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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第111話「次なる戦地」


 陰陽自衛隊に対する日本政府からの即応命令が下ったのは翌日午前4時過ぎ頃。


 緊急事態で次々に本州最北端の大湊や陸奥湾には兵員輸送用の揚陸艦が大量に集まって来ていた。


『物資の輸送はぁ!!』


『空自が三沢と合同で即座、十勝までは送るそうです!!』


『艦隊一つが寝返るとか……明らかに魔術の仕業だな……』


『愚痴っても仕方ありません。米国政府は日本政府に誠に遺憾だとしながらも、もしもの時は地域のパージを約束したようですし、陸自も国民があの地域に取り残されている以上、座して見守る事も無理でしょう』


『もしもの時は道県からの避難と隔離後に核か大量破壊兵器の集中投入になるか……』


『そっちは米国の武闘派議員が推進してますが、日本と超党派が押し留めたそうですよ。まだ、早いと』


『お前ぇ、何処から聞いた?』

『ウチの叔父さん。米国務省の次官補と親しくて……』


 ゾンビ制圧の為の即時対応プランは日米合同での共同戦線を可能にしているが、米陸軍の殆どは道県に集中していた為、北方諸島を睨む米海軍の艦隊が海上警備隊毎丸々寝返ったという報を除けば、まだ極論、致命的では無かった。


『核テロの次は軍の寝返り……魔術、変異覚醒者ってのに限界はねぇのかもなぁ』


『連中が給料の安さに泣いて上司に盾突いたかハンガーストライキでもしたって言うなら、良かったんですがね』


『生憎と米軍の団結は前よりも上だ。それこそ兵員が国民の10分の1以上になる程な』


『あ、揚陸艇が来ましたね。今、米海軍が身体検査中でマヒ状態。海自と民間船のフェリーを徴用って形ですが……海底トンネルは新幹線とコンテナで同県民をピストン輸送中……兵員の完全展開が十勝で完了するのは5日後だそうです』


『遅過ぎる……連中、もう海岸沿いから各都市部に浸透してるんだぞ。ゾンビ確認の第一報時点で恐らく諸島と本島に近い地域の半径30kmが呑まれた。シェルターにどれだけ逃げられたか……』


『誰も北方諸島と海を隔てる米海軍が寝返るなんて思ってませんでしたし、更にゾンビを北方諸島から輸送して誰かが揚陸戦力にしました、なんて絶対想定外ですよ?』


『想定外があっちゃならないんだがな、本来……どうなるにしろ。陰陽自もまだ出来立てホヤホヤだ。組織全体での対応は不可能だろうな』


『そうですか? この間から色々と活動してるのは聞こえてきますが』


『新しい兵科どころか新しい戦闘集団だぞ? 新たな領域における統合軍。宇宙軍創設や電子空間での電子戦部隊の創設と然して変わらん』


『では、いつも通り?』


『ああ、善導騎士団におんぶにだっこって話は聞こえて来てる。今回も政府は騎士団に頼み込むだろうよ。陰陽自は恐らく出してきたとしても、少人数編成の装甲戦力くらいだろう。機動部隊は先日活躍してたようだし、数十から二百程度のアレが出て来るんじゃないか』


