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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第172話「アメリカ合衆国大統領マイク・ハワード」


―――日本北海道アメリカ租借地域首都ニュー・ワシントン。


 米国はこの十数年。


 長らく暗黒期を過ごしていた。


 BFPビッグ・ファイア・パンデミックに端を発する戦争で国民の多くが死に……主要都市を全て陥落し、北米に残る3都市と殆ど断絶に近く。


 各地の人類生存圏へ送り出した米国民のコロニーは最大の労働力でありながら、最大の食い扶持を消費するお客さんとして各種の問題で混乱している。


 だが、それでもこの数年政権が変わっていないのは1人の男の求心力によるものであると誰もが認めるところだろう。


 アメリカ合衆国大統領。


 世界最高の権力者となった男の名をマイク・ハワードという。


 その経歴だけで言えば、彼は当時田舎の軍人出の独身25歳であった。


 だが、ゾンビ禍の流行によって滅び始めた祖国において彼が為した偉業は多くの国民にとって信頼に値する出来事であっただろう。


 祖国で確認された100万単位のMZGを相手にして彼が率いた愚連隊。


 ゾンビに呑み込まれて原隊を失った傷病兵達が集められた独立遊撃機動部隊アンダームーンはジョークの類に違いなかった。


 当時の米軍の将校達が捻り出した遅延戦闘の為の美味い話。


 それは半月で消滅する事を前提にした決死隊を小規模に結成し、各地で大規模なインフラを使った足止め作戦を行うというものだったのである。


 ダムの決壊。

 街の火責め。

 山の爆破。

 道の封鎖。

 大規模な落盤。


 意図的に行われた数々の破壊活動は確かにゾンビの進軍速度を落とした。


 この無数に作られたゾンビ流行地域へと派遣された小規模部隊の一つこそがアンダームーン……略称AM部隊であった。


 彼らは各地で大規模な遅延作戦を行った友軍の保護と後方への輸送任務を行う部隊であり、もはや指揮系統が麻痺したゾンビの支配地域で無数の兵隊達を救う為に奮闘し……上層部の意図に反して生き残った。


 彼らの多くはマイク・ハワード少尉。


 まだ新兵にしか過ぎなかった彼の下で着実に友軍を救いながら各地を転戦し、大量の友軍が死んでいるのを横目に何とか千人、二千人という数の兵隊達を後方へと退避させたのである。


 本土の失陥時、彼らは多くの軍人達の後援の下で日本本土まで到達。


 解散となり、彼は軍の昇進を蹴って大統領への道を志す事になる。


 現在40歳となった彼は34歳の時に大統領となった。


 世界最若の指導者と言われたのである。


 その支持層は軍主体でありながら、民間人の救出もしていた彼はこの前政権の陰謀が襲い掛かった現在の米国においても個人的には人気に陰りが見えないという意味においてはまだまだ米国を率いていくだろうと多くの人々が思っていた。


 そう、だから、彼が米国民に重大な発表があると聞いた時、多くの人々はまさか彼が大統領を止めるのではないかと驚きを隠せず。


 世界各地の米国民に限って、その緊急放送が行われる9時台の視聴率は9割を超えていた。


『やぁ、親愛なるアメリカ合衆国の皆さん。オレの顔を知らない方は初めまして。知っている方は朝の放送ぶりだね。マイク・ハワード独身40歳。そう、終に四十代に突入した君達の国の大統領がこれから緊急放送を始めたいと思う』


 米国のみならず。


 多くの亡命政権や日本政府も注視する中。


 彼は今も筋肉質だが優男なイケメンスマイルで右腕の存在しない五指で手を振った。


『今、米国民の多くはこう思っているだろう。グダグダだ!! まったく、政権は、ハワードは何をしてるんだ? 彼は過去の亡霊共に甘過ぎるんじゃないか? 早く過去の秘密や国民への裏切りを暴いて罪深い奴らを地獄の底に叩き込んでくれないか、と』


 男の笑みに一瞬だけ喉が干上がった層がいた事は確かだ。


 マイク・ハワードは徹底した合理主義者であると同時に慈善活動家だった。


 だが、同時にその政治的な手腕は敵対者や身内に厳しい事でも有名だ。


『オレは自分が劇場型な政治家のつもりはないんだが、どうしても地位のある人間に対して厳しい事を言ったり、やったりするには準備が終わるまでは動けないという性質なんだ。彼らの多くは自分を護る事に精一杯の準備をしているしね』


