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ごパン戦争  作者: TAITAN
悪の帝国編
507/789

第120話「煉獄を裂く者達Ⅲ」


―――第七世代航空艦アルクタラース艦長室。


「ええ、ええ、取り敢えずは大丈夫そうです。とにかく状況をこちらが確認し終わるまではそっちで待ってて下さい」


 艦長室から直接外部に電波を届けられるというので周波数を教えて相手に連絡したら、あっさりと繋がっていた。


 教授達にはまだそのままにしておいて貰い。


 今はイケオジなフォーエの艦長室とやらにいた。


 内部は強化ガラス製のポットに入った観葉植物やらライトの付いた明るい船室なのに広くて寝台もそれなりだったり、固定化されたお茶用のテーブルと椅子が一組会ったりと洒落ている。


「さて、と」


 受話器型の無線連絡も可能な通信機を切った後。


 テーブルに座った相手に向かい合う。


「取り敢えず、現状報告を頼む」


「あの日、薄緑色の光で空が満たされてから、連絡が取れなくなって、大陸各地で時間の変動が確認されたんだ。それでその中心がヴァーリだった」


「それで? この艦隊が出来るまでの経緯は?」


「南部皇国にドラクーンだけで事前準備通り仕掛けたんだ。生きてはいるだろうけど、このまま手をこまねいていると再びバイツネードの襲撃が無いとも限らなかったから」


「妥当だな」


「それが第一次南部皇国攻略戦て呼ばれてる。僕はその時にドラクーンと一緒に従軍した。けど、障害という事の程も起こらなかった」


「バイツネードが仕掛けて来なかったのか?」


「バイツネードも此処と同じように時間障壁で覆われて手が出せないけど、こっちに干渉も出来ない状態だったんだ」


「そういう事か。それで南部皇国を倒した後は?」


「予定通りに併合してから北部皇国との和睦。これで反帝国連合とは終戦になった。その後、君が策定していた通りに南部の国々を内部崩壊させて、ドラクーンと一緒に転戦。各地を全て殆ど無血で開城出来た」


「そこまでやったのか。待ってても良かったのにと思わなくもないが、さすがに引き延ばし過ぎだな。こっちも……」


「新政体には親帝国派閥を付けて、民主主義政体に移行させながら国民教育を実行。選挙可能になった国から政体の完全移行と帝国閥の内部監査を初めとする独裁禁止の為の世界的な条約を締結」


「成程。殆どは準備通りか……」


「最終的にガラジオンとドゥリンガム以外の国は全て民主主義国家になったよ。最後に残った二つの国も象徴王制に移行して、議会制民主主義政治に移行」


「最後の二つねぇ……まぁ、あのお姫様に王様ならそうするか」


「大陸統一政体が出来たのが12年前。全ての国が加わったのが今年。各国の代表者を議会とした統一政体リセル・フロスティーナはこれで完成したってリージさんは言ってた」


「物好きな名前を……そうか……苦労させたな」


「君が帰って来るまでやる事をやっただけだよ」


「それで政治畑の事は解った。大陸の現状は?」


「治安状況はいいけど、バルバロスの問題がある。それは後で詳しく。今は低開発国の開発に注力してる。大抵の国の国民の民度や倫理や道徳の状況は昔よりも随分改善されたし、君の造った司法制度と心理調査手法のおかげで殆ど悪人らしい悪人が権力や力を持てない社会になったよ」


「なら、いい。ちなみにウィシャスは?」


「時間障壁に入るギリギリの地点で弾かれてたんだ。戦時中はすぐドラクーンに合流してドラクーン最強の男として活躍してたけど、自分の能力が必要無い時代になったら、北部の航空産業や兵器産業の方に行って、北部の人達と一緒に宇宙開発するって言って、色々してる」


「そうか。研究所と合同で?」


「うん。次の戦場に行く為の準備だって」


「それならいい」


「ちなみに北部ではライナズ閣下とメイヤ姫殿下が結婚して今も健在だよ。各国の王侯貴族の殆どは象徴王制で戦後や統一政体成立後も残されてる」


「そうか。今度、結婚祝いでも送ろう」


「ちなみにビダルさんは10年前に亡くなったよ。最後まであの小娘が帰って来るまでは死ねんて言ってたけど、最後は宇宙開発に投資して、初めて宇宙まで行った人間の1人になったんだけど、帰って来た時には……老衰だったって。でも、満足そうだった。ご家族は今も北部最大の海運業の創業家をやってる」