『ですかねぇ……』


『それにしてもあの核テロの時と同じようにまたゾンビ……一体今回の事件の首謀者はどんな意図があるんだ……』


『そういうのは上に考えて貰いましょう。それに噂の騎兵隊はどうやら素早いようですよ』


『何? な―――アレはシエラ・ファウスト号か!?』


 大湊上空。


 巨大な影が差し掛かり、自衛隊も米軍も揚陸戦力として集められた部隊の多くが次々に作業を停止して、その威容を空に仰ぎ見た。


 巨大な鯨から大きな正方形の何かが基地の中央へと複数個落ちて来たかと思うと。


 フワリと常識的に在り得ない様子でゆっくりコンクリートの上へ着地する。


 次々に海自の佐官級の者達が連絡があったとやって来て、その着地した大きなコンテナの開閉ハッチの一部で指紋認証を行う。


 すると、ソレがゆっくりと開いた。

 内部に電源が入った様子でバババッと壁際の電灯が点き。

 その内側が露わとなる。


 ソレは……大量のカラフルな重火器と奥に壁の如く詰まったM電池とMHペンダント、更にペンダント型の複数の魔術具の山だった。


『地方部隊へのお裾分けだそうだ。補給部隊!!』

『ただちに運び出せ!! 時間は待っちゃくれないぞ!!』


『関東圏内で使われていた装備一式1師団分だとの事だ。先鋒となる陸自の部隊へ優先的に分配しろ!! 弾は通常弾でもいいと司令部に伝達があった!! 作業に掛かれぇ!!』


 箱が開けられたのを確認後、巨大な船影が悠々と速度を増しながら道県へと向かって消えていく。


 明け方の薄ら暈けた水平線の最中。

 吹く潮風は僅かに肌寒く。


 しかし、すぐに熱されていくだろうことを予期させるかのように日差しは熱く。


 高く高く。

 真夏も過ぎた黎明の空を鯨が進む。

 世界に吹き荒ぶ破壊の嵐を前にその最先端を。


 沈まぬ月が今朝の輝きに陰る時にはもうその姿は本州の空には見えなくなっていた。


 *


―――夢の日差し。

―――世界の彼方に落ちて落ちて。

―――夜が来る。

―――夜が来る。

―――ああ、世界に落ちる夜の彼方へ。


「異相領域は砕けておりますか? ヴァネット」

「はい。我が主」


 何処かで響いた歌。

 しかし、既存の地球上の言語ではない。

 ソレはまるで呟くような、ひそめいたものだった。


「よろしい。では、北方諸島政府を傀儡として人類絶滅を前に少し戯れてみるとしましょうか。彼の国がもしも未だに秘匿しているのならば、必ず出してくるでしょう。喉元に突き付けられた刃を前に……」


「済みません。事を起こす前にストリヴォーグを失うという失態……申し開きのしようも……」


「良いのです。貴方が無事ならば……アレもまた舞台装置に過ぎぬのですから」


「ああ……ああ!! 我が主!! そのお言葉だけで報われます!! 貴女の計画に偉大なる始祖達の加護と永久の栄光が輝きますように!!」


「ふふ、ありがとう。では、大事のその前に一仕事してくれるかしら?」


 夜が支配する空間。

 世界の頂き。

 空の上。


 一つの島を見るように俯瞰して、聲の主は微かな歌に耳を傾けながら、主命を響かせる。


「あの鯨を落と留めて来て頂戴な」


 広大な平野の空を北に泳ぎ横断する鯨が一匹。


「未だ力の顕現はならず。なればこそ、時を稼ぐのです。あの男に頚城製造の下準備を任せてみましたが、やはり役不足でした。である以上、月を陰らせられるのはお前だけよ。ヴァネット」


「はいッ!! すぐ様に吉報をお持ち出来るよう鋭意尽くします!!」


「では、疾くおゆきなさい。屍兵一個連隊とスヴァローグを貸し与えます」


「必ずや!!」


 小さな輝きがその場から消えて、星々の光の内から1つが途絶える。


「……始原の大陸よりの来訪者……来るべき日……全て、あの石碑に書かれていた通り、ですか……もはや猶予はない。騎士達の跳梁をこのまま許しておけば、我々は……」


 小さな螺旋階段の途中に腰掛けて。


 その世界の主は黄金の轍が刻まれるように虚空を奔る糸を見る。


「魔族達が気付いていないはずは無い。とすれば、彼らにもまた対抗手段が……急がねばなりませんね……あの大陸の者達の跳梁をもはや許しはしない……我らが力を以て全てを撥ね退けて見せましょう」


