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ごパン戦争  作者: TAITAN
悪の帝国編
412/789

第30話「北部大計Ⅹ」


「これより帝国主宰の北部諸国統一会議を開催致します」


 進行は自分が進める形での会議はこの数日で誂えられた王城内の謁見の間にある巨大な長テーブルを囲んでのものとなっていた。


 ゼンドと同じ種類の竜に載れる人々の長期飛行訓練。


 という名目で数日で追い付いて来たゾムニス、ノイテ、デュガ、アテオラは既に揃っており、背後からは何だか無言の視線が突き刺さって来る。


 本来、こういう事はしたくなかったのだが、会議は王侯貴族連中のお祭りだ。


 腕も足も事前の準備でかなり疲れていたが、それでも祝祭用の衣装は用意していたので着ないという事も無い。


「(何と可憐な……)」


「(アレが帝国大公の姫君か)」


「(あのように薄い衣に透けるような肌……何という……)」


「(アレをウチの子の嫁に出来ぬものかな)」


 ざわつく集めた王様連中は誰も彼も彼もこちらを見ていた。


 帝国の一番ヤバイ服を作ってくれるデザイナー連中に貴族の会議で貴族の子女らしく目立つ格好をこの布地で造ってくれという注文をしたのだ。


 結果として出て来たのは何処の順日本製ファンタジーRPGだよ。


 と、ツッコミが入りそうな薄絹を重ねて造られた尼さんみたいな装束。


 金糸をふんだんに織り交ぜた飾り紐で結わえた髪やら衣装の各部は動き易さは重視してくれたものの、それでも装飾の各所に付く銀と金のプレートが微妙に重い。


 刺繍が大量に縫い込まれた生地。


 金糸で下品にならぬよう飾られ。


 背中には大公家の紋章入り。


 確かに今の自分を見れば、それは少なくとも日常的に使う衣装ではないと誰もが解るのだろうが、それにしても自分を聖女様と勘違いしているのではないか?


 という感じにデザイナー達の感性に疑問が残る。


「まずは北部諸国全ての王が一堂に会して下さった事に感謝を……今回の会議により、北部は現状の認識と新たな現実に目を向ける事になるでしょう」


 会議を提案したのはこちらだが、現在の会議を仕切る位置にはライナズが付いていた。


 その簡易に戴冠したばかりの男はこちらをジト目で見やる。


 この数日、色々と無理を言ったり、やらせたり、取り敢えず、帝国側からの要請という事で準備を王城で行ったのだ。


 その度に葬式だ戴冠だ会議の準備だと寝ていないのだろうライナズにそういう視線を向けられる事になったが、一応は父親が色々託した相手だからと無下にはされなかった。


 だが、此処から先の会議は違う。


 あくまで国益を取る為に色々としてくるのは目に見えていた。


「アルローゼン姫殿下。現状の認識と新たな現実と言うが、それは一体如何なるものであるのか。我々全員に解るよう教えて頂きたい」


 ライナズが一応、公の場という事もあって控えめに訊ねてくる。


「はい。ライナズ陛下……それではまず各国の現状における状況の認識から入りましょう。昼までお時間を下されば、50数か国の半数はご説明致しましょう」


 最初からテーブルに並べていた分厚い白紙の束。


 中身にようやく言及された事で各国の王達が汗を浮かべていた。


―――10分後。


「まず以て、イーデンの財政状況は破綻しております」


「異議あり!? 我が国は破綻など!!?」


「輸出主力の羊毛の油分を取る尿が人の減少で足りていないのでは?」


「な、何の事だ!? そ、そんな事実はない!?」


「先日の戦で男手が半減。田畑の半数は女子供がようやくやって収量も半分以下。更に現在の貴国の王妃は随分と浪費家だとか? 実際、来年までに餓死者を出さずに浪費を支えられますか?」


