疑問
「お待たせ。それじゃあ、やろうか?」
「おぉ。しっかしよぉ、随分と気になること言ってくれてたじゃねぇかよ? 俺があの女とやり合ったら全力を出せなくなるだって? ありゃあどういう意味だ?」
先程のミリオの言葉に疑問を感じ取ったガルムリードが、それに対して言及する。
「言葉通りの意味だよ。アスマに聞いたけど、君は戦闘が得意なんだって?」
「あ? まぁな。今まで同レベル帯のやつには負けたことがねぇし、こう言っちゃぁなんだが、お前にも負ける気はしねぇ」
「自信があるっていうのは良いことだと思うよ。でもね、君は知っておいた方がいい。世の中、上には上がいるってことをね」
ミリオは何かを悟ったような表情でガルムリードの目を正面から真っ直ぐに見つめ、注意を促す。
それは実際にアンネローゼと戦い、その非凡な才能を見せつけられたミリオだからこそ言えることだろう。
半年前、15もレベルの差がある中でミリオに勝利したアンネローゼ。そのレベル差を覆すほどの技量と才覚こそが、あの子の特異性なのだが、何をどうすればあれだけの実力を身につけられると言うのだろうか、それだけは未だに謎だ。
「……あの女、そんなにかよ?」
「うん、下級冒険者の中では間違いなくトップの実力だよ。実際、僕は彼女に今まで一度も勝ったことがないからね」
「あんなフラフラ落ち着きのねぇ小娘がなぁ。わっかんねぇもんだなぁ、おい」
「本当にね」
二人して呆れたような表情でアンネローゼを見やり、複雑な気持ちを込めたため息をもらす。
そうしたい気持ちも分からんではないけど、世の中というものは割りとそういうものだ。努力では越えられない壁というものは、はっきりと存在している。
でも、だからと言って今見ている壁が最高かというとそういうわけでもなく、その壁の向こう側には更に大きな壁が待ち構えていて、その向こうにも更に、といったように人生にはいくつもの壁が待ち受けている。
というように、本来であれば知恵を振り絞ろうが、外的要因を駆使しようが、決して乗り越えられない壁はあるのだが、この世界にはそれを力尽くで突き崩すための手段が用意されている。
それがレベルであり、俺のスキルだ。
この力が何のために存在していて、どういう意図によって備えられているのかは分からない。が、この力は種としての限界を軽々しく突破することができる破格の権能だ。
この力を高めることが、この世界で生き抜くためには必要なものであることは違いない。でも、だからこそ薄ら寒いものを感じざるを得ない。
本来、生物が生きていくためにはこのような力は必要ないはずだ。魔物という脅威に対抗するためにこの力があるのだと言われれば納得できないでもないが、それなら元から対抗できるだけの力を与えれば済むだけの話だ。それをわざわざ魔物を倒すことで己の限界を超えさせるという回りくどい行為になんの意味があるのか、それを極めた先には何が待ち受けているのか。考え過ぎと言われればそこまでだが、意味がないということはない気がする。そう、まるで何かに試されているような……。