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ごパン戦争  作者: TAITAN
悪の帝国編
501/789

第114話「始りの器」


「我が国の始りは凡そエルゼギア時代。一つの力を手に入れた皇帝から始まります。それを研究するのが此処……ブラスタ女碩学院なのです」


 待っていた男。


 帝国陸軍中将。


 親友の父親。


 一族で護って来たのだろう帝国の最重要機密は男と白衣の者達の背後にあった。


「イブルステ伯爵、セルア伯爵、ビオメ子爵……帝国最優にして技術の発展に寄与した本当の秀才であるあなた方がどうしてウチの研究所の要請を断ったのか。察してはいましたが、やはりと言うべきか。背後のソレをずっと研究し、バルバロスを用いていたのは秘匿された貴方達とその配下でしたか」


 三人の白衣の老人が僅かに頭を下げてから自ら横に退いた。


 こちらにやってくる一度も私的に顔を合わせた事の無い男は40代。


 しかし、中将という肩書にしては威厳よりも柔和な笑みが頂けない人物だ。


「娘の事は一族で決めた事。あの子自身には何も落ち度が無かった事だけは言い添えておきます」


「解っていますよ。別に怒りなどしませんし、その理由もありません。それで貴方達の背後にあるのが蒼の欠片ですか」


「そう……我々がエルゼギアより引き継いだ人類の創造主たる者達の叡智。その一欠けら……」


 男の言葉と同時に白衣の男達が電圧を掛けるのだろう大きなレバーを壁際で引く。


 すると真っ暗闇だった奥の空間が露わになる。


「貴方が齎した単位で言えば、全高32m、幅14m、嘗てブラジマハターと戦い機能を停止した被造物という事になりますか。最新の古文書研究で判明した情報で補足すれば、ですが……」


「………これが帝国の秘密」


 背後でラニカが狼狽えていた。


 それはどう見ても巨大な甲冑に見えただろう。


 いや、どちらかと言えば、頑強そうなロボだろうか。


 しかし、生物的な人型のフォルムと巨大な肩の丸みを帯びたブースターのような造形。


 大きく刳り貫かれた本来は円錐形に近いフォルムだったとも割れる胸元。


 力を失い仮面を被ったような能面に書き込まれた瞳の部分には色が消え失せている。


 全体的に青紫色のようなソレは装甲そのものが蒼い結晶にも見える透明なものであり、内部に行く程に透明度が落ちるようだ。


 全体的な重装甲型のロボのようだが、その竜のような尾やフォルム的に人型竜に近いところからは先日撃破した蒼と白の混合型よりも一見して古臭く見えた。


 洗練されていないという事になるだろうか。


 先日のは確実にこちらの美的感覚から言ってもカッコいいの部類だったが、こっちは泥臭い鎧染みたところが一昔前の帝国やあちこちで使われた全身鎧を彷彿とさせる。


「ブラジマハターと戦い……ブラジマハターはやはり南部と関連あるようで此処にはもういないのですね」


「そこまで知っていましたか。エルゼギア時代に王家の口伝だけで伝わっていた事をお伝えしましょう。ブラジマハターはエルゼギアの初代皇帝とは旧知の仲となる黄金に輝く竜だったそうです。この大陸に住まう百以上の力持つバルバロス。その一体にして頂点……」


「しかし、元々はそんな名前では無かった。そして、エルゼギアの貴族やブラスタの血族はその竜と共にブラジマハターの齎す四つの力と戦う道を選んだ部族だった。という事で?」


「―――何もかもお調べになられたようで。ええ、その通りです。エルゼギアに集った民族の多くが彼の竜と共にコレ相手に戦い勝利した後、この使者の残骸の力を用いて自らを強化したのです」


「それが帝国の始り……」


「四つの民族に分け与えられた力ですが、それぞれに血統的な資質として現れるようになった。最初は単に個人を強化するものだったそうですが、それが血統に受け継がれるという事実が解り、歴史も一部書き換えて、最初からそのようなものだったとしたのです」


