衝撃
「悪ぃな。いい一撃もらってついカッとなってやっちまった」
「いや、俺も少しムキになってたところがあったからそれは別にいいんだけどさ」
ガルムリードに殴り飛ばされてから僅かに時間を置いて、俺はクレアに膝枕をしてもらいながら彼と話をしていた。
何故膝枕をしてもらっているかというと、咆哮からの顎にもらった一撃が原因で体に力が入らなくて起き上がれないから、俺が倒れ込んだ直後に慌てて走り寄ってきたクレアが気を利かせてやってくれている。
正直、固い地面に寝転がっているよりも温かくて柔らかいからありがたいんだけど、クレアのスカートを汚してしまうのと、俺の頭の重量分足に負担を掛けているのが申し訳ない。砂利が食い込んだりしてないといいけど。
「けどよ、まさかお前がここまでやるとは思ってなかったぜ。最後の魔術なんざ今まで味わったことのねぇ威力だった」
「まぁ、俺もあの威力は想定外だったけど一応俺の切り札みたいなもんだからな。それでもお前には大して効いてないみたいだけど」
直撃させた時は「やったか!?」って思ったんだけど、全然やってなかったからな。この通りピンピンしてやがる。俺は一撃もらっただけでこんな状態なのに、やるせない。
「あ? 堪えたに決まってんだろぉが。体中ぶん殴られたみてぇに痛ぇってんだよ」
「えぇ? 断然平気に見えるんだけど、それで効いてるのか?」
「あぁ、親父に鍛えられてた時に散々ぼこぼこにされ続けてきたからよ、痛ぇのには慣れてんだよ」
「お、おぉ。そうか」
……スパルタなんですね、シャッハホルンさん。そりゃあんなごつい人にやられ続けてきたんならタフにもなるか。俺なら絶対にご免だ。
「それにしても、外には強ぇやつがごろごろいやがんだな。やっぱ森を出て正解だったぜ」
「話の流れ的に、その強いやつの中には俺も入ってるのか?」
「おう、当然だろぉよ。結局最後は本気を引きずり出されちまったからな。その分はお前の勝ちだ」
……おぉ。何か嬉しいな。そっか、本気を出させられたんだ。
まぁ、最後のあれがガルムの本気なのだとすれば、最初から本気でこられていたらまるで勝負にならなかっただろう。動きにまるで反応できなかったもんな。赤殻も打ち砕かれたし、格上対策は本当に難しいな。
その後、何とか立ち上がれるまでに回復したところでガルムリードと別れ、帰宅することになった。
その道中、魔力が枯渇気味なので思念会話を繋がずに帰っていたのだが、繋いでいる手とは逆の手でクレアが袖を引いてきたので何か話でもあるのかと思いなけなしの魔力を振り絞って思念会話を繋げる。
「どうした?」
『うん。あのね私決めたの』
……決めたの。と言われてもまるで要領を得ない。何を決めたというのだろうか。
『アスマ君、放ってたらすぐに怪我するし、危ないこともするからやっぱりずっと一緒にいて見てないとダメだって』
冒険者になった以上これからも怪我をしたり危険な目に遭うのは確かに避けられないだろうけど、それは仕方のないことだろう。何かを得るためには何かを犠牲にしなければいけないからな。この場合は安全性とかその辺を。
まぁ、これからも今みたいに一緒についてくること自体は別に構わないし好きにさせてあげたいと思うけど、俺についてくるより他のことをしてる方がよっぽど有意義だと思うぞ?
『だからね。だから私も』
そして、クレアは今日一番の衝撃を伴う一言を放ってきた。
『冒険者になる!』