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ごパン戦争  作者: TAITAN
調味料大戦~果てなき醤~
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第67話「キャベツ伝説」

終盤前のラブコメ展開に一時お付き合い下さい。では、次回。

 身体がフラ付いたのは教授と共和国本国にいる巨女ベアトリックスの無線通信による会談が終わった後の事だった。


 緊張が切れた為か。


 大まかな話が詰められて、今後の行動方針と本当の聖なる入り江へのルート策定。


 飛行船の移動時の注意事項等々。

 考え付く限りの指示を出した後。

 そのまま倒れた。


 最初に乗り込んだ時、使っていた部屋に運び込まれて二十分弱。


 熱が高い事と身体が動かない事から風邪と診断され、現在は安静を余儀なくされている。


 横ではイソイソとリュティさんが世話用の用具を運び込んだり、ゴム製の枕に水を詰めて頭の上に敷いたりと甲斐甲斐しく看病してくれているわけだが、その横には呆れ顔のフラムが座って室内で何やら何時ぞやの対物ライフルを分解整備していた。


 どうやら、これから向う場所で敵に遭遇した時の為の点検らしい。


「リュティ。こいつに手の込んだ料理でも作ってきてやってくれ。これから無理をしても動かす事になるかもしれない。出来るだけ精の付くものを」


「はい。畏まりました。あ、では、看病は?」

「適当にこちらでしておく」

「そうですか。では、おひいさまにお任せ致します。では」


 ペコリと頭を下げてリュティさんが退室した。


 後ろで鋼鉄製のドアノブが閉まり、コツコツと足音が遠ざかっていったのを確認してから、フラムがその相変わらず美少女全開な顔でこちらをジロリと睨む。


「……先程、衣服を回収したが、アレは何だ? ざっと三回は死んでいるはずだぞ。手榴弾に使われる火薬の臭い。それと傷口は無いが、背中から鉛が炸裂したような臭い。よく耐えられたな」


「命の危機だ。痛みは傷が治るまで忘れられたんだろ。アドレナリンの効用は偉大だな」


「アド?」

「何でもない」

「エニシ」

「何だ?」

「敵を殺したな?」


「………ああ、ザックリ十人近く殺したと思う。数えてる暇なんて無かったが……後で心を病みそうだなと思ってる」


「あの図書館でも言っていたが、オリーブ教の御主様とやらの力か?」


「たぶん、そうだ。と……思う。確信は持てないが、前にそいつから貰った皮袋を開けた気がする」


 一連の会話の後。

 何か考え込んだ様子になる。


「お前が虫も殺せない男なのは分かっている。だが、お前は戦った。御主様とやらがオルガン・ビーンズでの一件で壊れた遺跡の力を使っていたとすれば、お前もそうしたという事ではないのか?」


「最後の方は覚えてない。ただ、死に掛けて、気付いたら掘り起こされてたからな」


「嘘は吐いてないようだが、此処に来て身体の不調。遺跡の力に影響された可能性が高いぞ。それに体重も随分増えたようだしな」


「何が言いたい?」


「………お前はまだ気付いていないかもしれないが、お前の身体には色々と異変が起こっている」


「それ本当か? まったく、いつもと変わらないと思うんだが……」

「さっき、リュティと一緒に寝台へ乗せた時、肩が外れるかと思ったぞ」

「そこまで太ってるって事か? ある意味、衝撃的な事実なんだが」


「茶化すな……あの重さは油ではなくて筋肉だ。お前の身体は……今、たぶんこの時にも変化していると私には思える。それも戦う為の身体に、だ」


「………もう何があっても驚かないと思ってたが、案外驚いてる」


「はぁ、気楽過ぎるぞ。遺跡の力がどういう作用をお前の身体に及ぼしているのか分からないが、少なくとも常人とは違う肉体になってきている感は否めない。外見や身体の様子は見た目から分からないが、触れればさすがに分かる。筋肉の付き方が明らかに常人とは違う。前のお前ともな」