「……ブラジマハターはやはり四つの力を造った造物主の名前なのですね」


「ええ、この名前を持ち出したのは四つの力を欺き。滅ばぬ為の法便……エルゼギアよりも前の時代。先史文明期の事は殆ど失伝しておりますが、それでも文明が滅んだ理由は石板などの古文書に拠れば、四つの色と力を司る強大な存在によって滅んだとされていた」


「そして……帝国陸軍はこれを皇帝陛下より受け継いだ後、その力の研究と利用方法を確立し、バルバロスを生み出す機能を一部使用出来るようになった、と」


「正解です。全て予測しておられたようですね。この場所に隠匿したのが30年前。この場所からバルバロスの能力で地下に通路を掘り進め、各地の水脈と被らないよう張り巡らせた大経路と呼ばれる隧道が此処に繋がっているのです」


「バルバロスの移動が迅速過ぎると思っていましたが、軍がバルバロスを殆ど地表や空で輸送していない理由がようやく解りました。地表の塹壕線の進捗が想定外に早過ぎたのも最初から知識や技術を蓄積させていたからなのですね」


 中将が頷く。


「では、これを少し使わせて貰います。今回の竜の国の侵攻はコレが狙いですから」


「交渉の場で使われると?」


「どちらかと言えば、ソレはコレをわたくしがある程度理解出来てからになるでしょう。その為の鍵は持ってきました。先日、ヴァーリにおいて白と蒼が顕現した際に手に入れたものです」


