宿屋2
扉を押し開くと鈴の音が鳴り響き、中から「いらっしゃい!」という元気のいい声が聞こえてきた。それと同時に鼻腔をくすぐる芳ばしい香りが漂ってくる。
ミリオから事前に聞いていた通り、どうやらこの宿屋は一階では酒場を経営しているようだ。なので、今日は食事をしながら話し合いしようと思いまだ昼食は食べていない。
そして、全員が店の中に入る頃には向こうから給仕の少女がこちらの人数を数えながら近づいてきた。
「お客さん四人? 食事に来たの? それとも宿泊?」
少女はハキハキと口早にそう尋ねてきた。
「一応食事だけど、ここに泊まってるガルムリードっていう銀狼の獣人に会いに来たんだけど、分かる?」
「あぁ、その人ならそこで食事してるよ」
少女が手で示した先へ視線を向けてみると、大皿に乗った肉の塊を切っては食べ、切っては食べ、と延々に食らい続けていた。
「おー、あいつだ。ありがとう」
そう言ってガルムリードのもとへ向かおうとしたのだが、少女から待ったの声が掛かり踏み出しかけた足を止める。
「食事にするなら後で持っていくからここで注文していってくんない?」
「って言われても初めて来たから何があるか分からないんだけど。おすすめは?」
「今日は肉料理かな。ちょっと辛いけどおいしいよ」
「ほぉ。どうする? 皆それでいいか?」
後ろを振り返り三人に問い掛けると、ミリオは同意を示したが、クレアとアンネローゼは辛いのはあまり得意ではないということで、俺とミリオは肉料理を、クレアとアンネローゼは魚料理を注文した。
そして、テーブルの間をすり抜けてガルムリードのもとへ辿り着いたので声を掛けると、肉を口一杯に詰め込んだままこちらに振り向き片手を上げて挨拶してきた後、ちょっと待ってくれという風に掌を向けてきた直後、高速で肉を咀嚼し始めあっという間にそれを呑み込んだ。
「っふぅ。よぉ、来たかよ。そいつらは?」
「あぁ、こいつらは俺の仲間だよ。こっちがミリオでこっちがアンネローゼ。クレアはこの前会ったから知ってるよな」
簡易的にこちらの紹介を済ませ、ミリオたちも一言、二言挨拶を済ませるとガルムリードも挨拶を返し、丁度そのタイミングで料理がやってきたので各々が席につき食事を始める。
その後、雑談混じりに食事がある程度進んだ頃ガルムリードが
俺に問いを投げ掛けてきた。
「で、ここに連れてきたってことはそいつらも俺らのパーティーに入りてぇってことでいいのかよ?」
「そういうことだ。別にいいよな?」
「おぉ、構わねぇぜ。けどよ、そいつらは強ぇのかよ? 弱ぇやつならお断りだぜ?」
その言葉に対し、俺は自信を持って答える。
「あぁ、強い。まぁクレアはまだ色々と発展途上だけど伸び代は十分にあると思う。けど、そっちの二人は少なくとも俺よりも遥かに強いぞ」
俺の言葉を受け取ったガルムリードはその返答に満足したのか、獰猛な笑みを浮かべ二人を見定めるように眺める。
その視線を受けミリオは少し居心地を悪そうにしているが、アンネローゼは笑顔で手を振っている。
「いいじゃねぇか。そんだけ強ぇなら戦力としちゃあ十分だぜ。けどよ、俺ぁ自分で確かめたもんしか信用しねぇ性質でよぉ。お前ら俺とやり合わねぇかよ?」
「やり合うって何をー? 遊ぶの?」
「いや、違うでしょ。多分彼は僕らと戦いたいって言ってるんじゃないかな? だよね?」
ミリオの問い掛けにガルムリードが頷くと、それを見たアンネローゼは目を輝かせてテーブルに身を乗り出す。
「え!? ホントに? はいはーい! やるやるー! アン、やっちゃうよー!」
「かっ、やる気満々かよ。そっちのお前はどぉだよ?」
話を振られたミリオは少し考えるような素振りを見せたが、一度頷くとガルムリードの目を真っ直ぐに見返す。
「うん、分かった。やろうか」
ミリオの同意の言葉にガルムリードは笑みを深めて嬉しそうにしている。
にしても、アンネローゼが同意するのは分かっていたことだが、ミリオが話に乗るのは少し意外だった。まぁ、ミリオのことだし何か考えがあってのことだと思うが。