ラジエルルート 3 前編
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
物語の締めへの向かう部分になりましたが、長くなったので前編とさせて頂きました。
運命だと思った。
この出会いこそが、運命なのだと。
アイツが転校してくる前から、俺は何度も似た内容の夢を見るようになった。
その夢の中で俺は『天使』に仕える従者だった。
『天使』は皆に優しく皆を愛し、皆から愛されその他大勢の1人に過ぎない従者の俺からすれば神のように敬う存在であり、命を懸けても守りたい大切な存在でもあった。
『天使』の側にいること、『天使』の役に立ちその身を守ることが己の存在意義で使命なのだと強く感じていた。
そして、その『天使』は従者と世界を旅する中で伝説の『勇者』を見つけ、世界を破滅へと向かわせる『魔王』を討ち亡ぼすべく共に旅をすることとなる。
『勇者』一行の顔はうっすらとしか映らず、よく分からない。
それでも、俺が装備することが叶わなかった伝説の武器防具を軽々と身につけ、白い白馬に乗った凛々しい『勇者』はどんな危険なダンジョンであろうと怯まず向かいうち、そんな彼を『天使』は全力でサポートしていた。
俺も『勇者』になりたかった。
『天使』を守り、世界を守ることができる唯一の『勇者』に。
この夢の最後は、魔王のダンジョン前。
『勇者』一行と『天使』は『魔王』の待つ城へと続く洞窟へと入っていき、ここからは危険だからと従者である俺と『勇者』の愛馬である白馬は共に行くことを止められ残された。
必ず生きて戻るからと、約束を残して。
だが、『魔王』とどんな激しい戦いが行われたのかは分からないまま『勇者』側が敗北し、俺達の前には血まみれの『勇者』と無数に散らばった『天使』の羽が目の前にあった。
約束、したのに。
『天使』は本来、肉体は持たないから『個』ではない為、命が失われた時は何も残らないのだと話していた。
そのエネルギーがただ光に還るだけ。
もしその命が失われるようなことがあっても、それは死ではないのだと。
またそのエネルギーを使い、新しい天使として生まれ変わるからと。
だから、悲しむことは何もないのだと。
『・・・・・・・ッ』
目の前に落ちていた羽を一枚、指でつかむ。
なんの温もりも感じない、ただの羽だ。
『・・・・・・ッ!』
だがその羽すらも、手の平に乗せて少ししたら光となって消えてしまった。
『天使』だったものは、何も残らない。
『ヒヒーーーン!!』
『!!??』
その時、隣にいた勇者の白馬が血だらけで大地に倒れこむ勇者のところへ向かいながら激しくいななく。
この白馬は大変穏やかで賢く普段からあまり大きく鳴くことはなかったはずなのに、その声はラジエルが初めて聞くほど大きかった。
『ヒヒーーーン!!ヒヒーーーン!!』
『・・・・・・ッ!!』
そして初めて、馬が泣く姿を見た。
その声は慟哭のように空に鳴り響き、勇者の側に駆けつけた白馬はその毛並みが真っ赤な血で汚れることなど何も気にせず、その頭を勇者の体に何度も擦りつける。
『ヒヒーーーン!!ヒヒーーーン!!』
『・・・・・・・・ッ』
白馬の声と姿に、まるで時が止まってしまったかのように動けなくなったラジエルの両目からもようやく涙がこぼれた。
そうだ、俺は最後まで天使の側にもいることもできずその命を守れなかった。
大切な天使がこの世から居なくなったことが、もう会えないことが、その声を聞き温もりを感じられないことがとても悲しい。
その時ようやく、俺は気づいた。
俺はずっと『天使』をーーーーーー愛していたのだと。
「・・・・エル!ラジエル、大丈夫?ラジエル!!」
「!!??」
ぼやけた視界の先に、『天使』がいた。
生きてる。
暖かいその身体を、力いっぱい抱きしめる。