 背後から布に撒いた剣を取り出す。


 剣身が露わになると誰もが驚いた様子になる。


「それは……」


「ええ、同じモノですよ。ヴァーリで退けた相手は恐らく今そこにあるものよりも洗練されていた様子なので同類なのでしょうね」


「よくぞ御一人で……」


 中将にしてみれば、ソレはコレと同じ。


 つまり、嘗て四つの民族が神の如き存在と共に倒したモノを1人で倒したと言っているに等しいのだ。


 その地下に埋まるようにして鎮座しているソレの胸元の大穴に続く通路を歩いていき、上半身だけでも威圧感のあるソレの前に立って剣を翳す。


 すると、ボウッと剣とソレに光が奔った。


【RE:START……】


「全てのコマンドを日本語で表示しろ」


【主要言語をマスター言語JPに固定】


 頭を日本語に切り替えて、光の入った巨人を見やる。


「使えるのか……」


【主要コマンドを喪失中。コマンド・プロンプトを用いてコマンドを実行しますか?】


「保留だ。現在、保留、実行不可能になってる最優先コマンドを優先表示。更に現地知的生命に関する生命及び社会に関してのコマンドを全部並べろ」


 瞬間的に大量のウィンドウが周囲に展開される。


「おお!? まさか!? お使いになれるのですか!? 今まで、我らが僅かばかりしか使えなかった力を!! その全てを!?」


 白衣の老人達が驚きに目を見開きながら膨大な量のウィンドウを前にして呆然とする。


「………成程。殆どのコマンドの実行率がパーセンテージで表示されるのか。ついでに中身も殆ど社会的な発展に関連するものばかり……と」


 項目の多さからしてすぐに何かするのは難しいだろう。


「知的生命に直接干渉して応用出来る戦術、戦略及び技術、兵器類のリストを出せ」


【検索、結果を表示します】


 更にウィンドウの数が増える。


 色分けされたそれを目の前に並べさせて眺めれば、相手の技術の程度が万能の域に近いのは理解出来た。


「………オレの人格と記憶に関する関連コマンドとデータがあれば表示。更に使用履歴を表示」


【検索、結果を表示します】


「……何? どういう事だ? 0?」


 そこには検索結果0件との表示。


「404じゃないのか? もう存在しない。過去に存在した場合も表示」


【検索、結果を表示します】


 再び0の回答。


「……此処にいる知的生命が今まで当該OSに対して運用した実績を全て並べろ」


【検索、結果を表示します】


 ズラッと三十年分の記録が出て来たが、ここ数年だけを更に詳細に検索。


 検索エンジンとしては優秀らしく。


 即効でそれっぽい単語が出て来た。


「パーセンテージ表示されない? どういう事だ?」


【コマンドの失敗】


「失敗? 成功しなかったのか? 詳細情報を表示」


【実行】


 ウィンドウ内に情報が羅列されていく。


 だが、最重要なところだけを抜き出すとこう書かれていた。


 ―――当該コマンドの実行に失敗。失敗要因の解析コマンドは喪失している為、検査を行うも現リソースにおいては不可能と断定。未解決コマンドに指定され、情報をボックスに隔離しました。


「………なら、オレは何処から……いや、この場合は誰にと聞くべきか」


 その言葉を拾ったらしく。


 蒼い光がこちらを包み込んだ瞬間。


 バチュリッとウィンドウが一斉に焼き切れた。


「―――まさか? お前か」


 片腕に話し掛けてみるが、何も語らない。


 ただ、そうなるとしたら原因はソレしか考えられないだろう。


【再起動。全データのフリーズと共に解析コマンドの43%が崩壊しました。残存コマンドでの復元をバックアップから実行中……復元終了】


「オレ以外からのアクセスに制限を加えろ。他のアカウントや管理者権限の詳細を表示」


【実行……管理者権限詳細を開示。クリアランス・デミウルゴスは自動端末であり、上位権限は全て蒼の奏者に帰属します。アクセス権限の変更は出来ません】


「……じゃあ、アクセス権限じゃなくてスタンドアロンにしてオレ以外からの全アクセスを遮断するのは可能か?」


【可能】


「即時、実行。その後、アクセス権限の現保有者から他者に対して直接新規アカウントの取得を行う以外ではアカウントの作製を不能にしろ」


【実行】


「現在、実行されている自動コマンドを全て開示。開示されたコマンドで社会と知的生命に現在も使われて影響が及んでいるものを開示」


【実行】


 ウィンドウの数が絞られて目の前に出てくる。


「……中身は殆どが文明の発展に向けて、問題をわざと起こす感じか。これらは即時停止。コマンドは保留状態で凍結」


【実行】


「現在、お前が内包する情報の全てを圧縮して、オレの脳内に好きな時に展開出来る書庫として整備する事は可能か? もしも可能ならば、通常の記憶領域を犯さず、脳内の精神や人格に影響が出ないように展開出来るか?」


【解析中……可能と判断。六次元領域内に情報を格納、海馬の一部を同期接続し、脳内座標を相対的に捕捉出来る三次元空間内の座標としてプラットフォームを置き、電子信号として情報を送る方式であれば、情報の即時展開が可能です】


「そのプラットフォームとやらをオレの脳内に構築した場合の知的生命体としてのメリットとデメリットを聞こうか」


【デメリットは四次元以上の高次の次元からの干渉を受けやすくなる事ですが、当該情報のリンク以外からの干渉を切断すれば問題ありません。メリットは四次元以上の次元を認識可能になる事です。その場合、情報汚染、ミーム汚染の可能性が高まります。これらはフィルターを用いる事でリスクを限界まで低減させる事やシャットダウンする事も出来ます】


