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ごパン戦争  作者: TAITAN
大食卓規制戦~過ぎ去りし晩餐~
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第279話「悪より黒い善意」


 若い人間に何かをさせたいならば、こう言おう。

 ○○は禁止だ、と。

 そんな話を聞いた事がある。


 まぁ、禁止されるとやりたくなるのが人情というものだ。


 だから、やって欲しい事は禁止してみるというのを社会実験でやろうというのは無謀だし失敗するのは間違いないだろう。


 しかしながら、人間諦めが肝心と諦められるのもマズイ話。

 なので程々に禁止し、程々に進めるという事をしてみるわけだ。

 この未来人兼神様兼地獄兼魔王兼一人省庁兼一般人は―――。


(だけど、結果がなぁ……)


 局地戦と呼べるような状況である。

 事態は深刻でも何でもなく順調に推移している。

 新規での行動を起すべく。


 東京都内某所に今日もファースト・クリエイターズの動画をUPしに行ったのだが、人類の現在の科学技術では逆探知不可能なはずの場所はUPした直後に爆破された。


 内部にいた人間はどうやらこちらの目を欺く人間みたいな別の何かだったらしく。


 魔術の成果物なのか。

 すぐに融けて消えた。

 続いて殴り込みを掛けて来たのが超能力者とか呼ぶべきか。

 若い白人、黒人、ヒスパニッシュ、アジア系、日本人の五人。

 男女混合で男が三人に女が二人。


 続いて相手が何やらお札的なものをザックバランにビル一つ分くらいばら撒いたと思ったら、ビル毎舞い上がった挙句に高速で首都圏を離脱。


 内部のお札を適当に燃やしてみたのだが、どうやら物理的に外へ出るにはまだまだ焼く数が足りないらしく。


 火炎放射的な炎を周囲に出してメラメラさせている最中。


 だが、後から後からお札が出て来る。


 ぶっちゃけ、森林1つ分くらい燃やしたような気もするのだが、結局最後まで出られなかった。


 ビルが崩落したのを横目にして周囲を見渡せば、カジュアルな恰好の若者達がこちらを空中で囲んでいる。


 五角形なので封印でもされるのかなぁとキョロキョロしていると。


 あちらは陣形を維持したまま数キロ後退。

 そして、ソレがほぼ直下に現れた。


 兵員輸送車らしき放置された車両の中からコツコツと硬質な足音を立てて出て来たのは……何処かで見た事のあるような鎧だった。


 あのパンの国の地下遺跡で黒い蛇と共にいたアレ。


 自分が初めて見たオカルト。


 鎧によって強化されていた……恐らくは委員会が採取した超高速での増殖を行う細胞の元々の持ち主。


 ソレにとても似ている。


(過去なら、強化前のがいるってのも有り得る話だが、あの鎧程の装甲じゃない。委員会の改造前なら、コイツは―――)


 片腕が上がる。


 横に跳躍しながら回し蹴りを放つソレが何故か極めて嬉しそうな、くぐもった声を出したような気がした。


「随分と前より筋力オカシクないか?」


 片手に見えざるハリセンを創ってはたく。


 0.2秒弱で高度200m地点に跳躍して到達したソレの衝撃波をようやく感じながら、筋力だけで恐らくビルくらい持ち上げられるくらいにまで強化されたソレの頭部をめり込ませる気で下へ打ち下ろす。


 0.1秒でピンポン玉みたいに地表の車両へ激突した相手が鎧を拉げさせ内部から全身の血肉を泥水として噴出させ、同時に車両から下の地面20m四方が沈下し、衝撃に辺り一面の木々が幾らか薙ぎ倒される。