「ッ―――」


「お別れなさい。民は王妃のものではなく。王の家臣でもない。今ですら国民が他国に逃げているでしょう?」


「そ、それは?!! 何故、ぐ、ぬぅ?!」


 その道では有名な話だ。


 特に商人連中なら知らぬ者は無い話だったりする。


「貴方の国の失敗は貴方自身に問題があるのです。その問題の最たる王妃の浪費に何も言えない男が国を救う? 勇猛に戦う? 笑ってしまいますね」


「ぶ、侮辱するのか!? 如何に帝国が大国だろうと」


 相手を一応、ギロリと見やる。


「ッ―――(何だ。この青い瞳……この圧力?!!)」


「いえ、侮辱も何も帝国の一貴族程度であれば、見逃される事でしょう。ですが、貴方は王なのでしょう? 如何に地位が兄王の戦による死去で転がり込んできただけとはいえ、その責務を果たさず。自らに出来る努力と身を切る覚悟無くして、民は付いて来ませんよ?」


「無礼だろう!!? いよいよもって許せん!? そこになおれぇええ!?」


 仕方なく。


 刃を抜いた相手に拳銃を突き付けて、さっさと刃を柄を狙って弾き飛ばす。


「がぁあ?!」


 さすがに男の手でも銃撃された武器に持って行かれては態勢を崩す。


 刃がガランと落ちて、それに目を見開いた王達がこちらの持っている物に目を吸い寄せられていた。


「先に抜いたのです。死ぬ覚悟はお有りですね?」


「ひ!? な、何だ!? それは!?」


「言う程のものではありませんよ。此処で死ぬ貴方が識る必要が?」


「そう熱くならず。待たれよ。お若く美しい方」


 呼んでいた老王の1人が出された紅茶を飲みつつ、ニコリとする。


「そうですね。あまり品の悪い行いは不作法だからと家では窘められていたのですが、無能が服を着て歩いているとさすがに熱くなってしまって」


「ははは、いつでも殺し合いなら出来るのだから。話合いの場では話合いをしようではないか。なぁ、皆々様。ちなみに無能を晒す程の無能はこの場にはおられんよなぁ?」


 その老王の老獪な言葉にすぐに追従する王達の声が上がる。


「失礼しました。では、会議を続けましょう」


 席に座る。


 老王と言っても、こちらの仕込みだ。


 一番穏健な王達の一部には事前に会って色々と根回ししていたのだ。


 誰かブチ切れて刃を抜いたりしたら、それを鎮圧後、場を治めてくれるようにという話をしていたのである。


 アルジーナ王よりも先に二、三名には声を掛けていた為、誰が止めてくれても印象付ける劇には打って付けだろう。


 ちなみにそういう風に話を持って行く国の大半はこちらで最優良だと分析結果が出た相手に限っている。


「イーデン王。何も首を斬れといっているのではありません。国外追放で良いではないですか。ゆっくりとお休み頂き。死ぬまでご養生して頂ければ、わたくしが貴国に羊毛を洗う屎尿に代わる新たな品をご用意致しますよ?」


「そんな事できるわけがない!?」


 何とか座り直して顔を青くした猛犬の異名を持つ男はチワワに成り下がってヒャンヒャン鳴いている、と周囲の王には見えただろう。


 残念ながら、まともな政治を行えない相手に王の席は重過ぎる。


 誰からも侮られる事が確定した相手には悪いが、それは自業自得というのだ。


「出来るのですよ。それとも貴国の産品の代替品を格安で北部諸国に流し込めば良いのですか? 無論、わたくしは出来ない事を言いません」


「そんな事が……馬鹿な……」


「先程のものを見て尚、帝国の技術を疑うのですか?」


「ぅ……」


 顔色は蒼褪め、汗を掻いた男がこちらを見て震えていた。


「そもそもあれだけの武器を輸入しておいて、その良さが解ろうという戦人たる貴方が帝国を疑うというのは今まで命を預けていた武器を疑うという事では?」


 さすがに正論なので相手は自分の持っていた護身用の刃を床に見て押し黙る。


「貴方が取り落とした武器は信頼されていなかったのですか? それともそれが我が国では随分と時代遅れである事に驚いたのですか?」


 他の王達もまた自分が見せた銃の威力は解ったようで興味津々にテーブルの上に置かれたリボルバーを見やっている。


「貴国が本当に誠意を持って現状の問題に対処して頂けるのならば、帝国より新たな技術や商品の導入は割安でと思っていたのですが、どうやら隣国のイーシアの方に話を持って行く方が有用そうですね」


