力試し2
『パッシブスキル《赤殻》発動』
ガルムリードとの戦闘は更に激しさを増し、一進一退の攻防が続いた後、知らず知らずのうちに昂っていた精神をトリガーとして赤殻が発動した。
未だ互いに直撃を受けてはいないとはいえ、いつその均衡が崩れるとも知れない状況においてこのスキルの発動は非常に有効に働くだろう。
だが、精神が昂る一方で、冷静に状況を判断しようと努める頭が一つの疑問を訴えかけてきた。
それは、ガルムリードの動きについてだ。
先程から互いに攻撃を仕掛けてはかわされ、反撃を繰り出してはいなされて、といった攻防を繰り返してきたが、その際に何度か俺が反応できないほどの動きを見せたり、それとは逆にわざと攻撃を誘うような鈍い動きを見せたりと、まるで統一性のない動きをする場面が見受けられた。
……それが意味するところなんて一つしかない。
「あ? なんだ、どぉしたよいきなり立ち止まってよ? もう終わりか?」
急に動きを止めた俺に、ガルムリードが訝しげな眼差しを送ってくる。
それに対して俺はガルムリードを半目で睨みつけ、不満をぶつける。
「なぁ、ガルム。お前手抜いてるだろ?」
そう、俺はあの動きに見覚えがあった。ミリオではなくアンネローゼでも、ゲインさんでもない。あれは、初めてカイルと模擬戦をした時のあいつの動きにそっくりだった。
最初の頃は、ステータス的にも技術的にもあいつより劣っていたので、気を使ってなのかどうかは知らないが、あいつも今のガルムリードのようにわざと俺に合わせるような動きを見せる時があった。
ミリオたちは技術面の指導をする時は丁寧にゆっくりと教えてくれるのだが、模擬戦になると基本的に対等な立場で容赦なくこちらを叩きのめしにくる。
その遠慮のなさが俺には非常に心地好く、更に相手の全力に触れることで自分の感覚が徐々に研ぎ澄まされていき、反応できなかった動きを察知できるようになった時などは、達成感と喜びを感じたものだ。
だからこそ、ガルムリードの端からこちらを格下と見なしたうえで力を試すようなやり方が気に入らなかった。
「まぁよ。手ぇ抜いてたわけじゃねぇんだが、確かに全力は出してねぇな。何だ、気ぃ悪くしたかよ?」
「いや、そんなことはない」
実際に俺とガルムリードの実力にはそれだけの差があることは事実なのだろう。だが、それで納得するほど俺はできた人間ではない。むしろ、どちらかというと負けず嫌いな性分だ。
だから、俺はガルムリードに宣言する。
「けどな、全力を出してねぇっていうんなら、今から俺がお前の全力を引きずり出してやるよ」
たとえ、どんな手を使ってでもな。