「そうか。後でオレの名前で打電しておく……」


「うん。それとバンデシスさんだけど」


 言っている間に外が騒がしくなる。


 その合間にも扉が開いた。


「―――」


 すっかり皺枯れた老人が杖も突かずに入って来る。


 そして、その瞳にはニヤリとした笑みが浮いた。


「まったく変わらんな……こちらはすっかり老いぼれたというのに」


「バンデシス。まだ生きてたか」


「ああ、もう左程余命は無いが、後一ヵ月というところで君が帰ってきた」


「そうか……苦労させたみたいだな」


「一番必要な時にいなかった小娘に期待していたのも昔。勿論、自分の手で祖国は取り返したとも……まったく、懐かしい……」


 男の背後には少年らしき相手が1人。


「後ろのは孫だ。と言っても10人いる内の1人だが、一番見込みがある」


「何の見込みだか……」


「この五十年で出来る限りは揃えた。だが、恐らく最後までは付き合えない。だから、オレの代わりに見届けて貰おうと思ってな。前に出ろ。男だろう」


「ッ―――は、はい!! アルジャナ・バンデシスと申します!! お、お会い出来て光栄です!! フィティシラ・アルローゼン姫殿下!!!」


「力み過ぎだ」


 老人となって尚、苦笑する男はあの頃と比べても何ら劣らない。


 少年は確かにバンデシスと比べても似ていた。


 若い頃ならば、きっとそっくりなのだろう。


 顔の形から背丈まで。


「これでお暇する。最後の時は自分の仕事の成果を見ながら死にたいからな」


「そうか……今までご苦労だった……バンデシス。お前の献身に言葉を送ろう」


「そんな柄か?」


「ああ、柄だとも。お前をあそこで手に入れた事がきっと政治をやる者として本当の決断だった。お前がいなきゃ、その決断も行動も遅れていただろう。そうなれば、オレは此処にいなかった。死んですらいたかもしれない。だから、お前は……オレの分岐点だった。お前に会えた事に心から感謝する。ありがとう」


「ふふ。五十年越しの感謝か。先に逝った戦友達に良い土産が出来た。やるべき事はやった。後はお前次第だ。戦え……お前に続く全ての者達の為に……あの日、オレに決断を迫った日の如く。苛烈に、高貴に、道を切り開いていけ」


 互いに握手を交わすのはコレが最後だと分かっていた。


「あちらで待っているぞ。盛大に遅刻して来い。我が生涯の主よ」


「ああ、最初からそのつもりだ」


 握手を終えた男がバシリと孫の背中を叩く。


「こいつはドラクーン見習いだ。弾避けくらいにはなる。使ってやってくれ」


「オレより後にそちらへ送る事にしよう」


「はははは、まったく説得力のある話だ……さらばだ。フィティシラ・アルローゼン。我が所有者。いや、この大陸を手にした最高の支配者よ」


 バンデシスが手を振って、ニヤリとして楽し気に部屋を出て行く。


 それを見た孫が慌ててこちらに頭を下げ、そのまま追い掛けて行った。


「いいのかい?」


「……野暮ってもんだろ」


「うん……」


 こうして知り合いが去っていくのを初めて実感する。


「そう言えば、ウチの祖父はいつ?」


「二十年以上前に。ただ、君が戻って来るまでの道筋を付けるって亡くなる直前まで仕事をしていたって……亡くなった時は君の肖像画を前にして葡萄酒片手に笑ってたって……」


「そうか。最後に顔くらい見せておくんだったな」


「遺言があるよ。手紙だと残らないかもしれないからって僕とウィシャスさんに生前に伝えてあって」


「……何て?」


「【フィーちゃんに乳母はいても母親はいない。だが、立派な祖父がいた事は忘れないでくれると嬉しいなぁ】……だって」


「あははは、祖父どころか父親も真っ青で母親もかくやだっただろうに……まったく、最後までお茶目な祖父だ……」


 思いもしなかった言葉で拳を握り締めるしか無かった。


 全ては掌の上。


 そう、最初から何もかもがそうだった。


 あの祖父にどれだけ最初から騙され、そして愛されていたものか。


 2人目の祖父というのも中々にして曲者だったようだ。


「それと陛下からもあって。未だに御存命だけど、今もあの帝国議会の裏で暮らしていなさるよ。最後の戦いに馳せ参じるには老いたから、帝都の守護だけ任せておけって毎日ドラクーン相手に勝ち越してる」