 だが、鎧は崩壊していない。


 それどころか直る素振りすらみせてカタカタしている。


 ついでに何処から現れたものか。


 空間を跳躍でもしてきたような石棺が顕れると鎧が浮かんでバガンと内部に入り、蓋がされた。


「………」


 魔術コードで石棺の分解を試みる。

 すると、コードによる物質制御が働かなかった。

 科学技術ではない。

 恐らくはオカルト側の力だ。


 解析するとその空間内の座標をシステムが認識出来ていない。


 センサー類がオカルトの前だと無力というのは前の自衛隊との戦闘で身に染みているので驚きはしなかったが、魔術コード用の座標検出システムが弾かれるとは思ってもみなかったので中々に相手もヤバいというのが理解出来る。


 さすが委員会に捕縛されてからも存在し続けていたオブジェクト。


 だが、もう情報は収集し終えている。

 相手は古代の人種だ。

 戦闘意欲旺盛。


 言語を解するが基本的には戦闘民族的な感じで死ぬと石棺に入って回復。


 どうやらオブジェクトの混合や最新技術マシマシな鎧を着せられて、大分強化が入っているようだが、委員会の最初期行動を止められなかったところを見るに制御が出来なかったか。


 もしくは―――。


 石棺が猛烈な速度でこちらに急加速してきた。


 こっちの手にしたハリセンで迎撃するのだが、石棺は奇妙な程に堅い。


 いや、堅いというよりは物質的な強度に依存していない。


 加速してきた巨大な石の塊の威力は戦車砲弾の数倍くらい。


 だが、しかし、浮遊してるわ、破壊出来ないわ。


 面倒極まりない。

 ついでにどうやらもう再生が終わったらしい。

 石棺が開きそうだ。


 此処で超能力バトル漫画みたいに近接格闘しても良いのだが、生憎とまだまだやらねばならない事は山積している。


 石棺そのものが破壊出来ないのならばしょうがない。


 パチリと指を弾く。


 石棺周辺の大気層を集めて相手の石棺の隙間に巨大な気圧を叩き込む。


 どうやら内部の相手が再び再生に入るようだが、そうはさせない。


 この世で一番堅い物質を適当に超純鉄並みの純度で形成して石棺が閉まり切る前に細い針金よろしく無数に突っ込み、魔術コードで折り曲げながら繭のように形成。


 その後、強引に大地へ左足でシューして森林地帯にちょっと地震を発生させつつ埋め込み、周辺の珪素をこの世で一番重い物質にして凡そ5万kg程の継ぎ目も無いお墓にしてみる。


 傍目には一瞬で石棺が繭にされた後、地面に叩き込まれた瞬間、黒い球形物体が出現したようにしか見えないだろう。


 数秒観察してみたが、どうやらコレで良いらしい。

 敵を観察した結果の対処法である。

 再生する為のプロセスである石棺への内包。


 それを途中で妨害しつつ、蓋が閉まらないようにして超重量の解けない重しを付けたのだ。


 石棺がオカルトならば、これでも浮き上がるかと思ったのだが、どうやら浮き上がらせられるものの重量には限界があるらしい。


 チラッと超能力者っぽい若者達に視線を向ける。

 すると、ビクッと反応していた。

 どうやら、こっちのヤバさが伝わったらしく。


 秘密兵器が封印されたので撤退するかどうか考えあぐねているようだ。


「しょうがない。オカルトは蒐集しておかないと後でまた蟻の一穴みたいにならないとも限らないし……」


 大気層に背中をジェット気流並みに押してもらい加速。


 そのまま、一番適当に強そうな20歳前後くらいの白人男に迫る。


 数秒で相手の眼前に到達し、ハリセンを致命傷にはならないよう脇腹辺りに打ち込んでみた。


 しかし、何やらその衝撃が相手の直前で見えない壁みたいなものに弾かれる。


 空気の密度正常。

 磁場や波の類も検出出来ず。


 しかし、加速度の付いた物体を弾いた瞬間にのみ物質に拠らない何かがこちらのハリセンの衝撃をこの世界ではない何処かに消去っている。


(異世界、超科学、未来人、オカルト、超能力……そろそろ自分の過去の方が微妙に怪しく思えるな)


