ミカエルルート 2
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
愛馬大好き、ミカエル先輩ルートです!
乗馬は一度だけ体験しましたが、言葉がなくともこちらの意思が伝わっているようなあの雰囲気がたまらなく好きです!
「・・・・・ん」
ロードが目を開けると、目の前には澄んだ青空と大海原、そして眩しいほどに照らす太陽が見えた。
ここは海を渡る船の上。
手足を動かそうとすると、木の板がミシミシと音を立てる。
そう、これは夢で今の俺は人間ではなく馬だ。
真っ白な毛並みを持った『ファルシオン』。
『ファルシオン!今日は天気が良いから、船上で水浴びでもしようぜ!』
『!?』
明るい声で近づいて来たのは、赤いバンダナを巻いたラジエル。
ここ最近よく見るようになった夢の中で
ラジエルは天使であるハニエル君の守り手として勇者一行に加わっていた。
勇者達はいよいよ最後の冒険の地となる魔王の住む島に移動しており、ファルシオンの主人である勇者とその仲間達は天使ハニエル君と船内で魔王討伐の作戦会議中。
これまでファルシオンに他人が無闇に触れればどこにいても飛んできては怒り出していた勇者ミカエルは、ハニエル君の側を離れずファルシオンは文字通り放って置かれた状態である。
そう、あの日からずっと。
『いや~、これまではあの勇者様がお前に触るとすぐに伝説の剣を振り回して怒り出すから中々近寄れなかったんだけど、一度この毛並みに触れてみたかったんだよな!さすがは勇者様の相馬!あぁ、マジ気持ちいい!』
水浴び後、太陽の光でフワフワのサラサラの毛になったファルシオンの背に横から抱きつきながら、思う存分ラジエルがミカエルが散々自慢していた毛並みを味わっている。
確かに、普段であればこんなことを気軽に許すような勇者ではない。
『ヒヒーーンッ!!』
『・・・・・・ッ!!』
だが、全く気にならないわけではないようで、少し離れたところから強い視線を感じてそちらを見てみれば、ファルシオンと目が合う前に素早く顔を逸らした勇者ミカエル先輩が背を向けてその場を去っていく。
一瞬だけ見えたその顔は、あの時と同じこちらの胸を締め付ける悲しげに歪んだ表情をしていた。
なんなんだよ、その目は。
そう、あの日からずっと。
夢でも現実でもあの人は俺を見ない。
『大変だ!勇者が魔王にやられたって!!』
『!?』
その時、突然場面が変わり海の上だった景色は禍々しい毒の沼と毒草や毒花だらけ、いたるところに生き物の骨が置かれたラストダンジョンのフィールドへと変わる。
ファルシオンの前には、血まみれのミカエル先輩が倒れていた。
ミカエル、先輩?
『ヒヒーーン!!』
急いで側に駆けよって、ミカエル先輩の身体の方に頭を下ろして鼻先をつけて揺すってみるが反応は少しもない。
『ヒヒーーン!!ヒヒーーン!!』
おい、起きろよ!!
嘘だろ?
何寝たふりしてんだ?
ほら、お前の大好きなファルシオンが自分からお前の側に来てるんだぞ?
さっさと起き上がって、いつもみたいに紫の瞳を見せながら嫌になるくらいのクソ甘いセリフを吐いてみろよ!!
『ヒヒーーン!!ヒヒーーン!!』
『イタゾ、勇者のウマだ!殺セッ!!』
『!!??』
気づけば多数のモンスターに囲まれ、横たわったミカエル先輩を守るように立ち塞がるものの、俺には彼を守る為の武器や盾を持つ両の手はない。
ハニエル君や仲間達のように、守れる魔力もない。
どうして、どうして俺は彼を守れないんだ!