「あの人らしい」


「それと……学園の子達は……」


 言ってる傍からまた騒がしくなる。


『フィティシラ!! フィティシラ・アルローゼンは何処に居られますか!?』


 その声に思わず目を見張る。


「あの日……リリさんが学園での話しを聞いて船を見せれば、姫殿下は大丈夫だと分かって貰えるんじゃないかって……」


 思わず立ち上がる。


 すると、半開きだった扉の先からまったく近頃見たままの顔が飛び込んで来た。


「フィー!!」


「おかしいですね。何故か、五十年後の世界に親友の姿をした少女が見えるのですが……」


「ッッ」


 ギュッと親友に抱き締められる。


 先日見たばかりの姿とまったく変わらない。


 学院の制服すらそのままだ。


 その背後からはガヤガヤと少女達の声が聞こえて来ていた。


「済みません。どうやら巻き込んでしまったようです」


「ッ―――祖父と父と母から遺言があるんだ。僕と君当てに」


「……何と?」


「気にする事は無い。どうか共に進んで欲しい。その道は必ず我々が用意する、と」


「―――いいのですか? 貴女の人生を奪った女ですよ? わたくしは……」


「気にするもんか!! 今更、戻れないなら、僕は君の傍にいる!! 君が僕を親友と言ってくれる限り!!」


「……解りました。では、わたくしも本音で語りましょう」


「ぅん……」


「お前の人生をオレに寄越せ。死ぬまで傍にいてやる。ユイ」


「―――君は、君ってヤツは……親友に隠し事ばっかりだ……っっ」


 こちらの言葉遣いに何処か嬉しそうに微笑んで、少女は、彼女は言う。


「ユイヌ・クレオルは……僕は、私は、最初から貴方が、貴女が……」


 不意打ちだったのだ。


 だが、きっとどっちも都合の良い自分を止めたら、こんなものなのだろう。


『ぁ、ぁぁ、ああああああ!!? シュ、シューの浮気者ぉおおおおお!!?』


 部屋の外からドタドタと走って来る音と共に見知った声。


 次々に湧いて来る誰かの声は『ふわぁああわわあわわわあわ!?』だとか『ふ、ふしだらです!?』とか『フィーって案外積極的なんだな? なぁ、ノイテ……こっちが同じことしてもいいかなぁ?』だとか『く、本性をとうとう露わにしましたか。仕方ない……此処はガラジオンの女の手練手管というものを……』だとか『姫殿下ってやっぱり女の人も……(ゴクリ)』だとか『は!? お、女同士!? こ、これはまさかあの本にあった百合とか言う?!!』だとか。


 まぁ、取り敢えず色々な声が木霊した。


 半泣きのジト目で見てる幼馴染の手前。


 取り敢えず、相手を放そうとすると再び唇を押し付けられたのだった。


「ええと、色々後にしておくよ。取り敢えず、此処の情報封鎖とか色々しなきゃいけないみたいだし……出来れば、一時間くらいで事態を収拾してくれると助かるかな。他の政治家や諸々の人達への説明とかあるし……」


 瞳を逸らしたイケオジなフォーエが何か物凄く溜息を吐きつつ、現場から離脱して周辺区画の人員に色々と口封じしに行く事になるのだった。


「大好きです。フィー」


 それが自分の知る最後の声になった。


 頭部を何故か超重元素製のハンマーで殴り倒されたからだ。


 ちなみに幼馴染曰く。


 どうせ死なないでごじゃるとお墨付きを貰った、だとか。


 そもそもどうしてハンマーなんて貰ったのかと後に聞けば、こう答えられた。


 今後は洗脳とかNTRされる事も考えて行動した方が良い云々と幼女に言われたから、と。


 未来すら観測する連中が面白さを重視する事など黒猫と幼女を見れば明白。


 後で絶対文句を言うと心に誓う夜明けの先での一幕なのだった。


 *


 結局、後から色々と事情を聴いてみると簡単だった。


 五十年後の世界に飛ばされた面々がすぐに事情を現地の研究者達に聞いて、こちらと合流する為に停泊していた最新鋭の軍艦に同乗させて貰ったとか。


 この五十年で航空艦と呼ばれるようになったリセル・フロスティーナの技術体系を用いて造られる艦船の能力は凄まじい速度で進展しており、北部の航空産業においては宇宙に行って戻って来るスペースシャトルみたいなのがもう第三次開発まで終了。