「な!? 貴様!? 我が生涯の敵に与するというのか!?」


「王個人がそのような態度だから、問題になるのです。貴国がその選択をするのならば、そうなるしかないのですよ」


 隣国の王はニヤニヤしていたが、そちらとてとてもまともとは呼べないので後で同じ目に有って貰う事は決まっている。


「それに貴国を最初に取り上げてみましたが、刃を向けられる事になるとは……ならば、相応の対処があるでしょう」


「ぬ、ぬぅ……」


「それとも貴国の永遠の敵相手に今の武器を二千程用立て、最初の顧客となって頂くという手もありますね」


 それにさすがの男も血の気を引かせた。


「ま、待った!? 分かった!?」


「何が解ったのです?」


「て、帝国が本当に現状の我が国にそのような商品を売るというのならば、確かに我が国も身を切る覚悟を見せよう!!」


「懸命な判断です。我が国は反感を持つ者を許します。我が国に反抗的な国も許します。ですが、利他の国益を害する者。そして、自らを磨かず、愚かなるままに振舞う君主等という前時代的な者は許しません」


 紅茶を一口。


「イーデン王。わたくしは貴方の勇猛さは評価しましょう。ですが、貴方の愚かさを評価しません」


「ッ………」


「いいですか? わたくしはこう言っているのですよ。地獄の業火に焼かれて死ぬからこそ、為政者は為政者足り得る」


「―――!?」


「この世は地獄。この地獄には貴方のような強さが必要です。ですが、その愚かしさは必要ありません」


 歩いて行き。


 今も座る王の肩に両手を置く。


「貴方は地獄の亡者を率いる王なのです。この地獄たる北部諸国でソレが出来ているから、此処に座る資格をわたくしは認めたのです」


 男のうなじには冷や汗が流れていた。


「イーデン王。貴方がまだ王でありたいのならば、軽挙を慎み、自らの感情に支配されない術を身に付けなさい。それは真っ当な帝国貴族ならば、子供とて出来る事なのですよ」


「………………」


「知が足りないのならば、武勇で等と考えてはいけません。どちらも持っていて当然なのです。だからこそ、貴方を諫める知ある者は貴方の宝。貴方に甘い言葉を囁くだけの存在は貴方の敵」


 ダラダラと汗の量は増えていく。


「己と向き合って見て下さい。想像出来ませんか? 私と敵対した末に祖国が軍靴の音に塗れ、母子が抱き合いながら焼かれ、崩れ落ちていく民家が、王城で等しく唯々喚き散らすだけの貴方の伴侶と子息が、それに絶望しながら逃げる準備をしている自分が、自らの軍団があの銃に打ち倒されて踏みしめられていく光景が……」


「ッッッ」


 ハンカチで男の口元の僅かな泡を拭って、その手に持たせる。


「イーデン王。先程の事はわたくしの無礼という事で処理しておきます。今後、この事で帝国が貴方を攻める事は無いでしょう。ですが、想像力を持って今後は国政に望んで下さい」


「そうぞう、りょく……」


「はい。それが貴方を護る唯一の方法です。何も誇大妄想をしろと言っているのではないのです。誰もが考えれば、解るだろう単純な事を、どうすればどうなるのか。その程度の事実を見逃さないようにとご忠告申し上げておきます」


