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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第174話「戦う者達」


 フェイルハルティーナ。


 今やゾンビの親玉の一角を討ち取った少女の事を知らぬ人類は殆どいない。


 街を歩けば、隠蔽用の術式が無ければ、すぐ人集りになってしまうし、仕事上の付き合いの人々からは是非握手してくださいと言われる。


 そんな彼女が一休み出来るのは緋祝邸や自室くらいなものだ。


 だが、その場所が一か所増えた事は知られていない。


「………」


 座席の最中。


 バイクに跨る少女は自分を囲む無数のディスプレイと暴れ馬と言うには加速すら感じさせる事なく発進する事の出来る巨大な機械の中心で耳を澄ませていた。


 大陸で体育会系なスポーツ系武道少女で通っていた彼女であるが、騎士として異世界において戦うようになって一つ出来た趣味が機械弄り。


 正確には機械に乗る事であるのはあまり周知されていない。


 戦車、装甲車、一般車両、バイク。


 何でもござれだ。

 天性の素質があったのか。

 彼女は乗り物全般に強い。


 勘で大抵の乗りモノは1日で乗りこなせるし、1週間乗っていたらまったくプロ並みのドライブテクを習得してしまう。


 耳を澄まして車両の音を微かに聞けば、何処が悪いのかは分かるというくらいなのだから、もはや相当に恵まれていると言うべきだろう。


 しかし、彼女が近頃一番乗っているのは普通の世界では乗れない代物だ。


 駆動する要塞。


 そう呼ばれるソレが喜望峰の大地の上で屹立していた。


『喜望峰に全部隊集結を確認』


『各CPに伝達。これよりオペレーション・グレート・トライアルを発動する』


『現在時刻05:29。展開開始まで後57秒』

『大隊各位は全武装解禁』

『全部隊のステータス。オールグリーン』

『何かBGMにリクエストはあるか?』


『ワルキューレ……は無いな。ロックかJ-POP、なんならアニソンでもいいぞ?』


『よし来た。では、今月開始の善導騎士団後援ロボアニメ【イグゼリオン/】からOP【希望亡き地の反逆者】を……』


『お前、ヲタク閥だったっけな。そういや……』


『有名声優でもある男性シンガーの普通に盛り上がるアニソンですよ。ヤダナァ(`・ω・´)』


 巨大構造物の周囲数㎞先には無数の黒武と黒翔の姿。


 プチ遠征。


 ユーラシア遠征前の試金石。


 そう陰陽自衛隊と一般隷下部隊から言われたニューヨークへのセブン・オーダーズの潜入と同時に開始された作戦は順調であった。


 このオペレーション・グレート・トライアルはアフリカ大陸の端から端までゾンビを駆逐しつつ、今まで精鋭に劣ると言われていた通常の部隊を仕上げる為の試練であり、アフリカ全土の調査と同時に億単位のゾンビを駆逐する事で経験値を兵力に稼がせる為に行われる。


 言わば、実弾演習だ。


 この結果如何によっては今後の遠征にも影響が出る為、事実上のユーラシア遠征の事前訓練であった。


 そんな部隊の人々は自分の家のように扱うCPブロックの中でお茶やお菓子やカップ麺を啜っている者もあった。


 ほぼ10歳以上から参加している為、子供も大量に含まれる。


 が、さすがに展開1分前という事もあり、すぐ誰もが自分の持ち場に付いた。


 喜望峰から真北。


 遥か欧州を望む海辺までを駆け抜ける為のシミュレートを頭の中に描きながら、彼らの少し長いピクニックが始まる。


『ぁあ゛ぁ……ああ゛ぁ゛ああ゛あぁ゛―――』


 周囲は地獄のようにゾンビが密集し、MZGに埋もれている。


 通常のゾンビなど今更に彼らが恐れるものではない。


 無防備に眠っていてすら、齧り殺される事が有り得ない装備に身を包んだ彼らにとって本当に敵というのは同型ゾンビ……そう無限に積み上がるゾンビ達だけであった。


『展開。各部隊は東西中央に分けて進軍を開始せよ』


 装甲を引っ掻く爪や牙や体液に沈んだ戦力。


 沈黙していたソレらが待っていたとばかりに駆動し始める。


 音はしない。


 だが、目に見えて動き出した様子は芸術的な程にスムーズだった。


 作戦開始時刻は明け方5時30分。

 地平の彼方から日が昇って少し。

 ゾンビの群れが車輪によって轢かれ始めた。


 全ての個体の識別と登録は出来る限り、不可視化したドローンで行われていた為、容赦なく彼らが動き出すのと同時にメギャァアアアァッと血と骨と肉が砕けて車輪に潰される音が続く。


 それと同時に周辺に展開されていた見えざる地雷群が一斉起爆を開始して、騎士団が取り零す敵が出ないように忙しなく周囲を捜索、動き始めた。


 だが、その光景を後ろに装甲車や彼らの脳裏に流れ出したBGMは陰鬱とは程遠く。


 力を尽くして抗う戦士達の歌は響き上がり、誰からも文句は上がらず。


 全部隊が加速していく。


 その背後、海辺の幾つかの地点にはディミスリル・ネットワークの転移延伸用の方陣が沈んでいる。


 そこから供給される銃弾砲弾が音楽に合わせたわけでもないだろうが、大量に区域の上空へと砲門から打ち上げられた。


 散弾の雨が降る。


 最中、その雨を突っ切ってホバー状態で進む部隊は砂漠化しつつあるアフリカ内陸部へと向けて時速50km程で行軍を開始した。


『デケェ……さすがに動くのを見ると壮観だな。ありゃ』


『超容量の魔力電池、超小型核融合炉をサブ動力として複数。その上で最新のグラビトロ・ゼロの最新版……騎士団の旗艦に使われてるヤツの試作品が入ってるらしいからな。ぶっちゃけ、攻撃力高いよ。アレ』