 現在、それらの艦船の開発や半導体を最優先で大陸統一政体は勧めているらしい。


 半導体の能力は既に2000年初頭は超えているらしく。


 こちらの現代においては一般化されていた汎用量子コンピューターは大型ならば置いてある云々。


 ここ五十年で200年以上早い歴史を歩んだらしい。


「ぐす……シュウの浮気者……フン。後でこっちにもして……」


「ええと、その、はい……」


「今、サクッとお口にちゅーをねだったで? さすが教団の元教祖様やな。人を転がす手練手管がヤバイで」


「おねーちゃん。それ私達が言う事じゃないよ。たぶん」


 エーカとセーカの姉妹が呆れた瞳でこちらを見ていた。


 その背後の壁際では先程の自分の強行を思い出して顔を両手で覆って恥ずかしい病に掛かった親友がブツブツと『ああ、何で僕はあんな、はぅうぅぅぅ……』とかやっている。


「ええと、それで……そっちは二代目の内装決めるついでに意見言いながら一晩お泊り会をユイとしてたって事でいいのか?」


 その言葉にノイテが頷く。


「ええ、完成したらすぐ出航と聞いていましたから、最終確認前に乗り心地や使い心地を確認するついでにリリ嬢がユイヌさんを連れて来ていたのです」


「あ、そ、その、姫殿下!? わ、わた、わたし……」


 冷静になって来るに連れて蒼褪め始めたリリであるが、頭を撫でておく。


「お前は悪くない。悪いのはオレだ。ちゃんと倒せなかったのはオレの責任だからな」


「ぅ、ぅぅ、姫殿下……あの、ごめんなさい……」


「幾らでも謝っていい。だが、いつまでもはダメだ。それにお前らにだってオレは謝らなけりゃならない。ラニカ……お前の方で西部は把握してるか?」


「……研究所の方に父と御三方から遺言が届いていた」


「王から何て?」


「君にはオレとリリを頼むと。オレにはリリを護り、君を護れと。そして……王にしてやる事は出来なかったが、家は残しておく。いつでも帰っていつもの全員の墓に華くらいは供えてくれ、と」


「そうか。お前の父は本当に最後まで本当の王だったみたいだな……あの三人にも心から敬服する」


「……元々、命を賭けて貴方に仕えようとしていた身だ。こういう形にはなったが、覚悟を試されたに過ぎない。王にはなれないかもしれないが、家にはいつか帰る。でも、それは今じゃない」


「そうか……」


「それに付いてこちらからも一つ」


 ノイテが前に出て来た。


「そう言えば、お前の家族とも……」


「父や母からの遺言がありました。北部皇国で会った時に伝えるべき事は伝えた。家族はお前を誇りに思っていると。だから、未来で戦え。お前の望むように生きろ。そう……今も下の姉妹や兄弟達は生きているそうです」


「……色々な人にオレ達は支えられてるな」


「ひ、姫殿下」


「アテオラ?」


「その、ウチからも手紙が来ていて、両親と祖父からご苦労だったと。それと家の事は心配するな。いつか墓参りだけしてくれればいい。って……」


「そうか。本当に……済まない」


「い、いえ!? 最初から命を賭けて姫殿下にお仕えする気でした。今もそのつもりです。だから、両親や祖父ともう会えないのは寂しいですけど、私……ちゃんとこれからも姫殿下にお仕えしたいです!!」


「……ありがとうな。アテオラ」


 頭を撫でたら、ニコリとされた。


「そうだな。なら、オレも……お前らの人生を狂わせただけの覚悟を決めよう。取り敢えず決意表明しておこうか」


「?」


 教授組やゾムニス達大人組は現在ニィトで色々と情報交換している最中なので後で伝える事にする。


「今回の事で家族と死に別れたヤツの面倒はオレが一生見る。ゾムニスやその部下達、教授連中、ヴァーリ、全部だ」


『―――』


「それで……こういうのはあんまり言わないようにしていたんだが、一応……大公家の法規は左程他国と変わらないが、皇帝家関連については特例条項が儲けてある」


「何が言いたいんだ? フィー?」


 デュガに首を傾げられる。


「………この条項には男女の別が想定されて無い。抜け穴がある。ただ、オレは心は男だというのは伝えておく。五十年後の未来でお前らを取り巻く環境から全部護ってやれる程、オレは万能じゃない。だが、此処で何もしないのは論外だ。オレはお前らに幸せになって欲しいと思ってる」


