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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第128話「世界がもしも亡びるならば」


―――東京都某ゲーム開発企業本社。


「チーフ・プロデューサーの戸枝史郎(とぐさ・しろう)です」


 少年が握手した眼鏡の40代。


 若くしてゲーム開発陣の陣頭指揮を執る水色のワイシャツに少し寝不足そうな中肉中背の男は柔和な笑みで少年と明神をオフィスの一角で迎えていた。


「それで今日は是非、私にという事でしたが、どのような御用件で? 先日、社の上層部との間に話しが付いたとの事は聞いておりますが」


「はい。その結果として戸枝さんのゲーム開発陣への出向を要請したく思い此処に……」


「出向、ですか?」


「現在、善導騎士団及び陰陽自は貴方のような優秀なゲーム・デザイナーとスタッフを集めている最中なんです」


「……どういう事でしょう?」


「今、皆さんが開発中のゲームに関して開発延期が決まりました」


「―――つまり、我々が開発しているゲームを途中で放り出して、そちらで働いて欲しい、と」


 さすがに男の瞳の目が細まる。


「誤解を恐れずに言えば、これは純粋にチームの買い上げに等しい行為です。ですが、ゲーム開発の現在のスピードから言って、現在開発中のゲームを一端棚上げして頂くことが避けられない事になった。という話であって……こちらでの仕事の終了と同時に本社へと戻って頂ける事はお約束します」


「……我々に何を開発させるおつもりですか?」

「軍用のMU人材の選抜システムです」


「―――それは噂になっている変異覚醒者、魔法を使える人々の?」


「はい。怪異。覚醒者。そう呼ばれる人達の資質を逸早く子供の頃から見る為のシステム開発にゲーム・クリエイターのお力をお貸し願えればと思いまして」


「断る。と言ったら、会社を辞めざるを得ないのでしょうね」


「いえ、断って頂いても構いません。ただし、話を最後まで聞いて頂きたいです」


 少年はニコニコだ。


 その相手への不信感を瞳の中に宿しながらも全体的には真面目な表情を崩さないまま、戸枝が相手を見つめる。


「まず、前提条件として開発陣そのものに僕のポケット・マネーから現在開発進行中のゲームに関して開発費の8倍程の金額を投資させて頂きます」


「ッ、結構な額だと思いますが……」

「いえいえ、戦闘機3機分くらいですから」


 さすがに戸枝の顔色が悪くなった。

 ゲーム開発には金が掛かる。

 それがハードのレベルが上がる毎に高くなっていく。


 開発費が嵩んで開発中止という事もあるし、未完成のものを売り出し、アップデートを重ねていくのが現在はゲーム開発の主流となっている。


 コンシューマーでの新ゲームハードのソフト開発には技術力も資金力も開発用の機器の導入も必要である為、かなりハードルが高い。


 そのせいでソーシャルゲームに流れたゲーム開発会社は数多い。


「皆さんにはちょっと短期間のバイトをして欲しいだけなんですよ。どちらにしても開発期間2年以内。最初のリリースは3か月後です」


「馬鹿な?! 不可能で―――」


 少年がその言葉を片手で制した。


「可能にする為の方法をご用意しました。開発用の機材と環境も。それを使う為の基礎的な知識は覚える必要無く。魔法で皆さんの頭に直接入れます。あ、無害ですから気にしないで下さい。勿論、開発費は全てこちらで持ちます。必要なものは全て揃えます」


「―――デタラメですね」

「でも、これくらいしないと時間が無いんです」

「時間?」


「人類滅亡のカウントダウンはそう遠くないでしょう。僕らにも貴方達にも人類にも時間は有限です」


「ならば……だからこそ、私は……」


 戸枝が戦いの前線にいる善導騎士団からの言葉に今人類が瀬戸際にいる事を、肌では感じていた事を言葉にされて……僅かに苦悩の表情となる。


「貴方達はもっと作りたいゲームがあるはずです。もっと、子供にも大人にも愉しんで欲しい遊びがあるはずです。それを少しだけ我慢して、この世界が生き残る為に必要なシステムの開発に協力して欲しいんです」


「その代価が投資ですか?」

「勿論。前払いですよ」


「……軍用のMU人材の選抜システムと言っていましたが、具体的にどういうものなのですか? もし、それが子供達を戦場に送るものなら……」


「軍用と言いましたが、どちらにしても民間で使う代物です。戦場に彼らが向かう一因にはなるかもしれませんが、送る為のものじゃない。そもそもの問題として時間が無い中で子供達に戦う術を教えられていないのが最も現状での生存率を下げます」