 家系はプロテスタントの教会出。


 父親は教会で説教を垂れ、母親は彼を産んでからすぐに亡くなっている。


『米国民よ。まず、事の興りから話そう。今、君達は知っているはずだ。この世界に来た異世界からの来訪者達。善導騎士団……彼らの事を……』


 ハワードの瞳がテレビの先へと向く。


『だが、彼らが来る前にもどうやら我が国には彼らのような人々が来ていたようなんだ。そして、当時その事を知っていた人々はそれを極秘裏の内に自分達でどうにかしようと彼らとの間に様々な密約を結んだ』


 アメリカの地図が映し出される。


 その中心点としてポイントされているのは南部にあるとある研究施設があった場所であった。


『彼らは僕らとは違って科学技術ではなく。魔術を用いた。そして、当時の研究者達は過去の遺跡の発掘から魔術の存在を理解し、多くの遺物を使って極めて有用な実験の結果……成果を得ていた』


 その地点の映像らしきもの。

 実験設備や実験風景が映し出される。


『この一部は今も米国や人類のエネルギー事情や建築関連の技術に名残があるね。そう、最も影響を受けたのは商業用核融合炉の完全な実用化だ』


 その言葉が終わると同時に一枚の書類が映し出される。


『当時の研究者達は夢を見ていたんだ。そう、魔術と呼ばれる技術体系と遺跡から発掘された遺物は無限の可能性に見えたんだろう。ソレは人にとって凡そ見過ごせない代物だった』


 書類に書かれてある複数の単語は正しく驚くに値するものばかりだった。


 寿命の克服。

 傷病の克服。

 無限の進化。


 諸々が世界を激変させる単語だ。


 だが、最も目を引いた可能性は―――。


『死の克服。これを見過ごせなかった科学者達をオレは別に非難するつもりはない。だが、事実を言おう。それが全ての誤りだったと』


 映像が切り替わる。

 其処には巨大な鋼で出来た枠。


 地表に突き出た扉の形をしたゲートらしきものが置かれていた。


『これだ。これが全ての元凶……名をヘブンズ・ゲート……ゾンビが生まれる事になった実験の大本だ』


 その言葉にようやく米国がゾンビの出現は自分達が行ったと認めた事を世界は知った。


『だが、勘違いしないで欲しいのはコレは似非科学やSFの類ではなく。完全な現実であり、事実として死は克服可能だった、というところが性質の悪い話だ』


 再び大統領の顔が映し出される。

 憂鬱そうな溜息が吐かれた。


『しかしだ。彼らは間違いを犯した。それは二つだ。一つはこのゲートを使う為に必要だったモノが非人道的な方法でしか手に入らなかったという事実。もう一つは人間はまだ死から解き放たれるには言う程に成熟した種族ではなかったという事実。君達にこれから真実を話そう。彼ら大陸からの来訪者がどうなったのか。その一部始終を……』


 映像が、映し出された。


【これより検体番号9番の脳髄摘出術式を開始する】


 麻酔で寝かされた小さな少女だった。


 その頭は完全に髪を反り落とされており、その頭部には線が引かれている。


 そして、ソレが始まった。

 一部始終と大統領は言った。

 そして、一部始終はたった数分で済んだ。

 そして、多くの多くの人々は知った。


 世の中にはどうやら悪と呼べるものがあり、技術の進歩と引き換えに魂を売った人々がいたらしいと。


 少女は箱に収められ、トレーの上に乗せられて運ばれていった。


『ショッキングな映像だろう? だが、彼らは本当に真っ当に技術の進歩と死の克服を考え、人々の幸福と世界の安寧を願っていたんだ。それが狂気に塗れた人倫に反する真実というヤツだったのさ』


 大統領が僅かに十字を切った。


『さて、これをどうして見せたのか。君達には教えておこう。オレは合衆国大統領だ。だから、君達に二つの道を示さねばならない。一つは人倫を踏み外して世界を敵に回しても過去を取り戻す道。もう一つはこの滅び掛けた世界で無限の屍と戦い続ける絶望に抗う道だ』