 手を放して、席に戻ると。


 十年くらい老けた感のある王が燃え尽きた様子で大量の汗を握り込んで、下を俯いていた。


「……じ」


「じ?」


「時間は、掛かるかもしれんが、出来ないわけではない……」


「では、二月程の猶予を……次の国家の現状の分析と参りましょう」


『(ああ、何だ。我らは断頭台に載せられた罪人か。はははは(´▽`*))』


 周囲の王達は何だか和やかな笑みを浮かべていた。


 これから何が行われるのか理解してしまったのだろう。


 笑いたくもなるという心境なのかもしれない。


 それを見ていたライナズはつまらなそうに水を飲み干して、世の中には無能な王も多いらしいという顔でまだ紹介されていない国々の情報をザッと見ていた。


 そう、詳しく分析した各国の情報が載るソレは争い合う王達にしてみれば、宝の山だろうが、それを理解出来る者は多くない。


 さっきのような露骨に無智な王様相手に分かり安くパフォーマンスをしているが、半数くらいはそういうわけにも行かないだろう。


 最初にああいうのを槍玉に挙げたのは単純に現状を理解してもらうのに丁度良い材料だったからだ。


 ここからが本番。


 まずは王様未満連中を硬軟織り交ぜて懐柔するところから始めるのだった。


―――1時間後。


「貴国デメタランの軍事機密協定に関してですが」


「そ、そんな協定は無い!?」


「ユラウシャのビダル様からの情報です」


 その言葉にビダルに視線が集中したが、すぐにこちらにそれを引き戻させる。


「それにそんな情報が無くてもバレバレですよ。隣国ゼイムとの間に他の隣国と戦争になった場合、背後からの挟撃を企図して軍を動かす。ですよね?」


 ダラダラと名指しされた国の王が汗を掻き始めた。


「それは我が国からの武器供給量から見ても、貴国の軍隊の配備状況から言っても殆ど軍略を嗜んでいれば、丸解りでしょう」


「そんな事は有り得ない!? 武器数だけでそのような事が解るものか!?」


「国境域に少数の部隊すら配置していない。実際に配置されている傭兵連中も数人となれば、国境侵犯は無いと考えているとみるべきでしょう」


「そ、それだけでは分からぬではないか!?」


「いいえ? 貴国がゼイムとの間に敷いた細い街道には毎日のように商人達が通っているとか? 請われたのでしょう? ゼイムで足りなくなっている肥料の迂回輸出を……」


「?!!」


「近年の飢饉でゼイムが昔とは違い殆ど被害が出ていないのは土地が豊かになったからだと農民達は零しているとか。ですが、明らかに農地の敷地面積が増えたという事実はないのに同じ隣国では飢餓になっている」


「そ、それは……」


「先王の時代の確執でゼイムを目の仇にする国々が自国領土内から禁輸した肥料の輸出……デメタランにしてみれば、かなり助かる輸出品ですね」


「そ、そんな事は……」


「それもバレたら周辺国との軋轢から戦争の引き金になってもおかしくない。なのに、それをする? つまり、軍事的な危険を冒しても良いというくらいの利が必要なわけです」


「………」


「別にわたくしは怒っているわけでも責めているわけでも無いのですよ? いえ、それよりも良くお仕事をしていると褒めて差し上げたいくらいです」


「え……?」


 相手の目が見開かれる。


「わたくしは秘密協定がダメだとか。迂回輸出がダメだとか。そういう事を言っているのではないのです。貴方達北部諸国の王がまともな政治をしているのか。その事に付いて公に議論しているのです」


『―――ッ?!!』


 初めて半数程の王の顔色が明らかに先程よりも悪化した。


 この小娘が一体何をしているのか。


 それが僅かに解ったからなのだろう。


「デメタランに関して、わたくしはまともな部類という事が分かりました。他国との関係に気を配る事が出来る貴国は極めて今後とも帝国と御付き合いをして頂きたいと思います。では、次に行きましょう」


