第182話「災厄」
無数の人の運命と呼べるものが束ねられていく。
その糸は満点の星空の下。
煌めきながら束ねられ、収束し、一つの流れと化していく。
【運命糸】
そう呼ばれる人の因果律の顕現が人の意志に織り込まれていくのを横目にして、白衣の男ロナルド・ラスタルは異相側で敗北したBFCの様子を見つめていた。
「さすがに原初の大陸の最高傑作というところか」
彼が通常の何も無い異相空間とは違う。
陣地化された周辺の様子を見やる。
あちこちには棺桶が置かれており、その中身は空っぽになっている。
周囲にはデスクや椅子もあったが、彼は座る様子も無く。
地下世界で未だに何事も無さそうに沈黙しているように見える船先を見やる。
「再生しているのか。善導騎士団による協力によって……となれば、もう此処に来るのも時間の問題か」
チラリと男が一つだけ閉まっている棺桶を見やる。
そして、胸元から鈍色の懐中時計を取り出して時間を確認する。
「現市長。時間だ」
『……そうか。市民の様子は』
棺桶の中から応えが返る。
「今はまだ変異率を3%未満に抑えている。だが、数日せずに神に取り込まれるだろう。猶予を以て計画を進めるのならば、31時間前後安静にしていて欲しいと言ったところか」
『契約は守れ』
「解っているとも。君は本当に良い市長だな。この地の人間は幸いだろう。まぁ、我らの市長も劣るものではないが……」
『裏切った割には好評なようだ。そちらの市長は……』
「別に最初から分かっていた事だ。何処かで彼と違う道を行く事になるとな。それでも為さねばならぬ事があり、やらねばならない事がある」
『その為にニューヨークに来たと……』
「左様。そもそも此処に来たのもあの仮面を接収する為だ。アレを何とかせねば、どの道……人類に未来は無い」
『良いだろう。人類が争う理由が人類の生存の為だと互いが主張してるんだ。どちらが勝っても最低限は責任を持ってくれると信じよう』
「その点は問題無い。まぁ、我らが市長の計画は聊か人情には欠けているがね」
『敵として相対しない事を願うばかりだ。前市長を今ほど恨めしく思った事は無いな。きっと……』
「彼は彼で人々の為に戦っていたのだ。あの七教会の船を隠匿していたように……何がどう転んでも人々を生き残らせる為に……それが例え誰かに恨まれようとも」
『分かったような口を……』
「最終調整を完了した」
カシュンと棺桶の蓋が内部のロックを外したと同時にガタリと内部から冷気の靄が溢れ出す。
『本来の頚城の術式。現段階での復元としては恐らくこれが限界だ。が、人類の英知によって生まれ変わったソレは殆ど別物でもある』
内部から青年がゆっくりと起き上がる。
その髪は白化していたが、間違いなく前市長の息子にして現市長その人であった。
「今、ビッグ・クレイドル内の最終防衛ラインに対して魔力使用型の使い魔が侵入を開始した。寝起きで悪いがしばらく頼むよ」
「契約だ。生憎と弁護士はいないから書類は用意出来ないがな」
「アーク・シモンズの息子。ジョセフ・シモンズ……君の市民達と人類への貢献に感謝する」
こうして全裸の男が棺桶から立ち上がると背後の虚空から複数体の同型ゾンビ達が次々とやって来て、その手に持っていた鎧のパーツを彼の全身に近付け、次々に白いパーツそのものが溶けるようにして彼の肉体へと装着……否、融合するかのように馴染んでいく。
チキチキと音を立てながら、ジョセフの顔までもが鎧に覆われた。
その姿はどう見ても黙示録の四騎士に似通っていたが、より洗練された機械的なエンジニアリングが感じられるディティールとゾンビ達が持って来た小銃や盾、片手剣を装着されると黒い臙脂色に鎧が変色した。
硬質なソレはどす黒いと表現するべきだろう。
嘗て、リスティアが収納されていた巨大な箱の色合いに似ている。
「これが頚城……」
「そうだ。アルマゲスター共との戦闘データと残留していた鎧の破片。更に本隊で進められていた善導騎士団の能力解析。諸々のデータを加えた最新型だ。頚城の能力を十全に引き出す事のみを主眼として開発された。今後のポスト・アポカリプス時代に生きる人類のスタンダードな姿だ」
「獣を已め、神たる屍にも為らない道、か」