「ラジエル!?ちょ、ちょっと急にどうしたの?」
「・・・・・・ッ!!」
懐かしい匂い、懐かしい声、懐かしいその蜂蜜色の瞳。
「ラジエル、君泣いてるの?」
「・・・・・嫌な、夢を見て」
「そっか、それは怖かったね。でも、もう大丈夫。ほら、お日様の光があんなに眩しく照らしてくれてるよ。今日もいい天気だね、ラジエル」
『天使』と同じ優しい笑みを浮かべて、ハニエル=ハーモニーはラジエルの頭を撫で、反対側の手でラジエルの背に手を回ししっかりと抱きしめる。
「・・・・・あぁ、そうだな。本当にいい天気だ」
ラジエルもハニエルをより強く抱きしめた。
そうだ。
俺はもう一度『天使』に出会えた。
何より大切で愛しい、俺の『天使』に。
「!?」
それなのに、ハニエルへと顔を近づけようとした瞬間ーーーーーーーーラジエルの頭に別の顔が浮かび、ラジエルは瞬時にハニエルから離れた。
「ラジエル?」
「・・・・・わりぃ、もう大丈夫だ。ありがとう」
「それなら良かった!あと、これ僕のベットの脇で見つけたんだけど、君のかな?」
「!?」
それは、町に『2人』で買い物に行った際に見つけラジエルからプレゼントした、魔除けにもなる古いシルバー細工の品で『エルフのお守り』だったかもしれないと店主が呼んでいたものだ。
「いや・・・・アイツのだ。俺から渡しておくよ」
「うん、よろしくね!」
ハニエルから受け取った銀細工の品を、ラジエルがギュッと強く握りしめた。
『ラジエル!』
『ば、ばかやろう!!一回だけって言っただろうがっ!』
『ら、ラジエル・・・・も、もうっ』
頭の中には、ラジエルとのキスで普段は見せない熱く息も荒くなった彼の顔と体温と、何度も交わらせた唇と舌の熱が蘇る。
「・・・・・・ッ!!」
それを思い出しただけで、ラジエルの顔中が一気に火を吹いたように赤く染まった。
「・・・・・・ロード」
ついこの間まで、『彼』が寝ていたベットには別の人間の温もりと匂いが染み付き、だんだんと『彼』と過ごした場所が別のものによって上書きされていく。
俺の『運命』は、どこにある?
「・・・・・・ん、まぶし」
窓から差し込む光でロードの目が覚める。
目が開いて一番最初に視界が捉えるのが『彼』以外であることに、最初は少し慣れずにいた。
そちらが当たり前の方がおかしいのだと、すぐに気がついて思わず笑いが溢れる。
今でも時々『彼』の残像に襲われていた。
『ロード。頼む、もう少しだけ』
『あぁ・・・・俺も、もう我慢できないッ』
『もっと、お前とキスがしたい・・・・ダメか?』
「!!??」
あの素晴らしくいい声を耳元で熱い吐息とともに囁かれると、頭の奥が痺れる。
その後に降ってくるキスがもたらす熱と快感を身体が覚えてしまったのか、あの必死な眼差しで見つめられると『嫌だ』と抵抗する力が抜けてロード自身も熱に支配されてしまう。
「ラジエルの・・・・・ばか、やろうッ!!」
ロードは布団越しにある自分の曲げた膝に、頭を伏せて自分の身体を抱える。
部屋が移り変わりすでに今はもうラジエルとは同室ではなくなり、ラジエルと普段行動を共にする相棒はハニエル君となった。
どこに行くにも、まるで姫を守るナイトのようにラジエルが側に付き従うハニエル君は、転入してきてすぐ様クラス皆の癒しとなりチャミエルとはまた違う人気者として愛されている。
あの日、ラジエルとは喧嘩して気まずいまま、学校で毎日のように会っているというのに話どころか顔もろくに合わせられずにいた。
チャミエルも2人の空気を察して、普段のようにふざけることもなくそっと見守ってくれている。
これでいい。
これが正しい、本来あるべき姿だ。
それなのに、おかしいじゃないか。
俺は腐男子でBLを見るのが何より萌えて幸せなはずなのに、何で少し前なら大興奮で目を離せなかったクラスメイトの生BLにも前のような興味が持てないのか。