『でも、アレ遠征じゃ四騎士相手に使わないんだろ?』


『四騎士相手じゃ使い物にならないという点では単なる壁にしかならないデカブツだ。ま、同型ゾンビの山を掻きわけるのには百機程使うそうだけども』


『百機って……アレそんなに造れるもんなの?』


『南米大陸でのデータが評判良かったらしい。旗艦とは違って量産型を使用するとか。ま、簡易版だな。黒翔の扱いに長けた連中選抜するようだし』


 部隊の先頭を突っ切るのは100m近い巨体。


 先日、南米で猛威を振るった巨大戦艦やらにも見えるソレがゆっくりと先頭集団を追い抜くようにして速度を上げた。


 雷鳴のように轟くのは装甲の隙間から無限に放たれ始めた砲弾。


 雷の如く最高速で空を駆けていく軌跡から発される。


 秒速20kmの激烈な加速を受けたD刻印砲弾の雨は部隊が向かう地域に降り注ぎ、ゾンビ達を打ち砕いていく。


 アフリカ大陸の頭上には小型の偵察用ドローンが数百機。


 次々にリンクさせた九十九のネットワークが叩き出すゾンビの数秒後の頭部を狙い打つ散弾が回転しながら弾けて術式を各自展開。


 周囲の環境データを更に取り込んでネットワークへと送りながら返される超速のデータの返信によって極僅かな動魔術の微調整を行いつつ着弾するのである。


『なぁ、この砲弾一発で何体イケんだ? CPのメインモニターに映り切らねぇんだけども。後、戦車動かしてる砲手連中暇そうだなぁ……』


『凡そ砲弾一発で11800体くらいかな。前より進化してるよ』


『マジかよ!? 砲弾が分離して頭部だけ貫くの? つーか、弾丸の質量足りるのソレ?』


『あははは、あの砲弾一発何キロか知ってる? 1200kgだよ?』


『は?! マジで!?』


『まず冶金学関連の魔導による技術革新で金属の密度を物質の限界まで圧縮して鋳造する事が可能になった。それを空間制御で砲弾の密度をそのままに通常砲弾並みの大きさまで縮小してガチガチに固定化、ケースレス弾のコーティングには無重力合金で重量を誤魔化す仕掛けまである。あ、値段は考えなくていいよ?』


『どうせ国家予算とか言い出すんだ。オレはシッテル(´Д`)』


『分かってるじゃないか。ちなみに精密散弾の砲撃は機械任せだけど、砲手の彼らが暇そうに見えるのは脳裏にデータをブチ込まれて肉体動かしてる暇ないからなんだけどね』


『は? もしかして……脳裏で演習してる?』


『ネットワークが途切れた場合はHMCCの単一システムを使ったセミマニュアルで砲撃するし、ネットワークの代替を個人の魔術師技能で行うからね。個人の処理能力には限界があるけども、魔術師技能で脳を並列化して処理するから、彼らって間違いなく技能者というより頭脳労働者なんだよね』


『て言うか。人間にあの砲弾の精密制御なんて出来るもんなの? 魔術師はマシンなの? マジでウチの組織ヤバクね?』


『今更だよ。予知が難しいから天候操作系の術式や強力に周辺環境を激変させる砲弾を最初に使って環境操作してからなら精度そこまで低くないよ』


 VT信管機能は元々が近接爆破による敵航空戦力の撃破に真価がある。


 それが進んだ先にあるのはあらゆる場所で砲弾から分離した子弾を的確に敵へ当てる超精密散弾投射戦術。


 これは所謂クラスター弾の技術的発展で遠未来に到達するはずだった正当なる進化だ。


 分子運動そのものすら制御するに至った魔術と科学の極致たる機能は回転する砲弾を正しく散弾をばら撒く恐ろしき高速の死の運び手にする。


 術式に織り込まれたコードは間違いなく科学無しには織り込まれ得ない密度。


 精緻の制御を可能とした弾丸は超高速で軌道を描いていてすら、九十九の未来予測、大気の流動を計算し尽くす天候の予知によって望んだ道に到達する。


 予測精度は観測データに依存するが、観測用の機材そのものがもはや神掛かっているのも日本という国ならではかもしれない。


『そもそも今回の遠征で使われる代物はドローンから砲弾までいつもの数百倍の値段するし、日本政府側も本気だよ。精密加工能力を持つ企業や工場、日本の工業力をフルで動員してるし』


『へぇ、ドローンもか。ちなみに何が違うの?』


『日本側が用意したドローンの光学観測機器。つまり、カメラだけど、アレ一個で数億。実際には特注だから値段は付けられないけど。つーか、今までライバル企業だった同種同業の連中の頭脳が全部同じものを作るのに動員されたから、マジで日本じゃなけりゃ作れない代物になった』


『撮り鉄がプレゼントに貰ったら泡を吹いて喜びそうな品だな』


『最新の技術と魔導の合わせ技だ。レンズ研磨の既存技術の最高峰を魔導で更に精度上げたらしい。ガスとレーザーで磨いたレンズを分子単位で術式による運動エネルギーとディミスリルの研磨剤で要らない部位をほぼ削り落としたら、何か物理的に作れないはずの《《完全な球面》》に近くなったとか』