「いきたまえ。君のデータもまた存分に活用させて貰う。此処で我々の願いが潰えなかったならば、だがね?」
「50時間だ。50時間は必ず稼ごう」
「よろしい。健闘を祈る。いや、此処はこう言おうか。人類の未来と人々の為に戦いたまえ。若人よ」
ジョセフが同型ゾンビ達を引き連れて領域の終端にあった転移用の魔術方陣にも見える幾何学的な文様の奔る床を踏んで消えた。
「さて、迷宮の神がアレの影響を防いでいる内に始めようか。善導騎士団……BFCの先兵共を退けてくれたのには感謝する。これでピースは揃った。それにしても……彼らは自分達の無力さに気付いているのだろうか……」
男はデスクに座り、周囲に立ち上がったホログラム式のキーボードをカタカタと操作し始める。
その虚空に浮かぶウィンドウの一部にはハート・アイランドの虚空に浮かぶ屍蝋の仮面が確かに今も映されていたのだった。
*
―――1日後。
『こちらCP。最終区画手前まで来たようです。前方空間から神の巣と同じ反応があります。恐らくは空間制御を受け付けない神の領域内部。更に強く転移系の封殺が掛かっている為、留意して下さい』
二両の車両を後方にして最後の区画の攻略へと動き出した善導騎士団の動きは早かった。
強襲偵察としてクローディオとヒューリを全面に押し出して脇をサポート役で固めて、後方支援を米軍の車両とキャンピングカーで二分して広大な地下世界の情報処理を二分しつつ、同型ゾンビをフィラメント側から供与された天使型装備。
【天群セラフ】
そうコードで呼ばれているソレで次々に突破したのだ。
巨大な区画内部は武器を禁止するフィラメントの結界と神の領域の混合によって混沌としており、唯一内部で使えるのはフィラメントが許可したものか。
もしくは神の領域内部で動く同型ゾンビ達が持つような生体に組み込まれた武器化可能な部位などであった。
しかし、更に玩具なども使って次々に厚い進路上の敵の群れは薙ぎ払われた。
五機の装甲を纏う善導騎士団とメイを前にして多くの同型ゾンビは殆ど為す術無く消し飛んだのだ。
『現在進行度73%とEDからの予測が出ました。また、次の扉の先に広大な空間が確認されており、後方支援車両からの近距離情報支援が必要だとEDが進言しています』
米軍の装甲車に積まれたAIの提言を伝えるリリー・ベイツが車内の同僚達と共に忙しく周囲の探索と得た情報を取り纏めて、地下世界のマップを更新していく。
それがリアルタイムで共有された偵察班とキャンピングカー内部の全員が地下の通路の先に見えて来た大きな扉を前にして小休止とした。
『連続4時間の行軍を終了。10分間の小休止とする』
フィクシーの言葉にクローディオが見張りに立ち。
全員が一端、車両内部付近で休憩を入れた。
装甲は脱がないままだ。
『こちらカズマ。ラグと一緒に哨戒中。ここら辺にはどうやら同型がもう来てないみてーだ。此処3時間くらい。周囲300m圏内に敵影無し。ラグのやつも気配が無いって言ってる』
CP車両として術式による情報収集と処理を行っていたミシェルが全員に通信を繋いだまま、次の扉の先で使うかもしれない術式を即時待機状態にしながら調整し、脳裏で敵の出現率や攻勢を予測する。
『お父様。カズマさんの言っている通りのようです。ウチのラグの気配感知を抜けていないという事は恐らくロナルド・ラスタル及びポラリスなどの戦力はこの先に集結しているのではないかと』
『分かりました。此処までの通路も今のところは変化していませんし、ビーコンも設置完了済み。神の領域を崩壊させる準備も整いました。後は捕縛と情報収集だけですね。アリスさん達はどうですか?』
『はい。今は復元した艦の調整をラトゥーシャと共に行っているようで各区域でこちらの提供した資材などを組み込んでいる最中なようです』
『分かりました。では、引き続き、儀式の解析と市民の囚われている追加の場所を確認する作業を』
『了解しました』
再びミシェルが情報処理に没頭していく。
『こちらリリー・ベイツ。騎士ベルディクト応答願う』
『はい。何でしょうか? リリーさん』
『我が方のEDが新しい推論を立てている。次の区画に大物が誰かしらいる、らしいと』