『カカれッ!!』
『!!??』
モンスターが襲いかかってくるその寸前、場面が切り替わった。
そこは豪華な王宮の大広間で、最有力王位継承権を持つミカエル王子が次期王座を狙う大臣の差し向けた刺客によって剣を腹に突き刺され、赤い絨毯の上にすでに息の切れた状態で倒れていた。
大臣の娘であり、ミカエル王子の許嫁であったハニエル君は無理やり大臣に連れていかれ、臣下達や兵士達は国王と妃を守る為と自身の護身の為にこの場から逃げた。
その他の貴族も巻き込まれては敵わないと、事件が起きた早々にこの場から逃げ出している。
『ヒヒーーン!!』
馬であるファルシオンは一番近くで守ることも身代わりにこの身体を盾にすることも出来ず、事件の混乱に乗じて繋がれていた縄を引きちぎり城へすぐさま乗り込んでみれば時はすでに遅し、目の前には血まみれのミカエル王子が倒れていた。
『ヒヒーーン!!ヒヒーーン!!』
そうだ、また俺は『彼』を守れなかった。
どれだけ側で可愛がられ愛を囁かれようとも、所詮馬の身ではいざという時に『彼』を守れない。
危険に見舞われた際、隣で一緒に立つことができない。
『・・・・・・ッ!!』
ミカエル先輩の顔を汚していた血を舐めとれば、夢の中だというのに口の中には苦い血の味が広がる。
起きろよ、早く起きろよ!!
俺がお前の顔を自分から舐めるなんて、これまで一度もなかったじゃないか!!
今起きたらいくらでも舐めてやるから。
何度だって頬ずりもするから、風呂だってもう嫌がらないから。
『ファルシオン!今日はどこへ行こうか?』
『!?』
そうだよ俺は、ファルシオンはずっと。
何度生まれ変わろうと、何度あなたに出会えることが叶おうと、何度あなたから愛され慈しまれようと、最後に俺はあなたを守ることができなかった。
共に戦うことも守ることも、一緒の時に死ぬこともできなかった。
ファルシオンの願いはいつだってそれだけだったのに。
俺は、あなたと同じ『人間』になりたかったんだ。
「・・・・・・・ァァァッ!!」
「ロード!しっかりしろッ!!」
ロードの視界いっぱいに、ラジエルの顔が映る。
「ら、ラジエル?」
目覚めたロードの顔だけでなく全身から汗が流れ落ち、その息は荒く心臓は早鐘をうっていた。
「大丈夫か?また今日も、怖い夢見たのか?」
「・・・・・あ、あぁ」
あらかじめ温かいタオルを用意してくれてたようで、ラジエルがロードの顔の汗を丁寧に拭き取ってくれる。
「落ち着いたら、シャワー浴びてこいよ?その間にホットココア用意しておくから」
「ラジエル、朝早くから本当にごめんな」
「こんなの、別にたいしたことじゃねぇから気にすんなよ」
「・・・・ありがとう」
手渡されたホットタオルで、まだ吹き出る汗を拭きながら汗とともにこぼれ落ちる涙も拭き取った。
そう、最近立て続けに見るのがこの夢だった。
ファルシオンとして何度も転生したその最後は、どの世界もミカエル先輩を守ることができなかった悲しみと後悔と、馬の身では何もできなかった自身への責めと人間に生まれ変わって今度こそミカエル先輩を守り抜きたいという強い願望で終わる。
しかもその感情や感覚があまりにもリアルで、夢を繰り返すほどにより強く鮮明になっていた。
本当は、ファルシオンのことをすっかり忘れている今のミカエル先輩とはなるべく関わるのをやめようとしていた。
そうでなくとも、常に生徒会の仕事が山ほどあるミカエル先輩と会う事自体一般の生徒としては難しいのだ。
あえて会おうとしなければ接点はないはずだったのに、あの夢のせいで遠目からでもいいから無事な姿を見たいとロードの方からミカエル先輩を探すようになった。
探すようになったといってもミカエル先輩は授業以外はほとんど生徒会室から出ない為、本当に遠目からではほんの少ししか見れない。
それでも、生きている姿を見られることが嬉しかった。
時々、夢の影響を受け過ぎて今にもミカエル先輩目がけて走り出そうとするのを何度も足を踏ん張って我慢しなければならないほど、ファルシオンとしての衝動は時に激しくロードを振り回す。
俺には、俺にはもう関係ねぇ!!
