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ごパン戦争  作者: TAITAN
大食卓規制戦~過ぎ去りし晩餐~
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第262話「東京崩壊(嘘)」


 都心において監視カメラの映像で特定車両や人物を追跡するNシステムを避けて移動する事は通常の方法ならば不可能だ。


 先進国のカメラ台数から言えば、首都は大抵電子の要塞であり、その目から逃れる方法は常識的に考えたら、自らを偽装するくらいしかない。


 その際たるものだろう全天候量子ステルスは現在も順調稼働中。

 なので都心で活動するなら移動は単に電車で構わない。


 キセル乗車はお辞め下さいと言われるのは心情的に嫌なので代金は一応二人分、電子マネーで地下鉄運行する各社に振り込んである。


 一番空いている電車に乗って揺られながらウロウロするのはまるで幽霊の気分。


 目的地に到達するまでの時間は適当に魔術の古文書の解読に当てた。


 システムに翻訳を任せて内容を開示させながら読む事、30分。


 読み終えた書物の内容は一言で言えば、物理法則どこ行った?


 と思うようなものばかりだった。


 書かれていたのは簡単に言えば、音声と精神集中、それから人間の精神的な何かが生み出すものを消費して、明らかに普通の物理事象とは違う原因から結果に辿り着く為のシステム概略だ。


 疑似的に神経細胞を外部に束で再現し、その先を口パクする機械と生体に繋げ、適当に本の中に描かれていた呪文とやらを試してみたら、不発ではあったが、明らかに物理事象ではないと思われる現象が出現した。


 ついでに神経細胞の束が原因不明の病。


 細胞の電気的刺激の減衰で枯死した事から、精神を使うというのが脳内の電気的な活動をリソースとして使う事も判明した。


 チートコードを使っている身からすると、使い難い。


 後、呪文の大半の効果が脳内のリソースを使うにしては微妙なものばかりだったので自分で使うとすれば、正しく追い詰められた時くらいだろう。


 ただ、気になったのは空間を跳躍するレベルの事をする場合、普通は人間が一人死ぬくらいのリソースが必要であるという事だ。


 この事からして、恐らく魔術という体系と相性が良い性質を持つ人物がフラムなのだろう事が推測出来た。


(物理法則無視するのはいいが、使い勝手が悪過ぎる点がガッカリだな。イグゼリオンの動力源並みな魔術はこっちだと恐らく超大規模な代物に分類される。あっちの月のオレがあの蛸神と諸々契約してたって話からすれば、無限機関つーのも実は魔術にとってのオーバーテクノロジーの類って事なんだろう)


 電車が止まる。


 扉が開くのと同時に書物を懐に仕舞って、ベリヤーエフとは別行動を取る。


 都内だけで魔術を使う連中の拠点が32箇所。


 今日中に片付けようと移動する毎に3つずつ破壊していたのだが、最後の2箇所が反対方向になっていた。


 全国にある拠点は全部で392箇所。


 だが、有象無象に関わっている暇も無いのでそっちは基地を破壊したのと同じ方式で砂にした。


 魔術師だろうが、魔法使いだろうが、結局は人間だ。


 確かに中には妙に頑丈だったり、勘が良さげだったり、未来予知してそうだったり、こっちの大気層の実体を見たり、人間止めていたり、そもそも生物じゃなかったり、という連中も混じっていたようだが、拠点の崩壊は止められなかった。


 当然だ。

 環境兵器。


 その極限系である《《神の水》》を前にして単なる一個人の能力がどうこう出来るはずもない。


 中には水を念動力やらパイロキネシスやらで探ろうとしたり、破壊しようとした者もあったが、物理現象をほぼほぼ制御する力を前にして何が出来る事も無かった。


 実際、もし近場にいたらこっちとイイ勝負が出来そうな連中もいるにはいたが、それが数百kmから数千km先で動き回るこちらを捕捉出来る力を運よく持っている、という事も無かったので一生知り合いになる可能性は0だろう。


