クレアの条件
「……は?」
クレアの突然の宣言に俺の頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
確かに俺のことを近くで見続けるというなら冒険者になるという選択は間違いではないのかもしれない。でも、たったそれだけのために自分の人生における重要な選択を済ませてもいいのか? いや、良くないだろう。それはそんな簡単に決めていいようなものじゃない。
「ちょっと待った、一旦落ち着こう。はい、深呼吸」
大きく息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。クレアと一緒にそれを数度繰り返して気持ちを落ち着けたところで質問を投げ掛ける。
「冒険者になるって言うけど、その意味分かってるのか? さっきクレアが自分で言ったことだ。冒険者っていうのは常に危険と隣り合わせの状況で活動しないといけない職業だから、怪我をするなんて日常茶飯事だし、最悪命を落とすこともあるかもしれない。俺はクレアにそんな目には遭ってほしくない」
たとえ冒険者にならなかったとしてもこの世界ならこれは誰にでも当てはまることなのだが、冒険者は危険地帯に自ら足を踏み入れる職業なので魔物と遭遇する可能性が非常に高い。それどころか討伐依頼なんかもあるぐらいだ。それならまだ街にいる方が安全性は高いだろう。それとこれは単に俺の我が儘なのだが、クレアの傷つくところが見たくないし、最悪の事態に陥ることを俺は許容できない。
『アスマ君は私が冒険者になるのは反対?』
「そうだな。賛成か反対かで言えば反対だ」
『でも危険な目に遭うのはアスマ君も一緒でしょ? なんで私はダメなの?』
「いや、だってクレアは女の子なんだから……。って、ごめん。この言い方は卑怯だな。……そうだな、前にも言ったかもしれないけどクレアのことが大切なんだよ俺は。だから、自分が傷つくのは平気でもクレアが傷つくのは嫌なんだよ」
『私はアスマ君が怪我するの嫌だよ?』
「それは……」
『分かった。じゃあ、どうすれば私が冒険者になるの賛成してくれる?』
……また難しいことを言ってくれるな。
どうすれば、か。感情論を抜きにして考えるなら、まずはレベルだけど、正直自分がレベル制じゃないからどの程度のレベルなら安全なのかなんて分からない。それに、レベルをある程度まで上げたところで格上の魔物に遭遇した場合多少のレベル的余裕なんて有ってないようなものだ。だから重要視するべきところは戦闘能力だ。なら……。
「……ミリオとアンネローゼ、それにガルムに自分の強さを認めてもらうこと。それが条件、かな」
この条件を満たしたのなら、それは本物の実力を持っているということだろう。なら俺ももう反対はしない。その時には素直に冒険者になることを歓迎しよう。