 運命が束ねられていく。


 世界を渡る程に巨大な巨大な因果律の具現の下。


 星繋ぐ綱の下。

 声の主は焦っていた。

 だから、見逃したのだろう。

 一際輝く綱の中の一筋を……。

 蒼き星の上。

 屍は蠢き始めていた。


 *


―――シエラ・ファウスト号応接室。


 外の状況は今現在、シエラ・ファウスト号内の何処からでも専用の術式を持ち歩いていれば、直接壁に投影して見られるという便利機能が追加されている。


 八木などの要望でCICに居なければ、まるで情報が分からないのは不便というのにベルが対応した結果である。


 陰陽自研で開発された情報機器や観測機器が積まれた艦は今や空に浮かぶ高度な情報を収集する人工衛星よりも便利な動く移動観測所でもある。


 なので、応接室内がどのような状況でも彼らは全天投影された地表の状況などを見つつ、朝方のお茶と洒落込む時間があった。


 現在、八木はCICで通常通りに艦を運行している。


 地表300mと低高度であったが、速度は折り紙付きであり、目的地である道県最北端までほぼ数分というところまで来ていた。


「この国の菓子やお茶は洗練されとるのう(*|ω|*)」


 リスティアは東京製の苺大福をモキュモキュしながら、朝のお茶を嗜んでいる。


「本当に来て良かったんですか? リスティさん」


「うむ。この艦をとにかく掌握する為、色々弄ったのはこちらじゃ。今になってみれば、何をどう弄ったのか分からん。相当、混乱してたからのう。ワシがいなければ、動かせんというのでは仕方あるまい」


