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ごパン戦争  作者: TAITAN
大食卓規制戦~過ぎ去りし晩餐~
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第278話「O brave dis world」

―――人生恨むなかれ。


―――人知るなきを。


―――深山幽谷しんざんゆうこく


―――はなおのずからあかなり。


 何処かでふと聞いた詩が奇妙な程小さく耳に残る。

 江戸時代辺りのものだったような気がした。

 意味は確かアレだ。


 人生で誰に知られていなかろうと、それが誰も来ない山の中だろうと、紅い華は紅い華である。


 こんな感じだっただろうか。

 祖父の蔵書の一説だ。


「?」


 よく覚えていない前後の記憶を振り返るより先に自分の現状に目を見張った。


 まず、何よりもベッドに寝ている。


 ブランケットが二枚重ねられており、周囲を見れば、東京都心の地下秘密基地だ。


 周囲には未だ完全解析には程遠い列車が置かれていて、駅構内風な横のホームでは相変わらず巨漢が料理番組を見てツマミを片手にビールを喰らっている。


 横を見れば老人も自分と同じように眠っており、奥の方では何処から持って来たものか。


 大きな備え付け式のコンロがあるキッチンが増設されていて、何やら料理する女性の後ろ姿があった。


「………良いお嫁さんに成れそうだな」

「!?」


 振り向いた千音がパタパタとアトゥーネ・モードではなく一般人的な白いタートルネックにGパン姿でやってくる。


「良かった。気付いたのですね……」

「あれから何時間経った?」


「合流してからいきなり気を失ってしまって心配したのですよ。エニシさん」


「ああ、オレもいきなり気を失うとは思ってなかった」


「システム側に問い合わせても原因不明と言われて、アレから3日経ちました。あの後、3人で残る国を全て廻って8時間前に戻って来たばかりです」


「そうか。そんなに眠ってたのか……大丈夫だったか?」


「ええ、お爺ちゃんも頑張ってくれましたから。精神的に疲れてしまったみたいで……」


 ニコリと慈愛の女神張りに千音が静かな老人の様子に目を細める。


「ご苦労さん。こっちは恐らくあの装備のせいなんだろうが、代償くらいはまぁいいか。チート過ぎるのも考え物だしな」


 再びパタンと枕に頭を戻す。


「エニシさんの倒れた原因……私が見てみても分からなくて。ただ……」


「ただ?」

「エニシさんは過去を見ていましたよね?」

「……まぁ、恐らくそんな感じの夢だった気がする」


「エニシさんも子供の頃があったのだと知って、ちょっとだけ安心しました」


「子供の頃、か。まだ主観時間で二十歳も超えてないんだがな。オレ」


「それにしては達観し過ぎな部分のある気が……」


「性分だ。それと色々人生経験は豊富だ。主に拉致とか意識喪失とか戦争とかバトルとか……うん……まぁ、ロクでも無いのが多いが」


「そうですか……今、この間のお肉の残りを色々使ってビーフシチューとローストビーフ、それにサラダとかも作っているので、もうしばらく寝てて下さい。後、1時間くらいしたら、出来上がりますから」