あんなに待ち焦がれていたラジエルとハニエル君のBLにも、心が踊るどころか見ていると胸が苦しくなって目を背けてしまう。
「おい、ハニエル。そこの公式間違ってる」
「え?あ、本当だ!ありがとう、ラジエル!」
「危ない!なんでお前は、いつも何もないところでつまづくんだ?」
「はははっ!うん、何でだろう?でも、君がいつも支えてくれるから、おかげでケガしないでいられるよ。ありがとう」
「・・・・・・ッ!」
それでも、ラジエルの声を自然と耳で追ってる自分がいる。
うん、相変わらずのイケメンボイスだ。
それにしても、ハニエル君はやっぱり可愛い。
一緒にいると絵になる、お似合いの2人だ。
『ロード!』
ズキン。
「!?」
一体俺は、どうしてしまったんだろうか。
「何を、悩んでいるんだい?」
「!?」
夕方、ロードがお気に入りの学園の端にあるベンチに座っていると、突然声をかけられる。
慌ててそちらを見ると、短めの黒髪に黒い瞳をし簡素な服に身を包んだ背が高く細身だが割といい身体をした、見た目が30代前後の渋さも少し入った大人イケメンが現れた。
「すまない。ずいぶん深いため息をついているようだったから、つい声をかけてしまった。私はこの学園の庭師を務めている者で、名前はセラフだ」
「・・・・・俺は、ロードといいます」
セラフと名乗った男の胸に学園の関係者のみが身につけることを許されている、学園の紋章をかたどった羽をモチーフとした銀色のブローチを見つけてから自分の名前を名乗る。
確か、名前と魔法で契約を交わしてから身につけるものらしく、別人がその身につけるとその契約に込められた魔力が発動して全身に雷が走るとかなんとか言ってた気がする。
つまり、学園の関係者というのは間違いない。
「ロードくん。ここ、一緒に座ってもいいかな?」
「・・・・ど、どうぞ」
「キレイだね」
「はい」
あれ?
何で俺、よく分からないイケメンと夕陽を眺めてるんだ?
「この場所は私も気に入っていて、気持ちが滅入るとここから見える美しい夕陽をよく見ていた。夕陽を見ていると、自然と涙が出てね。気持ちが少し軽くなるんだ」
「・・・・・・」
確かに大人イケメン・セラフの言う通り空いっぱいが燃えるような茜色に染まり、ゆっくりと沈んでいく強くも優しい暖かな光を見ていると、特に泣きたいわけではなかったのに涙がにじみ出てくる。
「これは私の独り言だから、聞き流してくれて構わない」
「え?」
「昔、私には大切にしていた可愛い小鳥がいてね。とても美しい声で歌うように鳴く愛らしい小鳥だった。だが、小鳥は私の手の中ではなく広い世界が見たいと自ら外へ飛び立ってしまった。それから私の心は何を見ても聞いても空っぽな部分ができて、埋まらないんだ」
「・・・・逃げちゃったんですか?」
「いや、その小鳥は外で飛びたいと願い、私もその願いを叶えたいと思ったから自由にしたんだ。それが小鳥の為だと思ったからね。ただ、後から後悔はしたよ」
「後悔?」
「なぜ、いなくなってしまう前にもっと大切にできなかったのかと」
「!?」
「なぜもっと側にいられる時に、小鳥の奏でる歌をもっとよく耳を傾けて聞きその歌を褒めてやらなかったのだろう。なぜその美しい身体を、もっとたくさん撫で愛でてやらなかったのだろう、とね」
「・・・・・・ッ」
そうだ。
なぜ、俺はラジエルが側にいる間にもっと彼との時間を大切にできなかったのだろう。
『ロード!』
いつだって彼は、あんなにまっすぐ自分にぶつかってきてくれていたのに。
側にいるのが当たり前に感じるほど、誰よりも近い距離にいたはずなのに。
「ロードくん。どうぞ、これを」
「!?」
気がつけば、両目からは涙が流れ落ちていた。