(此処を潰せば、ほぼ国内の拠点は全部だな。後は宣戦布告だけ……世界規模の拠点の数は349092箇所。非合法はその三倍以上あるらしいが、大手が全部拠点を失って追い出されたら、そういう潜ってる連中も動き出す。そこを狙い撃ちだな。国内でどれだけ出来るか確認してからノウハウを転用って感じにしようか)


 歩いて七分。

 東京某所の女子高は何故か厳戒態勢を敷かれていた。


 傍目にはそう見えないのだが、逸早く魔術関連の施設が砂になって破壊された事を知った故に防備を固めたのだろう。


 半径50m圏内には害意ある者を知らせる結界とやらが電柱やら路地裏やらに文字が刻まれる事で確立され、校舎を囲む壁そのものにはハイテクな警備システムのみならず、何やら動物や植物を使った触媒らしきものが粉状にして振り掛けられており、入った瞬間に相手に大規模な干渉を行う系統の魔術が掛けられているようだ。


 ついでに各扉の外と内側に一人ずつ上級生もしくは職員が配置されていて、校舎内部の女子高生達は何やら外部と連絡を取りながら沈鬱な表情になる者、どうやら各地の魔術関係の施設で働く親族を心配する者、などで溢れていた。


 まるでこれから戦争がありますと予告されているような絶望的な表情やら絶対に生徒を護ってみせる的な引き締まった表情で警備する生徒会役員やら……申し訳なくなってくるが、生憎と絶対的な社会の母数が消滅するかどうかの瀬戸際だ。


 この際、災害だと思って諦めて貰おう。


(警備が53人。教員23名、生徒30名……他の拠点と一緒の方法で施設を砂にして人間は埋もれないように誘導。それから情報端末を内部から破壊して連絡手段を全て取り上げて情報弱者として無力化ってところからだな)