『何かスゴイのは分かった』


『無重力合金使ってレンズの自重での歪みも補正するらしい』


『電波望遠鏡とかの方が安上がりじゃね?』


『電波届かない環境しか想定されてない。というか、魔力波動系のレーダーはそれこそ電波望遠鏡の技術使われまくりらしいよ。主に解析に関しては九十九が活躍するけど』


 魔力波動で100km単位なら1秒掛からず反応が返ってくる高精度のレーダーから齎された敵の位置情報を取得。


 光学観測用ドローンに積まれたレンズは日本のお家芸である超精密な研磨技術を駆使し、魔術と共に更なる進化を遂げた精密加工技術以外には無し得ない完全なる半球を描く億単位の宝石だ。


 それこそ誤差0.00000000001mm単位で歪まない像を得るシステムは観測技術と一括りにしてしまうには芸術と言うべき代物であった。


 あらゆる観測データを元にして予知された敵頭部を次々に誤射する暇も無く撃ち抜いていく散弾化した砲弾のシャワー。


 人々が思うよりも簡単に人類総虐殺可能な力はざっくりゾンビに向けられ、部隊の人々は人類の力も此処まで来たか、というよりは(´Д`)真顔で民間には見せられないなぁと自分の所属組織のヤバさに視線を細めるのだった。


『ゾンビの漸減を確認』


『これよりネットワーク遮断訓練に入る』


『各部隊は殲滅しつつ前進』


『黒翔に先導させつつ、全域での連続機動戦闘に入れ』


『全隊員は所属部隊の目標に留意しつつ無補給戦闘開始』


『魔力の使用は全て機動力に重点し、他はアナログだ』


『さぁ、パーティーの始まりだ。あちらがこちらを殺せない以上、100点以下は落第だからなお前ら!! 陰陽自衛隊の皆さんを見習って銃弾は温存、素手か近接格闘武装で出来る限り対処だ』


 ようやく適度に減らしたゾンビ相手に殲滅戦を始める彼らだが、そう言っても完全に取り零しが出ないように一体残らず広大なアフリカをカバーするように横並びでのローラー作戦であった。


 各隊員の持ち場の領域が広大な上。


 それを銃弾を出来るだけ使わず、接近戦でカバーしつつ、魔力も温存して戦う。


 このサバイバルな持久戦にして味方との連携が阻害される距離での戦闘は正しく圧倒的な兵力の差でゾンビと戦う対多数戦闘の現実を顕にしていた。


 無限のゾンビに対して殲滅力を保持しながら戦線を押し上げる壁としての役割を部隊の兵員はこれから期待されているのだ。


 先行した機甲戦力はゾンビの漸減のみに力を割いている為、後方の彼らは最終防衛ライン。


 安全な後方を確保する重要任務は一人前というだけではダメだと精鋭達に劣る烙印を押された彼らに教える。


 それは自らの価値を証明するまたとない機会であり、振い落とされるかどうかの瀬戸際。


 自分の持てる限りの全てを使って仲間達と協調して戦線を押し上げる背中は決して死にようがないからと気が抜けたものではなかった。


『04!! 3秒遅れてるぞ!!』


『こちら04!! 後、4秒下さい!!』


『08、09、3秒遅滞し、遠距離支援!!』


『こちら22、通常型のコアライトを確認!!』


『27、26、29は協調!! コア部位を4点連射し、前進せよ!!』


『こ、こちら22!? コアライトがお、大き過ぎてッ、12秒の遅延が?!!』


『CP08。22のケツを持ってやってくれ』


『了解した。こちらCP08。支援砲撃を開始する』


 同型ゾンビ以外にも厄介な能力を持つ個体は数こそ少ないが確認されていた。


 今までカナダや北米にしか存在しないと思われていた個体もいたのである。


 特にライト系の光るゾンビは精神汚染作用がある為、手間取るケースが多く。


 遠距離で協調した火力投射が難しい場合は周囲の個体を取り込まれて巨大化されると手に負えないという事がしばしば起こる。


 精鋭ならば、周辺のゾンビを取り込まれる前に撃滅。


 取り込まれていても一撃で破壊する程度はやってのける。


 黒武に支援を求める部隊長は多くなかったが、それでも全体で見れば、横並びの部隊の進軍速度が鈍化する事は避けられなかった。


『やはり、練度が足りん。超常の力を用いる層も多くないからな』


『戦闘向きの能力を持ってる資質持ちは精鋭に行きましたからね』


『この作戦後、レベル創薬がようやく投入されますが、これで何処まで上がるか……』


『期待していい。最精鋭には届かないが、精鋭クラスにはすぐだろう。問題は精鋭クラスになっても超常の力などが無い事で無補給戦闘下での経戦能力が低い事だ』


『そこは考えられてますが、グラビトロ・ゼロを用いた戦力による肉弾戦……多数を相手にする為の消耗しない武器が必要ですね』


『実はその事で新しい試作兵装が3種類今回提供された。九十九によって敵の諜報が無いと判断された時点で投入される』


『紅蓮の騎士、ですか?』


『ああ、カズマ3尉の話では恐らく通常のシステムには引っ掛からないだろうと。例の観測システムを大陸規模で準備するのに手間取ったが、もう間もなく……』


 喜望峰よりも後方の海上。


 HQとして用いられる黒武の群れを連結した筏のような基地設備の最中。


 集まった大隊長級の佐官、騎士達が各隊に指示を飛ばしながら事の推移を見守っていた。


 そこに新たな情報が飛び込んでくる。


『入電。アフリカの全海岸線海域に予定通り観測システムを埋設!! 海自の全そうりゅう型から任務完了との通達です!! 今、作動を確認しました。情報流入開始……九十九とコンタクト……解析終了まで1分……』


