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ごパン戦争  作者: TAITAN
統合世界-The end of Death-
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第107話「漢の約束」


 ベル達が武装したまま陰陽自研の外へと出た時。


 周囲では人が走り回っていた。


「一体、何があったんですか!!」


 実験事故の時の為、研究所にはシェルターが隣接しており、研究者は異変を感じたら速やかに退避する事になっている。


 よって、通路を奔ってシェルターに向かう研究者達の大半は何も知らない様子だったわけだが、外にいたのは一部の白衣の男女達と陰陽自の方から駆け付けてきた隊員達。


 空は晴れ上がっていたが、一部の倉庫で火災が起きたらしく。


 少し遠くのドックではジリジリというベルの音と共にスプリンクラーが作動しており、モクモクと黒煙が吹き上がっていた。


 少年が指を弾くと同時にその施設の周囲に大量の雨水が下から沸き上がり、瞬時に火元を消化して煙を消し止めてから再び何処かへと掃けていく。


 陰陽自の基地そのものが今や少年の魔術具。


 要は導線化するまでもなく導線に出来る素材そのものなわけで、転移も位置指定すれば、すぐにどんなものでも持って来られるわけだが、それにしても半透明の結界で遮られた水が即座に消化作業を終了させた事に周囲の人々は驚き。


 また、遠目に駆け寄ってくる騎士ベルディクトの様子にすぐ報告し始めた。


「騎士ベルディクト!! ご報告します!! 第09倉庫内で爆発事故が発生致しました」


「原因は?」


 陰陽自の男達が研究者らしい煤けた白衣の男女を保護して連れて来る。


「ええと、貴方達は……」


「お初にお目に掛かります。騎士ベルディクト。兵器開発部門の真田と申します」


 眼鏡を掛けた神経質そうな男は爆発事故を起こしたというのに顔色一つ変えず。


 ヨレヨレの白衣から埃を払い、煤けた眼鏡をハンカチで拭いてから掛け直し、少年に小さな金属片を手渡した。


「―――思い出しました。コレの試験を?」


「ええ、我々は冶金工学方面の技術者の集まりでして。お頼みになられていたコレを通常手順で試験していたところ……」


「いきなり爆発した?」


 少年に彼が頷く。


「何の試験を? 魔力の加圧や加熱などですか?」


「いえ、第09倉庫内に安置している装置は細胞と金属類の魔力を触媒とした接触検査です」


「ああ、それってマーカー開発時の?」


「はい。今現在、警察や自衛隊に卸している魔力や変異の資質を見る為に作られたマーカーの試作時に開発導入された代物です。人体にマーカーの判別用金属類が有害かどうかを調べるのに使います。魔力を用いる未知の金属類の性質的に何が起っても不思議ではないので外に置かれていたのですが……」


