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ごパン戦争  作者: TAITAN
調味料大戦~塩の化身~
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第26話「騎士の真実」

第二章も次回クライマックス展開です。では、次回。

「百合音!!?」


「もし逃げ出す算段になったら、某の事は置いていくでござるよ。それよりもまだ大事な話があるのでござろう?」


「……分かった」


 未だ事態は流動的。

 フラムにチラリと目配せすれば、その背後のライフルを僅かに揺らした。


『団長』


 コンソール付近まで歩いていくサナリが青年を見つめる。


『どうやら此処に来て一発逆転の芽があったらしい』

『これからどうするつもり?』

『後はお前の血を使うだけだ』

『これで敵を?』

『敵となる全てを殲滅する』

『これが終わったら、子供達を迎えに行って』

『ああ』


 そのやり取りにフラムがいい加減ブチ切れそうになっていたが、強化プラスチックっぽい壁をライフル一丁でぶち抜けるかどうかは疑問だ。


 対物ライフルだけでぶち抜ける可能性もあるが、確実に40cm以上はありそうな壁を前にしては威力的に足りるか怪しい。


 まだ、可能性はあると二人に話し掛けてみる。


「これからどうするつもりだ」


 アルムが油断した様子も無くコンソールの一部のカバーを外してサナリに手を付けるよう促しながら、こちらに応答する。


「聞いていただろう? 今、言った通りだ」


「そんな事をしてもキリが無くなるぞ? その力があると知れば、大国が動き出す。世界を敵に回す気か!!」


『生憎とまだ力の修復が完全じゃない。それ程に虐殺は出来ない。だが、大国にチラつかせる刃物としては上出来だ。実際、共和国首都周辺が壊滅状態となれば、祖国の独立は叶う。そして、周辺国の独立を支援して壁とすれば、他の大国が我が国へ実質的に入ってくるには大きな障害となる。これなら散らばった民を集め、騎士団を再結成するだけで混乱し、足並みの鈍った共和国相手にも防衛戦だけで足りるだろう』


「裏切りは世の常だろ!!」


『裏切り者には死の制裁を。その為の力だ』


 コンソールに置かれたサナリの手が離される。

 すると、正面のモニターにDNAシーケンサ起動中の文字が浮かび上がった。


「そんなハッタリがいつまで持つと思ってる!!」


『ハッタリは自分じゃないのか? 今、周囲の探査が終了。お前が言っていた部隊は周囲に見当たらないな』


「共和国首都の人口と二十年前の戦争で死んだ人間どっちが多いと思ってる!!」


『同胞の血は同量以上の血で贖ってもらおう』


「その同胞だって共和国の軍にいるだろ!! 同胞をその手に掛けてまで、その下らないプライドの為に虐殺する気か!?」


『くだらない、だと?』


 アルムの表情が急激に変化した。

 今までモニター横から離れなかった姿がツカツカと透明な壁の前まで歩いてくる。

 そして、帯剣が引き抜かれ、壁に突き立てられた。


『貴様に何が分かるッッ!!? 騎士団は今やただのペロリストに堕落したッッ!! 多くの連中が活動に見切りを付けて去っていったッッ!!! 奴らは裏切り者だッッ!!?』


 剣が何度も何度も壁に傷を残すように突き刺さる。


『貴様も見たはずだ!! 自分を見張ってた連中がどれだけ腐っているか!! もう構成員の半分はあんな連中ばかりだッ!! 兵隊の資質も無く!! ただ、適当に共和国へ意趣返しをして食っていけるからッッ!! その程度の覚悟しかなくなった奴らだッッ!!! 気概があるのは貴様が倒してきた此処を守る奴らや副官の部下くらいなものだろうッ!! もう、全うに戦える者はほぼ残ってない!! 残されていないッッ!! こうなるくらいなら、二十年前の戦争で全員くたばっていれば良かっただろうッッ!!』