 東京都心で製造していた制御下の大気が周辺から水分を集め、小雨を学校の上に降らせ始める。


「?」


 しかし、どうした事か。


 雨事態が虚空で何やら蒸発した様子で地面や3棟の校舎や体育館、部室棟などまで届かなかったようだ。


「もう手品の種がバレたのか? いや、バレてもそう情報は拡散してないかと思ったが、混乱中でもやっぱり魔術で連絡が取れる奴が結構いるんだろうな……」


 適当に地下から浸透させてみると今度は上手くいった。

 どうやらさすがに地下からの水の浸透までは防げないらしい。

 それはそうだろう。

 インフラが逝ったら施設が維持出来ない。


 すぐに建物が砂として崩れ始め、それに気付いた殆どの生徒や教師達が思わず避難を叫んで体育館や校舎から次々脱出していく。


 全員を確認し終えたところで全部砂にして崩し、魔術に使うのだろうあらゆる物品を身に着けているモノ以外全て崩壊、無害化する。


 その光景を前にして殆どの者達が呆然とする最中。

 地中から奇妙な反応がグラウンドに立ち昇るのを確認した。


「?」


 何やら熱量を持っている上に滲み出すように物質が虚空へと顕れる。


 それは……芋虫だった。

 それも酷く見覚えのあるような形状の。


「は? ぁ~~~魔術使ってる連中的には芋虫とか知ってるのか。オブジェクトを独自に囲ってるのは財団だけじゃないのは知ってたが、狭い世間だなホント」


 芋虫は同じ形状だが、大きさが極めて違う。

 全長40m程もあった。


 教師陣は呆然としているモノもあったが、何やら封印されていたものが唐突に出て来た事で戦う覚悟みたいなものを悲壮さマシマシで顔に浮かべている。


「はぁ……此処まで来てまた芋虫退治か」


 芋虫が蠢くと同時に周辺地域の地盤の一部が崩落するかのように消え去り。


 否、芋虫の擬態が解除されたようで元の状態へと戻り、沈み込んでいく。


 東京都心内部の大深度までの質量比で凡そ20%程まで水を増殖させていたので、地下水脈の噴出を装って地盤内部をCNTと合金製の柱で補強。


 続いて、合間に周辺地下から土砂を上に補填して、空洞を周辺水脈の引き込みで満たして圧力も確保する。


 大地震で大規模沈下で大災害とかいう最悪のシナリオはサクッと回避された。


 ついでにまた何かし始めようとする芋虫に跳躍しながら最速で拳を叩き付ける。


 グシャリという音と共に芋虫そのものの体積が半減した。

 対象物体を周辺の莫大な大気圧で圧縮。

 ついでに潰しながら原子以下の素粒子レベルまで崩壊させる。

 物質である以上、コードは常に物理法則下の敵に優位だ。

 途端、東京都心のあちこちの林が芋虫の大群に早変わりする。


 まだこれだけ隠れていたのかとげんなりしつつ、それも真下から噴き上げさせた水の中に取り込んで分解。


 どうやら、都心の崩壊を食い止める杭のような役割をアレにさせていたらしい。


 芋虫さんお帰んなさい。

 とやり終えた後。


 そのまま退場しようと迷彩を切らないままに飛行しながら数百m先の路地裏に降りた。


 一瞬の出来事に『地震来た?』と通行人が周囲をキョロキョロ。

 ついでにスマホを見始める。


『こちらベリヤーエフ。終わった』


「じゃあ、帰って適当に寛いでてくれ。オレはこれから宣戦布告してくる」


『糧食はいるか?』


「好きなだけ渡した金額の中から出して買っといてくれ。今日中には戻る」


『分かった』


 あっちが拠点に付く頃には終わるかと。

 ツリー方面へと向かおうとした時。

 振り向くと女子高生が一人。

 目の前には佇んでいる。


「また会ったな。あ、これ返そうと思ってたんだ。参考になった」


 スタスタ歩いて、その片手にナイフを下げた極めて目付きの悪い少女に古文書を差し出す。


 それを片手で受け取って、外套の内側に仕舞い込んだフラム・ボルマンがジト目になった。


「……友達の実家が砂になったわ」

「そうか。悪いな」


「やっぱり……あそこで裂いておくべきだったかしら。ウチの学校まで標的にするなんて……」


「悪いと思ってるがこっちにも理由がある。後、殺しちゃダメだろ。女子高生は女子高生らしく友達とスマホでも弄りながら、カラオケでも行ってたらいい。イケメン捕まえて遊び歩いてもいいぞ? あ、援助交際でパパを捕まえるのは無しの方向で」


 もはや今にも斬り掛かられそうなくらい冷たい視線、瞳が細まる。


「一体、何をしてるの」


「ちょっと、地球上の全魔法使いさんとの間に戦争起こして秘匿されてた神秘的なもんを全部暴露しようかと思って」


 額に人差し指と中指が当てられた。

 どうやら物凄く頭が痛いらしい。


「こっちの世界の事が知れたら、大混乱になると思わない?」


「こっちの世界? 生憎と宇宙船地球号には人類社会一つしか存在しないぞ?」


「っ……ねぇ、あなた本気で言ってるの……」

「逆に聞くが、何でマズイんだ?」

「それは……」


「問題が色々あり過ぎるのは分かる。だが、今の時代、その程度の事で何かが劇的に変わるわけないだろ。普通の常識で考えてみろ。突然、新しい技術で出来た商品が出てきて、ベストセラーになって人間社会に行き渡る。こんなのは何処でも起きてる話だ。新技術と魔術、一体二つの何が違うんだ?」


「危険なものが多数含まれている事がアレを見ても分からなかったかしら?」


「政府が管理すれば全て解決だな。基本法を策定して、対処療法は既存の法律でやればいい。その間に起こる犯罪云々は逆に魔術を知ってる側の社会が対処すればいい。擦り合わせは必要だろうが、そう大した話じゃない。ネットが元々軍用だったように普及する過程で適当に弱体化された魔術が誰でも使えるようになる可能性があるってだけだ」