セラフの手から白いハンカチを受け取り、涙の止まらない両目を覆う。
「すみま、せん」
毎日のように、朝起きるとそこにいない誰かを探している。
何か困ったことがあると、誰もいないのにその名前を呼んでいる。
目線の合わない、彼の横顔や後ろ姿を目で無意識に追ってしまう。
『なぁ、ラジエ・・・・って、何やってんだ、俺』
「・・・・・・うぅっ!」
ラジエルと喧嘩してから、初めて声を上げて俺は泣いた。
横に座るセラフは、ただ黙って目の前の夕陽を見つめている。
「ロードくん、これも私の独り言だからそのまま聞き流してくれて構わない」
「!?」
「私の一番の後悔は、私の気持ちを小鳥に告げなかったことなんだ。いつだって側にいてその歌声で何度も私を癒してくれた、そんな小鳥のことを私がどれだけ感謝し大事だったか。残念ながら私は、失ってからでないとその重みに気づけなかった愚か者だがね。それでも、私のその気持ちは小鳥にきちんと伝えたかった」
「好き、だったんですね」
「今も変わらず愛しているよ。これから先も、私が側にいられなくとも小鳥が誰よりも幸せであってほしいと願っている」
「・・・・・・セラフさん」
「つまらない話につき合わせてしまって、悪かったね。もう陽が暮れるから、君も早く家に帰った方がいい」
夕陽はだいぶ沈みかけ、辺りはかなり暗くなり始めていた。
「いえ、ありがとうございます。たくさん泣いたらなんだかスッキリしました」
「そうかい?また何かあったら、あの場所に来たらいい。私は君に何もしてやれないが、話を聞くことぐらいはできるからね」
「はい、ありがとうございます!」
セラフさんに頭を下げて別れると、真っ直ぐに寮へと向かう。
久しぶりに晴れやかな気分だった。
そうだよ。
後悔するぐらいなら、ちゃんと自分の気持ちをラジエルに伝えてからでも遅くはない。
一緒に過ごせて本当に毎日が楽しかったし、ラジエルが隣にいることがとても頼もしくいつだって側にいてくれると心がホッとできた。
キスをするようになって、友人以上の関係になってからもそれは変わらなかった。
変わったのは、それ以上にラジエルを近くに感じると苦しいぐらいに心臓どころか全身が反応してしまうこと。
唇から何度となく与えられる熱に、いつしか全身で気持ち良さを感じてしまい強く拒めなくなっていた。
アイツの声が、耳に直接響くだけで震える。
時々、無防備に寝ている普段より幼く見える寝顔はなんだか可愛らしいと思うのに、中々見れないのが残念だった。
『お前は、簡単に承諾しちまうぐらい、そんなに俺と暮らすのが嫌だったのかよ』
『お前は、俺とこんな風にキスするのがそんなに嫌だったのか?』
嫌じゃなかった。
嫌じゃなかったから、それが何より嫌だったんだ。
こんな何の取り柄もないモブキャラに過ぎない俺に、お前みたいに何でもできて頼りにる爽やかイケメンが隣にいるのはおかしいって、ずっと思ってた。
ごめんな、ラジエル。
いつだって笑顔だったお前に、あんなに傷ついた顔をさせて。
今はハニエル君が側にいるだろうけど、ちゃんとこの気持ちだけは伝えるから。
「・・・・・・よしっ!!」
セラフから借りたハンカチで涙を拭うと、ロードは気合を入れて寮の入り口を通り抜ける。
今夜、ラジエルに話をしに行こう。
その前にしっかり食べて、久しぶりにお風呂にもゆっくり浸かろう。
心を決めると、不思議と気持ちが落ち着いてロードの表情も柔らかくなった。
そして、謎の大人イケメン・セラフのこともさっそく明日から調べようと決めた。
あれだけ雰囲気があるイケメンなら、もしかしたら隠れ攻略者、まさかの理事長という線も十分にありうる。
となると、たとえに出ていた小鳥はハニエル君となるが出会いはまさかのハニエル君幼少期?
そうなるとまさかの理事長がショーーーーーいや、BLに歳の差は関係ない!