『らしい?』
『この車両に搭載されているEDは人の直感と推論、閃きを生み出す次世代人工知能という事は出発前に御教えした通りだ。ただ、論理的な思考を欠いた分、ブラック・ボックスになっている思考経路が多く。“勘”の理由は説明出来ないという欠点もあり……確実ではないのだが……』
『分かりました。つまり、ロナルド・ラスタルもしくはジョセフ市長のような人物がいると』
『恐らくは……現在の的中率は7割程、左程外れないと思われるので留意を』
『ありがとうございました。メイさん』
『は、はい。何でしょうか。騎士ベルディクト』
『次の戦闘では後方車両の結界内部で直掩をお願いします』
『分かりました。つまり……』
『はい。出て来た場合は交渉をお願いします』
『了解しました』
『ベルさん。休憩時間終わりますよ』
『はい。ヒューリさんが最前衛でクローディオさんがバックアップに回って下さい。エントリーした瞬間にこちらで火力支援します』
『おう。この鎧。ウチの程じゃないが、術式で大体機能が対応してるから助かる。行くぜ。ヒューリ』
『はい。ディオさん』
2人が隔壁というよりは扉と言っていいだろう押し開ける巨大な5m四方の左右の分厚い壁を拳で殴り開きながら突入する。
それと同時に後方から車両も追随し、展開したフィクシーとベルが車両の盾になるようにして全方位に気を配る。
だが、其処にあったのは同型ゾンビの群れでも無ければ、罠満載のデスゾーンでも無かった。
広大な100m四方の正方形の空間の先には小さな人が通る為の扉が置かれており、そこを背後にして一段高い場所に臙脂色の騎士甲冑にも似たマシン。
機械式装甲らしきもの……というには有機的なフォルムで人体にフィットした何かを纏う者が剣と盾を持ち立っていた。
『黙示録の四騎士? いや、似ているが、違う。だが、この気配は―――』
フィクシーが自分達の前に立ちはだかる相手の威圧感に大きく目を見張る。
『オイ。推定四騎士級の頚城だ!! 車両から直掩は離れるなよ!! オレとヒューリでやる!!』
『その前に名前を訊ねておくべきでしょう』
少年が僅かに前へ進み出た。
『何方でしょうか。名前を聞かせ下さい!!』
頭部を鎧う甲冑のマスクがガシャリと自動で左右にせり上がるようにして顔を見せた。
『―――ジョセフ!?』
「ああ、車両の前にいるのはメイか」
『ああ、良かった。生きて……でも、その鎧は何? ポラリスのみんなは!?』
「君は色々と聞きたい事が沢山あるだろう。だが、何も知るべきじゃない。人類の愚かさ、醜さをずっと見続けて来た君にこれ以上何かを押し付けたくないんだ」
『何をッ、市民の事はどうするの!?』
「市民達は無事だ。今は変異覚醒を神の力で遮断している。同化される前にその神への対処も終了する。出来れば、黙って見ていて欲しい。人々と人類の為に……」
『一体、どういう事なのよ!? 解らないわよ!? そんな言葉じゃ!?』
「最もだ。最もだよ。僕もこんな事を君相手に言う嵌めになるとは思っていなかった。だが、人類にはこのままでは未来が無い。市民達の命と心を護るには原初の大陸から来た君達の力ではダメなんだ」
『ッ……それはどういう事でしょうか? ジョゼフ市長』
少年が訊ねる。
「人は獣、屍は神。そして、“私”は頚城だ。この意味が解るか? ベルディクト・バーン……原初の大陸から来た最後の魔導師よ」
『最後の? それにその言葉……一体、貴方は何を知ったんですか? どうして、頚城にまで為って僕達の前に立ちはだかるんですか?』
「それが必要な事だからだよ。私は父の手記と人類のどうしようもない未来を知った。そして、真実とは時に残酷で抗い難いものだ。それに反抗しようと市長を名乗って来たが、父の悪辣さに眩暈がすると同時にその手法はともかく気持ちは分かった。例え、悪だ、残酷だ、ヒトデナシだと謗られようとやらねばならない事を……父は……父さんはしたんだろう」
ジョセフが顔を再び鎧に閉ざす。
『ロナルド・ラスタル曰く。私は人類が持つ頚城の中で恐らくは最新鋭だ。四騎士共と肩を並べてもも遜色のない精度。そして、現在の人類全てが成らねばならない次の姿でもある』