 男はまるで裁定者の如くテレビの先を見つめる。


『合衆国の全国民。全ての人々に申し上げる。オレは今、死を克服する方法を知っている。もし、君達がオレにソレを願うなら……君達の死んだ家族を仲間を友人を、オレは米軍と己の魂の全てを用いて蘇らせる道を取ろう。だが』


 男は極めて真面目だった。


『それは人の道に外れ、道徳に反し、神の教えに背き、犠牲の上にある平和だ。逆に君達がそう望むなら、オレは善導騎士団。彼らと共に道を歩んでいく事も出来る。戦い続ける道だ……死者は蘇らず、弱者は死に、護りたいモノは消え、それでも絶望に抗い続けるならば、それはそれで君達にとって幸せな時代となるだろう』


 男の言葉は一々人々の心を撫でた。


 正解の無い問いを彼は投げ掛けていたのだ。


 全てを失意の内に取り戻せなくなった者に残酷な二択を強いていたのだ。


『さて、現実的な工程を話そう。それこそが彼らの間違いであった故に……』


 映像が再び切り替わる。


 其処には1人の男と数人の棺桶が置かれていた。


 そして、ゲートを潜らせた瞬間。


 男が消失し、棺桶の内部からドンドンドンと音がして、蓋が開けられた。


『これが米国前政権が隠してきた真実だ。換算式を具体的に言おう。1人の異世界人に付き、ゲートは最大効率で1:100までの人間を生き返らせる。そして、1人の異世界人を犠牲にして1人の人間を死なない人間にする事が出来る。寿命は無く。死ぬ事は無く。食べる事も眠る事も必要無い生命だ』


 世界が静止した。

 そして、動き出す事もなく。

 1人劇場の上で大統領は踊る。


『そして、1人の異世界人を犠牲にして一つの道具を作った時、その道具は万能の力を有し、大抵の事が実現可能になる。そうだ。あの少女の末路だ』


 彼は真面目だった。

 そして、大統領だった。

 何よりも世界に君臨していた。


 だから、誰よりも彼は国民に言わねばならない。


 それが猛毒なのだとしても、甘美なる誘惑とは常に悪であるからこそ、本当に現実となる可能性を有するものであるのだと。


『そして、その異世界人とやらの遺伝子を受け継ぐならば、脳さえあればクローンでもこの条件は満たされる。我々はこの条件を満たした人間を製造する方法をもう知っているはずだ』


 誰かが言った。

 人工受胎する装置があると。

 機械生産出来る人間が生まれると。


『そうだ。米国は世界で初めて死を克服した国家になろうとした。万能の道具を作る国家になろうとした。死んだ異世界人すらも蘇らせる事が出来ると知った以上、やらない理由は……無かった……そういう事だ』


 何処か哀し気に男は言う。


『異世界人。大陸から来た人々はコレを良しとはしなかった。彼らは遥か過去にもこの世界に到来し、神々として名を残した人々だった。世界は彼らと交わり、黄金の時代を迎え、鉄の時代を迎え、今滅びの時代に向かっている』


 男はテレビの前にいる者達に問い掛けていた。


 人類に問い掛けていた。


『全人類よ。君達に問う。君達は過去を望むか。未来を望むか。それとも滅びゆく世界に滅び去る事を善しとするか』


 男がテレビの前に台の上にソレを置く。


 片方は拳銃。

 片方は天秤。


『アメリカは有史以来。3つのもので世界を変えて来た。一つ目のものは正義。正義とは暴力の別名だった。公正なる正義は天秤の下。暴力としての正義は銃の下。我々はこれを米軍という名で今に持っている』


 人々は画面に映し出された米軍の指揮系統と部隊と全ての軍の数を見た。


 映し出された軍隊は未だ世界最強であると誇示する如く。


 誰もが大統領の映るテレビに見入っていた。


『二つ目のものは自由。これを人々は何よりも尊んだ。ああ、自由の為に死に、自由の為に生き、自由の為に戦い、自由の為に我々は……アメリカ国民は進んで来た。この胸に宿るフロンティア・スピリットと共に……』