「今から化け物になるって言われた気分だな」


「……お前の意思や記憶に変調が出て、人格的な問題が出始めたら、私は止めに入る。いいな?」


「それは願ったり叶ったりじゃないか? ぶっちゃけ、自分が自分でなくなるとか勘弁して欲しい……」


「その軽口、最後まで叩き続けろ。お前がそうやっている内は助けてやる」


「随分と破格な条件だな」


「お前は肉体は共和国の財産だ。ついでに私が守ると決めた隣人で約束もした。これくらいはしてやるのが妥当だろう。リュティをまた泣かせるのも忍びないしな」


「リュティさんが泣くって?」


「お前の死体が家に運び込まれた日。あいつは泣いていた……私も見た事が無いような悲しそうな顔でな……」


 それが初めて狙撃で死んだ時の事だとすぐに分かった。


「そうだったのか……あんまり心配させないようにしないとな」


「当たり前だ。お前が遺跡とどんな関係のある存在であれ、リュティをあんな顔で二度と泣かせるな」


「ぁあ、リュティさんには世話になってるしな」


 そこまで話して何やらフラムが黙り込む。


「どうした? オレが怖くなったか?」


「馬鹿も休み休み言え。そんな事があってたまるか……少し気になっただけだ」


「何が?」

「……その、お前は……リュティのような身体が好みなのか」


 思わず噴出しそうになって口元を押さえようとしたが、生憎と手はピクリとも動かなかった。


「唐突に何なんだ?」


「いつも見ているではないか!! あの胸を!! 貴様、私が知らないとでも思ってるのか? こっちが毎日のようにあんなものを付けられているというのに貴様ときたら!! リュティの姿ばかり視線で追っているだろう!?」


「え、いや、別に毎日胸を見てるわけじゃないんだが……」

「じゃあ、何を見ていると言うんだ?!! 言ってみろ!!」


 睨まれて、溜息を吐く。


「リュティさんが料理してくれる時には気になって仕方ないってだけだ。だって、オレの為に毎日のように危ないものを扱ってるんだろ。なら、気にならない方がどうかしてる……少なくとも、感謝してもし足りない事はオレにも分かるさ……」


「そういう事か……リュティは見られているのが満更でも無い様子だが、まったく……巨乳好きなのは構わないが、年上好きの特殊性癖な上に他にも衣服にも執着しているのかと思ったぞ」


「何かオレが変態みたいな扱いになってる気がする」


「違うのか?! 自分で年上が好みと言っておきながら、その発言は逆に驚くぞ?!!」


「この間のはそういう意味じゃなかったんだが」

「じゃあ、どういう意味なんだ?」

「……結婚は二十歳過ぎたくらいが常識だと思ったんだ」


「どんな常識だ?! まったく、お前の言う事は分からん!! 普通、12にもなれば、結婚するものだぞ? 早ければ初等教育の頃には親が決めていたり、実際に婚姻するのが普通だろう」


 やはり、現実とは懸け離れた夢世界の常識は奇妙な程に捻じ曲がっている。


 改めて、そう思うものの。

 フラムは呆れた視線でこちらを見やり、苦笑していた。


「お前は本当に別の世界から来たような事を言うのだな……まったく、普通の男なら私のような美人を押し倒すのに二日も要らないだろうに……」


「それは幾ら何でも自画自賛過剰じゃないか?」


「男を自分の家に入れるというのは女にとって結婚したも同然なのだぞ? それなのにお前と来たら、夜這いの一つも掛けて来ない。さすがに異常性癖を疑ったが、そうでもなさそうだし、私はどうしたら良かったのだ……」