「この金属と何の細胞を接触させたんですか?」


「色々とやっていたのですが、流れ作業だったもので……恐らく、このリストの401番から420番までのリスト内にある細胞の何れかではないかと」


 少年が差し出された煤けている試料の番号を見て目を細めた。


「爆発時、あれ程の衝撃だったのによく無事でしたね?」


「いえ、それが奇妙な事が……」

「奇妙な?」

「爆発する瞬間。猫が……」

「猫?」


「はい。白と黒の個体が我々の前を通り抜けていったのです。その後、爆発が起きましたが、基地全体で起きたかのように振動していたのを覚えています」


「………」


 少年が脳裏で使い魔達の居場所を検索するとすぐ傍にいた。


 というか、カズマの装甲の両肩に載っていた。


「うお?! いつの間に……さすが使い魔」


「この人達を助けてくれたんですか? マヲー、クヲー」


「マヲ~」

「クヲ~」


 ヒューリの声に二匹が頷いたかと思うと少年の下に歩いて行き。


 マヲーが小さな勾玉のような物体を咥えて渡す。


「これって……」


 ヒューリ、ハルティーナには見覚えのある物体だった。


「リスティアさんが最後に使っていた魔術具、ですか?」


「ええ、確かにリスティア様の……」

「どうしてコレを?」


 ヒューリが二匹に訊ねると同時に二匹が定期航路を順調に往復して戻って来ていたシエラ・ファウスト号を空に見る。


 だが、様子がおかしかった。


 減速する様子もなく斜めに傾いで、そのまま彼らのいる方へと突っ込んでくる。


「な?!!」

「ベル君!!」

「い、今止めます!!」


 少年が魔導によってリンクを開放し、シエラ・ファウスト号を誘導制御しようとした時、猛烈な魔力の流出に脱力する。


「マ、マズイです!! 今のシエラは魔力を吸ってます。と、止められません!! 退避して下さい!! 退避!! 全員退避です!!」


 思わず陰陽自隊員が顔を蒼褪めさせ、白衣の男達も少年達と一緒にダッシュした。

 第09倉庫と付近の倉庫から既に人は退避済みではあったが、減速無しに突っ込んできた巨大物体の激突ともなれば、極めて重大事だろう。


「ベル!! シエラの耐熱性能は!?」

「12000℃です!!」

「中の人間が耐えられる温度は!!」


「魔術無しだと6000℃くらいが限界だと思います!!」


 カズマが訊ねた瞬間にルカは無茶だと言おうとした。


 だが、それよりも早く紅い装甲の少年は飛び出し。


 猛然と減速無しで突っ込んでくるシエラ・ファウスト号を倉庫前で待ち構え。


「カズマさん!!」


 ヒューリが叫ぶのを横にして右手を蔽う装甲を内部からの操作で外してから指先を口元に運ぶ。


「イメージ、だろ。分かってるよ。片世さん」


 今もまだ陰陽自で訓練か、善導騎士団東京本部で子供達の訓練をしているだろう女のアドバイスを思い出しながら、彼は小さく息を吐いて、己の犬歯をナイフのようにして手首から親指の付け根まで一気に引き裂いた。


 いつもよりも尖っていた歯は容易にカズマの手を血だらけにして、それを前に突き出した彼はもう数秒で激突するだろうシエラに向かって叫ぶ。


「ちょっと戦艦を止めた男の称号になってもらうぜ!!」


 炎が生身の手から噴き出した。


 それがシエラ・ファウストを包むかのように猛烈な勢いで奔り、腕が焼け爛れるより先に彼が更に口元で静かに呟く。


―――【白火血神木(はっかけんしんぼく)


 瞬間、カズマの腕。


 いや、炎が地表からまるで凍るかのよう白く白く硬質な樹木のような質感の何かへと変貌しながらシエラ・ファウスト号のツルッツルの表面装甲を包み込み。


 地表との間を次々に埋めて、罅割れながら、砕かれながら、炎を溢れさせ、硬質化させ、というプロセスを繰り返し、カズマの鼻先まで来た時、ようやく船体を止めた。


 まるでその光景は煌めく粒子と炎の饗宴。

 何処か幻想的ですらあるかもしれない。


「ぅ……まぁたか。はぁ……」


 少年の腕は完全に白い光沢を放つ未知の物体に取り込まれていて。


 船体はプラモが支柱で支えられてポーズを取らされているような絶妙に斜めった状態で静止。


 炎を象った白いオブジェと化した周囲は本当に巨大なプラモでも作っているのではないかというような光景に呑まれ、放射状に200m以内の倉庫や施設が白い光沢質物体でコーティングされてしまっていた。


「カズマさん!!」


 慌てて戻って来た少年達が片腕をシエラのほぼ真下にして動けない少年の傍に駆け寄る。


「はは、上手くいって良かったぜ」

「無茶しましたね」


「ああ、つーか。腕の感覚無ぇ……エヴァン先生にまたどやされるな。こりゃ」


「幾らでも作れはしますが、その度に腕を失うのは頂けません。その力、制御出来るようになったんですね?」


 少年が肩を竦める。


「ちょっと前にオレんちのジジイが夢に出てきた。で、名前だけ告げてったんだ。オレの血族は神様の血を引いてるとか何とか。それで能力の名前やら、大陸の都市へ迎えやら、色々言って消えてった。今の今まで確証も無かったんだが、オレの妄想じゃなかったみたいだ」


「分かりました。今はその現状を維持していて下さい。出来ますか?」


「おう。維持なら簡単だろ。崩れそうになったら、また使うから大丈夫だ」


 カズマが断言したところで少年は脳裏で八木のいるはずの館内に呼び掛けようとしたが、魔力制御系の殆どの器材がダウンしており、繋げようとすると未だに魔力を吸い取られていた。


「ダメですね。励起済みの魔力じゃないと機材に干渉出来ないですし、励起した魔力だと吸われて起動出来ない……直接乗り込んで確認するしかありません。ヒューリさんとハルティーナさん。悠音さと明日輝さん。僕から離れずに付いて来て下さい」