「それで情報や心理的な汚染か? 今の方法で頼む。元に戻す方法も待機中に模索しておいてくれ」


【実行。コマンドの追加を受諾】


 ほぼ言葉が終わると同時に一気に視界が明滅し、僅かに歪む。


「………」


【有機プラットフォームを脳内において形成。コマンドで特定のキーワードで起動致します】


「キーワードは……前後の文脈でオレがプラットフォーム内に情報を得る為に『プラットフォーム起動』と脳裏もしくは音声で出力した場合だ」


【言語解析用のプログラムを常駐させますが、よろしいでしょうか?】


「構わない」


【実行】


「最後にオレの肉体の現在の能力をそのままに体液や細胞そのものを他者にとって有毒じゃないよう無害化する事は出来るか?」


【解析中……一部、解析不能の実体を確認】


「その部位は省いていい」


 どうせ、ソレは例の怪物の侵食痕だ。


【了解………解析まで残り8秒………終了】


「どうだ? 出来そうか?」


【超重元素を有機化合物と原子レベルで結合させ、肉体の有機結晶化を行った場合にのみ可能】


「その場合、外見や肉体や精神に変化は出るか?」


【………予測結果を網膜投影】


 現在の肉体のビフォーアフターが見える。


 肌が完全に白化するらしい。


 白紙並みに真っ白だ。


「これで無害化したオレの肉体の細胞や体液は他の現在この地球上にいる生物、特に知的生命に対してはどう働く?」


【効果一覧を表示】


「………はぁぁぁ、何で逆に薬になるレベルで有用な効果になるのかが分からないな。いや、説明はしなくていい。後で情報を展開する際に一番最初に表示されるようにしておいてくれ」


【了解】


「取り敢えず、有毒じゃなければいい。その効果を自分で薄めたり、強めたりは出来るか? 出来るならそうしておいてくれ」


【可能。実行。生体細胞の順次構造転換用の構成式を構築。終了】


「さすがバルバロスを造るだけある」


【生体細胞の構造転換を開始しますか?】


「その前に現在知られてる全ての超重元素をオレの肉体が採り込めるように出来るか? 無論、オレの精神や肉体に影響が出ないように……さっきの外部の知的生命体に対しての効果も同じかも含めて訊ねるぞ」


【……現在の当該個体フィティシラ・アルローゼンの生体細胞ならば可能と判断。予測結果として92%以上の確率で致命的な変異は無いと判断】


「最低限の条件はパスしたか……」


【他の生物に対しての効果の肯定的な項目の効率が平均821%上昇。否定的な項目の確率が平均99.9999999%低下】


「オールナインと来たか。だが、呑み込まなきゃやってられないな。これからバイツネード本家ともやり合うし、出来る限りはしとくか。その能力を付け足しておけ。外見的な変化はあるか?」


【予測結果を表示】


 すると、肌が白くなるだけではなく。


 髪まで白くなった。


「構わない。実行後にまた改変出来るようにその系統の技術的な関連情報は最優先で表示出来るようにしといてくれ」


【了解。これより生体細胞の構造転換を開始……1分12秒お待ち下さい。実行中―――】


 ふわりと周囲が重力異常を引き起こしているらしく体が浮く。


 それと同時に蒼い燐光が周囲に舞い始める。


 その中で肉体の隅々にまで何やらピキピキとした骨が鳴るような感覚がして、体内が物凄い勢いで変質しているのが解った。


 それにしても生体改造を行われたバルバロスを造り出す機構なだけあって、かなりその速度が速いのが感覚的に感じられた。


 感覚的な変化は殆ど無いのだが、観測したり、知覚出来る領域が増えたせいか。


 世界が精細に見えるようになった気がする。


 視覚情報だけでもかなりの違いだ。


 今まで虫眼鏡だったのだが、一足飛びに電子顕微鏡になったような。


「お、おぉおぉお!!? こ、これはまさかバルバロスの最誕!!! 同じだ!? あの壁画にあったようにエルゼギア時代の四民族が力を手に入れた時と同じ!!?」


 白衣の老人達が涙を零しながら、何か奇跡でも見てます的に両手を組んで祈る形にしていた。


「肌と髪が白く?」


「こんな……」


 背後の2人の男性陣が呆然と呟く。


 中将閣下もどうやらこうなるとは思っていなかったらしく。


 瞠目していた。


 そうして、重力異常が終わったのと同時に脚を地面に付くと何か物凄く軽いウェハースの上に立っているような気分になる。


 肉体の状況を少し感じてから溜息を吐くしかなかった。


「全能力にリミッターを掛けろ。具体的には変化前のオレくらいまででいい。好きな時に開放出来るようにキーワードも決めておこうか。キーワードは能力開放だ。文脈で捕捉するように」