『ようやくか。補給部隊を苦戦している部隊の後背に向かわせろ』


『各補給中隊転移座標確定』


『九十九からの回答来ました。我、四騎士をアフリカに認めず。諜報活動は無しと判断!!』


『良し。武装を配って回れ。後は連中次第だ』


 現場では少し遅延しながらも部隊の足並みを再び揃えて再度進もうという状況になっていた。


 だが、苦戦していた幾つかの部隊の背後から複数のコンテナを繋げた列車のような黒武が次々に到来する。


『こちら補給分隊。新装備のテストの開始が通達されます。消耗しないグラビトロ・ゼロ込みの新規武装ですよ。羨ましいなぁ』


『は? うわ、ホントだ?! 今、命令来た!? 苦戦してる連中に渡すのか……どれどれ』


『何だコレ? 剣? 長!? 2mはあるんじゃね? それもぶ厚ッ!? どんだけ重いんだよ!? グレートバスターソード? 大陸の情報で見た事ある大剣だコレ!? 幅50cmに縦2mで厚さが5cmって……鉄塊かよ……』


『ん~~? これ鉄球? 1m50cmの球体を振り回すって……モーニングスターかよ。いや、トゲトゲが付いてないから、どっちかと言うと脚に付いてたら囚人に見えそう……何だこの分厚い糸の束、釣り竿? それにトリガー式の取っ手……あ、コレ5kmって書いてある。え? コレ個人で振り回すの?』


『こっちは……あ、ボードだ。何だいつも遊んでる浮遊する近未来ボードさんじゃないですか。後方に丸いボールが付属したのね。何故にコレが兵器扱いされ―――ナン、ダト?』


 脳裏に魔術師技能で仕様を読み込んだ者達が心底にまた陰陽自研の白衣あくま連中かと唇の端を微妙に引き攣らせた。


『このボード、1G重力の惑星環境下なら移動距離に比例して術式を無限に敷設可能って書いてある……高魔力環境下なら実質大魔力が必要な術式も時間と移動距離さえあれば無制限で敷設し放題って……』


『熱量の第二法則が乱れる?』


『魔力が乱れてる場所なら高負荷で自己魔力必須みたいだけど』


『こっちも……この鉄球は錘って書いてある。高重力源だから消却すれば電力や熱量、変換の手間で運動エネルギーや魔力にもなるし、要は糸の方みたい』


『攻撃力を有した無限の動力&魔力源?』


『糸の表面の全方位の分子を魔力で微細に調整して単分子化……実質的には原理的方法でしか防げない単分子カッターを糸にした感じ? 硬度や弾性に関係なく何でも切れるって……コレ、鉄球で方陣みたいな見えない防御方法を割って糸で切り裂けって事だよなぁ』


『硬度が関係無いとか何ソレ怖い((((;゜Д゜))))』


『つーか、エネルギー発生させつつ、相手を引き付けて直撃させるとかソレなんて砲弾の速度で進む重力トラップ?』


『あの~~この鉄塊……アレだわ。蛇腹剣だわ』


『ロマン武装!?』


『よくアニメとかに出て来るアレ。鞭みたいなアレ……それも根本から最大で400m伸びて刃は分裂してヒドラみたいに多頭系……糸は鉄球と同じみたいだけど、刃が特別製で相手の物質を接触面から装甲表面で無限生成される単分子針状の部位で分子結合を破砕するらしい』


『こっちもかよ!?』


『更に魔力、熱量、電気の何れかを浸透させて二重に破壊? 接触部位の再生を許さない分子破砕剣?』


 苦戦していた普通な部隊の人々は思う。


『『『……(・ω・)(もうあいつらが戦うんでいいんじゃねぇかな)』』』


『(`・ω・´)さすが、陰陽自研分かってらっしゃる』


『『『え? 誰?』』』


『補給中隊のものです。子供達にも補給ついでにアメちゃんを配らなければなので、これで失礼(´・ω・)』


 便利道具を湯水のように投下した陰陽自研の人々は汗を拭って良い仕事したぜと互いに歯を煌めかせている事だろう。


 こうして、さっそく武装が使用された。


 無限の術式を敷設するボードさんが駆け抜けた場所が次々に魔術式の地雷原や機雷原に早変わりし、後方に浸透しようとするゾンビ達を爆砕。


 面倒なコアライトの巨大化個体が多頭生物のように首を擡げる蛇腹剣によって細切れ、再生不能にされて肉の泥と化け。


 巨大化したフロッカータイプのゾンビ達が次々に巨大な燃えたり、爆発したり、電撃を纏ってレールガン並みの速度で襲い来る砲弾染みた鉄塊に接触しながら爆砕し、その後方からやってくる死の糸が草を刈り取るかのように周囲のゾンビの首や胴体を大きく揺れるだけで両断していった。


 それを見ていたHQの指揮官達は思う。


 何日でアフリカの億単位のゾンビ達が狩り尽されるだろうかと。


 分子破砕装甲針剣【不死殺イモータル・バスタード


 間接防御爆砕糸球【箒兆星(スカーレット・スター)