昔流行った覚えのあるような言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、本能?と理性による日々の攻防は続いた。
そしてそれは、そんな毎日の中で全く歓迎ではない悪夢続きで睡眠不足となり、放課後うっかりと少しだけうたた寝するつもりで休んだ校舎裏のベンチでのことだった。
その白いベンチからは目の前で山々の中にゆっくり沈む夕陽が見られることもあり、そこはロードのお気に入りスポットの1つでもある。
今日はラジエルもチャミエルも個人的な予定があり、たまにはゆっくり帰ろうと寄り道したところだった。
いつのまにか寝入ってしまった夢の中では今朝と同じ、舞台は違うものの血まみれで倒れているミカエル先輩を目の前にしている。
たまには、そうなる前のまだファルシオンが加勢して守れるもしくは身代わりになれる場面であれば何らかの対処ができるものを、毎度夢に見るのは変えることの出来ない事が起こってしまった後なのだ。
『ヒヒーーン!!』
今回は着物を着た、光源氏風のミカエル先輩。
気品溢れる、濃い紫の着物が金色の髪をより引き立てている。
着物なら黒髪だろ?と心の中で突っ込んでみるが、そんな事はどうでもよかった。
何でそこに『紅』を足すんだよ。
しかも、ミカエル先輩の倒れている地面と彼の身体の上からも含めて辺り一面には紅葉した紅葉の葉が風に乗って降り落ちていた。
『ファルシオン!もう少ししたら、共に紅葉狩りに行こう!』
ロードとしては言われた記憶のない、言葉が頭に響く。
バカだな。
紅葉の中で、あんたが狩られてどうすんだよ?
男にしては透き通るように白い肌をつたっていく赤い血をペロリと舐める。
相変わらずきちんと血の味の演出まである、嫌味なほどにリアルな夢だ。
「こんなところで、何をしている?」
「!!??」
ぴちゃぴちゃと舐める音が響く中で、これまで一度も開かれる事がなかった紫の瞳がロードをまっすぐに見つめていた。
「・・・・・・え?」
生きて、る?
「おい、聞いているのか?」
「・・・・・・ッ!!」
これまで、どれだけファルシオンがその身体を揺らそうとも顔中を舐めようと頬ずりしようと、ピクリとも動かなかったミカエル先輩の両目がしっかりと開かれ言葉を発している。
「ミカ・・・・エル、先輩!」
「!!??」
考えるよりも先に、身体が動いていた。
ミカエル先輩の顔を夢中で舐める。
血の味も匂いしない、鼻から香ってくるのは品の良い懐かしい匂い。
生きている、匂い。
生きてる。
ミカエル先輩が、生きてる!!
「おいっ!やめろ!いい加減に・・・・ッ!!」
「!!??」
ぐいっと首元に回された手が強く引き寄せられたかと思うと、急にロードの唇が熱で塞がれる。
「んっ・・・・はぁ・・・・んんっ」
口の中を大きな下が縦横無尽に動き回り、舌と舌が濃厚に絡まりより深く吸われた。
あれ?
何だコレ?
なんで俺、ミカエル先輩とキスしてるんだ?
しかも、こんなまるで舌から喰われてるみたいな激しいーーーーーッ!!
「!!??」
唇に意識が向いていたら、腰が抜けたのか足の力が抜けて崩れそうになるのを逞しい腕が支える。
それと同時に、唇がようやく熱から解放された。
「み、ミカエル・・・・先輩?」
ロードと同じように上気し呼吸の乱れた様子のミカエル先輩は血にまみれた着物姿でも鎧でもなく、『制服』を着ていた。
「おい、今の・・・・・ファルシオンという馬や覚えのない俺自身の姿は、どういうことだ?」
「え?」
ミカエル先輩と真剣に見つめ合いながら、俺自身もミカエル先輩もーーーーーーーー混乱していた。
「つまり、あの映像の中の白馬が前世のお前で、俺そっくりな人間が俺の前世だと、そういうわけか?」
「・・・・・・・・はい」
今の状況を説明させて欲しい。
現在俺は、自室の寮ではなくミカエル先輩が暮らす自宅近くにある離れにいる。