【了解。光誘起相転移方式での能力のリミッター制御を実行。本方式は特定の光を発しない限りは肉体的な五感の一部と筋力に制限を掛けるものです。物質の光による物性制御によって一つの物質を多種類の物質のように動作させます】


「後で詳しいところを聞く。これが最後のコマンドだ。出来るなら、躯体をオレが持ち運べる大きさまで縮小しろ。形は何でもいいが、社会的に不信に思われないものがいい。破損個所は修復せずに分離して此処に置いていけ。出来るか?」


【破損個所は全て武装及び機能中核となるコマンドの使用権限があるコア機構となります】


「システムからも切り離して再構成。オレ以外からの干渉を弾くスタンドアロンにしろ。ただし、オレのコマンド以外で修復出来ないように調整しろ」


【了解。実行。空間収納及び分子構造の転換を開始。超凝集体に移行。破損個所をパージ】


 途端、巨大な人型の大穴の空いた場所がズガンッとこちらの視界ギリギリまで迫出して分離され、巨大な人形だったものがガチャガチャと積み木のブロックのように崩れながら縮小して虚空で渦を巻いてパーツの濁流となり、最後には輪っか上になって更に小さく凝集し、ミッシリと微細な回路を詰め込んだような蒼い半透明の指輪となった。


 それがスポリと人差し指に嵌る。


「中指にしろ。後、これで起動は終了だ。次回起動まで待機状態に移行。使用者の身に危険が迫った時だけ緊急起動しろ。いいか?」


【了解。実行。待機状態に移行します………】


 そして、会話が終了したと同時に今までの長話が嘘のように時が動き出したような気分になる。


 懐中時計を見てみると。


 時刻は先程から3分も経っていなかった。


 どうやら、クロック数の高い状態で相手と会話していたらしい。


「姫殿下。一体、何を為されたのですか?」


 中将閣下がすぐに傍まで戻って来る。


「このブラジマハターの使いを一応は手懐けました」


「何と!?」


「それとコレの破損部位だけは残して行きます。それが恐らくはブラジマハターと繋がる最も恐ろしい部位であり、破滅を引き連れて来るなら、この部位でしょう。今後は更に地下を掘削して厳重封印用の施設を建造、人間のいない地域に封じて下さい。他の有用な部位はコレになりました」


「指輪……先程の巨大な人型が? いや、本当にそうならば何という……」


「一応、バルバロスを任意に作成可能になったとだけ伝えますが、本来は命の創造というのは禁忌。これで軍のバルバロス研究も一段落でしょう」


「つまり、それは?」


 白衣の老人達に目を向ける。


「わたくし一人でバルバロスを生み出せてしまう以上、これからはバルバロスの有効活用の面で皆さんは軍にお仕えして下さい。今後、国難の際にあっては新しいバルバロスの創造はこちらで行い。配布致します。よろしいですか?」


「「「……御身の御心のままに」」」


 何故か、泣いていた老人達が歓喜の表情でこちらをキラキラした表情で見ていた。


「今後は我が研究所と合同で諸々を行う事もあるでしょう。その時はまた皆さんの叡智をお借りする事もあるはずです。その時までどうかご壮健で……中将閣下」


「は、何でしょうか?」


「……失敗していましたよ。貴方達の計画は」


「失敗?」


「わたくしはどうやら、この力によって導かれて、この肉体に生まれ変わったようですが、実行自体は別の力でなされたという話です。恐らくはわたくしが前から持っていた力に関連するのでしょう」