「あ、ありがとう、ございます……アルローゼン姫殿下……」


『(………)』×一杯の王様連中。


―――2時間後。


「貴国フェブルの宝石輸出は随分と捗っているようですが、どうやら我が国とはそろそろ縁が切れる事になりそうですね」


「な―――どういう事ですか!? アルローゼン姫殿下!!?」


「貴国は経済的には裕福ですが、まともな政治が行われていないと判断するしかない状況という事です」


「何が問題だと言うのですか!?」


「貴国の国民の健康問題が深刻であるという事です。炭鉱労働不を低賃金で働かせ、過酷な労働環境で次々に死に追いやり、奴隷を買って同じことを繰り返す。その上、儲けた財は全て王家が吸い上げ、国民は今も喰うや喰わず」


 チラリと目の前のフェブル王を見やる。


 現在の帝国の宝石の貿易で2割程を占める相手だが、身なりは良いが品性は下劣というのが他国での評価だった。


 それは間違いない様子だ。


 実際、愚かな王様としては百点満点である。


「その炭鉱での働かせ方。そして、貴国の国内情勢はまったくこれからの北部諸国に害でしかない。故に帝国は貴方達を潰さざるを得ないと言っています」


「な―――下民がどれだけ死のうと我々には関係など無い!? そもそも帝国とて我が国の宝石が必要なはずだ!? それとも他国に流しても良いと!?」


 苦笑するしかなかった。


「どうやら解っていないようですね。では、何故に貴国が滅ぼされる事になるのか。具体的な理由、原因についてお話しましょう。資料の48頁をご覧下さい」


 パラパラと他国の王達が資料を捲って、その内容を読み始めて、顔色が蒼褪める者が出始める。


「まず、今後の北部諸国に帝国が求めるのは安定です。その為に必要なのは国民の所得の向上。そして、労働環境の改善。簡単に言えば、王侯貴族や上流階級が率先して冷や飯を食べながら、国を豊にして国力を養う。そういう事です」


 内部に書かれてあるのは今後の北部諸国において帝国が要求するスタンダードな税制の素案……と言っても帝国内で使われている代物に手直しを加えたものだ。


 無論、これに帝国内ですら必要だろうとこちらが書き加えた新たな労働者階級用の労働資源の効率的な使い方……要は現代の日本でならば、働き方改革くらいの事がズラ―ッと載せられていた。


「貴国の炭鉱の労働環境は最悪です。後、その労働に見合った賃金も払われていない。その上で貴国の働き方を真似させる国もチラホラと出ているようで」


 数国の王達の顔が青くなる。


「炭鉱関連の労働環境の改善は我が国とっては今も取り組んでいるものの一つです。常にガスと出水、落盤、粉塵による健康被害、爆発の危険のあるこの仕事は本来的には国の専権事項でありながらも、現場での人々の働きが最も重要視される仕事でもある」


「何が問題と言うのだ!? 我が国は宝石の産出においては北部諸国でも随一であるというのに!?」


「簡単に言えば、その働き方や炭鉱運営の方法を他の北部諸国に輸出されては困るのですよ。今後、北部諸国において帝国は最新鋭の炭鉱設備及び人材の育成、賃金の確保を行う際、貴方達のような悪貨は長期的な利益を損ねる」


「利益を損ねる? 何処がだ!?」


「はぁぁ……炭鉱夫というのは高級職であり、国家に租税を払って頂ける優良な国民という事です。それを数年で使い潰されては困る。人間は利益。人間は礎。人間は力……そして、人間は貴方なのです」