「ええと、つまり?」


 デュガシェスが首を傾げる。


「朱理、詠歌、聖歌」


「え、あ、ぅ、ぅん」


「な、何やの?」


「ヨンロー?」


 息を整える。


「ユイヌ、デュガシェス、ノイテ」


「う、うん。何? フィー」


「何が言いたいんだ? フィー」


「ッ……その、あの……」


 更に息を整える。


「アテオラ、イメリ、エーゼル」


「は、はい。姫殿下」


「何を言い出すつもりですか……?」


「え、ぇと、姫殿下? その……」


 覚悟を決めておく。


「そして最後にリリ。オレの指は十本ある。一番以外で良ければ、指輪を嵌める場所は開いてる」


 その言葉でラニカが顔を白黒させていた。


 まだ分からないという顔をする年少組と解っている組に分かれた。


「良かったやん。一番やて。一番♪」


 エーカが朱理にこのこのと愉し気に肩を突いてニヤニヤしていた。


「え、あう、あ、え、ぅ……でも、他の人もって……うっ、ぅぅぅ~~~」


 そっちは真っ赤になったり、でもやっぱり他を見て嫉妬に駆られたりと忙しくしている。


「もう……これでヨンローは名実共に本当のまるでダメなお姫様。マダオになったわけだね?」


「いや~~? でも、ウチらもそういう初めての事を自分から言い出しとったし、内心嬉しい癖に~」


「な゛、おねーちゃん!!? 此処でそんな事言わないでよ!?」


 姉妹が言い争い始める横ではユイヌとノイテとエーゼルが紅い顔でこちらをジロリと睨んでいた。


「き、君は節操が無いんだから!?」


「ええ、間違いありません!! 節操無しですね!?」


「姫殿下。こ、こんなところで!? は、はしたないですよ!?」


 まだ解ってないアテオラとリリとイメリであったが。


「リリ!? お前、いつの間に!? いや、だが、これなら今後は安泰なのか? いや、ラニカ!? よく考えろ!? こ、この場合、ど、どういう心境になれば……と、とにかくだ!? オレが言うまでお前に結婚は早過ぎる!! リリ!!」


「え、ええ!? け、けけけけ、結婚!? お兄様!? 結婚て、はッ!?」


 こちらを見てようやく気付いたリリが思わず赤くなる。


 そして、アテオラとイメリがラニカの言葉でようやく意味を理解して同じく赤くなっていた。


「ん~~ふぃーだかんな」


「お前緩いな。こういう時まで」


「ふふ、だって、ふぃーはそういうのだし。ん……」


 また不意打ちだった。


 おずおず近付いて来たデュガシェスが何だか今までに見た事の無い少しだけ甘い頬を染めた笑顔で近付いて来て……。


『あ゛~~~~?!!!』


 女性陣の悲鳴が木霊する中。


 唇の中まで蹂躙されるのだった。


 *


「エーゼル。兄弟達の事を教えてくれるか?」


「あ、はい。家の子達はあの日は研究所で寝泊まりしていて、その日はリリさんに誘われて船の雑魚寝用の船室を貸して貰ってお泊りしていたので……ただ、姉さんの子達は姫殿下の邸宅にいたので……」


 取り敢えず、全員の身の上を色々と聞く為に追加で1時間くらいリセル・フロスティーナに乗っていた人員に聴取する事になっていた。


 結局、仲間内で外に出ていたのはフォーエ、ウィシャス、イゼリアだったらしい。


 ゾムニスもまたその日は部下の中でも家族がある者は返して、南部皇国行きに帯同する単身者ばかり集めて設計技師連中と色々と詰めていたらしく。


 家族と生き別れになった者はゾムニスの部下にもいなかった。


「物凄く迷惑掛けただろうな」


「は、はい……すぐに姉さんが来るって言われたんですけど、ゼド教授が何の効果があるか分からないから、しばらく様子見した方が良いとバリアーを解かなかったんです。実際、それは正しかったと思います」


「まぁ、功罪は後に取っとこう。取り敢えず、五十年後なら時間は稼げたと思うべきだ。それは恐らく相手もだが、あっちの状況を確認したら、未だに時間障壁は解ける気配が無いらしい」