大人になってしまえば、10個や20個の歳の差は当たり前。
むしろ、おじさん×学生なんて普通にじゅうぶん萌えるじゃないか!
「久々に萌えてきた~~ッ!!」
浴槽に浸かりながらのBL妄想は、セラフ(たぶん理事長)×ハニエル君に決定!
一気に生き生きしたロードは、スキップをしながら自室の入り口に向かった。
その夜、ラジエルはお風呂の後でベットに横になり少しだけ休むつもりが、うっかり寝入ってしまっていた。
夢の中では、またあの同じ『天使』が現れる。
大切な俺の『天使』。
『頼む、魔王のところへは行かないでくれ!勇者が行くなら、あなたがここに残ったって大丈夫でしょう?』
『ラジエル、僕は勇者と行くよ。勇者達を守らなきゃ』
『それなら、俺を一緒に連れて行ってくれ!ここに残されて、あなたの為に何もできないのは嫌なんだ!』
『ありがとう。でも、それはできないんだ。魔王城の中は闇の気で充満していて、勇者達一行はその身につけている専用のお守りや防具が闇の気から守ってくれるけど、それがない君はすぐに心身が魔に蝕まれてしまう』
『くそっ!なんで、俺にはあなたを守る力がないんだっ!』
『ラジエル。僕はここまで君と共に来れたことだけでも、とても君に感謝してるんだ。この旅の中で僕がどれだけ君に助けられたことか』
『・・・・・天使様』
天使が、ラジエルを頭から抱えてそっと抱きしめる。
『約束するよ。僕は、ちゃんと君の元に帰ってくる』
『・・・・・・ッ!』
『僕ら天使は形があっても、それはただのエネルギー体に過ぎないんだ。肉体が壊れて無になってもそれは本当の死ではなくて、エネルギーが天に還ってまた新しい身体を伴って地上に降りてくる。どんなことがあっても、もう一度君に会いに戻ってくるから。だから、僕を信じて』
『・・・・・約束、ですからね?』
『うん。必ず守るから』
約束、したのに。
天使は帰ってこなかった。
その肉体も、羽一枚すらも俺の元には残してくれなかった。
俺の元に会いに帰ってくるって、約束したのに。
『天使・・・・様』
『ちゃんと、約束は守ったよ』
『!?』
突然ラジエルの手に温もりが触れ、目の前に『天使』が現れる。
「・・・・・様!!」
「ら、ラジエル君ッ!?」
「!?」
抱きしめていたのは、『天使』の翼がなくなった天使。
同室で友人のハニエルだ。
「・・・・約束、守ってくれてたんだな」
ハニエルの背中に、そこにないはずの天使の羽の影がラジエルの瞳に映る。
「約束?僕、君と何か約束してたっけ?」
抱きしめられたまま、覚えのないことにキョトンと首を傾げた。
もし本当に約束事があったなら大変!と、その顔はすぐに真剣に悩み始める。
「ハハッ・・・・そうか、そうだったのかっ!ハニエル、ハニエルッ!!」
「ちょ、ちょっと痛いよラジエル!何がそうだったの?僕にも分かるように、ちゃんと説明してよ!」
あまりに強く抱きしめられハニエル君の顔は苦痛と困惑に歪むが、ラジエルは喜びに笑顔が溢れた。
何度痛いと言われても、生きている温かい体を抱きしめるこの手を緩めることが出来ない。
『天使』と交わした最後の約束は、少し形は違えどちゃんと守られていたのだ。
「・・・・・・・ッ!」
2人のそんなやりとりを扉越しに偶然とはいえ聞いてしまったロードは、ノックをしようとしていた手をゆっくり下ろしそのまま自室へと静かに戻って行く。
あんなに心の底から嬉しそうにはしゃぐラジエルの声を聞くのは、本当に久しぶりだった。
彼にとってハニエル君は『運命の人』。
たかがモブの一人に過ぎない自分がそんな2人の中に入るなど、許されることではない。
やっぱり今の気持ちを伝えたところで、優しいラジエルを困らせるだけだ。
ならば、今の自分にできることは。
『今も変わらず愛しているよ。これから先も、私が側にいられなくとも小鳥が誰よりも幸せであってほしいと願っている』
「!?」