 不意打ち気味に相手の肌に優しく密着させた掌底を人間が弾けない程度に叩き込んだ途端。


 相手はゲェェエェと思いっ切り今日の朝飯を吐き散らかして、目玉が思わず飛び出しそうな感じに驚愕しつつ、そのまま墜落していった。


 慌てたアジア系の女が回収に向かう。


 そして、こちらにはヒスパニック系と黒人系の若者がやるしかないと言いたげに突撃してくる。


 周囲の大気層内に窒素の壁を適当に混ぜて見たのだが、相手は見えているらしく。


 スイスイ避けられた。

 ついでに何やら拳を輝かせ始める。


 ありがちな気とかを貯めてパンチ的な事でもされるのかと窒素の壁を周囲に展開して待ち受けてみる。


 すると、その壁がその相手の拳によって打ち破られていく。


(ふむ。拳に物理量はあるのか。だが、あの肉体の加速の数千倍? 見掛け上の質量はそのままなのに物理法則下では何も感知出来ない。破壊の時だけ物理量がこの空間に出力されてるのか? オカルト側の法則で産まれてる力が物理的な力に転化する瞬間の理論が立てられたら、オカルトもある程度は無効化出来そうな気がするな。精神だの魂だの心だのがオカルト法則で物理量に出来るなら、その比を調べるだけで相手の強さも数値化可能か? 遺伝情報をカテゴライズして、そいつの脳細胞の一部を培養、神経節で実験だな。これが上手くいけば、オレの防御もグッと楽になりそうだ)


 相手の攻撃を真正面から受けてみようと。


 拳の周囲に運動エネルギーを出力する為の量子転写領域を形成する。


 インパクトの瞬間に相手の威力に合わせて相殺するだけの物理量を放出出来るかどうかの実験は数秒後―――ドゴォォンと大気層を割るような爆音を響かせて完遂された。


 相手は驚愕している。


 ああ、自分の必殺の一撃的なものをこっちの拳で相殺されたのだ。


 威力はビルが吹き飛ぶ程度。


 だが、そんなのはもうこちらの最大出力、物理量の瞬間放出能力的に遥か後方だ。


(やっぱりあっちは生身。こっちの出力の瞬間上昇で対応可能か。オカルトでも物理法則下にあるエネルギーを出力するタイプの能力なら、怖くない。やっぱり注意するべきはこの間の魔眼みたいな一切物理事象を使わずに概念的な何かを人間から収奪したりするタイプと)


 実験は終わったので死なない程度にハリセンで肩を叩き落とし、墜落させる。


 女性陣は男性陣が呆気無く落ちていくのを慌てた様子で救いに行くらしく。


 こちらに構っている暇はないらしい。


「さて、今日もコンビニで情報収集でもするか」


 適当に東京の端にある最寄りのコンビニへ向かう。


 ネットやテレビでも情報は得られるのだが、利用者が多い商店系の場所で聴ける人の噂話の方が市民的な現状の実感を測るには丁度良いのだ。


「?」


 その時だった。

 基本防御の第一層。


 外部からの過剰な物理量を防ぎ止める普段は殆ど発動しない恒常性の量子転写領域の外層が灼熱した。


 転写中の物質と周囲の物質の状態をスピン制御で同じにする。

 たったそれだけの絶対無比の防御力を誇る壁から数センチ先。

 数万度の熱量が激しいスパークを上げてこちらを包む。

 領域を2m超から50m超に変更して激しい輝きを遠ざける。


「まだ、やれるのか……」


 地表付近に吹き飛んでいたはずの五人がもう回復したらしく。

 地表に並んでこちらへ手を向けているのが見えた。


(オカルト干渉が空間を超えて来るならオレが燃えてなきゃオカシイ。だが、実際にはオレに届いてない。だが、空間は超えて物理量が転化されてる。どの防御があいつらに有効になってるんだ?)