 無限敷設戦術機甲【無限彩インフィニット・ボード


 中二病心満載の僕の考えた最強の《《無限に戦う為の一品》》は研究者達が目を少年時代や少女時代の清んだ心根でキラキラさせながら考えたゾンビを駆逐する回答の一つ。


『『『軽ッッッ!!!』』』


 何よりも軽く。


『『『怖ッッッ!!!』』』


 力無きモノには無慈悲な威力を誇り。


『『『ヤバッッッ!!!』』』


 1個で単独個人のスコア。


 ゾンビの駆逐効率を40倍程までも引き上げる《《汎用量産装備》》であった。


 尤も恐ろしいのはその装備の威力の範囲が広大である事とその労力の少なさだ。


 100m単位からkm単位までとにかく周囲にある建物やらを気にしなくて良い野戦でならば、広範囲のゾンビを極々僅かな肉体の動きで軽く一撫でして数百体が屠れるのである。


 剣ならば一振りで周辺を細切れ……恐らくコア・ライトなどの再生能力は何の成果もあげる事無く完封されるだろう。


 鉄球ならば、それ自体の動魔術を用いて直線上に射出して巨大な相手をその球体の重力で引き付けつつ、その本体から伸びた様々なエネルギー、電力、熱量などが重力で歪む空間内から伸びる箒の如き破壊の枝で爆砕、後は揺らして広範囲のゾンビ達を輪切り。


 ボードならば高速で機動しながらゾンビ達の合間を縫っていくだけで機雷化した敷設済みの術式で相手が消し飛んでいく。


 力を振るう当人達の方がビビる性能は確実に平和な日本の住人にはオーバーキルにしか見えないのだが、これでアフリカをローラーしていた部隊の遅れが確実に取り戻されるどころか。


 更に進み過ぎて周囲との連携を保つ為に遅滞を言い渡される始末となった。


 まぁ、それも主戦力として同型ゾンビが多数出てくれば、効率も落ちるのだろうが、それでも十分に火力は増強された。


 こうしてアフリカ喜望峰から始まった作戦が昼夜無く進められる中。


 富士樹海基地内部の研究者達はそのリアルタイム映像にニッコリ。


 あの部分は自分が作った。

 あの部分はウチの研究室の成果だ。


 そうワイワイガヤガヤ愉し気に戦闘シーンを見ては自慢し合うのだった。


 まぁ、彼らが視線を逸らしたい気持ちも理解出来よう。


 進行方向どころか全方位の億単位のゾンビ達の8割を漸減させているのは全てを滅ぼすのではないかという勢いで驀進するハルティーナ機であった。


 騎士ベルディクト謹製のソレが九十九のネットワークの処理能力の3割を持って行っており、自動化された攻撃力としては恐らく現行人類が持つ最大の武力である事は疑いようもなかった。


 *


―――ニューヨーク。


「クリストファーさん!! ご無沙汰してます」


「ああ、騎士ヒューリア。元気そうで何よりだよ。色々と噂は聞いてる。羊さんになったんだって?」


「あ、あはは……色々あって……」


「こっちも色々あったんだ。アンジェラはウチの専属オペレーターとしてHQで働いてるから、後で良ければ通信を繋ぐよ」


「アンジェラさんも元気そうで良かったです」


「袴田さんや安西君とはこの間、海自の基地で会ったよ。二人とも今はシエラⅡのどれかに乗るって言ってたっけ」


「そうなんですか? 今度、会う機会が有ったら、挨拶しなきゃ……」


「ああ、そうしてくれ」


「クリストファー少尉。旧交は温め終わったかね?」


「ハッ、大統領!! 貴重なお時間を取らせてしまい申し訳ありません」


「別にいいさ。君のそういうところが気に入っている。昇進したばかりとはいえ、君も善導騎士団とのパイプの1人だ。待機時は是非とも彼らと絆を深めてくれ」


 装甲姿のままの大統領が1人。

 テントの中で珈琲片手に笑った。

 ニューヨーク湾岸沿い。


 巨大な自由の女神像の下にいたニューヨーク突入中のセブン・オーダーズは全員合流の末にアメリカの陸戦隊が設営した陣地に来る事となっていた。


 周囲はメタリックな装甲姿の隊員。


 大統領の元古巣。


 アンダームーン部隊の嘗ての隊員達によって警備されている。


 そのテントの横にはいつものキャンピングカーが海を渡って置かれており、現在は情報整理やら装備を整える為にアメリカとの折衝役以外はそちらに詰めている。


 ヒューリも見えざる装甲車両に乗って出て来たクリストファーとの再会を終えた後、少年とフィクシーに全てを任せて車両へと戻っていった。


「さて、詳しい話は用意して貰った資料でザッとだが把握した。ニューヨークのリーダーはBFCと組んで一番地のシェルターが行方不明。残ったシェルター内の人間は遥か地下で神らしき存在によって寄生されながら生かされている。内部には人間を侵食した神の眷属らしきものがウヨウヨしていて、通常戦力では無しの礫。いや、まったく予想だにしていなかった……と、普通の大統領なら知らないフリをするところだが、まぁ……君達相手に腹芸も何も無いだろう」


「と、言うと?」


 少年の横に座るフィクシーが珈琲を一口してから訊ねる。


「神に関してだが、恐らくイギリスで発見されていたものだと思われる」


「発見されていた? イギリス政府から何も聞いてませんが」


 少年の声に肩が竦められる。


「彼らは何も知らない。そもそも前任者すらも知らないはずだ。BFCの前身機関が魔術の解析を始める前から色々と世界各地で手を変え、品を変えて発掘チームを極秘裏に動かしていたらしいからね」