「乗り込むんですか?」


「はい。とにかく異変が起きている事は確かです。何が起きたか確かめないと。ルカさんには現場の指揮と避難と今からくる陰陽自の人達に説明をお願いします。カズマさんを頼みます」


「分かった」


 ルカがカズマの腕の傍に付く。


 少年が動魔術で全員をハッチまで移動させ、手作業で唯一コーティングしていない外部から開ける事が出来るレバーを取り出して回し、ハッチを開放。


 ハルティーナを戦闘に内部へと入り込んでいく。


「………」


「ふむ。陰陽自最大の危機を救ったオレに惚れたか?」


「無いね」

「あはは。そりゃ残念だ」


 ベル達が内部に入り込んだ後。

 他の者達が来るまでの少しの時間。


 こうして2人切りになる事は無かったとルカはカズマを無言で見つめていた。


「そんなに見つめられると照れんだけど」

「君は凄い奴だ。本当に心からそう思うよ」


「ありがとさん。でも、一々腕を失うようじゃ半人前だろうよ」


「そう言える事。そう分かってる事。いざという時の行動力。無謀と冒険を履き違えたわけでもない。どんなに優秀でも現場に行ってみれば、君の方が活躍してるのは事実だ」


「ルカだって卒なく何でもこなすじゃねぇか。オレには無理だろ。そういうの」


「でも、そういうのだけじゃ……きっと、これからの戦いには付いていけない。秀でたものを見付けて練磨して縋り付いていくしかないんだ。ボクみたいなタイプは……」


「でも、お前優秀じゃん」


「優秀だけど、片世さんみたいな超人でも君みたいに突撃していけるタイプでもないのは自分が一番よく分かってる」


「まぁ、確かに後ろからサポート。もしもの時用の要員的に感じてるのはオレもだから、否定はせんけど」


「ふふ、自虐出来そうなくらい正当な評価ありがとう。安治さんが居れば、現場で僕がする事なんて無いよ」


 ルカが本当に仕方なさそうに……自分でも理解している事をハッキリと言われて、カズマに苦笑を返す。


「ま、確かにそうだわな。だけど、オレだってお前が羨ましいんだぜ?」


「そう?」


「いつだって、お前は最期まで戦っていられる。途中脱落のオレはもしも連戦になったら寝た切り中だろうしな」


「今の戦力で敵を一度に叩き切れないのは中々考えられない想定じゃないかと思うけど」


「だけど、教官とお前が傍にいるから無茶が出来る……それは事実だ。今後、編成される隊の実質的な現場の統率者はお前だろうし」


「対魔騎師隊の統率者なんてまだまだ勤まらないよ。数年後なら出来るとは思うけどね」


「かぁ~~嫌味だなぁ。でも、納得だ。オレはムードメーカーなアタッカーでしかない。実際、オレが死んだら次はお前が次のオレ役を探さなきゃだろ」


「……自分でソレ言うの?」


「それがオレの持ち味だ。お前が護りと後ろの要なのは変わらない。前線に出てすらきっとそうだ」


「……カズマ……」


 ルカは目の前の少年が淡々と笑みを浮かべて、心底に自分に己の真実を告げているのだと理解する。


「お前が死ぬって事はオレが死ぬって事よりも更にマズイ事態だろ? 言っちゃ何だが、オレは駒だ。主人公見てぇな面して戦ってても、何処かで死んだらオレ個人の代わりはいなくても、オレの役の代わりは探せばいる」


「いると思うの?」


「いるさ。これから幾らでもな。だが、お前は違う……」


「どこら辺が?」


「力の強さは関係無い。オレと同じ経験をして、オレよりも真面目に陰陽自の頭脳として、最後の壁として駒を動かす奴は匆々出て来ないだろ。出てきたとしても長期的に貴重なのはお前だ」


「ボクは君の能力の方が貴重だと思うけど」


「そうか? でも、オレの能力は血統由来だ。陰陽自が今後どういう風に戦力を増やすのか分からんが、オレもお前も遺伝子は血液から生殖細胞まで採取済み……先天的なものは真似られる。遺伝子工学が発展した今ならな」


 少しだけ唖然としたルカが息を吐いた。


「………君を馬鹿って言ってた連中は多かったけど、ボクも含めて馬鹿だったのはこっちだったのかもね」


「あははは、別に頭の出来は良くねぇさ。ちょっと真面目に近頃は勉強だのしてたから、そう見えるだけだろ。後天的なもんは真似ようと思っても真似るのが難事だ。お前もそっち方面で積み上げる気なんだろ?」