離れとはいっても、俺の実家よりずっと広く豪華だ。
その豪華な部屋の中で、高級なカップに注がれたどこが産地かを先ほど聞いたがさっぱり覚えてない最高級なコーヒー豆でひいたホットコーヒーだけだと苦くて飲めない為、カフェラテにしてもらったものを飲んでいる。
ミカエル先輩はエスプレッソだ。
素晴らしく長い足を雑誌モデルのワンシーンかのようにカッコよく組みながらアンティーク調の椅子に座り、正座して小さく縮こまりながら床に座るロードを見下ろしている。
「それで、毎日のように夢の中で何度となく俺の前世の死体を見続けた結果、生きている俺の姿に興奮して俺の顔を舐めたと?」
「・・・・・・は、はい」
冷静に真顔で言われると自分がどれだけ恐ろしい事をしたのか実感し、さらに顔が青ざめたロードが額が絨毯に着きそうなほど頭を下げた。
「ふざけるなと言いたいところだが、あの時実際にこの俺の頭にも同じ映像が見えてしまったからな。おい、もっとこっちに来い」
「へ?ちょ、ちょっと待っ・・・・んんっ!!」
ミカエル先輩に腕ごと引っ張られ、座るミカエル先輩の太ももにまたがる形でロードが座らされると、そのまま有無を言わせない勢いで口づけられる。
すぐ様逃げようとしても、ロードの腰はミカエル先輩にガッチリと掴まれてまい動くこともままならない。
「・・・・・ッ!!」
キスをしながら、ミカエルの頭の中にはある映像が流れる。
その映像の中で自分そっくりな男が白馬にまたがり、草原をかけていた。
そしてその自分達の周りに異形の姿をしたモンスター達が現れ、白馬から降りた自分が腰に装備していた長剣を構える。
気づけば自分のすぐ後ろには生徒会のメンバーが普段とは違う服装をし、杖や槍などを手に持って同じようにモンスターに向けて構えていた。
だが、今まさにモンスター達がこちらへ襲いかかろうとした時、映像が霧がかかったようにして見えにくくなる。
「!!??」
「ミカエ・・・・・ッ!!」
口づけが浅くなりロードが呼吸の苦しさから唇を離そうとした時、後頭部に当てられたミカエル先輩の手によってより深く口づけが始まりぬるりと入り込んできた舌が再び動き出した。
深いキスとともにミカエルが見る映像が鮮明になり、先ほどの続きが映画のように流れていく。
そう、なぜかは分からないが、先ほど混乱したロードに顔中を舐められたミカエル先輩がロードを落ち着かせる為にキスをしたとのことで。
これBLやらTLでよく見るけど、本当にやるやついるんだな。
間違いなく、イケメンじゃないと許されない行為だが。
まぁ、それでも殴られる寸前だったらしいけども。
その際に、ロードが夢の中で見ていた前世の映像がミカエル先輩の頭の中にも見えたとのことだった。
聞けば、少し前からミカエル先輩も何らかの記憶が欠乏しているのは感じており、周りの執事達もそれを大いに感じていたとのことだったが、私生活には何の支障もない為全く気にしていなかったという。
口を開けばうるさいほどに『ファルシオン』連呼していた男が、ある日を境にピタッと何も言わなくなったのだから周りからすれば相当な違和感だろう。
お互いの内容を照らし合わせて見ればほぼ同じ内容ということで、ファルシオンとしての行動だったのだと先ほどの奇行はなんとか許してくれたのだが。
その代わりに、失った記憶を取り戻す手伝いをしろというのが今現在起こっていることへの説明です。
はちゃめちゃだって?
いや俺もそう思ってる。
そしてこの日から、放課後になると渡された許可証を持って生徒会室のミカエル先輩の私室に行き、生徒会の仕事の休憩中の時間を使って記憶を取り戻す手伝いをすることになった。
しかもわざわざ移動するのが面倒くさいからと、椅子に座ったままのミカエル先輩にロードがまたがりながら。
正直、全身から火を噴きそうなほどに恥ずかしい態勢だ。
なんでそんなことをしてるのかって?