「つまり?」


「オレが脳裏で予測してもそうなってる。しばらく、混乱の収拾に当たりたい。南部皇国行きは延期だが、それまでに五十年後の技術と知識……それを使った成果物。頼めるか?」


「ッ、お任せください!! 姉さんと弟妹達に色々話を聞いた後、すぐに取り掛かります」


「悪い……本当はもっとゆっくりさせてやりたいんだが……」


「いえ、姫殿下が止めてくれたから、この程度で済んでた事くらいは解ります。もしも、姫殿下がいなければ、全てが塵になっていた可能性だってあるんですよね?」


「ああ、まぁ、そうだが……さすがに仲間内から親の死に目に会えない連中を出す事になるとは思って無かった……責任は責任だ。取れない責任は取り様も無いが……取れるものは取るさ。いや、取らせて欲しいんだ」


「……そのぅ。一つ聞いてもいいですか?」


「何でも聞いてくれ」


「姫殿下は……私の事を?」


「可愛いと思ってる」


「ふぁ?!!」


「少なくともお嫁さんにしたいと思うくらいには……それはきっと無い事だと思ってたが、状況がこうなった。それだけじゃないが、それが一押しなのは間違いない。それは他の子も変わらない」


「でも、一番は……シュリさんなんですよね?」


「……悪い。これはオレの我儘なんだ。そこらの王侯貴族が愛人持つようなものだと思ってくれていい。その批判は正しいし、受け止めるつもりだ」


「いえ、そんな事。女は愛する方に一番を求めますが、貴族社会はそういうものではありませんから……それに姫殿下が私と姉さんを助けてくれたから、私達は今も弟妹達と一緒に暮らしていられたんです。御恩のある姫殿下の愛人になるというのは……とても嬉しい事ですよ」


「エーゼル……」


「それが一番でないのはちょっと残念ですが、敬愛する方の傍で侍る事が出来るのは報われない恋が多い貴族社会の中ではとても稀有で幸せな事じゃないでしょうか……」


「必ず幸せにする。とは今の状況じゃ言えないかもしれないが、これだけは約束する。お前らの未来を必ず護る……護らせてくれ」


「っ、はい。では、私は姫殿下の体と明日を護る力を必ずご用意しますね♪」


「ああ、頼んだ」


 部屋の隅で聴取していたのだが、何やら横からビシビシと視線が突き刺さって来る。


「なぁなぁ、さっきちゅーしたばっかりな女が横にいるのに他の女と良い雰囲気を作る男ってどう思う? ノイテ」


「まぁ、仕方ないでしょう。一応、後宮造りますと言われましたし、そこは見て見ぬフリをして横からサッと鳥のように持っていくのが良いかと」


「先程、一世一代の決断をしたばかりなのに僕が霞んでる気がするんだ」


 元竜騎兵組とユイがジト目でこっちを見ていた。


「あ、あれが、シュウの手管だぞ!! 昔も何回か学校から来た女がシュウの事を盗ろうとしてたから、こっそり気が無い風に見えるようシュウの部屋とか人間関係の周辺に工作するの大変だったんだからな!!」


 何か聞き捨てならない事を暴露する幼馴染もいるらしい。


「姫殿下はええと、ジゴロ? とか言うのだったんですね!!」


「お兄様。ジゴロって何ですか?」


「ええと、沢山の女性と御付き合いする方の事かな」


 アテオラがグサリと来る事実を突き立て、リリが兄の目を逸らさせていた。


「なぁ、イメリんはどう思う? あの絶妙に一線引きながら乙女を懐柔しようとする男」


「……ゴミですね。哀しいかな。それでも今の状況では色々な面でそうするべきというのが合理的な判断です。まぁ、その……少なからず、可愛いとか思ってくれているなら、吝かではありませんが……後でジックリとそこらを掘り返してみようかと。何せ婚約者ですから」


「あははは、ちゃっかりしとるなぁ。なぁ?」


「おねーちゃん。上機嫌なの面に出過ぎじゃない?」


「ええねん。あの餌をやらん主義のシュウが餌を大盤振る舞いするって言うんやから。ふふ、今後の夜が愉しみやで~~」


 夜見姉妹がイメリと共にこちらを生温い視線で見ていた。


「まさか、こんな事になってるなんて……シュウ……」


 その状況を見ているのはこの空間にエントリーしたばかりのルシアだった。


 かなりジト目でドン引きだ。


 ついでにこんな人だったんですね的な視線が痛い。


「そや、ルシアもウチらの仲間にならんか? 五十年後の世界やで? 背後に大物が付いとらんとたぶん色々面倒事になる。ヴァーリは領土問題や外交関係考えてもその方がええんちゃうん」