「それはどういう?」

「政府が総力戦体制の法案審議を始めました」

「ッ」


「少なからず。大人も子供も等しく軍事訓練が課される可能性があります」


「そんな―――ッ、何の為に自衛隊があると思ってるんですか!?」


 戸枝が思わず叫んだ。


「でも、今のようなゾンビによる市街地占拠などの状況がもしも東京や関西。大都市圏で多発したらどうしますか?」


「なッ?!」


「それに事実上の生き残りを賭けた戦いは既に始まっています。でも、資質の無い人間まで徴兵したりするのは非合理ですし、時間稼ぎにしても悪手でしょう。そもそもの話として深刻化するゾンビ・テロや覚醒者や変異者への対応でも後手後手に回った結果、大勢死なせてしまいました」


「……だから、初期対応の為に選抜するシステムを作ると?」


「無論、無理やり戦わせたりはしません。現在の与党内でも戦える人間は必ず戦える力を備えておく事を主軸に法案が審議されています。つまり、戦う力を備えさせるのは義務になりますが、自衛隊や我々善導騎士団に参加しなければ、ゾンビ・テロや覚醒者の犯罪などに巻き込まれない限り、彼らは戦闘の矢面に立つ事は無いでしょう」


「後方にいる子供達に戦う力を……そういう事ですか?」


「戦えずに死んでいった子供も大人も沢山いました。北海道での死因の殆どは軍事教練さえ受けていれば、生存率が高い事案ばかりでした。いえ、もっと単純に戦える人間が傍にいて、誰かが人々を誘導したり、指揮したり、アドバイスを与えるだけでも随分と違ったはずです」


「………」


「基本的に米国では現在、軍事教練が一定年齢から義務化されています。それでも大勢が犠牲になりましたが、日本人の割合が少なかったのは単純に住んでいた数が少なかったから、比率の問題です。ですが、その点で言うと日本人の助かる割合は同じ状況下でも米国人に劣ります。備えていないのだから、当たり前の事でしょう」


「ッ……」


「システムの開発終了後。選抜された若年層には資質の詳しいところを全て伝えます。同時に戦える力を備えさせる事になるでしょう。本人が拒否する事も出来ますが、備える事を選んだならば、国からの手厚い補助も出ます」


「餌で釣って子供を戦場に引き摺り出す気ですか?」


「逆です。最初から襲われるのならば、少しでも生存率の高い人員の生存を後方で確保するのが目的です」


「―――それはッ!?」


 他の生存率が低い子供との落差が激しくなるのは当然。


 だが、その後方が全滅するよりは生き残る者が多い方がいいのも自明。


 正しく、止める理由の無い事なのは明白だった。


「では、他の子供達にも一律に軍事教練を施すべきでしょうか? 無論、程度によっては選択肢として必要でしょう。避難訓練と同じように対ゾンビの訓練はやっておくべきなのは確実です。ですが、本来戦えたはずの人間が戦えずに誰もが死んでいくのと。戦って生き残り、その周囲で僅かなりともまた誰かが生きているの。どちらが良いでしょうか?」


「……善導騎士団は無能だと仰るか?」

「はい。我々は神じゃありませんから」


 少年は今の世界ですら、過剰戦力と呼べるだろう兵隊を作っておいて、シレッと《《それでは足りない》》と宣った。


「そう言われてしまっては……ゾンビを駆逐出来なかった今の世代の大人はそれよりも無能という事だ……悔しい事に……」


 辛辣な物言いを応酬していながらも、戸枝は己の胸を自らで穿ったように顔を歪める。


「戸枝さん。我々は何も戦う事が悪い事だとは思いません。誰かを傷付けられる力は誰でも持っている。包丁一つ。ナイフ一つ。手に入らない時代でもないでしょう。なら、問題なのはそれを扱う人の心です」


「人の心……」


 顔を上げた男に、この時代に娯楽を創る者の苦悩を前に、少年は静かに語る。


「人を殺せる兵器があるから、人は人を殺します。それが容易な故に。ですが、それと同じように人を護る兵器があるなら、人は人を護れるんですよ」


「そんな簡単なものじゃないでしょう……」


「でも、それが皆さんの国の自衛隊でしょう? そして、これから多くの子供達がMU人材として世の中に生を受けた時、己の力を否定せずに済むとしたら……それはそういう環境を作り出す人達の努力にしか、情熱にしか期待出来ない、到達する事の無い未来でしょう」


