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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第148話「星は双つ」


 絶望。

 よく人が口にする言葉の一つ。

 希望。

 よく人が口にする言葉の一つ。

 諦観。

 人々が無頓着なままに体現する言葉。


「貴方は今日、一つの現実を知る」

「!?」


 その時、世界は静止していた。


 ヒューリア姫。


 そう王国時代の家臣達に呼ばれているパーティーの最中。


 上等な食事が出る立食形式の極々私的な集まり。

 その殆どが今現在、国家において上流階級。


 高位の役人や政治家の者達の中にあって王室派と呼ばれた者達。


 彼女にとってはお爺ちゃんの友達。


 よく贈り物をしてくれて、可愛がってくれた気の良い老人達。


 しかしながら、その最中。


 彼女は魔族化した自分を前に椅子に座っている。


 ゆっくりと紫雲が棚引く世界。

 ゆっくりと黄昏が満ちていく世界。

 ゆっくりと紅蓮の陽が落ちていく世界。

 あるいは漆黒の帳が落ちつつある世界。


「さぁ、目を開いて」


 自分は妖しく微笑んで眠れる羊のように虚空で丸くなりながら、その瞳で彼女を見やる。


「目なら開いてます!!」

「本当に?」

「何を言いたいんですか」


 虚空でゆらりと回転する羊が視線を横に向ける。

 それに吊られ見てしまった彼女は目を見開く。


「お母さん!!」


 それは自分の庭にして遊び場だった場所。


 玉座は人がいない日は疲れた時に座る小さな彼女専用の公園の椅子と大差なく。


 もし、自分があの時、腰掛けていなければ……もっと早く動けていれば……。


 善導騎士団の騎士団長。


 あの男がヒューリの瞳の前で引き金を引いていた。

 自分の頭部に向けて。

 止める間もなく。


 ゆっくりと弾丸は自分の前に立ちはだかった母の胸を―――。


「止めて!!?」


―――貫いて。


「あの時、貴女は見ていない」


 顔の傷が血を流して。


「何を見てないって言うんですか!!?」


「ヒューリア。ヒューリア・レイハウト・イスコルピオ・ガリオス」


 魔族は言う。

 彼女は言う。

 同じ自分に。


「お母様!!?」


 駆け寄ろうとした母は消えた。

 残るはただの玉座のみ。

 初代国王が愛したという重厚な木製の王座。

 元々は祖父が座っていた、座っているべきモノ。


「貴女はどうして助かったと思う?」

「そんな!? お母様が私を!!?」


「……いいえ、真実をその瞳は映し出す。世界はそんなに美談で溢れているわけじゃない……分かっているでしょう?」


「何を―――」


 ヒューリがもう一度振り返れば、騎士団長……あの男が拳銃をまた―――そして、母もまた飛び出して。


 しかし、彼女の瞳は見る。


「どうして、お母様……」

「何でお母様が微笑んでいるか解る?」

「何、を……」

「どうして、あの男が哀しそうなのか解る?」

「解りません!!」


「……じゃあ、もう一度見せましょうか。貴女が見ていたものを……」


 少女は見る。

 老人の中に混じっている青年。


 自分の母と親しげに会話し、父親と共に微笑んでいる男。


「―――団長は両親と知り合い、だった?」


「昔の事……小さいから忘れてしまったと思われていたのよ」


「何を、言いたいんですか……」


 再び自分を見ようとしたヒューリが振り返った時、其処には青年と両親がいた。

 母が小さな赤子を抱いていて。


「……私?」

「いいえ、よく見なさい」


 その言葉にまた目を見開いた少女は母のお腹が大きい事を知る。


「え? え?」


「これは間違いなく貴女の物語。そして、私の物語……」


 羊がゆっくりと身を伸ばし、虚空で回りながら少女の横で微笑む。


「何を………何なんですか。こんなの幻です!!」

「幻は一体どちらかしら?」

「何を言って―――」


「貴女は知っているはずじゃない。ガリオス人の気性がどうしてああも猛々しくもあるのか」


「それは初代国王が!!」


「そう、魔族だったから。恐らくと言わず。かなりの確率で魔族の血が普通の人間よりも大量に流れている。ガリオス王家はその最たる象徴」


「だから、何だって―――」


 キロリと金の瞳がヒューリを覗き込んでいた。


「初代国王は魔王だった。貴女にもその血が流れている。王国は議会制民主主義になった。元国王は王家の復興を望んだ。しかし、ガリオスの民主主義閥の政府によって、その反乱は封じられた。その時のどさくさで貴女のお母様は他界した」