 映し出されるのは自由の女神。

 黒人の奴隷解放。

 あるいは多くの自由を叫ぶ人々。

 フリーダムとは何の為の言葉なのか。

 未だ哲学的に過ぎる。


『だが、だが、三つ目のものをオレは良しとするべきか未だに悩む。それは今の裏返しだからだ』


 答えは無い。

 誰も答えは知らない。

 だが、予想する者はいた。


『それは宗教? 違うな。それとも神? やはり違う。あるいは技術? それで滅び掛けているな。なら、最後に残るのは……』


 大統領。


 今、ニューホワイトハウスの一室から問い掛けて来たと思われていた男の背後が最新のCG技術によって行われた欺瞞をゆっくりと剥いでいく。


 その背後の光景に多くが驚く。


『希望だ』


 ニューヨーク。

 自由の女神の頂点で男は立っていた。

 それこそCGのように立っていた。

 大崩壊したニューヨークが巻き戻る。

 そう復元される。

 その光景を共に見つめていた。


 腕組をした男はスーツ姿でありながら、まるで戦闘服のようにそれを着こなして世界を見下ろしていた。


『嘗て、新大陸に夢を馳せた教徒達がいた。彼らが求めたのは希望だった』


『嘗て、アメリカに夢を求めた移民達がいた。彼らが見たのは希望だった』


『嘗て、囚われの黒人奴隷達がいた。彼らが何より欲したのは希望だった』


 男の声が響く。

 世界に響く。


『合衆国の国民よ。全人類よ。君達の希望とはどちらだ。オレは君達の代弁者たろう。その為にこそ全ての力を使い尽そう。その為の正義なら此処に、暴力なら此処に、公正なら此処に、自由なら此処に……アメリカ合衆国大統領があると断言しよう……何故ならば、オレが暴力であり、自由であり、公正であり、正義の使者だからだ!!!』


 大統領が跳んだ。


 その時、人類の半数以上の思考は一致した。


 『と、跳んだぁああぁああぁΣ(・ω・ノ)ノ』×人類数十%の人々。


 だが、その投身自殺染みた行為をカメラは追う。


 空中で大の字になって腕を広げた男が叫ぶ。


『装着ッッ!!!』


( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)×『はぁぁあぁああ?!!!』


( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)×『はぁぁあぁああ?!!!』


( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)×『はぁぁあぁああ?!!!』


( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)×『はぁぁあぁああ?!!!』


 世界が唱和した。

 人々は目撃した。

 アメリカ合衆国大統領。

 マイク・ハワード。

 彼は装着したのだ。

 それを装着したのだ。


 彼は―――世界の見ている前でスーツが弾け飛んだ瞬間。


 現れた無数の装甲に鎧われて―――。


 着地した瞬間。

 土埃が上がる。

 そして、立ち上がる姿を彼らは見た。


 それはロボットというには極めて有機的なフォルムだった。


 しかし、その全身の装甲はメタリックだった。


 薄緑色の外殻を持ち。


 人の形をしながらも鎧である事を主張していた。


 顔は中世の兜染みて。


 しかし、輝くバイザーの瞳は正しく最新鋭の力である事を主張した。


 東京において一度だけ姿を現した米軍の特殊部隊にソレは似ていた。


 だが、それよりも遥かに強靭な装甲と武装を兼ね備えている事が分かる。


 両手の籠手染みたソレと両腿の外側に付けられた巨大な砲身を備えた銃のような何かが戦う為の力だと厳然と主張していた。


『人類よ。オレの秘密を君達に一つ話そう。オレは元BFCの実験体だ』


 世界が震撼するよりも早く。


 一番最初に顔が歪みまくりとなったのはとある絶海の孤島で陣頭指揮を取っていた卵の将軍であった。


『嘗て、オレはあの戦場で死に掛け……悪魔の契約をあの市長と交わした。アンダームーンの隊員は全てを承知でオレに命を預けてくれた。奴らはこう言った。お前の部隊を助けてやろう。希望を与えてやろう。だが、その為の力はお前達を燃料とする』


 まさか、と。

 最初に呟いたのもやはり卵の将軍。

 マーク・コーウェン准将であった。


『お前達の脳が異世界人の脳のように使えれば、お前らは生き残れる……分かるか? 連中はオレ達を実験台にした。この世界の人間を使っても同じような事が出来るかどうかを実験したんだ!!』


 男の背後にいつの間にか。

 男と同じ。


 否、男よりも僅かに装甲や装備で劣りそうにも見える装甲を着込んだ者達が集結していく。


『オレ達はその契約を後悔しない。多くの仲間達が、同胞が、オレ達を支える為に笑顔で必ず皆を救ってくれと……今ゾンビからの傷で化け物になって死ぬ命なら使ってくれと……そう言って犠牲となった』