「―――」


 初めて。


 そう初めてフラム自身から聞く生々しい《《常識》》に思わず顔が赤くなるかと思った。


「もし、そうしてたら、オレをどうした?」

「勿論、投げ飛ばして貼り付けにして家の軒先に吊るすが?」

「ダメじゃねぇか……」


「何を今更。だが、お前が本当に……あのオリーブ教の女やリュティの部下のように私を侍らせたいと言うのなら、条件次第では……その……やってやってもいいのだぞ?」


 最後の方はゴニョゴニョと言われて。


 本当に自分が赤くなったのを自覚しつつ、思わず顔を逸らした。


 パシフィカやサナリの事を言っているのだろうが、明らかに侍らせるという状態は違う。


 いや、違うと思いたいが、どうやら外側からはそう見えているらしい。


 少し相手との距離。

 付き合い方を考えねばと思うものの。

 フラムの言葉は止まらない。


「それにあのオリーブ教の女やリュティの部下には……もう手を出したのだろう?」


「出してないわ?! 何処でどういう結論になったんだ?!」


「何!? 妻だの何だの言っていただろう!! あそこまで女に言われたら、普通は結婚しているか。既成事実があって然るべきではないか!? それとも何もせずにあそこまで言わせていたのか?! だとしたら、そちらの方がよっぽど問題だ!?」


 フラムに睨まれて、頭がクラクラした。

 常識が違う。

 倫理観が違う。

 今まで自分がしてきた態度がどう世間的に映っているのか。


 自分の常識でしか測ってこなかったせいで美少女の言葉は果てしなく衝撃だった。


「じゃ、じゃあ、手を出せと言いたいのか?! フラム・オールイーストさんは!?」


「勿論、許さん!! 許さんが、男が女に手を出すのは甲斐性だ。それくらいは知っている……それにあのオリーブ教の女と結ばれれば、多妻は可能だ……我が国でもオリーブ教の男が3人程妻を娶っているのは然して珍しい事ではない。陰口でケダモノ呼ばわりはされるだろうが、その程度の事なら幾らでもある事だ……」


 グワングワンと頭が揺れている。

 脳細胞が揺れているのか。

 意識が揺れているのか。


 まったく分からないが、目の前のフラムはどうやら、頬を染めながら、怒りながら、睨みながら、こちらにムスッとした可愛い顔を向けて……どうやら男の浮気や愛人、もしくは別の妻くらいは甲斐性という類の話をしているらしかった。


 あのナッチー極まりなくて総統閣下万歳で銃器が三度の飯より好きで戦争で勲章を挙げるのが幸せという模範的な軍人少女が、である。


 そのギャップは今まで思っていたよりも強く強く心を揺さぶる。


 可愛い。

 可愛いのだ。


 最初から容姿的にとても好みだった事は否めないが、それにしても男を惑わす魔性というやつがこの世の中には確かにあると思えた。


「フラム……」

「な、何だ?」

「お前って実は可愛いやつだったんだな」


「ばッ?! な、何をいきなり言っている!? ついに頭がイカレたのか!? わ、私が見目麗しい事はただの事実だろう!!」


 慌てて、そんな事を言う模範的な軍人は確かに普通の女の子と見えた。


「………エニシ。私は……たぶん、もう少ししたら叔母連中から初孫を見せろと言われ始める」


「は、初孫?!」


「お前が……本当はどんな女が好みなのかは知らないが、お前なら……お前になら、別に……身篭らせられても……いいぞ? 私は……」


 恥ずかしそうに。

 上目遣いに。

 すぐ視線を横に逸らして。

 そんな事を言われて。

 嬉しくない男はいないだろう。

 二の句も告げなくなった喉が渇く。


「お前は……どうだ? あの女達の方が……いいか?」


――――――。


 さすがに鼻血展開というのは無いにしても、フラムの顔が近付いてくる。


 いつも……への字で不満そうな顔ばかりしている相手の無防備な表情はただ初々しく。


 唇は確かに僅かな湿り気を帯びて。


『おひいさま~~お開け下さいませ~』


 バッとフラムが立ち上がると今までの事を振り切るように自棄にも聞こえる声で返事をした。


「い、今開ける!!!」


 バッと開かれた扉からリュティさんがいつものようにイソイソと料理を運んできた。


 本日は深めの大きな椀がお盆に一つ。

 どうやら黄色いコーンスープらしい。


 しかし、何やらプカプカと小さな緑色の玉のようなものがその病人食には浮いていた。


「あ、カシゲェニシ様。今日のメニューにはキャベツが入っているのですが、よろしいでしょうか?」


「え、あ、はい。別に構いませんが」

「キャ、キャベツだと?!!」


 盆が机の上に置かれ、動かない身体を起こすようにして後ろへとクッションが詰められていく。


 何やらその横でワナワナと赤い顔でフラムが震えていた。


「はい。おひいさまもそろそろ本気で告白なさるような気配だったので、食料品リストに入れておいたんです。あ、それも今回は芽キャベツという特殊な代物で、キャベツ人民国からの直輸入品です」