 少し睨んだ瞬間。


 でっぷりと太った宝石を指へ大量に嵌める冗談みたいな成金男がテーブルから激昂して立ち上がっていた……が、すぐ一歩後ろに下がった。


「このような短期的な利益を上げて、国力を落とす国家は必ず存在しますが、その繁栄は長く続きません。それはそちらも解っているのでは?」


「?!」


「大量に掘り出された宝石の価格下落。更に人命を浪費する事で賄われる事業が国全体の他産業の従事者を奪い活力が低下して貧しくする」


 短期的利益を求めた際の悪循環の表を見れば、他の王にも頷ける事はあるだろう。


 人が死ぬ、労働者が消える、他の事業が成り立たない。


 事業が成り立たないから更に宝石に依存する。


 宝石を掘り出す。


 人が死ぬ。


 こんなバカげた悪循環を表にしてみれば、正しくどれだけ国力が宝石の為に浪費されているのか分かろうというものだ。


 それは戦争でも当て嵌る縮図だったりする。


「今の帝国の礎があるのは帝国が人間を何よりも価値ある資産と見なし、その教育とその価値を磨き上げ、多くの産業を生み出したからに他ならない」


 お茶を一口。


「一部の者が富める世界は基本的に社会資源の浪費が激しく。国富の増大と共に国力を摺り減らす状況という一見して分かり難い滅亡の道を歩んでいる。我が国もその類ではありますが、数時間後の本題でそちらはお話しましょう」


 ジロリと相手を見やる。


「北部諸国において貴国は正に悪い見本です。消えて頂くのも致し方ないのでは? ですが、武力で叩き潰すというのも後味が悪い。なので」


 ニコリとしておく。


「一億程でそちらの国を売って頂けませんか?」


「な、何を言っているのだ!?」


「だから、その何も無い田舎の辺境を貴方から買おうと言っているのです。年間産出する宝石の貿易額が現在約2000万。ですが、宝石類の出土にも限りがある。貴国が鉱山を開いて60年。近頃は宝石よりも燃える屑石の方が多いとか?」


「ぐ、どこでソレを……」


「貴国の鉱山と周辺の領土を一億。これは破格だと思いますよ? 少なくともこれから少しずつ宝石は取れなくなっていく。それに他国への侵略もそちらの方に移りたいというご家族の意向だとか?」