「我々に環境を作れと? 子供達に戦う力を備えさせる為に?」


「それを使うのは子供達次第。それを導くのは教師や両親みたいな人だけじゃない。愉しいものを作り、感動出来るものを作り、人の心を真に動かせるものを作る人達。僕はその担い手としてゲーム・クリエイターと呼ばれる貴方達をその一員として認めます」


 始めて男が少年を真っすぐに見た気がした。


「子供達が遊び易く。また、学び易く。熱中出来て、感動し、心の底から憧れられるようなものを僕は自分で作り出す術を知りません。でも、貴方ならば出来る。そのくらいは貴方のゲームをちょっとクリアした僕にも分かります」


「……何をクリアしたのか聞いても?」


「三作くらいまえのRPGを。ゲームって凄いですよね。色々な種類があって。システムはあらゆるゲームを用いて計測を行う仕様とする予定です。音ゲーでもロボゲーでもRPGでもSRGでも、カードゲームでも何だって可能です」


 少年はそう言って男に書類の束を手渡す。


「安全で対ゾンビ戦でしか使えない後方用の兵器類の試作品の資料です。MU人材のみならず。戦う資質がある誰もが生き残る為に使える力を僕らはこの日本中に整備する計画を立てています。この計画の始動に伴い。やがて、市町村単位ですら防衛用兵器はシェルターなどに配備される事となるでしょう。これはもう決定事項でもあります」


「我々に選択肢など最初から示されていなかったわけか」


 男が唇の端を曲げる。


「ソレを使う事になる誰かの心に貴方が伝えたかったものを伝えてみませんか? 平和への祈り。他者を信じる事の重要さ。共に仲間と笑い合える日々が如何に大切であるかを」


「………」


「全ては貴方次第です。開発初日は3日後。社の上層部には《《貴方達》》がどちらを選んだとしても決して解雇や不当な扱いをしないように確約させました。よく考えて決めて下さい。もし決めたのならば、陰陽自富士樹海基地の検問所までどうぞ。では、僕はこれで……ぁ」


「?」


「此処のゲームの作品が多数公募されていて、二次創作でも公募対象の総数が多かったので、たぶん何かしらの採用はされると思います。出来れば、資料下さい」


 ニコニコしながら、先程まで真面目だった少年はオフィスを隔てる衝立の先に聞き耳を立てていたスタッフ達の方へそう声を上げた。


「それと現物が出来たらお送りしますね。大きさは違うかもしれませんが、ちゃんと動く仕様ですよ。あ、でも、ちょっと問題があって」


「問題?」


「女の子型の戦うロボットはさすがに細かく作り過ぎると倫理問題とかあるんじゃないかとか上層部から言われちゃって、普通の身体と《《子供を産める機能》》くらいしか実装されないそうなんです」


「は?」


「実装用のボディーは戦闘用にはならない普通の生身系だそうなので。AIが完成したら、お送りしますね。可愛がって上げて下さい」


「あの、その、それは、え、どういう?」


「ちょっと申し訳ない気がします。あ、でも、あの女性型ロボットの最強武装の方は個人的に参考にしましたよ。胸の中央パーツの一部が展開して放たれるのはちょっとカッコイイなって思ったので!!」


 少年はニコニコしながら、あの攻撃方法はいいという話を戸枝に喜々として語るのだった。


 その背後。


 女性陣の一人がイソイソとゲームの資料を集めているのを横目に男性陣は真顔になっていた。


『……(´・ω・)どうやらウチにAI系女子が来るらしい』


『新手のバーチャルアイドルかな?(・ω・)』


『子供が産めるのはバーチャルなんですか先生(;´Д`)』


『オレ、きっとその内に社内婚します(´-ω-`)』


『(´・ω・)ゲーム機と結婚した奴みたいにSNSへ写真上げてリアル嫁だよ(キリ)って自慢すんの?』


『フィギュア出た当時は邪神て言われてたが……(T_T)』


『女神が降臨しそうな予感(´▽`*)』


 ワイワイガヤガヤする男性陣を白い目で見ながら、女性陣はこんなんだから独身玉無し野郎が多いに違いないといつも納期に追われて忘れがちな肌のお手入れをし始めたのだった。