「何と……では、秘儀は失敗だったと?」


「今後はコレがわたくしの手にある以上は使えなくなります。ですが、一つだけ……」


「何でありましょうか?」


「わたくしにもう一度可能性を与えてくれて……ありがとうございました」


「―――御身に怒り、悲しまれる事は想定しておりましたが、感謝されるとは……世の中は分からないものですな。姫殿下」


「ふふ、そうですね。では、わたくしはこれで。竜の国との決着を付けに行かねばなりませんので」


「どうか、ご無理を為さらぬ様……」


 頷いて、その場を後にする。


「髪と肌が白くなったな。世の中の女性には勧められ無さそうな化粧だ」


「「………」」


 背後の2人は何かもう物も言えない様子でこちらを凝視している気がした。


 外に出ると。


 待っていた親友がこちらを見てから驚き。


 何も言わずにギュッと泣きながら抱き締められた。


「何か泣く事がありましたか? 親友さん」


「―――君は、もう!! それもまた化粧と言い張るつもりなのかい!?」


「ええ、今度は驚きの白さと銘打って化粧品でも売りましょうか」


「もうッ、もうもう!! もぅ~~~ッッ!!?」


「そんなに牛の真似が好きとは知りませんでした。ですが、ありがたく受け取って置きます」


 背中をポンポンしながら、空を見上げる。


 人間を止めた程度で感傷に浸っていられる程に状況は甘くない。


「リージ。ラニカ」


「「はい……」」


「リバイツネードに連絡を。バイツネードからの嫌がらせが来ます。これから死なない程度に働いて貰いますよ、と。それと保護した子供達にも会いたいので、そちらの準備もして下さい」


 2人が頭を下げて離れていく。


「?」


 そして、周囲を見やるとおざなりに隠れたつもりになった女生徒達が大量に頭隠して尻隠さず的な間違い探しのように庭のあちこちでこっちを凝視していた。


「どうやら悪い子達が案外我が校にも多いようで……皆さん!! 避難先までご一緒しますから、共に行く方は出て来て下さい」


 その瞬間、ブワッと涙浮かべまくりの大貴族の子女達がワンワン泣きながら出て来た。


 どうやら、1人でこの場所を護っていた生徒会長が心配で見ていたらしい。


 その中にはイゼリアまでいた。


「どうして此処に?」


「仕事場が近いから何事か見に来たのよ……」


「そうですか。そちらはリージ中尉と共に研究所の方に避難して下さい。兄弟姉妹もそちらの方が良いでしょう。これから帝都は戦時体制に移行します」


「バイツネードがこの状況で仕掛けてくるの?」


「本気ではないが、それなりに殴り付けて来るでしょう。生死の明暗を誰にも分けさせないと言える程にわたくしは万能ではありませんが、母校や楽しい毎日を送らせてくれる帝都の市民に犠牲が出ないよう戦いに行ってきます。もしもの時はエーゼルさんと一緒に最も安全な船に乗って下さい」


「解ったわ。死なないでよ。フィティシラ……」


「ええ、ブラジマハターの加護も貰いましたし、まだ母校の貴方達に食べて欲しいお菓子も多いですから、死にはしませんよ」


 その言葉でまた子女達がボロ泣きになる。


「泣いてもいい。けれど、泣いた後には笑いなさい」


 周囲の目がこちらに向いた。


「まだ、貴方達の人生は始まったばかり……哀しい事も苦しい事もあるでしょうが、それを噛み締める時間は必ずご用意します。そして、いつか、わたくしに見せて下さい。貴方達が幸せに生きた時間の成果を……楽しみにしていますよ」


 遠くから馬車の音が響いた。


 次のイベントまでには間に合うくらいの速さで少女達を各地の避難先となる地下施設へ送り届けながら、最後に帝都で用がある一角に向かう。


 リバイツネードに向かう道すがら、またもや悪意を予測に見る。


(やっぱり生きてたか。さて、ラウンド2と行くか)


 まだ手札はある。


 戦う限り、まだ未来は閉ざされてはいない。


 蒼の力を何故に化け物が子供達に与えたのか。


 それを訝しむのは続けつつもやるべき事はやらねばならなかった。

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