 壁一面に空が見える室内。


 ソファーの上で着ぐるみ系三毛猫パジャマ姿な彼女は罰の悪そうな顔をする。


 そう、彼女がシエラ・ファウスト号に乗っているのは目覚めた当初に無我夢中で艦内の機能を掌握しようと自分の持てる知識と魔術で弄ったからだ。


 自分で直すには数週間以上掛かると説明されては少年にも手が出せなかった。


 敵の船を乗っ取るのにセーフティーとして封印や罠が山盛りにされたらしく。


 彼女が乗っていないまま運航すると……一歩間違えば、艦の内装がお釈迦になるとの事である。


 直接掌握で当人が認証している時しか動かせないという話の後。


 少年が別の手段で移動するかどうか考えていたところに彼女が不可抗力とはいえ、自分の責任なのだからと作戦に帯同する事を願い出た。


 彼女にしてみれば、それは極自然な話であった。


「それにしても本当に異世界なんじゃなぁ。海を見たのは初めてじゃ」


「そうですか。この世界は大陸が幾つも有りますし、時間が出来たら海に行ってみるのもいいかもしれませんね」


「……ベルよ」

「何ですか?」

「お主。怖くないのか?」

「?」


「そんな、何が怖いんだ、という顔をしおって……そちは戦場に向かっているのだろう?」


「はい。そうですけど」


「なら、もっと支度したり、心を整えずに良いのかや?」


「心配させちゃいましたか? でも、大丈夫ですよ。毎日毎日準備して来ました。もし、それでも足りなかったなら、僕が甘かったと後悔するだけです」


「後悔せぬとは言わぬのか……」


「だって、僕以外の仲間の誰かが傷付いたら、絶対そう思います……」


「その自信は少し羨ましく思うかもしれんな」


「自信なんて、そんな……大そうなものじゃないんです。僕は知ってるだけですから……」


「知ってるだけ?」


「ええ、僕は皆さんの事を知っています。僕はこの場所に送り出してくれた人達の努力を、この艦に積まれた大勢の人達の情熱と仕事の結晶の事を知っています」


「……そうか。そちは信じておるのだな。その者達を」


「はい。沢山の人が僕達を支えてくれた。そして、此処にいる。だから、後は信じて戦うだけです」


「ふふ、自分は信じられなくても、誰かは信じられるとは何と天邪鬼な……だが、そちの事がやっぱり羨ましいのう……ワシにはそんな風に思えた者は御爺様しかいなかった」


「お好きなんですね。大公閣下の事が……」


「大人になったワシが……あの卑怯を絵に描いたような老獪なる大公をどう思っていたのかは知らぬ。だが、世界で一番頼りになる人じゃった」


 リスティアが薄っすらとお茶の水面を明け方の水平線からの輝きの中、見つめて……相手の顔を思い浮かべたようだった。


「会いたいですか?」


「……ぁあ、会いたい……だが、会えぬのじゃろう?」


「はい。今はまだ」

「え?」


 思わず上げた顔でリスティアは少年を優し気な笑みを見る。


「リスティア様。大人の貴女が言っていました。どうせ、何処かで生きているはずだと。なら、ぶっ飛ばしに行ってやると」


「ふ、ふふ、御爺様は大人のワシの機嫌を損ねていたようじゃな」


「ええ、そうだったんでしょう。でも、きっとまた出会う気満々だったんです。なら、きっと成算があったんでしょう。僕だって、帰る事を諦めたわけじゃありません。ヒューリさんもフィー隊長もクローディオさんだって、他の騎士団の人達も同じです」


「その船にワシも載せて貰えんか?」

「勿論です!!」


 大きく少年が頷く。


「では、ワシもその代金は払わねばならんか」

「えっと、別に無料ですけど?」


「そうはゆくか。ワシとてアルヴィッツ王家出の意地がある。誰かに恩を売られたら、百倍返しするのが王族というもの」


「そうなんですか?」


「ふふ、御婆様が死ぬ前に言っていただけの戯言じゃ。でも、人に恩を返せもしない、幸せに出来ない者が上に立つ事など……あってはならんと今なら分かる」


「リスティさん……」


「それにいつまでも客人として惰眠を貪っているわけにも行くまい。人に養われて暮らすのは王族の特権じゃが、その人を護るのもまた王族の特権じゃ」


「特権……」


「義務と履き違える輩は多いが、御爺様は言っていた。人を護れるという事は素晴らしい事なのだと。そして、王族とは義務だけで勤まる程甘いものではないと。誰かの幸せを願って護れる事が嬉しい奴でなければ、それこそ……ワシの祖母のような人間でなければ、人々を護り続ける事など出来なかったと……」


「御立派な方達だったんですね」


「ふふ、さてな。色々聞いたが人間味溢れ過ぎじゃったぞ。冒険して戦場に出て、敵を倒して、敵に倒されて、それでも手を握って、誰かを信じて、共に笑って、共に泣いて……誤って、反省して、怒って、泣いて……和解して……そんな英雄譚を……いや、在りし日の日記を聞いてワシは育った」


 リスティアが顔を一撫でした。

 涙はその手に無く。


「善導騎士団と行ったな。そちの所属する場所は」


「はい」


「では、どうじゃろう? 此処は一つ箔を付けるのに一人元王族を雇わんか?」


「―――それは……でも、いいんですか?」


「何、そう大そうな話ではない。拾った小娘が偶々使えそうな奴だったから、そちが好きに使う。たった、それだけの事じゃ。ワシの身柄はそち次第なのじゃから……それにワシはこれでも魔術師としての技量は良い方じゃ。勿論、器量も良いし、働き者じゃ」


「甘いものも好き、と」


 リスティアが大福9個目の事を暗に言われて、思わず恥ずかしそうに横を向いてお腹を押さえる。


「魔族の一部の血筋は特定の条件を満たすと身体が変わって食事量が増えるんじゃ!! その内に御通じとも無縁の完璧生物になるんじゃからな!!」


「そうなんですか?」


「うむ……特別な胃と身体を手に入れるからのう」


「特別な胃?」


「全ての物質を力に還元して己の中に取り込む高位存在用の胃じゃ。高次の食事であり無限に食事が出来て排泄も必要無くなる。その代わり、今までの臓器の一部は子を宿す場所に特化して変質する」