『人類を貴方のような頚城にすると?』
『ああ、そうだ。人は獣、屍は神。そして、頚城は獣を神にする為のものだった。だが、ソレを知って尚、最後の大隊の真意を知る者達は、一部の者達は他の答えを探したのさ。北海道の彼女、イギリスの彼、ドイツの夫婦、全てがそうだ。全員があの遺跡に運命を狂わされた者達であり、BFCの市長も、此処にいる彼も、別々の答えを以て抗っている』
『どうやら、僕らが知らなければならない真実が、其処にあるんですね』
『ああ、君達も何れ知る。だが、自分達の決断によって人々の未来を護るという矜持は何も君達だけが持つものではない』
剣が少年達に向けられる。
『フィクシー・サンクレット。ベルディクト・バーン。君達が君達のやり方で人類を護るというのならば、別の答えを否定しろ。そして、否定した先に最も良いと思える答えを作るんだ。私達はこういう形にしか出来なかった。君達は君達の答えで戦え……もしも、それが為されたならば、確かに人類は滅んだとしても幸せな結末を迎えるだろう』
ガンッと一転して剣が床に突き刺される。
『誰もが誰かの為に戦っている。君達が倒してきた者達や人類が倒さんとする者達、最後の大隊すらも!! 悪党は依然いるだろう。だが、他者の為ならばこそ、譲れない我々の戦いは必然だ!!』
周辺が鳴動した。
そして、クローディオとヒューリが直接打撃でジョセフを完全に昏倒させる為、人間には視認不能の速さで仕掛けた途端。
―――世界が捲れ上がる。
ジョセフの鎧に触れる寸前。
何もかもが壁によって閉ざされ、競り上がり、ニューヨークから50km程離れた内陸地域が突如として地下から噴出した巨大なDC製のフィールド……怖ろしく広い荒野を模したかのような天然の地形にも似た領域によって消し飛んだ。
文字通りの事である。
地下から地形が出現し、その速度のせいで全ての地表にあった土砂や建物やインフラや街が上空に巻き上がり、吹き上がり、吹き飛んで遠方に流れ去っていく。
そして、広大な領域の中心。
地下世界の同じ位置にいた者達が居場所を変える事無く。
クローディオとヒューリが背後に吹き飛ばされて、車両付近へと退避していた。
『何が起こった!?』
『こちらミシェル!! 地下世界が浮上した模様!! 23km西に巨大な破損している艦らしきものを確認。これはフィラメントです!!』
『地下世界そのものを浮上させたのか!? ニューヨークの地下そのものが別の空間の地下に領域を伸ばされていた?!』
『周囲に巨大な縦型のシェルター構造を確認!! ニューヨーク地下のビッグ・クレイドルの模様!! ですが、生体反応無し!! 神の領域から押し出されました!!』
フィクシーが相手に一杯食わされた事を悟る。
『ニューヨーク地下に高出力の結界の発生を確認!! 外部と内部を途絶するものと思われます!!』
ミシェルの言葉を端的にするとこうだ。
市民のいる地下は閉ざされ、自分達は市民の救出が不可能になった。
『言っておくが、フィラメントの武装や君達の大げさな攻撃力を神の結界に対して持ち出さない方がいい。アレはかなり堅いと彼が言っていた。君達ならば、君達の攻撃力ならば、割れはするだろう。だが、内部の市民達は普通の人間だ。タダでは済まない。神が傷付けば、即座に養分となる可能性も高い』
『く……完全にしてやられたか』
フィクシーが拳を握る。
『君達の事はちゃんと調べた。だから、こういう形を取らせて貰った。敗北は込みで戦術や戦略は立てるものだ。ふ……今更あの父親の言葉が身に染みるとはな』
『オイ。余裕のところ悪いが、アンタから情報を引き出す為にボコボコにすんのは確定だぜ? 市長殿』
クローディオが低い声で相手を睨む。
『構わないとも。四騎士はこの大陸にはいない。BFCは先兵が消えたせいで本気にならざるを得ないが、まずは先にゲートの開放を目指すだろう』
言っている傍からミシェルは急激に復活した善導騎士団との通信から入って来る以上を感知していた。
『ちなみにフィラメントが発生させていた結界は無事だ。あちらの艦は我々の想像を超えた力を持ってるらしい。米軍は地震で右往左往しているだろうが、まずはゲート周辺で起きる激戦をどうにかした方がいいぞ』