それはーーーーーーーー。
「おい、この天使が俺の運命の相手とやらなのか?」
「んっ、は、はぁ・・・・・そうです、天使のハニエル君が、あなたの運命の人、です」
前世において、どんな世界においても若くしてそのほとんどを殺されて死んでいるミカエル先輩は、現世においても有名な占い師や魔女数名から運命の人と出会って真実の愛とやらを手にいれなければ若くして死ぬということを何度も言われていたらしい。
何をバカなことを、と信じずにいたそうだがその鍵になりそうな前世の映像を実際に自分の目で見てしまった為、ならばその運命の人とやらは一体誰なのかと積極的に謎解きをすることにしたとのことで。
「本当にこいつなのか?」
「そうです!その証拠に、どの時代にもいるでしょう?」
「それを言うなら、生徒会メンバーは全員それに当てはまるじゃないか。それに・・・・いや、まだ時間はあるな。よし、もう一度見るぞ」
「!!??」
ロードとしても、ミカエル先輩がハニエル君を運命の人として認めて今度こそ2人で幸せになってくれることは、生BLを見て萌え楽しみたいロードとしても、ミカエル先輩の幸せを願うファルシオンとしても共通の想いな為に協力をしているのだが。
「・・・・・・ッ!!」
キスをされながら、ミカエル先輩の手がロードの制服のシャツの中に腰から手が入り背中から腰、お尻をゆっくりと撫で回す。
時々、映像の中でファルシオンとゆっくりと接する機会もよく見るようで、ファルシオンの体を撫でる気持ちのままで実際のミカエル先輩の体はロードを撫でている。
「・・・・・んっ!」
それがロード自身にとっても気持ちいいから困るのだ。
ミカエル先輩にとっては作業にしか過ぎない行為だが、ロードはだんだんとそこに少しどころでない気持ち良さを感じ始めてしまっている。
それに、抱き合う際に感じる体温を通してミカエル先輩が生きていることを感じられることが実は嬉しかった。
ファルシオンとしての記憶がそうさせるのか、そこは関係ないロード自身のものなのか。
ただ、ミカエル先輩の手が首元から背骨に沿って優しく撫でるたび、全身が震えて下半身に熱が集まってしまう。
完全に密着しているミカエル先輩にそのことがバレたくないと離れる為に暴れたこともあったが、俺は気にしないから大丈夫だ、という勝手な理由でロードだけが苦しくなる体を必死で我慢しなくてはならない。
はっきり言って、ある意味拷問のようだ。
さらなる快感を求めようと無意識に腰が揺れてしまい、集中できないからとミカエル先輩の手によって強く握りしめられた時もあり、ひどい時はそのまま衣服を汚してしまったことまであった。
流石に次の日は生徒会室に行けないと授業が終わるなり自室へとまっすぐ向かったが、寮の前で待ち伏せしていたミカエル先輩の執事達にあっさり捕まり、全力で抵抗したものの強制的にミカエル先輩のところへと連れていかれてしまった。
「何度も言うが、本当にあいつが運命の相手なのか?どの時代の俺も、そのことを少しも感じてないじゃないか!むしろ」
「もうすぐ転校してきますから、会えば絶対に彼だって分かります!」
「フン。俺は別に今のままでも構わないが、な」
「・・・・・んぅ!」
俺が、困るんだよ。
こうやって直接触れあうようになってからミカエル先輩が死ぬ夢は見なくなり、変わりにファルシオンや仲間と一緒に過ごす中で笑っているミカエル先輩が出てくるようになった。
その笑顔が失われて、もう一度あの血まみれのミカエル先輩を見るのは絶対に嫌だ。
今ロードが全身で感じている熱い熱ではなく、それが夢の時のように冷たいものになってしまうのはもうーーーーーーーー嫌だ。
そして、ついに運命の日がやってくる。
「みんな、今日から我がクラスでともに学ぶことになった新入生を紹介する!!」
「ハニエル・ハルモニーと言います。この学園のことはまだまだ分からないことだらけなので、どうぞこれからよろしくお願いします!」
キタァァーーーーーーー!!!
担任が立つ教壇の横には、ハニーブロンド色の柔らかい髪質をしあちこち跳ねている髪と、琥珀色の大きなクリッとした瞳をした明るく元気な表情のハニエル君が眩しい笑顔で立っていた。
待ってた!!
首を長くして、君のことを待ってたよハニエル君!!
「みんな、ハルモニーと仲良くな!あと、席はグレイシーズの隣が空いてるな。グレイシーズ、頼んだぞ!」
「・・・・・・あ、はい!」
なんと、ルームメイトだけでなく教室でも隣同士になったのはラジエルだった。
「えっと、グレイシーズくん。これからよろしくね!」
「・・・・・・お、俺はラジエルだ。よろしくな、ハニエル!」
ニッコリとお互いに爽やかな笑顔を浮かべながら、2人は挨拶とともに握手を交わした。
うんうん、いい場面だ!
いよいよここからスタートするんだな、友人からのBOYS LOVEが!
「あと、シュトラーゼ!お前昼休みに、ハルモニーを生徒会室まで案内してやってくれないか?」
「・・・・・へ?お、俺がですか!?」
まさかの名指しで指名!?
こういう時は、攻略相手でもあるラジエルかチャミエルにお願いするんじゃないのか?