「………二億だ!? もしも売るとすれば二億!? これ以上はまからん!!!」


 その声に驚く王達はさすがに多かった。


 だが、諫めようとする者はいない。


「お売り頂けると?」


「はは、そんなにあの場所を帝国が欲しいのならば、売ってやろう!! 小娘に二億出せるのならばな!?」


 二億と言えば、北部諸国の中堅国の国家予算10年分くらいだろうか。


「お支払いしましょう。金塊ですか? それとも債権? 宝石はさすがに欲しいとは言われないと思いますが」


「金だ!! 金で寄越せ!? 帝国が攻めて来ると聞いて、あんな国と心中するのはごめんなのでな!? だが、払えるか!? 金で二億だぞ!?」


 相手が獰猛に笑む。


 払えないのならば、笑い物にしてやると相手は汗を浮かべながらも太々しい。


 まぁ、想定していた内で最悪の選択肢を選ぶ辺り、金勘定は出来ても政治の出来ないロクデナシの類だったようだ。


 元々は山賊紛いの稼業をしていて、当時の何も無かった山間部の集落を襲って、宝石を見付け、人々を地獄の如く暴力で働かせて成り上がったという家なのだ。


 さもありなんというところだろう。


「さて、それではお見せしましょうか」


 目配せするとデュガとゾムニスがガラガラと現地で職人に造らせた現代式の形のカートに載せて大量の金塊を運んでくる。


「き、金塊!? これ程の量をどうやって!?」


 さすがの王達もざわめく。


 それは幾つものカートに山と積まれて圧されてくる金の延べ棒であった。


「調べて頂いて構いませんよ。現行の価値で金二億。まだ裏手の方にご用意がありますので二億分持って行って下さい」


「ッッ!!?」


 まるで餌に群がる獣のようにフェブル王がその金に縋り付く勢いでワナワナと手を震わせ、すぐに首を横に振ってから用心深く。


 延べ棒の表面を懐から取り出した黒い石に擦り付けた。


「確かにこの橙色の度合い。純金だ……はは、純金だぞ!?」


 男が喜色満面他の金も同じように一部を黒い石に擦り付けては色味を確認していく様子は用心しているというよりは子供が玩具で遊んでいるようだった。


「御満足頂けましたか?」


「……本当に二億分あるんだろうな?」


「さすがに純金の相場にはお詳しいと思いましたが?」


「裏手のも確認させて貰おう!!」


「ご自由に」


 お茶を一口。


 茶菓子を食べている合間にも謁見の間の裏手側に運び込んでいた金塊の山に奇声が上がって、数分で男が戻って来る。


「た、確かに純金だ。全て純金だ!!? いいだろう!! 二億だぞ!?」


「ええ、公式な署名は無論、我が国と北部諸国の契約書に認めて頂きます。公証人はこの場の全ての王の方々に頼みましょう。異存はありませんね?」


「ああ!! ははは、これだけの金があれば、国くらい出て行ってやるとも!!?」


 慌てた様子で男はすぐに証書に書いた契約分を読み込み。


 自分に不利な事が書かれていない事を確認してから、唇の端を曲げてサインした。


 こちらもサインして、同じ書類を二枚同時に互いで受け取る。


「では、今後、あの地は帝国直轄領として治めさせて頂くという事で」


「構わん!! これでもうあの国と我が王家は関係ない。という事はこの下らない会議にも出席不用だな?」


「ええ、王を名乗るのは構いませんが、その場合はこちらで会議に参加して頂ければ幸いです」


「くくく、今更あの燃えるクズ石しか出ない炭鉱一つに街一つが二億か!? 愉快だぞ!? ああ、ありがとう!? ありがとう!!? 帝国の姫よ!?」


 まるで嘲りながら感謝されて、こちらこそ感謝しかないので微笑んでおく。


「ええ、良い取引が出来ました。それではお達者でフェブル王。ああ、臣下に王家の離脱と共に炭鉱と町での帝国領への編入に付いてだけはしっかりとお教えしておいて下されば幸いです。後で問題になっても困りますので」


「フン。いいだろう!! 我はこれで失礼する」


 男がその場からズンズンと肩を弾ませて去って行った。


 紅茶を一口。


「………で、種明かしはするのか? アルローゼン姫殿下。席でビダル殿が気を失っておられるが……」


 ライナズが一応という顔で何も聞かされていなかった呆然自失状態のビダルを見つつ、こちらに訊ねて来る。


「ええ、カワイイ孫へのお小遣いというのを使ってみただけですので」


「大公閣下の資金だと?」


「いいえ、ビダル様がユラウシャ本国に無い他国にいる親類の方から掻き集めたユラウシャの民を養うお金です」


 その言葉に周囲の王達がざわめく。


 そりゃぁ、勝手に使われたら気も失うだろう、と。


「それをわざわざあの豚にくれてやったのか?」


「ええ、豚に金塊とは言い得て妙かもしれませんね。では、今回の事が気になっているだろう方々に一端、北部諸国においての新しい関税のお話をしましょうか」


「関税?」


「ええ、ビダル様がこれ程の資金を得られるように各国とも貯蓄には余念が無い様子。脱税は国家の攻防においては主戦場。人の口に戸が立てられないのと同様に、人の利益への執着もあの豚さん程ではないにしても拭い難いと言うべきでしょう」


「豚さん、か。あれがそんなにカワイイものだとは思えぬな」


 ライナズが嘆息する。


「それこそ偏見でしょう。二か月もせずに文無しになっている豚さんがオロオロして嘆願してくる様子はきっと各国の守備隊には見ものだと思いますよ?」


「ほう? その詳しい話を皆で聞こうではないか。王達よ。あの豚を好いていた者など誰もいまい?」


 僅かに王達の間から苦笑が漏れる。


「帝国の姫君。それでどのようにあの豚さんとやらを破滅させるつもりだ」


「ただ少し此処で各国の関税関連の条文と商慣行、為替と決済に関する法律に一文を加え、実行して頂きたいというだけの事ですよ」


「成程な……」


「ああ、それと商人達にも色々とやって貰いたい事がありますので。“各国で得る資金”は今後の諸国の発展の為に使用して頂きましょう。通貨に関しても色々とやって頂きたい事があるので後で詰めましょう」