「ああ、オレも自己診断しなきゃならないから、しばらく休憩してよう」


 頷いてキッチンに戻っていった千音は見れば見る程に良い嫁の後ろ姿のようなお手本に見えた。


 あちらの嫁達もこれくらい料理上手であったら良かったのだろうが、道のりは遠い事は間違いないと苦笑する。


 そして、各国の状況を網膜投影しようとして、基地の下にあるイグゼリオン3号機の格納庫兼作戦立案室兼ブリーフィングルームのある大深度から歩いてくる音を感知した。


 思わず飛び起きようとしたが、千音が一言。


「あ、ちょっと待ってて下さいね。今、エニシさんが目覚めましたのでお話でもしていて下さい」


「は?」


 思わず、千音が洗脳でもされているのかとその脳波を覗いてみたが正常。


 そうして、巨漢の後ろの階段にその姿が現れた。


「………どうしてお前が此処にいる? フラム・ボルマン」


「自分で渡したものも忘れたのかしら?」


 折り目が付いた悪の幹部募集中のチラシに思わず『ぁ……』と間抜けな声が漏れる。


「いや、物凄く暈して書いてた道のりを全部正解して此処まで辿り着いたってのか?」


「あの子が……力を失う前に占ってくれてたのよ……今日はあの子が言うからお詫びに……絶対、必要ないって言ったけど、そうしないと絶交だって言うから……」


 物凄く仕方なそうに来たのは分かった。


 高校は無くなったが、制服姿のフラムはホームから階段で降りて来ると寝台の横にある椅子に腰掛けた。


「結構、押しに弱いんだな。お前」

「ッ、誰のせいでこんな所まで来たと思ってるのよ!?」


「主に霞が関までやってきて戦おうとした誰かさんのせいだろ?」


「……テロリストを警察に突き出してないだけで感謝されこそすれ、嫌味を言われるような事は無いと思うけれど?」


「絶交されそうな理由を当ててやろう。あのリエとかいう子の伝手で政府に協力したな?」


「見てきたような事を……」


 ジロリと睨まれる。

 それに思わず吹き出しそうになった。

 さすがご先祖様と納得したからだ。


「何……その笑みは?」


「何でもない。で、ちょっと訊ねたいんだが、お前テレビとか……見るようには見えないな。新聞も……取ってるようには見えないか……ええと、ネットもダメとなると……ぁ~っと、友達やお手伝いさんに何か聞いてないか?」


「今、物凄く失礼な事を言われたんじゃない? わたし」

「でも、当たってるだろ?」

「……何が訊きたいのよ?」

「世界情勢」


「世界中で警察や軍人や政治家や役人やマフィアやテロリストや民族主義者や投資家や富豪が自分の両足を撃ち抜いたり、毎日悪夢に魘されてるって報道してるらしいけど、どうせあなたのせいでしょ」


「その通り」

「一体、何したのよ?」


「ちょっと、良い事しないと悪夢に魘されて、理由として正当性の無い殺人をしようとしたら適当に自傷行為へ奔るよう設定しただけだ」


 後方のキッチンからガラーンと空の鍋が落ちる音。


「何ソレ……」


「つまり、正当防衛が成立するかどうか。そして、その攻撃を受けるだけの理由があるかどうか。それで当事者間での殺傷行為が自分の武器で自分の脚を攻撃するかどうかに切り替わる」


「……色々な人間が困りそうよね」


「そうか? 罪の自覚がある連中が悪夢見てるだけだぞ? 犯罪者は警察に発砲したり脅したりする前に自分の脚を攻撃するし、警察や軍やテロリストも相手が無力化したのに発砲して殺そうとしたら、死ぬくらいの罪悪感が襲ってくるってだけだ。悪意を持って殺そうとしたりすれば、自分の脚を撃ち抜くのはどっちも変わらない。要はみんなで愉しく悪夢を平等に見て、銃を安易に使えない世界にようこそって話なんだが」


「呆れた。社会が崩壊するんじゃないの?」


「崩壊する程に銃を他人に向けてなきゃ統制が取れない国が多過ぎれば、そうなるんだろうが、生憎と正当な理由さえあれば撃てる」


「それはあなたが決めるのよね?」


「勿論、日本人というかオレ基準だ。あ、刑法と民法は全部頭の中に入ってるから問題ないぞ?」


「問題しかないじゃない」


 溜息が吐かれた。


「ちなみに今回の一件で合格した国は大国を含めても世界で21カ国しかない。第三世界や治安が悪い国は全滅だ。愉快な時代にようこそって案内状を出された連中は上から下まで全部が全部、今現在オレ基準で倫理を叩き込まれてる最中だろうよ」