「な、なななな、なぁ?!!」


 もはやブルブルといった様子でフラムが物凄い百面相をしながら、コーンスープを見ていた。


「ふふ、照れなくてもよろしいんですよ? 共和国ではあまりの卑猥さに禁じられた野菜ですが、此処は生憎と他国の領空。それにおひいさまはコーンもキャベツも耐性がお有りです。ここはちょっと勇気を出して、お二人でキャベツ入りのコーンスープをどうぞ♪」


 フシュゥッと顔から湯気が上がったフラムはもはや茫然自失の様子で寝台横の椅子の上でスプーンを握らされていた。


 一体、キャベツの何が卑猥だと言うのか。


 まったく理解の外だったのだが、どうやらフラムすら慄くような野菜と思われているらしい。


「こんなにも卑猥なスープを二人でお召しになったら、もう言い訳出来ませんね♪ 一度、本で書かれてあるようなシチュエーションでこのスープ出してみたかったんですよねぇ。きゃっ☆」


 いつも冷静なはずのリュティさんが今日はノリノリで何やら……あの時、そう初めて家で背中を流していた時のような、妖しい笑みで微笑む。


「う、うぅぅぅぅぅうぅ?!!? こ、ここ、こんなの食べたら、一発でに、妊娠してしまう!!? リュティ!? わ、分かっているのか!? こんなものを食べたと知られたら、わ、私の人格は軍上層部から疑われまくりなんだぞ!?」


「まぁまぁ、大切な殿方を射止める為ですわ。このリュティッヒ。おひいさまがこんなにも大人になられて、涙で前が見えません!! 祝福いたしますよ!! おひいさま!?」


「あぅぅぅぅ??! た、食べるのか? た、食べるのか!? エニシ!!?」


 もはや目を渦巻き状にしてフラムは前後不覚の状況で震えるスプーンを椀に入れ、自分でこちらに掬ってスープを差し出してくる。


 何やら。

 本当に何やら。


 今現在、意味不明な感じに人生の岐路に立っているような気がした。


 だが、腹が空いているのは事実だったし、相手の価値観に重きを置き過ぎては自分の現実を見失ってしまう。


 此処は冷静に自分の常識でものを考えるべきだろうと思考を建て直し。


 とりあえず、本当にとりあえず……一口頂く事にした。


 ゆっくりと口を開けると何やらリュティさんが見てはいけない行為を見ているかのように両手で顔を覆って、バッチリ指の間からフラムのあーんを覗いている。


「が、頑張りましょう!! おひいさま!! そのカシゲェニシ様への想い!! こ、このリュティッヒがしかと目に焼き付けます!!」


 もはやデバガメ目的で食事を作ってきたとしか思えない。


 こっちまで何だか恥ずかしくなってきてしまうが、此処はさっさと食べて素知らぬ顔でケロッとしておくのが吉だろう。


 口を開けて、フラムの差し出してくるスプーンを口に入れた、その瞬間だった。


 ガチャリとドアノブが回って、扉が開かれる。


「ここですの? カシゲェニシ!! 大丈夫なので、す、か………?」


 其処に入ってきたのは金ドリルもといベラリオーネだった。

 その瞳がこちらの口に突っ込まれたスプーン。

 二人の興奮して恥ずかしそうな美少女。

 そして、フラムの持っている器に入ったスープを見る。


「……?……ッ……ッッ?!!?」


 何かに気付いた様子で急激にベラリオーネの顔が赤くなっていく。


「あ、あ、貴方!? な、何を食べて?!!」

「え、いや、何って普通のコーンスープを」


「こ、コココ、コーンスープに浮いているのはな、ななな、何なんですの!?」


「えっと……」

「何なんですの!!!?」


 詰問されて、思わずポソッと呟くしかなかった。

―――キャベツだ、と。


「キャ……あ、あああ!? 貴方!? ま、まさか?!! ソ、ソソソ、ソレを作らせて、た、たた、食べさせているのですか?!!」


「あ、いや、その……」


「ふ、不潔ですわぁあああああああああ!?!! そ、そんな事をこの緊急時になんてぇえぇぇぇえぇぇえ!??! そ、それを見せないでくださいまし!? に、妊娠しちゃいますわぁああぁぁあ!?!?」