 *


 騎士ベルディクト広報担当になる、の報は善導騎士団内では『あ、また何か始めたの?』くらいの感じでじんわり認知された。


 もはや、少年の事で毎日驚いていたら疲弊してしまう事を覚えた訓練済み騎士及び騎士見習いと隷下部隊の人々には今更ではある。


 『だから。どうした?』と言える胆力が付いたと言えた。


 だが、広報の実験台になってねとか言われて意見を求められるようになった彼らの一部は酷く虚ろな瞳にならざるを得なかった。


 理由は単純だ。


 極一部(部隊の隊長クラス8割が男)に善導騎士団のポスター原案を少年が任せ、その実物を見せられたからである。


 彼らが来た世界。

 その中でも進んでいる大陸中央諸国。


 その一国であったガリオスにおいてはジェンダー的な概念がほぼ無意識下のレベルで刷り込み済みだ。


 誰が良い歳した戦うむさ苦しい男達の上半身裸の汗でテラテラ光った良い笑み全開なポスターをありがたがる者がいるのか。


 大胸筋マニアとか。

 そっち系の方とか。

 兄貴に憧れるボーイとか。

 女性の一部とか。


 もし、ありがたがる者がいるとすれば、“そういうの”くらいだ。


 これはこれで良いものなんだがなぁ。


 そう頓珍漢な様子の騎士達のよく解らんという顔に“こいつらは異星人か”という諦めの境地に達した日本人達は清楚な女性が笑顔で映ってる自衛隊のポスターなどを検索して見せた。


 今度はさわやかなイケメンが歯を煌めかせるポスターの原案が出されたが、それならそもそもこれからアイドル・ユニットとか作るらしいから、そっちに任せりゃいいという結論になる。


 自分達の組織のアピールすら出来ない不器用な騎士達に仕方なく手を差し伸べた日本人達の汗と奮闘は語られるものではないが、最終的に出来たポスターは良い仕上がりと評判。


 そして、被害者となった少女の目を虚ろにする事となった。


「何で私のポスターなんですかぁ~~~!!?」


 バァアアンッッ、と。


 夕方時に東京本部の少年の個室へ殴り込んで来たのはヒューリであった。


「え?」


 少年が企業回りから帰って来た事を知って乗り込んだ彼女が見たのは……少年にベタベタしてアイドル業で造ったらしいポスターとか、写真集を見せていたシュピナの姿。


 少年の横で愉しげにその解説しているという場面。


「………((;´ω`))~|」


 プルプルしたヒューリが無言で拳を振るわせ始めたところで少年はハッとシュピナとの距離の近さが怒りを買ったのだと理解し、ササッと遠ざかって額に汗を浮かべつつ『何か飲みますか?』とか。