「悪夢だわ……」


「人に迷惑を掛けるな。犯罪はしちゃいけません。賃金をちゃんと払いなさい。汚職をしてはいけません。人を安易に殺すのはダメ。他人に優しくしないと悪い事した奴は夜も眠れないし、廃人にも成れない生き地獄だぞっと。簡単に言えば、こんなんだが?」


「悪夢だわ……」

「まぁ、悪の秘密組織だから此処」

「その上で性質が悪い……」


 溜息が吐かれた。


「犯罪組織が犯罪出来ずに飢えたりもする。全うに働けないなら餓死するのみ。だから、そういう連中はひっそり暮らそうとするだろう。麻薬は全世界規模の耐性向上で何ら利益を生み出さない単なる白い粉に早変わり。暗殺家業は廃業するしかないし、殺人請負も不可能だし、不合理で理不尽な死は劇的に減るぞ?」


「あなた基準でね」


「ついでに経済的な犯罪も無くなるな。各国に全世界で脱税されてた金が全部納付される。国家の財務局は嬉しい悲鳴を上げてる頃だ。汚職の発覚で政府の混乱が瓦解まで行ってなきゃな。今まで大金を貯め込んでた投資家や資本家も世界規模での福祉政策にお金を出してくれる事だろうよ。悪夢から救われる為に……罪を自覚しない人間なんていない。それが人を傷付けていなくても……今まで誰かに過大な損をさせた分だけ資産を吐き出す事になる」


「神様気取りね」


「神様じゃなくて悪の大幹部気取りと言ってもらおう。後、普通に暮らしてれば、オレの誘導には何一つ引っ掛からないぞ? 普通に就職して、普通に真面目に働いてりゃいいんだよ」


「あなた、まともに働いた事無さそう……」


「く、何か妙に痛いところ付いてくるな。でも、別にいいだろ。マルクスだって主義主張が後世あんな被害出すとは思ってなかっただろうし、どっかの救世主だって、自分のせいで十字軍が出来て戦争の理由にされるとは思わなかっただろうよ。奴らがニート生活をしてて責められず、オレが責められるってのもオカシな話じゃないか」


「言い訳がましい……」


「ちなみに家族を持つのは人其々だが、真面目に家族を養って、愛してりゃ何も問題なんて無い。そして、それが《《報われなければならない構造》》がすぐにでもやってくる。ああ、勿論、働けない理由がある連中にも健康という奴をプレゼント中だ。脅威!! 手足が何故か生えて来た奇蹟!! とやらが全世界で量産中でもある。ガチャの詫び石並みにばら撒くのがまずは政治的にはいいかと思ってな」


「……欲しいものを与えて、別のものを取り上げるのよね?」


「悪の秘密組織の大盤振る舞いは豪勢なんだ。それだけの事と理解してくれ」


「聞けば聞く程、吐き気がする押し付けよね?」


「今回の一件で合格した先進国や人口の多い大国以外での話だ。人倫の質を一定以上に矯正、アップグレードして怒られるなんて、オレも中々悪党として大物になってきた感があるな」


 ジト目なフラムの視線は冷たい。


「人類虐めて楽しい?」


「イジメだなんてとんでもない。ハラスメントなんて言葉が無くなる社会の到来だぞ? 虐め格好悪いどころか。虐めようとしたら、何故か良心の呵責で死にたくなる程辛くなって謝っちゃう世界の開始中だ」