「そうです!! だから、私は!!」

「果たして、それは何処まで真実なの?」

「し、真実ってそんなの全部に決まってます!!?」

「いいえ、この物語には幾つか疑問符が付くのよ」


「疑問符?」


「貴女の御爺様は本当に南部の魔王が治めるようになった帝国と手を組もうとしていたの? 本当に貴女の両親は貴女をお姫様にしようとしていたの?」


「え、そんな、だって、それ以外に一体何があるって言うんですか!?」


「貴女は3つの疑問を持って然るべきなのよ」

「三つの疑問?」


 少女の前から七つの剣が突き立つ丘のエンブレムが悠々と過ぎ去っていく。


「七教会の軍艦……」


「一つ目の疑問。どうして、七教会は魔王と交渉しようとしたガリオス王族派に手を出さなかったの? 本来、貴方達を抑止するならば、ガリオス政府は彼らに事態の収拾を頼むべきなのよ。そもそも七教会の前に隠蔽なんて無意味よ」


「どうしてそう言い切れるんですか!?」


「自分達で潰したら、七教会からお咎めがあるのよ。特に隠した後……相手は世界最大の軍事組織にして世界最大の技術者技能者集団で何よりも善良な人々。知らないわけないし、止めないわけもない」


「なら、どうして七教会は―――」

「此処で二つ目の疑問」


 ヒューリの足元に都市があった。

 巨大なガリオスの首都。


【興覇都市ガリオス】


 今も王国時の尊称が付けられた其処は……東京よりは小さいとしても大陸中央諸国で最も南部とのアクセスに恵まれた物流の要衝。


 帝国が魔王の軍門に下って尚、彼らは大陸南部との商業圏へのアクセスを手放す事は無かった。


「七教会は見逃すはずがない事態がどうして見逃されたのか?」


「見逃された……?」


「いいえ、言い換えましょうか。見逃されたんじゃない。見逃すしかなかった、が正しいのかしら」


「どういう……」


「新聞でやっていたでしょう。七聖女様達は多くが行方不明。そう帝国は宣伝していた」


「七聖女が行方不明だから、見逃された? 意味不明です!! だって、彼らは七聖女の力が無くても世界最強の―――」


「そう、世界最強の軍隊よ。それは七聖女がいなくても変わらない。ご自慢の鎧を100機も使えば、神すら殺せる真の神殺し……」


「なら、そんな彼らが何に怯えるって言うんですか!!?」


「ふぅ……(;´Д`)」

「何ですか!? その顔は!?」


「鈍いのね。七教会はあの大災害でズタボロ。大陸中央諸国最大の要衝であった七教会本部直上の文化の中心地たるアルヴィッツは壊滅し、分裂も目前とすら言われていた。巨大な堕天使達の力を借りて魔王の帝国に同調する国家を何とか抑え付けていたけれど、地方の殆どが七教会の影響力下ではあっても、火種は燃え上がり易い形で燻っていた」


「対処する余力が無かったと?」


「対処する余力は合ったわよ。確実にね。それが本当にただの帝国へ尻尾を振った元王国の王族派が企てた程度の王政復古計画だったならば、ね」


「あの計画は私も聞かされていました!!」


「そうね。表向き、貴女は計画を知っていた。いや、教え込まれていた」


「核心を言って下さい!! さっきから一体、何を言いたいんですか!?」


「……恐らく全てダミーだったのでしょう」


「ダミー? あの計画が他の何らかの計画を隠す為のものだったって言うんですか?!」


「ええ、そうよ。七教会はだから手を出せなかった。世界の均衡を覆してしまう程の……それこそ七教会の主敵たる魔王や聖王同盟サクラム・フェデレイションズ並みの危険を指を咥えて見ているしかなかった。手を出した瞬間に自分達の手に余る事態になる可能性があったから。しかも、大陸中央諸国の交通アクセスの要衝よ? 噂されていた《《大戦》》の引き金にすら成り得る」


「そんな……確かにウチは魔王の家系かもしれませんけど、あの頃の私なんて何の障害にもならなかったでしょう!?」


「貴女はそうよ。でも、私は違った。いえ、私達がと言うべきなのか。リスティア……ガリオスに封印されていた私達のご先祖様。天使の封印関連……堕天使達の復活……ならば……あの時、もう封印は開かれていた」