「ホント、人の気にしてる事をグサグサと」


「悪りぃな。性分だ」


 ルカがその少年の笑みに思わず噴き出した。


「性分……性分か……ああ、ホント……ベル君にも敵わないと思ったけど、君も大概だ。カズマ……ありがとう」


「美人さんに褒められて悪い気はしねぇな。ま、お前はそういうのより親友。いや、相棒って言った方が嬉しいのかもしれねぇけど」


「……カズマ。君……」


「《《男同士》》。隠し事は無しだぜ? 相棒」


「……ああ、そうだな」


「つーか、こんなのヒューリアさんや姉妹ちゃん達、ハルティーナちゃんや片世さんだって知ってるぞ」


「は?」


「え、いや、お前アレでバレないと思ってたの?」


 思わずカズマがルカの反応に首を傾げる。


「え、な? えぇ?!」


「毎日、男物のパンツをこっそり洗ってるのに雑にそこら辺の対魔騎師隊の共有ランドリーで乾燥させてるわ。女性陣と着替えなきゃならん時は一人で着替えるってそれとなく断ってるわ。まぁったく化粧も肌の手入れもせず、リンスも使わず髪の手入れもしてないわ。しっとり濡れた女性陣の肌をチラ見して赤くなるわ。こっそり男もののエロ本買ってるわ」


「ブッ?!! ちょ、ま、ど―――」


「おめぇ、どうして知ってるんだって顔なんかすんなよ? 通販の物資を手渡したのはオレで、オレは男でそういう出版社の名前くらい知ってるんだよなぁ……ああいうの見ない堅物の教官は誤魔化せても年頃の青少年は誤魔化せんだろ。常識的に考えて」


 呆れた顔でカズマが片方の肩を竦める。


 カァァァッと頬を染めたルカが思わず涙目で俯いた。


「最悪だ……ッ!!」


「あははははは。ま、公然の秘密だから、いいんじゃね? 誰も気にしてなんか無ぇって。あの子達だって分かってからはお前に気を使ってるだろうしな」


「そう言えば、近頃一緒に着替えましょうって言われなくなった……」


「惜しいか?」

「惜しくない!!」


 剥きになって否定するルカにカズマが大笑いする。


「そういう人間味があるとこをもっと出してけば、他の連中の評価だって変わるだろうに」


「ボ、ボクは……そういうの苦手なんだ……」


 思わず視線を逸らしたルカにカズマはまるで弟分が出来たような気分だった。


「ルカ。死ぬなよ。オレが死んでもお前は生きろ」


「―――カズマ。それは……」


 まるで明日の天気は晴れだと言うような気安さで少年(カズマ)少年(ルカ)に告げた。


「オレはあいつらと戦って死ぬ可能性が高い。実際、そうなってからじゃ遅いだろ?」


「みんな、君を助けるさ!!」


 そんなに熱くなるなと片手が熱くなった少年の肩に置かれる。


「助かったら、助かったでいいさ。でも、陰陽自での生き残るべき優先順位はお前が優先だ。ベルや他の連中は全員助けるのがデフォだから、こういうの言わないけどさ……でも、お前は違う。お前は知ってる。理不尽に屈さない事と現実は別だ……」


「ボクは君みたいに班員と親しかったわけじゃない……でも、君の気持くらい分かるよ……」


「なら、約束してくれ。善導騎士団も仲間達も関係ない。男と男の約束だ……」


「何を約束すればいいのさ……」


「オレが助からない時は迷ってもいいから、オレの好きにさせてくれ」


「……自衛隊員として約束は出来ない。だけど、男かどうかは関係ない。心から尊敬出来る君との約束だ……留意する」


「ありがとさん」


 二人が顔を横に向ける。


 すると、遠巻きにしていた部隊の中から事故処理班がようやく装備を整えてやってくるところだった。


 何が起ったのか分からないからと対ABC装備。


 少年が陰陽自に卸していたカズマのスーツを更に着膨れさせたようなズングリムックリのフォルムだ。


 色も鈍い臙脂色をしていて、微妙に毒々しい。


『こちら事故処理班!! 大丈夫か!! 対魔騎師隊の面々がシエラに入ったのは確認している!! この白いものは何だ?!』


『現状報告をお願い出来るだろうか!! その腕は―――大丈夫なのか!! 医療班は必要かね!!』


 二人はそれで現場の状況を説明し始めた。


 まだ、ベル達は戻って来ないし、シエラ・ファウスト号はピクリとも反応していなかった。

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