 チラッと視界内で現在こちらが不意打ち用に用意している合計53種の防御能力を確認してみる。


 アクティブで働いているものに殆ど負荷らしい負荷は掛かっていない。


 だが、だからこそ相手が何の防御を突破出来ずにこちらを焼き殺せていないのかが分かった。


(あいつらの知覚そのものに働き掛ける心理誘導系か。位置の誤認、知覚のズレ、視覚情報から光学的な信号の羅列で敵認識を調整。脳を欺瞞する臨床心理学、その究極の成果……人の心理を物理現象としての脳、その反応として数千億パターン以上カテゴライズしたってのも中々シュールな話だが、これが外部への人格保存技術の進展に寄与した……プリカッサーの原型となる技術は伊達じゃないか……)


 こちらの領域内部には既にガスが充満しており、あらゆる放射線を電磁的に変換して誘導、退けている。


 あちらは全力で叫びまくりらしい。

 興味が出たので降下して、そのまま相手に近付いていく。


 すると、最終的にあちらはこちらに攻撃が届かないという事実を前にして絶望マシマシな表情をしつつ、それでも血管が切れそうなくらいの形相となった。


 パチリと指を弾きがてら、あちらの脳内へ届くようドーパミンを腕辺りの血管で大量生成してみる。


 すると、やがて巨大な灼熱地獄がその勢いを弱め、最後はパチンと火花を散らせて途絶えた。


 ゼエゼエしながらも、疲れた様子でこちらを睨む五人の姿はまるで運動会で頑張った子供達みたいだ。


 頬を紅潮させて、睨む姿はしかし明らかにツンデレかという柔和さに満ちている。


「ハロー。人類」


 話し掛けた途端。


 パーカーやスカートやジーンズやキッチュな容姿の彼らが思わずビク付いた。


 浮かんだまま五人の中核となっていた日本人の女子の1m手前まで近付いてみる。


「これが超能力ってやつかな?」

「―――くッ」


 どうして力が出ないのか?


 そう言いたげな18くらいに見える釣り目がち少女が唇を噛む。


 だが、どれだけ力もうが、アドレナリンの中和作用のある薬剤を血管内で生成中だ。


 脳内のドーパミンに溢れた連中に緊張の糸を保ったまま集中しろというのも無理な話である。


「黒蒼将カシゲェニシ!!?」

「?!」


 思わず驚く。


 それはまだファースト・クリエイターズの中で出ていない自分の役割である正体不明のシルエットな人物の名だ。


「……そうか。超能力……ああ、ありがちだよな。お前ら、《《何処の未来から来た》》?」


「「「「「!!?」」」」」


 こちらの声に一瞬で正体を看破された驚愕を浮かべ。


 しかし、すぐ太々しい笑みを浮かべようとして赤丸ほっぺになりそうな青少年達が何とか顔を取り繕おうとする。


「答えると思うか!?」


「いいや、お前らの頭に直接聴くから何も言わなくていいぞ。取り敢えず、日本人のよしみだ。そこのお前、ちょっとコンビニまで付き合え。あ、そっちの連中は悪いが面倒事となる前に人質だ」


 相手の血管内に複数の睡眠導入剤を幾らか注入。


 ついでに気を失った瞬間に全員の肉体に魔術コードで防御を重ね掛けした後、地表から錬成したガラス状の棺に納める。


「な!? 何をしたッ!? く、みんな!!?」


 さっき、見掛けた車両を模して適当に兵員輸送車を地面から出現させた後、後ろの扉を開いて、浮かばせたソレを内部に入れて閉める。


「さて、行くか。もう身体も自由なはずだぞ」


 全ての調整を切った途端。


 こちらに詰め寄ろうとした見た目日本人の女子大生が手を出し掛ける寸前で自制したらしく。


 震える手でゆっくりと自分の片腕を掴んで止めた。


「よろしい。さ、これからコンビニまでそれなりに時間がある。洗いざらい話して貰おうかな。未来の超能力者さん」


 あちらはこちらを睨みっぱなし。


 しかし、力関係を把握して尚、その我を通そうとする程、仲間を見捨てる合理性は無いらしかった。

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