 ブツブツと呟き。

 羊の少女は瞳を細める。


「ねぇ。ヒューリア。どうして貴女なの?」


「な、何がですか!?」


 訊ねられた少女は困惑を通り越して怒りにも似たものを目の前の自分に感じていた。


「もし、私の推測が正しければ……貴女が全ての元凶……そう、この世界の事も、ガリオスの事も……でも、それが運命という奴なのでしょうね。頚城としての貴女の……」


「頚城? 私が……ッ」


 少女の脳裏に老人との会話が響く。

 そう、魔王と呼ばれた男は彼女が中心だと言っていた。


「私は貴方よ。けれど、生まれて来なかった貴女……そして、リスティアが《《私達の前》》だとするならば、辻褄は合う。お母様は私達を救えたから微笑んでいた。あの男はお母様を犠牲にせざるを得なかったから悲しんでいた。お父様はきっと何も知らされていなかったのよ。私達と同じ……王家の本当の目的を知らず……悲劇を演じ、この世界で幸せに生きて死んだ」


「どういうッ、どういう事ですか!?」

「後は自分で考えなさい。不出来な妹……」


「―――貴女が私の姉だって言うんですか?!! 自分で矛盾した事を言わないで下さい!?」


「ふふ、考えなさいな。そして、御爺様に会いなさい。きっと、あの人が全てを知っている……何がどうなって、この世界がこんな風になったのかは知らないけれど、お母様が死んだ理由は答えてくれるはずよ。生きていれば、ね。そして……」


 羊が再び体を丸めてゆく。


「あの子達の笑顔を忘れないで。今まで出会って来た人達の幸せそうな顔を。貴女が何であろうと……彼はきっと何も変わらない……それが死なのだから……」


 カチリと部屋の明かりをスイッチで落としたかのように暗闇が広がる。


 目を開ければ、少女は自分の想い人が部屋の寝台の下から覗き込んでいるを発見し、すぐ横の壁のディスプレイが6時40分であると知る。


「ヒューリさん。朝ですよ?」

「ベルさん?」

「あ……ヒューリさん!! 今、鏡を!!」

「え? え? そ、そんなに酷いですか?! 寝起きの私?!!」

「い、いえ、可愛いですけど。そうじゃなくて!?」

「か、可愛い!? ほ、褒め過ぎですよ朝から!?」

「あの、取り敢えず落ち着いて鏡を……」

「は、はい(≧▽≦)」


 少年が術式で虚空に光の屈折で鏡を形成する。


 そうして、少女は自分の姿が元に戻っているを確認し、目を丸くした。


「わ、私です!! よ、ようやく戻りましたよ!!?」


「はい。良かったですね。きっと、能力に体が馴染んだからじゃないかと。今日は精密検査しましょう。業務は後からでいいので。電池係も卒業という事で」


「そ、卒業出来るものだったんですね。アレ」


「ま、まぁ、リスティさんは引き続きなので」

「………」

「あの、どうかしましたか?」


 ヒューリが黒武の二段ベッドの上から降りて、スーツ姿のままに少年を抱き締める。


「……ヒューリさん?」


 恐々としながらもヒューリの背中に手を回して背中を摩る少年はしばらくそうしていた。


「私、姉が出来て、過去に色々と疑惑が出来ちゃったみたいです」


「???」

「……後でシャワー浴びたらお話します」

「はい」


 そっと離れて手の甲で両目の端を拭う少女は伸びをしてから少年に微笑むのだった。


 *


 数十分後。


 今日も集まった三姉妹にリスティアとシュルティがヒューリの話に何やら瞳をウルウルさせていた。


「うぅうぅ、そ、そんな事が……ヒューリさん辛かったんですね?」


「む、むぅ。ワシもお母様とはアレっきりじゃからな。ちょっと貰い泣きじゃ」


「で、でも、私なんかに話して良かったんですか? ヒューリさん」


 シュルティにヒューリが頷く。


「もうシュルティさんも立派な仲間ですから」

「あ、ありがとうございます!?」


 こうして食事後のお茶の時間。


 諸々の報告を終えたヒューリはすっきりした気分で夢の話を考えられるようになっていた。


「ブラック・ヒューリさんの姿が死んだお姉さんのもの。ヒューリさんが妹。けれど、生まれて来られなかった。それでリスティアさんが前任者? そして、ヒューリさんのお母さんとお爺さんだけが知っている王家の秘密……七教会が手を出せない程の……成程」