 その大声に思わず耳を塞ぐ。


 そこでようやく身体の自由が戻ってきたのを知るのだが、周囲はそれどころの騒ぎでは無くなっていた。


 涙目でベラリオーネが喚きながら、フラムの持つ芽キャベツ入りコーンスープに顔を真っ赤にして、思わずその場でペタンと座り込んでしまう。


 どうやら、腰を抜かしてしまったらしい。


「あ、貴方がこ、こんな事をする人だったなんて?! は、恥ずかしくて死んでしまいそう……うぅ、こ、こうなったら!!」


 何かを決意した表情でベラリオーネが涙目のまま何とか生まれたての小鹿のようにプルプルしながら立ち上がり、その現場を見られてもはや再起不能に誓い様子でオーバーヒートしたフラムの手からスプーンを奪い、コーンスープに浮かぶ芽キャベツを掬うと……エイッとこちらの口に突っ込んでくる。


「な、ななな、おひいさま!? お気を確かに!!? こ、このままでは何やらポッと出の女にカシゲェニシ様の初キャベツを取られてしまいますよ!!? かくなるうえは!! こちらのスプーンで!!?」


 何やら目を爛々と耀かせて興奮した様子のリュティさんが涙目でスプーンをフラムに握らせ、二人三脚もとい二人羽織のようにスープを救って、こちらの口に突っ込んでくる。


「むぐ?!」


「な、ならば、こちらも!? あうぅぅうぅぅ!? やっぱり恋人だったんですのね!? カシゲェニシの嘘つき!!? わ、わたくしにこのような恥辱を与えた報い!! 必ず責任を取ってもらいますわ!!?」


「むぐぐ!?」


「妊娠するならば、それも含めてお供致します!! おひいさま!!?」


「ムギュグム?!!」


 思わずツッコミを入れようとしたものの。


 逆に口へスプーンを突っ込まれている以上、どうしようもなかった。


 当人であるフラムはもはやポロポロ涙を零しつつ、相当に恥ずかしい作業なのだろうキャベツ入りコーンスープを食べるという行動を……まず、自分で口でしてから、こちらにそのスプーンのまま間接キスよろしく行った。


 そして。


「んぐ?!」


「おひいさまぁあああああああああ よくやりましたぁあああああああああ!!!? リュティはリュティはもう想い残す事なく昇天致しますぅうううううう!?」


「そ、そんなぁああぁああ!? 海神よ?!!? ああ、こ、こんな淫らな行為がこの世にあると言うのですか!? わ、わたくしは?! わたくしはぁああぁあぁああ!?」


 衝撃を受けた様子でベラリオーネが錯乱気味に気を失う。


 その身体がこちらに倒れ込んで来た。


 今までスープを入れていたお椀が引っくり返り、ついでにすぐ目の前に顔があるフラムも巻き込まれる。


 リュティさんも昇天してしまった様子で幸せそうな様子でカクッと意識を失った。


 これだけの騒音。


 一体何があったのだと駆け付けて来た連合の一堂がこちらを見て驚愕に目を見開き。


 代表者のように出てきたエービットが赤い顔を横に背けつつ、ウォッホンと咳払いして、一言をこちらに告げた。


「お邪魔した。だが……そういうのは全部終わってからにしたまえ。それと此処のトイレは何処かね?」


 世界には理不尽が満ちている。


 この緊迫した状況で行われた一連のスープを飲むというだけの事件は……後に教授エービットによる性科学講座で一部の男子学生に大人気な度を越したエロ事例として語り継がれていく事になるが、それはまた別の話。


 一つ確かなのは……無言で拳銃や刀を構えようとする前屈みな亜東家の人々が周囲の人々から止められたという事実のみだった。

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