余裕綽々でジョセフが肩を竦める。
『こちらCP!! 九十九のネットワークより入電!! ロスアラモスのヘブンズ・ゲート周辺より超規模のシャウト群の出現を確認!! それと同時に領域へ次々に巨大なkm級の骸骨が複数体出現した模様!!』
『何故だ? どうして、あちらの動きが解った。ロナルド・ラスタルか?』
フィクシーの言葉にジョセフが床に突き刺さっていた剣を引き抜く。
『分かったんじゃない。誘導したのさ』
『誘導だと?』
『貴方達が倒していた巨大な骸骨。アレは先遣隊の一部だ。本隊が到着するまでに場を調える為の……どうやら現地での急造品のようだが、本物はあんなものじゃない。ロナルド・ナスタル曰く。数は用意出来ない。だが、質は用意出来る。だそうだ……』
ジョセフが度し難いとでも言いたげに溜息が吐かれる。
『部隊長級がもしも重症を負って救援を請うた場合、BFCが本隊到着の為に用意していた備えの一部は開放されるだろうと言われていた』
術式で繋がる九十九からの情報が騎士団や他の関係者全員に共有される。
『だから、こっちで彼には内緒で送って置いたのさ。彼はあくまで研究者だ。戦術や戦略には疎そうだったからね』
『まさか?!』
『BFCは敗北の報の後、こっちが発振したコード……父が最後の手段として用意していた“部隊が全滅した”という偽電を信じたはずだ。対応コードは解ってる。コード・クリムゾン……発動させたのは影響力の低下を帳消しにする敵主力防衛拠点に対する大規模な戦略陽動突撃命令。現時点でのBFCのリソース、その2割までを開放する代物だ』
巨大な黒い骸骨が、異相側で滅ぼした敵よりも尚肥大化した50km級の何かが、合計7体、ロスアラモスの周辺地域を囲うようにして次々と拳を振り上げていた。
下半身が巨大な黒い沼のようなものから溢れ出させているソレらが自身を這い上がらせるよりも一斉に門を叩こうとする。
『皆さん!! 緊急用のコードを使います!! 防御方陣を全開!! 各北米都市、太平洋、大西洋の沿岸部の全地域に展開する部隊に全力防御形態を即時通達!! フィラメントの方にも頑張って貰います!! ベルズ・スターの方陣出力を全力展開!! アルカディアンズ・テイカーの魔力電池を方陣防御に出力!! 全大型ドローン防御方陣、障壁連続多重展開!!ヒューリさん』
『さぁ、パーティーの始りだ。まさか、此処まで彼らが準備を進めてたとは……だが、これで―――』
言い終わる前にソレは起った。
地球上を見下ろす衛星軌道からなら、その時の全貌が解ったかもしれない。
その日、ロスアラモスのクレーター付近からパナマ運河より230km遠方まで……南に渡る巨大な領域が形を失った。
それが北米全域に深度11クラスの大地震を齎し、大陸を割って削り巨大な津波が太平洋、大西洋に面する全沿岸部を襲い、地殻を吹き飛ばしたせいで巻き上がる土砂の雷雲を発生させた。
しかし、北米大陸が半分以上消し飛ぶかもしれなかった一撃はしかし……北米各地に善導騎士団によって備えられていた巨大なドローンや戦略防御用の要塞による方陣防御、更には生きた森による衝撃吸収により、殆どの威力を南米北部に押し返す事で難を逃れたのだった。
分かっている事は巨大骸骨達が停止し、雷雲というよりは巨大な漆黒の竜巻となった土砂の渦が拡散もせずにロスアラモスのある地域を覆い尽し、莫大な質量が浮遊しながら渦を巻いて形を成した後、北米と南米を隔てる杭のように地球に突き刺さったような形で留まったという事のみ。
全てが白く染まる地球最後の日を想起する無限にも思える爆風の最中。
ニューヨークの現市長は全ての能力を周辺地域の防御に当てた善導騎士団を前にして悠々と転移で消え去った。
だが、彼らは諦める事を知らない。
敗北とは手遅れになってから知るべきものだ。
そして、本気となった彼らを前にして手遅れとは人類の終焉以外には呟かれない言葉だろう。
だからこそ―――9時間22分後。
セブン・オーダーズは背後の人々が今も地球を襲う大いなる災厄に対処し、自分達を送り出してくれた事に感謝しながら、再び神と市長の待つニューヨーク地下へ再突入するのだった。




