ガルムリード
と言っても、今のところはこれでいいとしても結局この方法じゃ直線的な動きしかできないので、欲を言えば小刻みに連続で発動できるようになりたいところなんだけどな。
さて、それじゃ一通り試してみたいことも終わらせたし、クレアと約束した通り家に帰ることにするか。まだ時間もあるし帰ったら体を休めながら魔力操作の訓練でもしようかな。
そう思いながらクレアのもとへ足を進めていると、何となく見られているような気配を感じたのでそちらに首を巡らせてみると、そこには先日冒険者ギルドで会った銀の毛色をした獣人の青年がいた。
青年と目が合うと、彼は冒険者ギルドで見せたように犬歯を剥き出しにした笑みをその顔に浮かべ、こちらに近づいてきた。
「よぉ、お前一昨日ギルドで会ったやつだよな? 順番譲ってくれたやつ」
「あぁ。どうも」
「あん時ぁ助かったぜ。俺ぁあんま待ったりすんの得意じゃないからよ、ちょっと苛ついてたとこだったんだ」
「ははっ、そっか。そりゃ良かった」
「おう。そういやぁまだ名乗ってなかったな。俺ぁ銀狼族のガルムリードだ。長ぇからガルムって呼んでくれていいからよ。よろしくな」
そう言ってガルムリードはこちらに手を差し伸べてきた。それに応えるようにこちらもその手を取って握手を交わす。
「俺はアスマだ。よろしくなガルム」
名乗り返してガルムリードの顔を見ると、またしても犬歯を剥き出しにして笑顔を浮かべていた。近くで見るとその鋭い犬歯は肉食獣を思わせるような牙のように見えて少し怖いが、それ以上に気持ちの良い笑顔がその怖さを打ち消しているので、こちらも自然と笑顔を返すことができた。
そして、互いの挨拶が済んだところで先程から気になっていた点について聞いてみることにした。
「そういえばガルムって銀狼族なんだよな? じゃあシャッハホルンって人知ってる?」
「あん? 何だお前、親父のこと知ってんのかよ?」
「あぁ。……って親父? へぇ、ガルムってあの人の息子だったのか」
確か、修業に行くって言って出ていったきり帰ってきていない息子がいるって言ってたな。こんなところに居たのか息子。
「そうだが、どこで会ったんだよ? 親父ぁ森ん中に引き込もってるはずだがよ」
「あぁ、西の森だよな。ちょっと用があってあそこに行った時に、こいつの力で結界を越えて会うことができたんだよ」
グローブを外して指輪を見せると、ガルムリードの目が見開かれ、こちらに疑いの眼差しを向けてくる。
「そいつぁ、俺が失くした指輪か? 何でお前がそれを持ってやがんだよ」
「あー、ちゃんと説明するからそんな目で見ないでくれよ。と、その前に連れを待たせてるからちょっと待っててくれ」
少し話が長引きそうなので、断りを入れてから小走りで一度クレアのもとへ戻る。
「悪いクレア。今から俺ちょっとあの人と話しないといけなくなってそれが少し掛かりそうなんだけど、どうする? 先に帰ってるか?」
『んー。その話って私が聞いちゃいけない話なの?』
「いや、そんなことはないけど」
『じゃあ一緒に行く』
「そうか、なら行こう」
そう言って俺はクレアに手を差し出す。
すると、クレアは少し嬉しそうにその手を取り、一緒にガルムリードのもとへと歩き出した。