「ガリオスと同じですか?」


「ああ、そうだ。君達が知りたがっているガリオス古代都市遺跡も我々の前任者達が極秘裏に発掘していた。世界中で様々な名目で史跡調査や歴史文献調査のような形を取っていたから、他国も国内であってすら分からないというのが多いはずだ」


「……あの神は何ですか?」


「ふむ。BFCの報告書の一部には現存する神の一覧があったのだが、恐らくだが……コレだな」


 ハワードが紙の資料を見ながら呟く。


「迷宮の神」

「迷宮?」


「イギリスのとある村の近くの洞窟に潜んでいた存在らしい。イギリスの国土が壊滅する前から行方不明になったらしいが、BFCは一部の細胞片を回収していたとある」


「……それ本当でしょうか?」


「ああ、報告書は本物だが、君達の疑念の通り……恐らくは上層部に黙って回収していたと考えるべきだな。今の状況で神がわざわざ行方不明から一転、イギリスから引っ越して来たと考えるよりはね」


「大統領。今現在の状況では同型ゾンビとの戦闘は不毛です」


「ああ、それはこちらも認識している。BFCかリーダーのいるシェルターを発見しない事には戦うのも無駄だろう」


「ニューヨークにいる戦力を伺ってもイイですか?」


「陸戦隊が1個師団。艦隊が合計32隻。空母2、ミサイル護衛艦12、駆逐艦14、イージス4だ。他の上陸戦力は用意出来なかった」


「陸戦隊が1個師団……北海道での艦隊離脱のせいですか?」


「ああ、それもある。実際には卵の将軍。マーク・コーウェン准将の息が掛からない将兵だけを集めたに過ぎないが……」


「まだ、お会いした事はありませんが、今までの米軍の動きの中心人物ですよね?」


「ああ、そうだ。多数のシンパを持ち、実際に米軍の大半を動かしていたのは彼だ。元々は彼の上司達が持っていた権力が移譲された形だが、引き継いだモノの重要性や機密性の高い情報や設備や戦力がブラック・ボックス化していて、事実上は彼が米軍を動かしていた」


「これは最初に聞いておきたい事だったんですが、ニューヨークに揚陸が成功したとして、北米を取り返せると思ってましたか?」


「あははは、君はズバリ聞いてくるなぁ。騎士ベルディクト。報告にある通りらしい」


「そうですか?」


「お答えしよう。まったく、取り返せるとは考えていなかった。さっきのは有権者向けだよ」


「そうですか。では、宣伝以外でどうしてこんな無謀な揚陸作戦を?」


「実際には米軍の大西洋にある各基地をこちらの制御下に置く為に連れて来た戦力なんだ。准将は今、三沢を出て大西洋の孤島で指揮を取ってるはずだが、恐らく簡単には指揮下に付いてくれないだろうからな」


「米軍の実権と設備を取り返す為に来た、と?」


「そうだ。ユーラシア遠征自体はするつもりだからね。その為の戦力確保には彼が掌握している各地の兵士人材の製造基地が必要だ」


「それもBFC製ですよね?」


「ああ、だが、何の仕掛けも無い、と断言出来る」


「どうしてですか? 技術力はあちらが圧倒的に上なのでは?」


「それはそうだ。だが、彼らにはあんなのを使う理由も無い。あの程度の設備に悪戯するより、圧倒的な戦力で殴り込みを掛けた方が百倍効率的だからね」


「圧倒的な戦力……BFCの戦力の内訳をご存じなんですか?」


「ああ、当時の額面戦力は問題無く把握している。彼らはガリオスの遺跡から発掘した様々な道具や施設を活用して、ガリオスが生み出した戦船のレプリカを創った。戦船の事は知ってるかな? 恐らく、取引した考古学者の彼から聞いているかと思うんだが」


「ええ、知ってます」


「となれば、君達は一度もうソレと相対した事は分かっているな? ゲルマニアを名乗る人々が載っていた機動要塞。アレだよ。恐らく」


「予想通りです……」


 少年は陰陽自研でも自分と同意見の相手しかいなかった事を思い出す。


 ゲルマニア。


 元IAEAのトップが創った国家。


 どうやら、その内実は若い子供ばかりのようだったが、それもまた恐らくは機械による人間の製造技術が関わっている。


 アメリカから追われていたという話を聞く限り、ソレが後あるとすれば、ガリオスの古代遺跡くらいしか思いつく当ては無かった。


「ガリオス古代遺跡は危険な技術が山盛りだったと聞く。だが、BFCの科学力は別の意味で極めて危険だ」


「別の意味?」


「……君達が概念域と呼ぶ世界に彼らは自己を転写封入する為の装置を開発した。そう、事実上の不老不死化技術だよ。物理的な面を超越する頚城よりも更に高度な代物だ」


「ッ―――」


「ゲートはあくまで大量の人間を蘇らせる為の装置。だが、彼らはその更に果てにある技術に手を伸ばしていた。箱舟と呼ばれる装置こそがソレだ。死んだ人間の魂と呼べるものを収集し、人格や記憶をデジタルデータで置き換えて概念域に保存する為の施設、と表向きは言われている。実際にはまだ何かしらの秘密があるのだろうが、今の私にすらそれは分からない話だ」


「……箱舟、ですか?」


「米軍上層部が彼らを滅ぼした時にはもう肉体を彼らは必要としていなかった。脳そのものを丸ごと概念域へ持ち込んでデータ化したと推測されている。そして、概念域とやらに飛び込んだ彼らには十分な時間があった。無いのは資源だけだっただろう」