「お前が一番うちのクラスで生徒会役員と親しいからな。適任だろ?」
「て、適任って先生」
確かに、不本意ながら生徒会全員と直接の面識がある上にミカエル先輩にいたっては毎日会って普通の先輩後輩だけじゃないこともけっこくかなり致してる、今考えてもよく分からない関係ですけども。
「ごめんね、君の貴重な時間なのに」
「い、いや全然大丈夫!むしろ光栄です!」
しゅん、と落ち込んだハニエル君も可愛い!
「ロードが行くなら、俺も一緒に行くよ!」
ラジエル、グッジョブ!!
さすがはハニエル君の未来の相棒!!
何かあったら頼りにしてるからな、リーダーレッド!!
「それなら、チャーミーも一緒に行く!あ、ボクはチャミエルって言うの♪チャーミーって呼んでね!」
「ちゃ、チャーミーくん?よろしくね!」
「ブブーー!!チャーミーって呼んでくれなきゃ、チャーミーすねちゃう!」
頰を可愛らしく膨らませたチャミエルに、ハニエルは苦笑しながらすぐに『チャーミー』と言い直し、チャミエルはすぐさまご機嫌な様子であれこれと話しかけている。
ちなみに席順はラジエルの前がロード、ロードの左隣でありハニエル君の前がチャミエルだ。
「あ、それと、シュトラーゼ!お前にもう一つあった!放課後伝えたいことがあるから、教官室に来てくれ」
「!!??」
「わ、分かりました!」
来た来た!!
このタイミングなら、間違いなくハニエル君絡みの寮の部屋移動のことだろう。
「ロード、お前何かやらかしたのか?」
「いや、やらかしてはないけど。多分大したことじゃないって」
そうだ。
ミカエル先輩に昼休み生徒会室で会えた時にでも、今日は生徒会室に寄れないかもしれないことを伝えておこう。
「ほら、ハニエル。今日は俺の教科書見せてやるから、もっとこっちに寄れって!」
「うん!ありがとう、ラジエル!」
「!!??」
おぉぉぉーーーーー!!!
さすがは面倒見のいい、兄貴ポジションラジエルッ!!
さっそく萌になる構図をありがとう!
今日からハニエル君でより素晴らしいBLが萌え放題かと思ったら、笑いが止まりませんよ、へっへっへ!
それに昼休みの生徒会室では生徒会役員達がハニエル君に初お目見えの、ゲームならスチル絵有りなスペシャルイベントじゃないか!!
きっと、ミカエル先輩もすぐにハニエル君が気にいることだろう。
「・・・・・・・」
ハニエル君に会ったら、どんな顔をするんだろう。
ようやく運命の人に会えるのだ。
いや、最初は前世のようにそうだとは分からないかもしれない。
それでも、今度こそ真実の愛を得る為に会えるのだ。
きっと、何かを感じることだろう。
ズキン。
「・・・・・ッ!?」
いや、なんでズキン?
ここは萌えるところだろう!
あまりの嬉しさに効果音がうっかり誤作動しちゃったんだな、きっと。
そして昼休み。
ロードとハニエル君、そしてラジエルにチャミエルの4人は普段一般生徒が立ち入り禁止区域である生徒会室へと訪れていた。
「普段は来ちゃダメって、すごい場所なんだねここ!」
この学園のことは初めて尽くしのハニエル君は、キョロキョロ周りを不思議そうに見渡しながら興味津々だ。
「今回は担任にもらった許可章があるからなんともないが、間違って普段この場所に踏み込もうならそこに描かれている防犯用の魔法陣が作動してペナルティ食らうから気をつけろよ?」
「キャハ☆そうそう、うっかりしてると丸焦げのハニートーストちゃんになっちゃう!」
「き、気をつけます」
「・・・・・・・・」
うん、俺もそれ知ってる。
っていうか別口でもらってすでに持ってます。
コンコン。
一呼吸置いてから、生徒会の扉をノックする。
「失礼します!1年のシュトラーゼです!ハルモニー君を連れて来ました!」
「・・・・入ってこい」
静かな、それでいて威厳のあるこの声はミカエル先輩。
その言葉とともに、扉が1人でに開いた。
「す、すごい!」
「ここが選ばれし者だけが入室を許された、生徒会室!!」
「チャーミー生徒会室入るの初めて!ドキドキしちゃう!」
「し、失礼します」
はしゃぐチャミエルと、案の定誰よりも興奮しているラジエルをなだめながらハニエル君とともに部屋の中へ入ると、そこはロードが毎日のように訪れようやく慣れてきた、まるでどこぞの貴族の応接間かなにかのような豪華な作りをした空間が広がっている。
床には真紅に金の刺繍がびっしりと施してあるアンティークな雰囲気のじゅうたんが敷かれ、真ん中には重厚感のある焦げ茶色のこれまたアンティーク調のテーブルにソファが並んでいた。
「やぁ、よく来たね。今煎れたばかりのお茶でもどう?」
「キャーー!!ガブリエル先輩!!」
「!?」
入り口付近で部屋にある数々の高級家具達にあっけに取られていた2人とは違い、普段から同じかそれ以上に最高級な一級品に囲まれて生活しているチャミエルは普段通りに、むしろ憧れの君であるマドンナ・ガブリエル先輩に会えたことで周囲に花が飛ぶ勢いで喜んでいる。
「俺がハルモニーの同行として指名したのは、ロード=シュトラーゼだけだったはずだが?」
豪華なソファの奥にある部屋から、不機嫌を隠そうともしないミカエル先輩が小さなため息とともに現れた。
「は、初めまして!ハニエル=ハルモニーです!」
「!?」
ハニエル君!姿勢正しく深いおじぎとは、なんて礼儀正しい!