 少年が何となく何があったのか理解出来るような気がした。


「ベル。やっぱり名探偵なの? あたしはさっぱりなんだけど。お姉様も分からないわよね?」


「え、ええ、さすがに……リスティアさんは?」

「生まれて来なかった姉の下りが何となく解る」

「分かるんですか!?」


 思わずヒューリが目を丸くした。


「魔術師になると色々と普通は使わない知識が増えるからのう。ベル……考えている事が同じならそちらから言ってみてくれるか?」


「はい」


 少年がお茶を啜った後、ゆっくりとヒューリを見つめる。


「恐らくですが、ヒューリさんは一卵性の双子もしく一卵性の疑似的な双子なんじゃないかと」


「双子、ですか」


「僕も魔族関係の情報はそう多くないので断言出来ないんですが、魔術の世界だと1人の人間を色々な事情から二人にする魔術というのがあったりします」


「1人を2人。それって……胎児の時にですか?」


「はい。そういう症例自体はあるんです。双子が欲しくて受精着床後の受精卵に干渉して双子や三つ子、更に増やしたり出来る魔術はあります。また、特別な種族や血統的能力で双子になったり、疑似的に双子のような状態で生まれて来る事がある」


「ワシも同じことを考えておった。ワシらは魔王の血統。しかし、血は薄まっておる。もし、肉体が人間で莫大な魔力の発生に耐え切れんというのを本能で感じて分裂したような場合……恐らくは普通の双子のように半分に力を分けて生まれて来るか。あるいはそれすら不可能で肉体と魂が分離した状態で肉体が育つまで出産を避けるというような事は……まぁ、高位魔族ならありそう。いや、やりそうな気がするのう」


「ですかね」

「つ、つまり?」


「ヒューリさんの魂というか。莫大な魔力を発生させる方の力の源はお母さんの中に。そして、肉体は普通に生まれて来る。という状況は有り得ます」


「つまり、あの姿をして喋ってたのは私の本来の魂?」


「あ、いえ、偽物とか本物とかじゃないんですよ。特に胎児の頃は魂の人格的な部分の形成は大抵未形成です。転生する魂の大半が記憶を引き継がないのと同じ。胎児は魂の原初の形であって、人格も同様です」


「アレも私って事ですか?」


 少年がヒューリの言葉に頷く。


「まぁ、その高位魔族は魂からでも再生しますから、ヒューリさんとは同じ血を分けた別人……という形で蘇ってもおかしくありません。でも、ヒューリさんの中にいるという事は同化しているという事です」


「それが魔力の高ぶりで表出したんじゃろうな」

「たぶん……」


 リスティアがヒューリをマジマジと見る。


「とても珍しい症例じゃな。だが、母親がお主らを救ったという話からして、言い難いのじゃが……」


 僅かにその場で一番年上の少女が眉根を寄せた。


「お母さんは私達が一つになる為に死んだ、とか。そういう話ですか?」


「ど、どういう事!?」


 悠音がヒューリの言葉に少年とリスティアを見る。


「一度分離した魂と肉体を元に戻すというのは常識的にはかなり難しいんですよ。そこにもう魂がある場合は更に難しいですし、魂が入っていた器……この場合はヒューリさんのお母さんがどうやって二人を救って一つにしたのか、と考えると……」


 少年が瞳を落とす。


「お母様は私とその子を一つにして救う為に器であった自分を壊す必要があった。あるいは……」


「はい。殺してもらう必要があった。そう推定した場合、殺した人間がグルだった可能性があります」


「ッ―――そ、それって」


 悠音が息を呑み。

 明日輝もシュルティもその結論に押し黙る。


「で、でも、アレじゃよ? 自殺とは言えんじゃろ。娘達を救う為に命を投げ出したのならば、それは決して―――」


「解ってます。もしそうなら、私は前と同じく。いえ、もっとお母様に感謝しなきゃならないんですよね。だって、もう1人命を賭して救っていたって事なんですから」


 フォローしようとしていたリスティアがヒューリの言葉に目の前の少女の強さが危うくも何処か羨ましく映った。


「もしも撃たれる事が団長とヒューリのお母さんの間で決められていたとするならば、団長も何か王家の秘密を知っていた1人なのかもしれません。そして、ヒューリさんが語った状況でお母様を撃った真相を言わず。表側の事情だけでヒューリさんを騎士団に受け入れたというのなら……」


「あの人は確かに母を殺しました。それは変わりません。でも……」


 ヒューリが自分を落ちつけるように紅茶を一口する。


「お母様との間に何か約定のようなものを交わしていたとしてもおかしくありません。知り合いだったから、頼んだという線も有り得ます。ですよね?」


「ええ」


 少年が頷く。


「王家の秘密や世を揺るがす陰謀のようなものの中でお二人を救う為に……そう言われたら、僕は嘘だとは思えません。団長は確かに多くの人に好かれるような人徳者でしたから……」