「ゲッホ?!!」


 思わずエーカの言葉に吹き出したところでルシアが思ってもみなかったというような顔になったが、すぐにこちらを見てから思案した様子になる。


「………今回の一件は護って貰った手前、何も責められたものではないと思うのですが、確かにヴァーリの民を護る為にも邦長として出来る事は全てしたいと思います……」


「ル、ルシア?」


「か、感情やその他の個人の事は今は抜きにして……確かに悪くない案だと思えます。元々、何処かから婿養子を貰う事になっていたので……帝国の最重要人物と婚約するのはこちらとしてはきっと願っても無い事で」


「いや、よく考えてからの方が……」


 と、言ったところでルシアの瞳が何やら燃え上がった。


 ついでに少し頬が紅かった。


「婚約して頂けますね!! シュウ!!」


「は、はい……が、頑張ります」


「あ、でも、指が十本じゃ足らんな。一本指増やすか。あるいは指輪付けたネックレスでも掛けるかやな」


「エーカ。お前はもう黙れ。お願いだから……」


 何かもう恋愛事情はグチャグチャである。


 自分が悪いのは良いとしても何かもう精神的な疲労で失神するかという状況だ。


「ま、また、シュウが浮気してる!!」


「ええと、ちょっと多重婚約してるだけだ……他意はない」


「その内、多重債務者みたいに破産するんだから!? この、この!!」


 涙目の幼馴染に頬を引き延ばされた。


「ふぁるいふぁるい。ふぁからふぉろふぉろひゃふぇろって」


 このように全力で状況整理していると外から顔が覗いた。


「もう終わったかい? って、何してるの? フィティシラ……」


「ちょっと、こいつら全員と婚約してただけだ」


「―――そう。聞かなかった事にしておくね……」


 どうやらこっちの対応の仕方はこの五十年で知らぬ間に学んだらしい。


「そうしといてくれ。それで帝都からは?」


「受け入れ準備はされてたけど、後3日は欲しいって連絡が来たよ」


「解った。取り敢えず、時間変動はもう観測されて無いって事なら、諸々の状況整理や人と会うのは数日はニィトでいいな?」


「構わない。周辺区画はドラクーンの艦艇の半数で固めてあるから、他の国。いや、今は殆ど地域化してるんだけど、そっちの有力者も来れないようにしてあるから」


「了―――」


『緊急。フォーエ師団長。ドラクーンの網を抜けた艦艇があります』


 いきなり部屋に放送が掛った。


 それに部屋の受話器を取ったフォーエが何処のだと訊ねると。


『敵味方識別を確認。これは……ドゥリンガムの旗艦とガラジオンの空母ですね。どちらも登録されている中では最新鋭艦です。どうしますか?』


「あ~~オレが対応する。艦を受け入れてくれ。会合場所はニィトでいいか? ルシア」


「すぐに受け入れ準備を。先に降ります」


「悪い。色々後回しになるが、終わったらちゃんと話そう」


「はい……」


 ルシアがすぐに邦長の顔に戻ってニィトに戻る為に通路に出て行く。


「フォーエ。しばらくこいつらを預かっててくれ」


「いいけど、一緒に行かないのかい?」


「政治の話に興味があるヤツだけ付いて来い。今の状況でよく分からん話を整理する面倒な現場に居合わせたい奇特なヤツがいればな」


 全員が互いにアイコンタクトを取った後、待ってるかという顔になった。


「イメリ。お前だけは後で今回の話合いの諸々を書面で見て貰うぞ。南部皇国の現状とかも知らないとならないしな」


「解りました」


「よし。総員休憩だ。しばらくゆっくりしててくれ。船の人間に迷惑は掛けない事。ただ、情報収集だけしておくように。歴史とか常識とか色々分からない事が多過ぎるからな」


 全員が頷いたのを確認してフォーエに後を任せる。


 すぐに何処かに電話していたかと思うと通路の先から若きドラクーンの卵がやってくる。


 バンデシスの孫だった。


「再度、自己紹介を!! アルジャナ・バンデシスです!! 姫殿下の御案内役を仰せ付かりました!!」


「よろしくお願い致します。アルジャナと呼んでも?」


「ご、ご高配を賜り、か、感激です!!」


「そう硬くならず。これから忙しくなるので、開いた時間に色々と至らぬわたくしに教えて頂ければ……」


「承りました!!」


 最敬礼でガチガチのバンデシスの孫はどうやらドラクーンとしてはそれなりなようだが、緊張でプルプルしていた。


「では、ニィトに降ります。設営が終わるまでに来訪者の誘導をせねばなりません。ニィト側に秘密滑走路の使用許可を取り、受け入れ準備を進めて貰って下さい。同時にそちらまで出向きます」