ロードの頭の中に真っ赤な夕陽に照らされた美しい景色の中で、見ているこちらが切なくなるほど優しい眼差しで語ってくれたセラフの言葉が蘇る。
「・・・・・俺に、できること」
自室に戻ってきたロードは、ベットに仰向けに倒れこみながら考えた。
どうしたら、もっと『彼』が幸せになれるのかを。
次の日から、ロードは変わった。
自ら意識してあんなにも避けていたラジエルに対して、自分から明るく笑顔で声をかけ以前のように親しく接する。
ハニエル君にも積極的に話しかけ、ラジエルがどれだけ頼りになる男かをその都度話した。
もちろん、ラジエルにもハニエル君かどれだけ可愛く時にかっこよく魅力的かを熱く告げた。
その時はハニエル君を好きが故にロードへ嫉妬したのか、流石に不機嫌になられてしまったがライバルがいた方が案外燃えるかもしれないと前向きに捉えている。
2人がなるべく2人きりになれるよう周りにも気を配り、時には進んでピエロ役にもなった。
ハニエル君がラジエルの『運命』なら、その『運命の人』とより幸せな未来を築いて欲しい。
そんな時だった。
また、セラフに会いたいとロードはあのベンチに1人来ていた。
セラフについて自分なりに調べてみたものの、どれだけ情報を得ようと彼がこの学園の庭師ということ以外全く分からなかった。
だからといって理事長の可能性がないわけではないが、ハニエル君に聞いてもそんな庭師は知らないって言うし、幼い頃に出会っているそれらしい特別な年上の知り合いは特にいないとのことだった。
あまりに昔のことで忘れているだけなのか、単なる筋違いなだけなのか。
ならばセラフ本人にもう少し話を聞いてみようと思って訪れてみたのたが、まだ姿は見えなかった。
「毎日来てるわけではないのかな」
学園内がいくら広い庭のようなものだからといっても、そこまで頻繁には来てないのかもしれない。
それか、彼と会うには何か特別な条件でも必要なんだろうか?
この間はたまたまその条件が合って、激レアな遭遇イベントになったのかも。
そういうキャララクターは現にいる。
「仕方がない。明日からまめに通ってみるか」
「こんにちは」
「!!??」
ロードの背後から突然声がかかり、びくっと驚いたロードが慌てて後ろを振り返る。
だが、同じ庭師の服装をしてるものの白い髪に白い肌をし顔の片側にあざを持つひょろりとしたその男はセラフとは全くの別人だった。
「こ、こんにちは」
そうだよな。
庭師って言っても、それが何人もいたって別におかしくはないよな。
「君に、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「な、なんですか?」
男は蛇のような鋭い目をしてロードを見つめていた。
その強い視線の為か、ロードの背中に寒気が走る。
「実は人を探していて、ハニエル=ハーモニーって生徒、知ってるかな?」
「!!??」
男の胸には、セラフが身につけていた紋章をモチーフにした銀のブローチはない。
つまり、ハニエル君を名指しで探している、不法侵入者となればただの一般人のわけがない。
『今も変わらず愛しているよ。これから先も、私が側にいられなくとも小鳥が誰よりも幸せであってほしいと願っている』
俺に、できることーーーーーーーー。
「・・・・・ハニエル=ハーモニーは俺ですけど、何か用ですか?」
「!?」
震える手を強く握りしめながら、笑顔で告げる。
頼むから、ひきつらないでくれよ。
「そうか。お前が、ハニエル=ハーモニーか」
「・・・・・・ッ!?」
男の蛇のような目が妖しく光り、ニヤリと男の口の端が釣り上がる。
そして、ロードと男の姿はその場から消えた。
ラジエル君は一番身近な存在で、BL漫画で一番カップルで描かれそうなポジションであり、主人公を優しく見守る・当て馬・告白せずとも、ふられても好きでいるなどのポジションにもなりやすいのかな〜と。
でも、個人的には好きなポジションです!