「この狂人」


「狂人ではなく変人と言ってくれ。あ、HENTAIは勘弁で」


 フラムが聴くに絶えないと言いたげに寝台の横にあった菓子折りらしきものをこちらの膝に置いた。


「……半分食べてもいいがどうする?」

「用は済んだ。さっさと帰るわ」


「そうしろ。後、此処の事は秘密にしといてくれ。まだ使うからな」


 そう言った途端、こちらを真面目な瞳が捉えた。


「……どうして、いつもわたしを遠ざけようとするの?」

「自意識過剰なんじゃないか?」


「嘘じゃなければ、何でも通るなんて思ってないでしょうね? 見てれば、分かる。話してれば、分かるのよ……それともそんな事も分からないと馬鹿にしてるのかしら?」


「馬鹿にはしてないが、どうしてそう思うんだ?」


「詭弁だけであなたみたいに生きてる人間ばかりじゃないのよ」


「……ふむ。じゃあ、オレの言っていた事で詭弁だと思う事を上げてくれるか?」


「それが既に詭弁ね」


「じゃあ、お前の訊きたい事をもう一度聞かせてくれ」


「どうして、わたしを、遠ざけるの?」

「お前がオレにとって重要人物だからだ」

「具体的な理由は?」


「未来人だから言えないな。よくあるだろ? 未来の事は大抵秘密なんだ」


「そんなの詭弁よ。最初に自分で言ってたじゃない。全部本当なんでしょ? なら、あんな未来を生きた奴が今更にペラペラ話してる内容にわたしを拒絶する理由を話さない、なんてのは不自然じゃない。無駄に真実を混ぜてるから、どれがどんな風に重要なのか分からなくなる。そして、今まで一つだってわたしに話さなかった事が隠したい真実。違うかしら?」


