。
「そっか、わざわざありがとな」
そう言って感謝を込めて頭を優しく撫で付けると、クレアはいつものようにはにかんだ笑みを浮かべされるがままになっている。相変わらずこの笑顔には癒されるな。
頭を撫でながらクレアの姿を見下ろし、改めてその装備を眺める。
頭には革製のキャスケット帽のようなものを被り、全身も回避することを重視した革製の軽装防具に包まれている。
防具のデザイン自体は俺と似たようなものなのに、女の子が着用すると何故か可愛らしく見えるのは何でなんだろうか?
そして、腰には二本の短剣を吊り下げている。
これは以前俺が両手に剣を持った状態で、それぞれに魔刃を発動させられるのかを尋ねたところ、問題なく発動できるとのことだったので、ミリオやクレアと相談して魔刃の驚異的な切断力を生かし、手数を増やすために二本持ちになってもらったというわけだ。
正直、魔物との戦闘に慣れたら直ぐにでも即戦力としてパーティーに合流できるだけの攻撃力は既に持っている。
というか、やりようによってはオークも余裕で倒せるんじゃないかと思っている。……本当、うかうかしてたらあっという間に追い抜かれそうだな。俺ももっと精進しないとな、せめて常にこの子の前に立っていてあげられるように。
「それはそうと、装備良い感じに似合ってるな。それに今日は髪もお下げにしてるんだ、こういうのも新鮮で良いな。うん、可愛い」
クレアは普段特に髪を縛ったりはしていないが、今は後ろで髪を二つ結びにしている。
本人的には邪魔にならないように束ねただけかも知れないが、女の子は髪型を少し変えるだけで普段とは違う魅力を発揮するので、男としては新しい一面を見られて何となく嬉しいものがある。
俺の賛辞に対して、クレアは頬を赤く染め満面のとろけるような笑みを浮かべ、照れたのか顔を隠すように頭防具を前にずらした。
その反応自体がとてつもなく可愛らしく、俺の心を鷲掴みにしてくる。あぁ、本当に可愛いな。たぶん、今の俺はかなりだらしない顔をしているだろう。でもしょうがない、今のクレアの仕草にはそれだけの破壊力があったんだから。
その後、少しして平常心を取り戻したクレアに手を引かれ玄関口に向かうと、既に準備を完了させたミリオが待っていたので、少し遅れたことを謝り出発する流れとなった。
これから向かうのは、初心冒険者御用達の東の森だ。あそこならばよっぽどのことがない限りは危険な目に遭うこともないだろうし、魔物との戦闘を学ぶには丁度良いだろう。
といっても、俺は前科があるので絶対に気を抜いたりすることはない。何より今回はクレアがいるので感覚を研ぎ澄まして最大限に警戒していくことを心掛けよう。パーティーメンバーを守るのは盾役としての俺の役割だからな。