「ハッ!! お任せを!!」


 共に歩き出すと区画を抜けた途端にドラクーンが大量に通路で警備していた。


 だが、最初期の6000人ではない。


 あの後、増やされた第二世代以降なのだろう。


 それにしても若い連中が多かったのでドラクーンの卵を乗船させた練習艦なのかもしれない。


 最敬礼で通路を警備する者達に微笑みだけ返しながら、艦後方のハッチのある倉庫に入ると。


 既に小型の船が一隻入っていた。


 船というよりは輸送機に見えるが、小型で翼の無い箱型だ。


「こちらをお使い下さい。狭い場所でも離着陸出来る優れものです」


「解りました。では……」


 倉庫内で最敬礼している若者達を前に機体の前で振り返る。


「この艦に乗る全ての方達にまずはお礼を申し上げます。わたくしはフィティシラ。フィティシラ・アルローゼン。この地に五十年間囚われていた者です」


 少し艦内に響くように声を調整する。


「わたくし達が五十年間囚われていた異変の最中も帝国を……いえ、この世界を護り続けて来たドラクーンがこうして今も目の前で己の使命を全うしている姿はわたくしの理想とするものでした」


 やはり、演説するのにはバイツネードのおねーさんの力がかなり有用だ。


 ファイナという人物関連の情報はバイツネードとの戦いで是非手に入れておくべきだろう。


 あの妹呼ばわりしてくる兄にもケジメが必要だろうし、こちらとの共通点にも重要な秘密が隠されているかもしれない。


「未だ成り立てという方もいるでしょうが、それは関係ありません。貴方達はこうして立派に仕事を勤め上げている。その姿こそがわたくしの思い描いた未来なのです」


 艦内に声はちゃんと届いているのを確認して続ける。


「これよりバイツネードとの最後の戦いが始まる。若い皆さんにはきっと初めての事でしょうが、仲間達に死人も出れば、相手を殺す事にもなる」


 恐らくは化け物とバイツネードのクローン系の改造人間みたいなのと戦う事になるが、それも含めて諸々をやっておくべきだろう。


 が、それは後でだ。


 それに戦ってみなければ分からない事は多い。


「わたくしが戦端を切った時、皆さんに見せられるのはこの背中一つだけ……その時、大陸の未来と人々を災禍から護るのはやはりドラクーンの役目となる」


 艦内は静まり返っていた。


「わたくしは誰かの手を借りなければ、何も出来はしない小娘に過ぎません。どうか……この至らぬ我が身に今後もその若き力をお貸し下されば、幸いです」


 声を普通に戻して搭乗する。


 ハッとした様子で我に返ったアルジャナがすぐに同じように乗り込んで機内の操縦室に向かい。


 指示を出して艦内のハッチが開いたと同時にニィトへと向かう。


 ニィトの構内の広場にはもう同じ機体が着陸しており、こちらが来たと同時に再び上空の艦内へと戻っていった。


―――アルクタラース艦内。


『き、聞いたか? 今の声?』


『あ、ああ!! あれが!! あれが!! 伝説の―――』


『綺麗なお声、だったな……』


『ああ、それに……本当だったんだな……』


『誰よりも他者に頭を下げた偉人、か』


『慎みと貞淑の象徴。苛烈なる者達の母……』


『ドラクーンを生み出せし、真なる創造者』


『……う、ぅぅ……これが聖女様の……』


『お、おい。泣くなよ……た、確かに感動してるけどさ。オレ達も……』


『今日の事……オレ、死ぬまで絶対忘れない!!』


『はぁ……フィティシラ。ドラクーンの卵をさっそくいつもの調子で篭絡しないで欲しいんだけどな』


 師団長は自分の部下が一気に聖女贔屓になったのを実感しつつ、溜息を吐くのだった。

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