「じゃあ、当ててみるか?」


「詭弁よ。わたしはあなたから直接訊きたいの。クイズしてるわけじゃない」


「どうしてオレから直接訊きたい? そんな事に何の意味があるんだ?」


「詭弁よ。質問に質問で答えないで。どうしてあなたは私を拒絶するの?」


「………何か追い詰められてる気がする」

「引き延ばし工作は無駄」


「オイ。そこのもう起きてる元総統閣下。助けてくれないか?」


 横の寝台に援軍を頼る。


 すると、片目を開けたお茶目ジジイがヒラヒラと手を振って、反対側に寝返りを打った。


 どうやら、その気はまるで無いらしい。


 その背中は若者の青春なんて若者で解決したまえと言いたげである。


「………お前がオレの知ってる未来の人間の先祖だからだ」


「嘘、ではないけど、本当でもないわ」


「そういう風に心とか読むから逆に言い難い事ばかりなんだけどな」


「全部本当なのが腹立つわね」


「ここら辺で勘弁してくれ。オレにだってプライバシーってものがあるんだ」


「本気で言ってるところが、もっと腹立つわね」


「……どうしたら帰ってくれるんだ? フラム・ボルマンさんは……」


「核心を言いなさい」

「それを言えば、お前が危険に晒されるからだ」

「―――」


 どうやら、こちらの言い分は理解したらしい。


「何よソレ。それじゃ……《《答えそのもの》》じゃないの……」


「だから、言いたくなかったんだ。この世界にこの情報がある事そのものがオレの弱点だからな」


「馬鹿みたい……何よ……わたしの事が大切だとでも言いたいの? 未来の―――」


 唇をピタリと人差し指で遮る。


「残念だが、それ以上は止めておけ。本気でオレが困る」


 指を退かしたら、ジロリと睨まれた。


「……一度だって会った事の無かった……この間から馬鹿にしてきたわたしの事を本気で危険に晒したくないって言うの?」


「ああ」

「未来の為に?」

「……ぁあ」


 そこまで応えて何故か。

 フラムが何やら拳を震わせていた。

 そして、ボカリと頭を殴られる。

 上を向くより先に背中が向けられた。


「馬鹿じゃないの……」

「ああ」

「オカシイじゃない!! だって、わたしは……」


 それ以上は言わず。

 拳はまだ震えて。


「オレの勝手だ。だから、もうこれ以上は関わるな」


「勝手ね」


「そうだな。でも、その方がお互いの為になるはずだ。オレはそう思ってる」


「………………決めた」


「何?」


 ツカツカと歩いていったローファのフラムが千音の横に立つ。


 そうして、チラリと千音がこちらを横の年下を見て一言。


「私は構いませんよ。エニシさんにはそういう人も必要でしょう」


「ちょ、オイ?! 何か勘違いしてやしませ―――」


 振り返った千音の瞳は僅かに輝いている。


「この私が《《見間違える事》》なんてありませんよ。エニシさん♪」


「ぐッ」

「吾輩は千音さんの意見に一票を投じよう」

「コレそういう案件じゃないから!?」


 横を睨むと老人が『おお、怖い怖い』とブランケットを被りつつ、肩を震わせていた。


「フン。その男には良い薬だ。適当にやっておけ。我々は互いを利用し合う関係だ。利用出来るものは何でも利用すればいい。それが例え、本人が望まぬ事だろうとな……」


「こういう土壇場で裏切るなよ?! 後、お前こういうのが分かるようなキャラじゃないだろ?」


「何を言っているのか分からないな。我が名はベリヤーエフ。これでも人生経験は豊富だ。まぁ、数人はいた」


「―――オレが知って来た真実の中で一番の驚愕だッ」


 喚くものの。

 ツマミを齧る巨漢の瞳はこちらを向いたりもしない。


「……何を決めたのかなんて聞かないし、さっさと帰れ」


「決めたわ」


「あのー人の話を聞いてるのかな? フラム・ボルマンさんは」


「決めたのよ。だから、あなたも決めたらどう? もし決めないって言うなら、わたしはあなたに付き纏うわ。地球上の何処に行こうがね」


「………」


 もう沈黙するしかなかった。

 何を言おうと。


 こういうタイプは一度決めたら初志貫徹だと分かっていた。


「エニシさんの負けですよ」

「ああ、吾輩もそう思う」

「フン。良い気味だ」


 どうやら真にこちらの心情を慮ってくれる仲間はいないらしい。


「ぁ~~~っと………ウチは基本的に薄給にな―――」


「嘘はイケマセンよ。エニシさん」

「ぐッ?!」

「福利厚生バッチリ、でしたよね?」


 ビーフシチューをお玉で掻き回す魔女の唇は艶やかに微笑んでいる。


「ぇ~~~それから根本的に仕事時間はブラッ―――」


「ふぅむ。老人にも優しい1日8時間労働、小休止アリな上に残業時は体力が持つように専用の栄養剤まで用意してくれる真っ白な業務体制。ぁあ、我が国の産業界でもこれくらいの待遇を確保出来ていればなぁと思わない日はない」


「くッ」


 明らかな援護射撃がこちらをガンガンと捉える。


「ぅ~~~経験が無いとやっぱり難し―――」


「人をやった事もない仕事に駆り出して働かせる事に掛けてはこの口の上手い男が仕切ってくれるおかげでこちらは楽なものだ」


「ッッ、お・ま・え・ら!!?」


 睨むと三人が三人とも知らん顔で横に視線を逸らす。


 フラムがこちらを見つめていた


「………オレがやってる事、本当に分かってるのか? 言っておくが、魔術の世界と戦争、なんてのは序の口なんだぞ?」


「だから?」


「これから先は危険度は跳ね上がるし、満足な死に方が出来るか怪しい領域に突っ込む事が決まってる。それこそ、人間らしい最期なんて不可能になる可能性の方が高い」


「だから?」


「それでもお前がストーカー行為をすると言うなら、オレにも考えがある」


「言ってみたらいいじゃない」


「……オレの創った衣装を着て貰おう。戦闘服は悪の組織の大幹部にとって重要な要素だ。胸元空きまくり、スリット入りまくり、背中だって出しまくりだ!!」


 最凶の売り文句でどうにか出来るかと踏んだが。


「HENTAI……」


 相手は呆れた様子の白い目でこちらをジトーっと睨んでいた。


「く、的確な返ししやがって!? イヤなら帰れ!!」


「嫌だけど帰らないから、さっさと渡せば? これからHENTAI野郎って呼ぶから」


「―――はぁぁぁ……分かった。好きにしろ……だけど、これだけは言っておくぞ? 自分の今の生活を清算する気が無いなら、身元がバレないよう気を使え。これから幾らでもお前の傍の誰かがお前のせいで傷付く可能性があると理解しろ。オレがやってるのはそういう事に成り得るもんなんだ」