 何かに気付いたライナズがクツクツと豚さんの去った方角を見て嗤い始める。


「……くくく、この大悪女め」


「酷い言われようですね。では、皆様。あのような俗物にならぬよう努々努力の程を……愚かでよいのは人間だけです」


 ニコリとしておく。


「為政者は人間ではない。人間のように愚かではいけない。そうであれば、罪以上の罰を受ける事になるのだと御自覚下さい」


『………………(´Д`)』


「まずは自国の繁栄の為に取り組む事としましょう。勿論、此処であった事は内密に……まだ、己の国を亡国としたくないのならば、ですが?」


 可愛く首を傾げて見せる。


「それと二億と言いましたが、良い買い物でした。あそこは事前に文献調査だけでも今後百年で2000億ほどは稼ぎ出すでしょう」


「に、にせ―――」


 一部の王がその金額に目を剥いた。


「何も宝石や鉱物だけが全てではありません。新たな輸出品、技術の進展で必要にされる様々な物資は普段捨てているようなものかもしれない」


「そのようなものが?」


「……北部最大の石炭産出地帯。帝国の今後の趨勢を決めるかもしれないソレを直轄に出来た事は後の歴史が功罪で裁くでしょう。ただ、わたくしの目が節穴でない限りは単なる儲け話でしょうが……」


 ビダルとライナズ以外はただただ驚く機械になった感はあった。


 何故か背後ではアテオラが気絶して、またゾムニスに抱き抱えられているようだったが、問題は無い。


 メイド達も何か呆れている様子だったが、やはり問題は無い。


 未来など見ずとも解る。


 為政者というのは大抵そういう事が解らねば、死ぬ未来しかないのだから。


 特にこの生存環境的に厳しい大陸では………。


―――数か月後、北部諸国の何処か。


『どうしてだ!? どうしてこうなったぁああああああああああ!!?』


 男は叫んでいた。


 王族と呼ばれていたはずの家族を連れて。


 もう馬がいない為に動かない馬車の車列。


 人がいない為に動かない馬車の車列。


 世界の中心で男は叫ぶ。


 何故か?


 金が無いからだ。


『純金での取引に限り、その商取引の値段を40割増しとする』


『税関通過時、純金に限り、その総量の4%を徴収する』


『純金に限り、貨幣への交換時の比に1割の税を課す』


『国籍が無い者に限り、一定期間の国土内への滞在に対して総資産額の1割の特別税を徴収する』


 男の背後に散らばる正式な書類の大半は男が金を得てから知ったお触れだった。


「あの、あの売女めぇえええええええええええ!!?」


 叫んで叫んで、男は遂に気付かなかった。


「国を捨てたから無国籍だとぉ!? 何が1割だ!? 厚かましい!!?」


 背後に獣が忍び寄っている事に。


「クソクソクソクソク!!? 傭兵共め!? 持ち逃げしおってぇええ!?」


 残り少ない金を抱くようにして男は翌日には発見されるだろう。


「何が40割増しだ!? 嘗め腐ったクソ商人共がぁあああ!!?」


 そして、家族もまた識るのだ。


「帝国へのトンネルを抜けられないだと!? あの女が!? あの女が手を回したに決まってる!!?」


 自分達が金に呪われた事を。


「我は王だぞ!? 王なんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!? 何故、誰も助けに来ない!? 何故、誰も従わない!? 金をくれてやると言っているのにぃいいいいい!!?」


 やがて、それは1人の少女の伝説となっていく。


 御伽噺にすらなるだろう。


 帝国の小竜姫。


 破滅と繁栄を司る小さな少女の冒険譚は帝国の本屋の棚にそう遠くない日に並べられるだろう。


 ちなみに北部諸国内には混ぜ物をしたアクセサリー用の24金や18金はあれど、純金での取引は貿易では皆無だった事を男は最後まで知らなかった。

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