「ヒューリお姉ちゃん大丈夫?」

「姉さん……」


 複雑そうな表情の姉に姉妹がどちらも心配そうな顔を向ける。


「大丈夫、とは言えないかもしれません。でも、前を向いて歩いて探し当てなきゃ何も分からないままです。まだ、色々と腑に落ちない事は沢山あります。けれど、だからこそ、真実を見付けるまでは止まれません」


 二人がその姉の決意に頷いて手を左右から握る。


 それにシュルティは良かったね良かったねと涙をボタボタさせ、ハンカチ片手であった。


「あ~~やめやめ。こういう空気苦手じゃ。それにワシも何か一枚噛んどるようじゃが、さすがに魂魄レベルで欠片なワシでは思い出すのは不可能かもしれん。あまり期待してくれると残念な事になるかもしれんから最初に言うておくが、ワシぶっちゃけリスティアではあるが、お前さんらが知っとる大人とは別物と考えておいてくれると助かる」


 リスティアは湿っぽい空気に耐えられなくなったらしく。

 ふぅと汗を掻いた様子で手を自分の顔にパタパタとさせた。


「解ってます。リスティアさんにはもう命を賭して助けて頂きました。ですから、これ以上そういう方面で迷惑は掛けませんから」


「う、うむ。だが、仲間としては頼ってくれてよいぞ? ワシもアレじゃからな。お前さんらと境遇は一緒じゃ。家族あるいは親戚のお姉さんと思ってくれるくらいが丁度良いんじゃ。うむうむ」


「……リスティアって妹じゃないけど、お姉さんて感じでもない気がするわ」


「なぬ?!」


 悠音がサラリと正論を吐いた。


「ですね。リスティアさんは……そうですね。親戚のヤンチャな子? 的な感じかもしれません」


 明日輝が的確な結論を導く。


「う、うぬぅ……(|ω|)」


「取り敢えず、この話は皆さんの胸の中にしまっておいて下さい。クローディオさんやフィー隊長、ハルティーナさんには一応僕の方から伝えておきます。今後のガリオス探索では諸々の状況に出会う可能性がありますので。陰陽自衛隊の方に伝えるかどうかはヒューリさん次第という事で」


 ヒューリも含めて全員が頷く。


「さてと。では、お茶も頂いたし、本日の業務と行くか。で、今日もワシは電池職人か?」


「ねぇ、ベル。今日はヒューリお姉ちゃんと一緒のお仕事しちゃダメかな?」


「そうですね。ちょっと妹として不安になったので。傍にいてあげるのが出来た妹な気がします」


「そ、それは姉として凄く微妙なんですけど!?」

「わ、私は皆さんや悠音ちゃん達に付いて行きます!!」


 少年が苦笑しながら、今日の予定にどう変更を加えようか。


 そう予定表を脳裏で思い浮かべた時だった。

 九十九のレッドアラートが響く。


 瞬時にシェルター都市全域に緊急非常事態警報が発令され、自動的に結界が各所を多重的に防護して各屋外を封鎖。


 続いて避難民に規定のシェルター隔壁内への誘導が開始された。


 それに即座対応したのはイギリス本土に送られてきた隷下部隊の数百人だ。


 常の訓練の賜物か。

 まだ、朝食が終わって少しという時間帯にも関わらず。


 機敏に対応した全員がすぐにフル装備に着替える為に黒武へと駆け出し、あるいはもうフル装備を整え、黒翔などに跨ってシェルター都市からイギリス本土へと即時発進。


 初動対応に動いた。


 そんな黒武のCPブロックのディスプレイに大量に映像と解析結果が九十九から提示されていく。


 広域に広げられていた飛行ドローンが何かを捉えたのだ。

 そして、その一機が映し出す望遠レンズの先。

 パリの街並みに軒並み瓦解していくのが確認出来た。

 巨大な何かが地震の最中に地下から現れていく。


 その様子を見ていた者達の中でも騎士は誰もが予想だにしていなかったモノの登場に目を見開いて夢か何かかと思っただろう。


「七教会の軍艦?!」


 街を消滅させる一撃を放ち。

 炎の海を進む夢で見た船。


「そんな、あんなのがもしも攻撃してきたら……」


 ヒューリの口から小さな呟きが零されたのだった。


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