「俺は生徒会長の、ミカエル=エルドラード。あいにく副生徒会長のラファエルは不在だ。そこでお前達にお茶を煎れているのが、書記のガブリエル=グランドリーム。そして、俺の後ろにいるのが会計のウリエル=レゴラメントだ」
「・・・・・・・」
ミカエル先輩の後ろには、ハニエル君への挨拶も無言のまま頭を軽く下げるだけにとどめたウリエル先輩が静かに佇んでいる。
「今回、転入早々の君に我が生徒会室まで来てもらったのは、理事長から直々に君の面倒を見てくれとの連絡が先日あったからだ。君と理事長との関係は知らないし興味もさしてないが、今日から君は生徒会見習いとして毎日放課後ここへ来ることを許可する」
「え?」
「!!??」
出たッ!!
先に入学してた俺ですら顔すらまったく知らない理事長とか学園長となぜか関わりがあり、BL主人公が生活していく中でピンチになるとどこからか現れ助けてくれる摩訶不思議な生命体、じゃなくて絶対的な権力者!!
「ふーーーーん、ハニーは理事長さんとお知り合いなの?」
「まさか!この学園の理事長さんから確かに途中入学を許可する旨の連絡は紙面でもらったけど、直接会ったこともないよ!」
そうそう、姿形が分からないのがお約束ってね!
でも、大抵は主人公の近くにいてその生活を温かく見守ってるはずなんだけど、そのうち新たなフラグとともに現れるんだろうか?
このフラグとはもちろん、BLフラグ。
ダンディなイケメンおじさんパターンか、まさかどころか実際のゲームでもあった同級生や先輩に紛れ込んでのパターンか、事務員や清掃業者に扮してのパターンか。
その可能性はうっかり忘れていた。
明日からもっと校内を体験して、怪しげなイケメンをチェックしておこう。
攻略相手の最低条件は、美形・イケメンだ。
「とりあえず、君は今日の放課後から俺の下に着いて仕事をまず徹底的に見習え」
「!?」
「わ、分かりました!ミカエル先輩、これから精一杯頑張りますので、ご指導よろしくお願いします!」
「ハルモニー、お前に記入してもらう書類が山ほどある。下らない寄り道は一切厳禁だ」
ミカエル先輩は手に抱えた大量の書類をキレイに揃えると、その束を脇へと勢いよく置きハニエル君へと向き直る。
「わ、分かりました!」
おぉ!!
なんかファルシオン事件からかなりキャラが総崩れになってたけど、やっぱり我が校の生徒会長!!