「えっと、それって……」


 朱い顔で少年の耳元にリスティアがゴニョゴニョし、聞かされた当人も赤くなる。


「まぁ、どうでも良いではないか。今日の糧の代わりにちょっと働かせてくれというだけの事。魔術が必要になったら言うがよい。魔王仕込みの腕を見せてやろうぞ」


 無理やりに笑って、リスティアが腕まくりしてみせる。


 しかし、その腕はちょっと震えていた。


「お気持ち受け取っておきます。それと僕から正式に騎士団に報告するまでは見習い扱いで一緒に戦いましょう。悠音さんも明日輝さんも同じ立場です。同じ血筋、同じ魔力を引く者同士、きっと仲良く出来るはずです」


 そっと少女の両手が取られる。


「―――分かった。しばらく、世話になるぞ。だから、死ぬでない……そちがいなくなってはワシが大変な目に合うのじゃからな?」


「はい。必ず帰ってきます。ですから、今日のところは船で待っていて下さい。もし力を借りたくなったら、連絡します。コレを……」


 少年が立ち上がり、外套の奥からスーツと少女用の外套を取り出す。


「良いのか?」

「もしもの時の為に身に着けておいて下さい」


「分かった。ありがたく受け取ろう。これからよろしく頼む。ベルディクト・バーン。いや、騎士ベルディクト……我が雇い主にして、我が異世界の友よ!!」


「―――はい!!」


 二人が握手する。


 そうして、二人が再び席に付こうとして、ビクッとした。


 応接室には今、仮眠中の少年少女が簡易の寝台の上にいるのだが、その場所からはジト目が多数降り注いでいた。


「ベルさん。良かったですね。お友達が増えて」

「あの、ヒューリさん? 何か、その……」


「ベルって、卑怯だわ。釣った魚に餌を与えない主義ね。絶対」


「えっと、悠音さん? それってどういう……」

「ベルディクトさんて、無自覚ですよね」

「えっと、何にでしょうか? 明日輝さん?」


「「「(´-ω-`)……はぁ」」」


 思い切り溜息を吐かれた少年がタジタジになっている様子にクスクスとリスティアが笑い始める。


「未来の末達よ。お主らは幸せ者じゃな。それはきっと平和な世でも手に入る事は稀なものであろう。故に大切とせよ……ワシもそうしよう。ベル」


「はい?」


 振り向いた少年を前にリスティアがその片方の手を自らの胸元に押し当てた。


「「「(≧ω≦)なッッッ?!!」」」


「え、あの、リスティさん?!!」


 思わず三姉妹が固まる最中。

 大陸中央諸国。

 文化の中心地たる場所で生まれた女は微笑む。


「戦場に向かう者への餞別じゃ」


 少年の胸に押し当てた掌に煌々と黒い紅蓮の輝きが浮かび上がり、小さな輝く方陣が手の甲に痛みも無く刻印されていく。


【我が名、我が霊、我が力にて汝に加護を与えん!!】


 大陸標準言語で声が響く。


 円の内部に浮かび上がるのは蔦の絡まる剣と翼と魔術言語において必勝の願掛け。


―――汝の靴は我が元へ帰る。


 それは時に女性が男性に送っていた古い戦場へ向かう者への呪いであり、女にとって男への気持ちの告白に等しいものを文字列にしたものでもあった。


 しかし、そんな古い仕来り知る由もなく。


 少女達は方陣を受け取った少年の身体に今までよりも力強い鼓動を感じて。


「お主達もしてはどうじゃ? やり方なら教えてやるぞ? 我が術式と意匠込みでな」


「「「('≧Д≦')ヤリマス!!!」」」


 次々に殺到する三姉妹に苦笑しながらも、リスティアが囲まれるのを見て、少年が微笑む。


 最終的に少年の両手両足の甲には其々に方陣が浮かび上がる事となった。


 紅蓮、漆黒、紫黒、黄昏色の黄金。


 四つの色合いに彩られて、少年は全員に頷いた後。

 八木と安治のCICへの呼び出しに走っていく。

 それに続いた三姉妹達を見送って、リスティアは一人。


 今着ている姉妹達の着ぐるみ系パジャマを脱ぎながら、近付いてくる戦場となるのだろう地域を見つめて、少年の温もりがまだ残るような気がするスーツに少し気恥ずかしそうにしながらも脚を通し、着替え始めるのだった。

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