「そんな事をして、あなたにどんな得があるのかしら?」

「世界を救う前の下準備が捗る」

「……何から救われるの?」


 努めて冷静になろうと胸に手を当てて、己を落ち着けたフラムがそう訊ねて来る。


「取り敢えず、地球上の生物がコケ類と人類モドキだけになる未来から、かな」


「………自分で言ってて恥ずかしくない?」


「物凄く恥ずかしいが、仕方ない。オレ以外にやる奴が今のところいないせいでオレの管轄だ」


「何もしないってのはどうかしら?」

「残念だが、何もしなかったら半年後には第三次世界大戦だ」


 もう何と言ったらいいのか。

 心底に飽きれた様子で。

 相手の嘘と真くらいは普通に分かる少女が大きく深呼吸した。


「此処であなたを殺したらどうなると思う?」


「まぁ? 最低限の仕事はしたが、この世間的な流れをオレの手で一本化する以外に破滅しない未来ってのが無い」


「つまり、殺したらこの地球が滅びると……」


「そんな感じだ。魔術がどれだけ凄いのかは知らないが、地球がお亡くなりになっちゃ困るだろ?」


「………最後の一つ。どうして、あなたは《《戦わないの》》?」


 その言葉に初めて考えるしかなかった。

 沈黙は数秒くらいだろうか。


「オレの戦いはオレのいた場所にある。そして、此処で戦わなきゃならないのはこの世界の連中だからだ。オレが本気で戦っていい道理はないさ」


 ナイフが目にも止まらぬ速さで鼻先に突き付けられた。


「気に入らない……此処までしておいて、戦う気もない……それでも引く気がない……全部、自分の思い通りになると思ってる」


「思い通りにならなきゃ困るんだよ。帰る前に全部見ておく必要もある。オレにだって自分に出来る事、出来ない事くらいの分別は付く。だから、やれる限りはやってる」


「詐欺師より性質が悪い。自分で戦いもしないのに誰かに戦わせようとする奴……それを何て言うか知ってる?」


「ダメ人間?」

「クズ野郎よ」


 避けずにナイフが鼻先に僅か食い込む。

 横一文字の傷から血は滲まない。


「余裕のつもりなら、愚か過ぎる。慢心してないとしても、人の心が分かってない。自分を見てみなさい。鏡に映ってるのは一体、どんな生物だと思う?」


「愚かさは身に染みてる。慢心はしてないが、人の心は分からない。予測は出来てもな……それと鏡を見るのはもう止めた。オレを客観的に見たら、言う必要も無くヤバい奴だし、もう見飽きる程に結末は見た」


 苦笑が零れる。

 ジリッと刃先が食い込んだ。


「この馬鹿騒ぎを止めなさい……こんなのあなたの為にもならない」


「………お前、優しんだな。オレの知ってる奴もそうだった」


 鼻先の刃を摘まむ。


 それと同時に指先の皮膚表面がスポイルした空間に食らわれそうになるが、指先の同金属の干渉で相殺。


 引き抜いて、そのまま相手の手を筋力のみで下げさせる。


「ッ―――」


「残念だが、お前がオレを脅せる可能性は限りなく0だ。それと女子高生ならナイフよりお化粧道具を持つ方が何かと世間的に使えるぞ? 攻撃力は実社会じゃ使わないからな大抵」


「余計な……お世話よ」


 何処か不貞腐れたかのような顔が僅かに逸らされる。

 指先を刃先から離して、今度こそ路地裏から歩き出す。


「家を失くした友達には悪いって謝っておいてくれ」

「……この人でなし」


「残念ながら人間と言えるか微妙だ……ま、適当に女子高生として高校生活をエンジョイしてるといい。また、会おう」


 跳躍で空に飛び出せば、背後からは攻撃の一つも飛んでこなかった。

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