「………分かった。家でも処分すればいいの?」


 頑固極まる。


 その相手の言葉に降参するしかなかったのは自分の甘さ故か。


「オレはお前をこの計画に組み込むつもりなんて無かった。でも、お前がそう望むなら、フラム・ボルマン……お前に本気で向き合ってやる」


 ようやく。

 ほんの少しだけ。

 相手がこちらを真面目に見つめて。


「いいか? 泣こうが笑おうがお前の人生はもう決まった!!」

「な、何が決まったって言うのよ……」


 取り敢えず、思い付く限り、理不尽を並べ立ててみる。


「お前が幸せ過ぎて泣いて不幸にして下さいと言っても、もう遅い!!」


「な、何よッ、不幸って!?」


「お前はこんな事に関わった代償としてこれから死ぬまでボケられもせずに老衰で穏やかに家族に囲まれて何一つ不自由なく怪我も病気もせずに逝くまで元気に暮らすんだ!!」


「は、はぁ?!」


「お前と出会った連中は全員が全員、不幸になんてならない!! 親類知人友人全部と安らかに最期まで余生を過ごしやがれ!!」


「ッ―――」


「オレがそうしてやる!! オレがそう努力する!! だから、これからお前の寿命分の命は全部オレのものだ!! どんな血反吐を吐こうが、激痛で脳死しようが、内臓が腐ろうが、精神を破壊されようが、廃人になろうが、地獄を見ようが、安易に死ねると思うな!!」


 思わずか。


 こちらの言い分にようやく他の三人が目を丸くしながら、だが……どうにも苦笑気味でやれやれと言いたげな顔をしていた。


「………」


 驚いた様子だった相手はしかしやがて小さく。

 ほんの小さく。

 苦笑にすらならないような微笑を零して。


「じゃあ、その代わり、わたしはアンタに何をすればいいの?」


 馬鹿げた話だ。

 咄嗟、言葉は出なかった。


「………そんなの想定してない。もしあるとすれば……幸せに暮らせ……何よりもこの世で難しい……たった、それだけの事だ……」


 だから、要求なんてソレしか思い付かない。

 だって、そうだろう。


 自分が誰かに願う事なんて全て押し付けでしかないのだから。


 全てを極限まで突き詰めれば、それが答えなのだ。


「……案外、アンタには向いてるのかもね。リエが言ってた通り」


「何?」

「あの子が言ってた」


 少女は未来の子孫とは少し違う笑みで。


「《《かみさま》》には全知全能よりも少し愚かで浅はかなくらいの方が向いてるって」


「―――ぁあ、そうかい」


 言い返す言葉が見付からない。


「馬鹿……褒めてるのよ……ふふ、あはは―――」


 はっとするように鮮やかな。

 その笑い声が大きくなっていく。

 それに吊られたか。

 周囲にもソレは伝染して。


(ぁあ、格好悪いな。まったくオレは……始めて起きた日から何も変わっちゃいない……ただの愚かで浅はかな子供のままだ……)


 それを恥ずかしさと言うのなら。

 きっと、世の中は憤っていい。

 こんなの恥じの内に入るかと嗤っていい。

 自分で言っておきながら酷いものだ。


 これではチートツールで粋がったネトゲのチーターと大差ない。


「初めまして。悪の大幹部さん。面接は合格かしら?」


 少女は全てを見通した女神のように美しく。

 そう、微笑んだ。

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