かっこよく決めポーズを取り、ハニエル君も緊張感からぴしっと背筋を伸ばしてミカエル先輩と見つめあっている。
「・・・・・ッ!」
2人が見つめ合う姿を見て、ロードの胸の奥が小さく痛む。
「では、この話はここまで。各自、自分のクラスへ戻って次の授業の準備に取りかかれ!」
ミカエル先輩の言葉とともに昼休み終了のチャイムが鳴った。
この後20分後にもう一度チャイムがなり、午後の授業がスタートする。
割と余裕があるのは、校舎が広すぎて移動に時間がかかってしまうが為の配慮だ。
「おい、そこ!いつまで茶菓子を食べている!ファ・・・・ロード、お前はこっちに来い!」
「え?」
「だって~このお菓子って、あの有名パティシエが限定品で出した星屑のショコラじゃないですか~♪チャーミーうっかり予約し忘れて食べ損ねてたんです☆」
「そんなに気に入ったのなら、こっちのお菓子も食べてみる?」
「キャハ☆ガブリエル先輩、ありがとうございます~!」
「こ、これ!!もしかして、あの伝説の勇者がのぞいたと言われる伝説の鏡!かもしれないシリーズの中でもレアもののやつじゃないですか!?」
「ふむ。その価値が分かるとは、それならばこちらも見てみるか?」
「あ、あの!みんな、そろそろチャイムがなるんじゃな・・・・・うわっ!な、何?あれ?いつのまにか、僕の膝で知らない人が寝てる?」
厳かな雰囲気だったはずの生徒会室はあちこちで騒がしくなり、ハニエル君に至っては本当にいつのまに戻っていたのか、ラファエル先輩がちゃっかり天使の膝枕でお休み中だ。
これ、俺の時との扱いの差がものすごいな。
やっぱり本物の主人公は格が違うってことか。
「ロード、お前はこっちだ」
「あ、ミカエル先輩!待って!」
楽しく盛り上がるみんなを横目に、ロードはミカエル先輩に腕を掴まれいつもの私室へと連れていかれる。
「あいつが、お前の言うハニエルか。確かに・・・・・懐かしいような何かを感じるが」
「やっぱり!!」
考え込むように口を手で抑えたミカエル先輩が、大きなため息をつきながら椅子に勢いよく座り込む。
「これからもっと感じますよ!ハニエル君は前世と同じようにすごくいい子だから、ミカエル先輩も絶対気にいると思います!」
「・・・・・・ッ!」
あとは、2人が真実の愛を手に入れられるよう影からアシストしていくだけだ。
「あ、あと本人が来たんだから、もう俺がここに来るのはやめますね」
「なんだと?」
「だって、会うだけじゃ前世と同じでミカエル先輩の命が危ないですし、真実の愛の為にこれからはハニエル君との時間が大切ですから」
「!?」
そうだ、ハニエル君はミカエル先輩にとっての待ちに待った『運命の人』。
それが正しい形だ。
「そうだな。確かに、お前の言う通りだ。俺はまだ死ぬわけにはいかない」
「はい。ミカエル先輩ならきっと大丈夫だって、俺信じてます!」
「・・・・・フン、そんなことはお前に言われなくとも分かっている」
ミカエル先輩の目線が、部屋の窓越しに見えるハニエル君へと向かう。
何でその顔を見ているだけでこんなにも胸が苦しくなるのか。
これから、ハニエル君とのBLライフが始まるのだ。
そこに俺みたいなモブが紛れ込んでいたら、じゃまにしかならない。
「俺、次の授業の準備があるんで、そろそろ帰りますね!」
「!?」
これ以上この場にいるのが辛い為、ミカエル先輩に頭を下げて部屋を出て行こうとしたロードの腕をミカエル先輩が掴みその勢いのまま自分の方へと強く引き寄せる。
「み、ミカエル先ぱ・・・・ッ!?」
「これが、最後だ」
「!?」
その時の瞳が、夢の中でファルシオンが見た胸が締め付けられる眼差しとそっくりで、ロードが金縛りにかかったように動けなくなると同時にミカエル先輩の大きな手が頰に添えられ唇がロードのモノと重なった。
「・・・・・ッ!」
普段の前世の記憶を見る時のキスとは違ってもっと穏やかで優しく、そして時に深く激しく、ミカエル先輩の最期の口づけは長いこと続いた。
その後、そろそろ教室に戻らないととロードを呼びに来たラジエルと共に急いでロードが生徒会室を出て行き、その後ろ姿を出て行った後もしばらくミカエルは見つめていた。
「ファルシオン・・・・・俺は」
消え入りそうなほどに小さなその呟きは、誰の耳に届くこともない。
そして、最期のキスでは前世の映像は少しも流れなかった。
前世繋がりの恋愛ものも大好きです!
前世での恋人同士の物語も萌えますが、それがあっての前世と関係ない新しい繋がりの恋人と、前世の恋人で揺れるというのもすごく萌えます!