 適当な危機回避手段に頼って自滅した。


「ベルさんの馬鹿ぁ!!」


 グシャァッと少年の頬がグーで撃ち抜かれた。


 パタッと倒れた少年をシュピナがソファーの横で慌てて介抱する。


「ベルはん。大丈夫?」

「は……はぃ」


 ムギュッとベルを挟むようにして横に座った少女が少年の前にババンと自分の顔写真が使われ、デカデカと選挙ポスターみたいに名前が書かれたものを見せる。


 スローガンは極めて的を射たものだ。


 『善導騎士団は野菜にも治安維持にも全力です』の文字が躍っている。


「どういう事なのか。二重に説明を求めます!!」

「ぁぅ。は、はひ……」


 少年が何とか立て直して額の汗を拭った。


「ええと、シュピナさんがワタミさんに参考資料を持って行って欲しいと頼まれたらしくて」


「そ、そうなんですか? 参考資料?」


 疑わしそうな少女の瞳はバッチリはんなり着ぐるみ系少女の単独写真集。


 見た目的にもほんわかしそうなオール同じ衣装のソレに目を細めた。


「ほ、他にもありますよ。そうですよね? シュピナさん」


「ウチの以外もあるよ?」


 シュピナが手を翳すとザバァアッと天井から大量に写真集が降ってくる。


 それに埋もれたヒューリがプハッと中から這い出し、ようやく何かに気付いたらしく。


「あ、貴女、あの時の!?」

「ええと、一から説明しますね」


 そうして数分程、少年が包み隠さず。

 何処にでも現れる少女が現在に至る状況を教える。


「………(T_T)」


 無論、ジト目のヒューリが誕生する事になったが。


「転移系の術者なんですね。世界中に神出鬼没……ガリオスの転移に巻き込まれて?」


「御両親がいるそうです」


「そうですか……父のように巻き込まれた人はまだ実は沢山いるのかもしれませんね」


「でも、米国の事もありますから……」

「分かりました。詳しくは聞きません」


 ヒューリがシュピナを見つめる。


「これからもベルさんをよろしくお願いします」

「ベルはん。いつも優しくてウチ好きよ?」

「ッ、ま、まぁ、そういう事もあるでしょう……」


 ピキピキしそうになる自分を何とか抑えてヒューリがハッとしたように再びポスターをベルに突き出す。


「それより、どうして私が善導騎士団のポスターになっちゃってるんですか!?」


「え? あ、あ~~そう言えば、ヒューリア印の野菜がかなり売れてたので。それでだと思います。ヒューリさんの顔のシールが貼ってあるやつ。よく明日輝さんが使ってますよね」


「え?!」


 思わぬ展開に少女が思わずよろめく。


「な、何ですか? わ、私の顔?」

「ええと、これですこれ」


 少年が魔導で虚空に様々な野菜に付けられたヒューリの顔のシールが小さく張られたソレを大量にネットから拾い上げて提示する。


「な、なな、な―――」


 愕然とする少女は茫然自失状態。


 その間にも少女が如何に認知されているのかを少年が喜々として取り上げる。


「『ヒューリア印の野菜は最高だ』『ヒューリア医療部門長は女神』『騎士ヒューリアに介抱された公務員だが、彼女は本当の白衣の天使で女神だ』『ヒューリアお姉ちゃんを目指して騎士団に入った魔法少女12歳です』『ヒューリア=サンに踏まれたいPart238』『噂のヒューリアスレはここでつか?』『ヒューリアの魅力を語る会オフ会開催』『公務員も絶賛ヒューリア嬢の魅力に迫る』『一部では騎士団内でお姫様と呼ばれているらしい』『姫活してないのに(ガチ)のお手本みたいな女の子すごひ』『妹がいるとかいないとか』『ヒューリア姉妹をめでる為に顔写真を募集中』『ヒューリアラブ』……愛されてま―――」


 今度は少年の顔が横に伸びた。


「どぉおおおして!? こうなったんですかぁあぁあぁあ!!?」


「ひゃめふぇくらふぁい!? ひゃめぇ?!」


 ぐにーんと少年の頬を伸ばした少女が落ち着くまでに少年の頬は赤くなった。


「はぁはぁはぁ……肖像権の侵害で訴えちゃいますよ!?」


「は、はぁ……ダメでしょうか?」


「ダメに決まってるじゃないですか!? わ、私はこうストイックに女騎士的な生き方をする為に騎士団に入ったのであって、野菜のシールになったりするのは絶対間違ってます!?」


「分かりました。じゃあ、後で農業部門の方にヒューリアさんのシールの使用を止められるか聞いてみますね」


「是非、そうして下さい!! もう!! どうして誰も教えてくれなかったんですか!?」


 少年が北米では野菜どころか。


 あらゆる善導騎士団製の商品にヒューリア・マークが使われている事はしばらく黙っておこうと固く誓うのだった。


「ポスターは拒否です!! 使うなら、もっと偉い人にして下さい!! フィーとかクローディオさんとか!! 副団長でも構いません!!」


「は、はい。後で打診しておきます」


 一通り、少女からのクレームを聞いた少年に膠着したとはいえ、騎士団の団員が西日本各地で包囲戦を展開している傍ら、諸々の業務が降り掛かっている少女は多忙らしく。


 午後7時半には緋祝邸で食事だと言い置いて凄く複雑そうな顔で横のシュピナを見てから、仕方なく名残惜しそうな様子で部屋から撤退していった。


「ええと、纏めた意見は全部明日にはメールで送るとワタミさんに伝えて下さい」


「はいな♪」


「じゃあ、今日は解散にしましょう。シュピナさん。また、忙しくなっちゃうんですけど、今度新しい服をお送りしますから。楽しみにしてて下さい」


「新しい?」


「はい。ワタミさんからシュピナさんが新しい服を着たがらなくて困ってると伺いましたし、約束でしたから」


「うん。待っとるよ?」

「はい」


 こうしてシュピナとの交流を深めつつ、少年の広報業務は続くのだった。


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