 次々に米軍所属の男達の顔が一人一人の集結した者達の装甲に被せられていく。


『オレ達は彼らの数千倍の人間をあの地獄の戦場で退避させる事が出来た。けれど、オレ達の姿の事を誰1人……誰1人として救った誰かが告げる事は無かった』


 世界が復元された最中。

 彼らの背後。


 ニューヨークの湾岸部に次々と灯りが灯っていく。


『人類よ。BFCは人類を救えるが悪党だ。だが、BFCの背後にいたのは米軍の上層部だった。世界を滅ぼしたのは米軍だ。世界を滅ぼしたのはアメリカだ。そして、滅びる程の大罪を働いた事は間違いない事だと生きた証人としてオレが断言しよう』


 部隊の背後。


 集結した者達が背にしているのは巨大な軍艦の群れであった。


『オレはこの罪を償えるとは思わない。だが、そのまま全てを坐して見守る事もしない。君達人類がどのような選択肢を取ろうとも、この祖国の大地の奪還をまずは開始しよう』


―――【全陸戦部隊ッ、配置に付きました!! いつでも揚陸を開始出来ます!! 大統領閣下!!!】


『よろしい。では、これよりニューヨーク制圧を開始する。目標はBFC幹部。彼をオレのテーブルの前に連れて来い!!』


 魚型のドローンの群れが次々にニューヨークの空を舞い始める。


『君達の答えは何れユーラシアを奪還した際に聞こう。それまではお互い手を取り合って人類を導こうじゃないか』


 男が虚空にサーチライトを当てて浮かび上がる二人の影を見ながら言った。


『善導騎士団……【魔導騎士】ベルディクト・バーン』


 それを聞きながら少年は思う。


 此処にもまた結城陰陽将並みに手強そうな相手が1人。


『それとマーク・コーウェン准将。今まで君に多くを委ねて来た事は大変済まなかった。これからはオレが全軍の指揮を執る。本国への召還命令を発令する。これは正式に米軍の総意である。君が一軍人としてこの命令に従う事を切に祈る』


【あの英雄気取りがぁあああああああああああああああああああああ!!!?】


 孤島でブチ切れた男の雄叫びが絶海に響いたかどうかは定かではない。


 だが、確かにこの日、米軍を率いる将は変わった。


 少年が地表に降りて彼らの下に向かう。


 対峙した二人の視線が合った。


「初めましてになるかな。ベルディクト・バーン。アメリカ合衆国大統領マイク・ハワードだ」


 差し出されたがしっかりと握り締められる。


「初めまして大統領。善導騎士団所属ベルディクト・バーンです」


 その歴史的な転換点の映像は誰の目にも対照的と映った。


「君達の現状は把握している。優秀なウチの部隊の隊員が君達の事を教えてくれていたのでね」


「大丈夫でしたか?」


「ああ、先程の事もこちらで対処可能だった。今は全員が地下にいる。ニューヨークがオカシイというのも分かっている。現状の擦り合わせをしよう。来てくれ」


「分かりました。こちらとしても動かせる戦力が増えるのは歓迎です。ただ、一つだけ」


「何だね?」

「どうやって兵器を?」


「ふふ、兵器、か……この結界の事は聞いている。だが、抜け道はいつもあるものだ」


「抜け道?」


「この高度な結界を張っているのが誰なのかは知らないが、我々は兵器など一つも持ち込んでいない」


「軍艦や兵隊の装備は特殊なものですが、電子機器を使っているものが多数。銃やナイフや爆薬もあるように見えますが」


「全て幻だ」

「幻?」


「嘗て……あの戦争であらゆる物資が不足した。そして、1人の男はこの能力故に隊長として選ばれた」


「ッ―――貴方は」


 少年が気付いた様子で話すよりも先に男が夜戦テントへと全員を呼ぶ。


 既に映像が途切れた放送は終了。


 世界が度肝を抜かれてポカーンとしている間にも全ては進んでいく。


 もう何が何だか分からない状態なカズマなどは少年の後ろにスゴスゴと付いていくのだった。


 こうして、アメリカ合衆国大統領特撮SF変身ヒーローになるの報は世界を駆け抜けたのである。

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