力の収束
その後、少ししてようやく痛みがマシになってきたので、そっと目を開いて辺りを見回してみると、最初は焦点が合わず視界がボヤけていたが、何度か瞬きを繰り返して目を凝らしていると、段々しっかりと見えるようになってきた。
聴覚と嗅覚にはまだ少し違和感が残っているが、音は聞こえるし、匂いも感じるのでこの程度なら問題ない。
視線を背後に向けると、そこにいたのはやはりクレアだった。こちらを心配そうな表情で見つめ、目で大丈夫?と伝えてきているようだったので、とりあえず平気だということを見せるために体を起こし、情けない気持ちを堪えながらも顔に笑顔を作る。
そして、解除していた思念会話を繋げ直し、グローブを外した手でクレアのさらさらな藍色の髪を撫でる。
「ごめんなクレア。急に蹲ったりしてびっくりしたよな?」
『うん、心配したんだよ? もう平気なの?』
「あぁ、もう大丈夫だ。初めて使ったスキルが予想以上に刺激的で、ちょっと立ってられなくなってただけだから」
『……えぇ。そんなの大丈夫じゃないよ。今日はもう帰って休んだ方がいいんじゃない?』
驚いたような、心配そうな表情を浮かべてそう提案してくるクレアだが、まだ力の収束の訓練が済んでいないのでまだ帰るわけにはいかない。どうしても今日やらなければいけないということもないが、以前使用した時の感覚が日毎に薄れていっているので、それが残っている今のうちにやっておいた方が効果的だろうからな。
「いや、あと一つだけ試しておきたいスキルがあるからそれだけ終わったら帰るよ。だから、後ちょっとだけ待っててくれな」
『……うん。怪我しないでね?』
「おう」
前の時は全力で使ったのが原因で足の筋肉が断裂してしまったが、今日はとりあえず軽めに流す程度で使ってみるだけだから大丈夫だろう。……大丈夫だと思いたい。
使い方は以前と同じように瞬間で距離を稼ぐための動作を試すつもりだ。
まずは、片足に力を収束させるようにしてスキルを発動させ、力を込めすぎないようにして、地面を蹴る。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
その瞬間、地面を蹴りつけた足に多大な負荷が掛かると同時に周囲の景色が一気に後方へと流れ、全身に強烈な風圧を感じた。
と、徐々に勢いが削がれていき速度が緩んできたので、地面に足をつけ滑るようにして体を停止させた。
その時の音で周囲にいた人たちの視線がこちらに集まったが、何でもないと言うように手を横にして振ると、すぐに視線は逸らしてくれた。
地面を蹴りつけた足に痛みはなく問題なく動かせる。何とか成功したようだな。
あとはどこまで力を込めても大丈夫かということを試したり、瞬時に発動させられるように訓練すれば実戦でも扱えるようになるだろう。
まぁ、今のところは相手との距離を詰める手段として使用しているが、基本的には攻撃手段として扱うものなのでそちらの訓練もこなしていかないとな。