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訓練(小剣)

 ミリオに連れられてやってきたのは、街の奥まった所にあるかなり大きい広場だ。

 この広場はギルドが冒険者のために借り受けているところで、訓練場と呼ばれている。

 基本的には開けた場所でしかできない魔術の練習や、大人数での合同訓練のために使われているらしいが、俺たちのように個人で訓練に励んでいる人たちもちらほら見受けられる。

 冒険者なら誰でも自由に使ってもいいらしいので、気兼ねなく訓練できるというのは素直に有難い。

 俺は冒険者じゃないけど冒険者志望だから見逃してほしい。


「本当はギルドの中にある訓練所を使ってもよかったんだけど、どうせギルドに行くならレベルを上げた後冒険者になるための手続きをする時のほうがいいかなと思って」

「へぇ、さっすがミリオさん分かってらっしゃる」


 結局は遅いか早いかというだけの違いではあるけど、どうせなら初めて行ったその場でデビューを飾りたいという男心だ。

 

「さぁ、それじゃあ早速始めようか。僕はこれを使うけど、アスマはどっちの武器からでもいいから好きに打ち込んできていいよ。悪いところがあればその都度何で悪いのかっていう理由を一緒に教えるから」

「了解」


 ミリオが持っているのは短剣か。

 ならこっちも最初は扱いやすそうな小剣からいってみるか。

 槍は邪魔になるだろうし一端隅に置いておこう。


「じゃ、いくぞ」

「どうぞ」


 剣を強く握り締めて、まずは剣が届く範囲まで走って間合いを詰める。

 ミリオは右手に短剣を持っていることを除けば自然体で突っ立っているようにしか見えない。

 というか、実際ただその場に立っているだけなんだろう。

 レベルの差はそのままステータスの差に繋がる。

 ミリオは確かレベル25だったはずだ、レベル1の俺と比べると25倍の差がある。

 レベルが上がる時に上昇するステータスの数値には個人差があるそうだが、25も差があればさすがに全てのステータスにおいて俺をかなり上回っているだろう。

 つまり構えをとる必要性はまるでなくあの状態から俺がどのような攻撃を打ち込んだとしても容易く弾き返してくるだろう。

 なのでこっちも遠慮をする必要はまるでない。

 ここは深く考えて動くよりも、まずは全力で動くことで今の俺の底を確認してもらうことが第一だ。

 そろそろか。

 今の間合いは丁度俺の剣が届いてミリオの短剣の範囲外だ。

 勢いは殺さず、踏み込んだ足を軸に体重を乗せ、上段から全力の袈裟斬りを放つ。


「らっ!」

「いい一撃だけど、初手で出すには隙が大きすぎるよ」


 いつの間に動いたのかまるで初動が掴めなかったが、振り下ろそうとした剣の握りを左手で受け止められ、右手の短剣の柄頭で軽く腹を叩かれる。


「相手の動きが鈍重だったならそれも有効かもしれないけど、力量の分からない相手と闘う場合は防がれるのを前提で初手は小さく薙ぐ程度に抑えておいた方がいいかもね。相手が格上だったり俊敏だったりした場合、今みたいにがら空きの腹部に一撃もらっちゃうからね」

「お、おう」


 全力で行くと決めた傍からすげなく一撃を無力化され、呆気にとられる。

 実力差があるのは分かっていたがまさかこれほどとは……。

 これはレベル以上に戦闘技術の無さの方が深刻なのかもしれない。


「さ、次いこうか」


 落ち込んでいても仕方ない。自分が劣っていることなんて重々承知していたはずだ。

 気持ちを切り替えろ。この程度をこなせないようじゃ冒険者になんていつまで経ってもなれやしないぞ。

 気を取り直して二度目の挑戦だ。

 遠距離での攻撃手段を持ってない以上間合いを詰めるところまではさっきと同じでいいだろう。

 その後は、さっき教えられた通りに初手は左から右へと小さく薙ぐ。

 一歩後ろへ下がることでそれをかわされるが、追撃で袈裟斬りを放つ。今度は全力ではなく体勢が前に流れない程度で力を込めて。

 それに合わせるように短剣をかざされ防がれる。

 剣が弾かれ体が後ろに流されそうになったので無理をせずに反動を利用して後ろへ飛びずさる。


「うん。今の判断は良かったよ。無理な体勢から反撃を返しても逆効果だからね」

「おう!」


 そうだ。俺の武器は小剣。

 一撃一撃を全力で打つ必要はないんだ。

 必要なのは隙の小さく、けれど力のこもった連撃。

 全力の一撃を打ち込むのは相手の隙ができたその一瞬でいいんだ。


「もう一度」

「おう!」


 距離を詰める。

 小さく、細かく、相手の動きを見て、相手が対応しづらい場所に斬撃を打ち込む。

 薙ぎ、袈裟、逆袈裟、斬り上げ。

 徐々に打ち込み方が分かってくる。精度も上がっていく。

 だが、そこが限界だった。


「よっ」

「うぉっ、と、ぐはっ」


 苦し紛れに放った突きを短剣でいなされて、留守になっていた足を払われ、盛大にずっこけてしまった。


「……はぁ、はぁ、はぁ」

「だいぶコツが掴めてきたみたいだけど、剣は振り慣れてないとすごく体力を消耗するでしょ」


 ……そうな。

 元々体力がそこまで無いのにこれだけ剣を振り回せばそりゃバテるって話しだよな。

 軽く感じていた剣がすげぇ重く感じる。


「じゃあちょっと休憩。休憩が終わったら今日は素振り百回で終わりにしようか」


 ……素振り百回か。もう既に限界なんだけど。


「それと、アスマは基礎体力が足りていないから明日からは走り込みも追加でやろうか」


 ……おぅ、何てことだ。必要だってことは分かってはいるけど、まさか異世界に来て走り込みをやらされる羽目になるとは。

 もってくれよ俺の体。もってくれるといいな。

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