「………アメリカ政府は全部知っていたんですね」


「いいや、半分は軍部の独走だ。時の政府にしてみれば、米軍が不老不死に取り付かれた一部将校達の暴走で私物化。ゾンビ禍を引き起こし、世界を破滅させたという事実だけが残った」


「政府は悪くないと?」


「責任はあるとも。詳しい報告書はあの混乱期で書かれようもなく。我々に残されたのは概要データだけ。それも核心に至る情報などは重要なものが殆ど存在しなかった」


「何を以て核心と考えるんですか? 今の米国は」


「あの当時の詳しいガリオス人の詳細な情報や関係性。他にも四騎士関連の情報が殆ど欠落している。彼らが何故、自分達を支援していた地球人達すらも殺して、BFCではなく地球人類そのものを憎悪するような言動と共に戦い始めたのかも分かっていない。外殻に当たる資料から推察は出来ても全て推論の域を出ない」


「鎧の方の頚城はお持ちですか?」


「ああ、3つ持っていたが、一つは南極。一つは北極。一つは三沢にある」


「……それが世界を破滅させる鍵だと米国は知ってましたよね?」


「報告書の一つに絶対あの頚城を四騎士に渡すなと書かれてあったからな。もし、頚城が全て四騎士と背後にいる最後の大隊の手に落ちれば、人類は魔術的な方法で滅亡するそうだ」


「南極から頚城が奪われた事はご存じですか?」


「恐らくそうだろうと有識者達から警告があった。北極のが危なそうというのも聞いている」


「三沢にある頚城とやらの警備は万全ですか?」


「一応、前任者達が不老不死化したBFCを退ける方法を手に入れていた為、施されたセキュリティーは彼らでは絶対突破出来ない、と自信満々に書いていたが……」


「そんな方法が?」


「ああ、単純無比らしい。上位次元に自分の構成情報を持つBFCは現実での活動には頚城が生成する死から汲み上げられた魔力が必要と書かれていた。四騎士はそれを活用して活動しているとも……だから、三沢の地下には出産ルームが儲けられていてね。米軍の関係者にはそこで産んで貰って、別のところで死んでもらっている」


「……生命の誕生で死が減る。それを前任者の方達は知っていた?」


「おや? 君達もちゃんと把握していたか。いや、まぁ、確かに知らなければ、戦いようが無いものな」


「ええ、まぁ……」


「というわけで彼らは活動用の魔力の枯渇で動けなくなるんだそうだ。何でも四騎士とBFCの魔力に関する様々な事柄には共通項が多く。BFCは四騎士のような頚城を摂取する事で現実での死の魔力を引き出す力が増大出来るとか、補給するとか」


「魔力を得る為に頚城を……」


「だから、前任者にしてみれば、どちらに勝たれて困ると書かれてあった」


「四騎士がBFCを下せば、人類の滅びが加速し、BFCが四騎士を下せば、その分だけBFCが強力になって手が付けられなくなるから、ですか?」


「ああ、そうだ。そして、BFCは現実からの干渉を受け難いのみならず。物理的な破壊で消滅しても単純に滅ぼせず。時間や頚城があれば、復活するとも」


「だから、BFCは頚城を狩り集めていた?」


「さて、我々の知らない情報のようだが、十分にあり得るな。東京に顕現した部隊。同型ゾンビに付いてだが、元々アレはBFCが創った代物だと記述がある。四騎士が使う同型ゾンビの殆どはBFCからヘブンズ・ゲートを強奪した際に製造方法や設備を奪ったものだとの話だ。それまで同型ゾンビというものはこの世に存在していなかったとも書かれてある」


「つまり、最後の大隊はBFCの技術を流用しているだけに過ぎない?」


「そういう事だ。本来はコマンドー型と呼ばれた不死の兵隊、部隊単位ではコマンダーズを製造する為の計画で出来た不良品だったらしい」


「不良品……ゾンビがですか?」


「ああ、ビッグ・ファイア・パンデミックによって流出した頚城の術式がゾンビを産んだ。だが、あちらは予期せぬ出来事だったようだ。同型ゾンビは不良品ではあるが、正式な手順を踏んで作る既製品、人間がゾンビ化するのはバイオハザードのような不慮の事故だったと書かれてある……」


「……不慮の事故で世界が滅んだんですか?」


「前任者達にも困ったものだ……だが、不良品にも頚城としての能力がある事から不老不死化後の現実での活動を支える食料として生産設備が整えられたとか」


「それが無ければ、大規模にBFCは動けないって事ですか?」


「そうだ。現実に同じ生産設備を創ろうにも生産設備に必要な特殊機材や特殊資材その他の部品や工業製品は人類生存領域外では手に入らないし、何処にあるかも分からない。人類にいる協力者に手伝わせようとしても、彼らの殆どが当時の出来事のせいで彼らを拒絶」


「設備を最終的に作る前で躓いて、例え造れたとしても米軍によって破壊されては意味が無い?」


「そういう事だ。そもそも不死の兵隊自体は東京に現れた通り、開発が完了している」


「機械椀の方が不老不死だと……」


「一応、データだけは残っていたからな。あの機械椀は不老不死化した兵士の正式採用品に付属する装備の一部との事だ」


「後でそちらのデータをご開示頂ければ、幸いです」


「考えておく。BFCはコマンダーズ生産設備を奪われ、現実での協力者も無くした。故に少人数の部隊を送り込んで本隊を顕現させる準備が必要だと判断した可能性が最も高いとウチの解析班が結論を出している」


