感覚強化
それよりも今は力の収束と感覚強化の訓練だ。
スキルの効果を確認してみたが、記憶と相違ないもので、力の収束が瞬間火力の強化で、感覚強化が五感を強化するものだった。
力の収束は以前一度使っているので、とりあえずは感覚強化を試してみることにする。
しかし、スキルを発動すること自体はもう慣れたものだが、任意で感覚の一部だけを強化するというのはどうやるんだろう?
……まぁ、やってみないことには始まらないし、一度発動してみて徐々にやり方を覚えていくしかないか。
力の収束での失敗もあるので、少し怖いが意を決して能力を発動する。
『アクティブスキル《感覚強化》発動』
――その瞬間、俺の中で五感の全てが数倍に拡張され、それに対応して俺の世界が何倍にも広がる。
が、俺は一瞬で能力を解除すると、両膝と片手を地面につけてその場に蹲り、空いている方の手で目を覆うように額を押さえる。
やばい。頭が痛い、目が痛い、耳が痛い、鼻が痛い。
全身から冷や汗が吹き出し、意識ははっきりしているが、感覚がおかしくなり立つことができない。
原因はもちろん感覚強化を使用した結果なのだが、覚悟していた以上に五感全てを引き上げるという行為の代償が大きく、俺の体が耐えきれなかった。
というよりも、初めて発動するスキルなので単純に強化の度合いがおかしかったせいもあるけど。
視覚を強化されたことにより、とんでもなく視力が上がり、普段では絶対に見えないような距離にあるものを見通せるようにはなったが、その分目に掛かる負担が増したうえに、瞳が光を取り込み過ぎて目が眩んでしまった。
聴覚を強化されたことにより、些細な物音も聞き逃さないほどに聴力が上がったんだろうが、周りから聞こえる武器がぶつかり合う音により一瞬で耳がおかしくなり、今もまだ耳の奥で謎の甲高い音が鳴り響いている。
嗅覚を強化されたことにより、武器や防具などの鉄臭さと、人から漂う微かな汗の匂いや、街から漂ってくる食べ物の匂いなど、色々な物を混ぜ合わせて何倍にも濃縮したような匂いが鼻の奥を刺激して、先程から鼻水が止まらず、地面に染みを作っている。
三つの感覚から受けた刺激があまりにも強すぎて、触覚と味覚からの刺激は感じなかったが、色々な刺激が急に押し寄せたことにより頭痛が酷い。
思考加速を使った時に比べればまだ耐えられる程度だが、それ以外の痛みも混じり合った結果、それと同等の苦痛が襲ってきている。
と、いきなり蹲った俺を心配してか、誰かが背中をさすってくれている。誰かというかクレアだろうとは思うけど、先程感覚強化を解除した時に思念会話も一緒に解除してしまったようで声も聞こえてこないので確認しようがない。
それにしても、ここまで五感が強化されるとは思っていなかった。これは訓練するなら最初のうちは周囲から受ける刺激が少ない夜の時間帯にした方が良さそうだな。そうしないと強化に慣れるより先に俺の感覚がおかしくなってしまいそうだ。