「……通常のゾンビは資源化出来ないんですか?」


「出来るが無しの礫。海に一摘み砂糖を溶かすような行為との事だ」


「その点だと四騎士側が有利なんですね」


「ああ、そうだ。だが、その均衡が崩れた。四騎士の一角が頚城として倒れた事で魔術的な破滅が近付く。BFCからの来訪者も恐らくはそれに触発されてやってきたはずだ。何が目的かは知らないが、ゾンビの生みの親だ。是非とも頭の中の知識を頂きたいものだ」


 長話が大体終わったのを見計らってフィクシーが男の前に立つ。


「大統領」


「フィクシー・サンクレット副団長代行。君の申し出は受ける」


「まだ、何も言っていませんが?」


「BFCの捜索は地表でも必要だろう。君達の話では推察するに地下が極めて妖しい。だが、こっちの戦力じゃ喰われてお終い。上のゾンビ達が暴れないように圧し留めておけばいいんだろう? あちらは武器を持っていないそうだし、重火器さえあれば、可能だとこちらも考えていた」


「お見通し、ですか」


「合理的な判断をしてみたまでだよ。間違ってるかい?」


「いえ、そう提案しようと思っていました」


「ならば、交渉は成立だ。あの巨大戦艦がもう一隻出て来るというのでなければ、我々もそう簡単にやられはしないさ。まぁ、その前に君達は前市長のデスクや国連施設、BFCの逗留場所に興味があるだろうがね」


「……その通りです。調査しても?」


「構わない。何なら新しい情報があったら教えて欲しいくらいだ。国連施設にリーダーがいる可能性も無いではない。ただ、一つ条件がある」


「同行者ならば、構いません」


「そうか。じゃあ、クリストファー少尉のいる部隊を同行させたい。預けたいと言っていい。無論、君達の方が実際の戦力としては場慣れしている。彼らの指揮権も一緒に御付しよう」


「何から何まで痛み入ります」


「彼らの特殊装甲車両はユーラシア遠征用に開発された正式作用品でね。そのデータ取りでもある。君達のキャンピングカーには及ばないかもしれないが、一緒に使ってやってくれ」


 少年とフィクシーがハワードと握手する。


「では、良い知らせを期待している」


 そう告げる男に背を向けて二人は去っていく。


 テントの中に1人。


「……心苦しいな。彼らのような人々と戦う日が来るかもしれないというのだから……まったく、貴方達のせいだよ」


『いや、僕らじゃないよ。市長のせいさ』


『オイ。思いっ切りバレてんぞ。アズ』


『いいんだよ。ヒサシゲ。僕らはお客さんだからね』


「准将と取引しただろう? 君達」


 テントの背後から二人の声がする。


 しかし、他の誰もが気付いていないようだった。


『人類には是非とも生き残って欲しいからね。ボクらは』


「……アズ。久しぶりだな」


『ああ、あの戦場以来だね。ハワード』


「横のが君の秘蔵っ子かい?」


『あはは、ボクの今のパートナーさ』


「気を付けろよ。君……彼女はこう見えて、情熱家……いや、激情家だから」


『知ってる。て言うか聞いてた通りの人間なんだな。アンタ』


「どう聞いているのかは訊かない事にしておこう。アズ、答えてくれ。ヤツらは何処に?」


『恐らく地下というよりはもう一つのニューヨークかな』


「もう一つの?」


『ああ、この地域はもう異界化している。この結界、表向きは外部からの遮断を行ってるように見えるけど、実際には何かの干渉を防ぐ為に世界を維持してる』


「よく分からないが、ニューヨークがもう一つ出来たのか?」


『その認識で合ってる。恐らく扉は地下にある。あの神様が隠してる迷宮の底だ』


「この時代、驚き過ぎると疲れるな。これは骨が折れそうだ。あの頃のように前線まで出て来たのはいいものの……正直、こちら側で助かったな」


『ボクとしては君がこちらにいる方が驚きだけどね』


 ハワードは肩を竦めた。


「人間に絶望している暇もなく破滅が襲い掛かって来るんだ。退けるしかないだろう?」


『で、本当の目的は何なんだい?』


「退避させて来たのさ。この戦いを制するアイテムをね」


『ッ、そういう事か。知恵の回る事だ。確かに合理的だ。だが、君が適合するかどうかは神のみぞ―――』


「この数年間、大人しくしていた理由は単に《《動けなかったから》》だよ。だが、今は動ける。そういう事だ。アズ……」


『……アメリカ合衆国大統領は伊達じゃない、わけか。脱帽だよ。ハワード』


「では、特等席で見ているといい。人類の生存を掛けた前哨戦だ。北極で決着が付く前に終わればいいが……」


『此処はどうやら彼らに任せても良さそうだ。君達に後は任せてボクらはもう行くよ。また、地獄で会おう。旧友』


「ああ、また会おう。我らを導きし悪魔殿」


 再び沈黙が支配し始めたテント内。


 男は財布を取り出した。

 当時の部隊の写真。


 そこには彼らに生き残る術を持ってきた悪魔が一緒に映っていた。


 本来、死ぬはずだった彼らに戦う術を授けてくれた美しい悪魔が。


 BFCからの使者であり、同時にまた彼らを地獄の底に案内しながらも、その身を張って励まし、共に戦い続けた女の名前はふざけた代物でアズ・トゥー・アズといった。

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