「なら、お前だってその覚悟が無い一人になれば良かった!! ペロリストとやらを解散すると言えば良かっただろう!! お前は騎士団長なんだろ!!」


『お飾りなんだよ!!?』


「飾り?」


『この何処から拾ってきたか分からない餓鬼を団長にしたのは連中だッッ!! それはどうしてだと思う!!! もう自分達の親族や親族の息子、孫の大半がMUGI耐性者だからだッ!! 若者は共和国の軍人ばかりッッ!! 連中はオレを選出した時点で祖国の奪還なんて望んじゃいなかったのさ!!』


「……ッ」


 怒りの頂点に達したらしきアルムの口から次々に言葉が悲鳴のように漏れていく。


『誰も彼もッッ!! 道化から道化にされた操り人形の騎士団長に最後の責任とやらを押し付けただけだッッ!! 自分に出来ない事をッ!! 自分の息子達にはさせられない事をッッ!! その為に華々しく戦って死ぬか、共和国に頭を垂れろと言う奴もいたッッ!!! いいかッッ!!! 此処にいるのは元騎士団の残骸なんかじゃないッッ!!! ただの保身に走った連中が祭り上げたペロリストの親玉だッッ!!!』


 その独白染みた声に背後でサナリが顔を俯かせていた。

 様子から見て全て知っていたのだろう。


「復讐のつもりか?」


 ハァハァと息を切らせて、剣を落としたアルムが嗤った。


『笑わせてくれる……今更何に復讐しろと言うんだ。オレをこんな風に育てた連中か? こんな国にした共和国か? それともこんな子供騙しの八百長にオレを使って誇りや面子を保った祖国そのものか?』


 その表情を何と表現すればいいのか分からない。

 泣きそうなのか。

 怒っているのか。

 悲しんでいるのか。


「……お前が道化だと言うなら、まずは周りを見てみろよ」


『あ?』


「道化のお前の為に死ぬと分かって付いてきた兵は何人もいたな。そこにいるサナリがどうして一人で来てると思う? 死ぬかもしれないのに逃げ出して、わざわざお前のところまでやって来た」


『何が、言いたい……』


「単なる一般人の忠告だ。この弱虫野郎」


『ッッ?!!?』


「お前はただ自分の置かれた状況に酔ってるだけだ。自分は可愛そうなお飾りだから何をしてもいいと駄々を捏ねてるクソガキだ。そんなお前の為にペロリストをしてる優秀な兵隊は哀れを通り越して、滑稽ですらある。自分より弱い女の子に助けて貰ってご満悦か? この状況でお前がヘラヘラ笑ってられるのは誰のおかげなんだ? 今のお前は道化ですらない。課せられた責任に嫌気が差した挙句、自分を支えてきた誰かの期待や希望を裏切って逃げ出した幻滅されるべき詐欺師だ。違うなら反論してみろよ。アルム・ナッツ。いや、《《何処かの誰かさん》》」


『―――ッッッッ』


 その怒髪天を付く形相を嘲笑って、とりあえず横の『やるじゃないか』的な視線でニヤリとしたフラムに今可能な限りの行動を伝える。


「同じ場所に全弾打ち込めば、割れるかもしれない」

「この動かない壁相手に何をいわんや。私を誰だと思っている!!!」


 フラムが担いでいたライフルを構えて足を踏ん張った。

 そして、射撃が始まる。

 一発目が入った時点で確信が生まれた。

 大きく壁に亀裂が入ったのだ。


「私はEE」


 二発目がまったく同じ箇所に入って銃弾を更に奥深くへとメリ込ませる。


「元の兵科は狙撃兵だ」


 三発目の時点で亀裂の周囲に無数の罅が向こう側を見渡せない程に壁を白く濁らせる。


「それにこのライフルはお気に入り」


 四発目が入った時、壁の周囲から埃と粉々になった表面部分が剥離して落ちていく。


「《《私が》》戦場でデータを取った」


 五発目は既に貫通寸前。


「世界初の大口径長距離狙撃銃」


 その跳弾が室内で音を立て。

 六発目が脆くなっていた付近に打ち込まれ。


「こいつでれないモノなんて知らない」


 捨てられたライフルが重い音を立てて。


「懐かしき《《元》》相棒は優秀だ」


 反対側から乾いた笑いが、結局突破出来ないのかと嘲笑おうとした青年の声が、白いガバメントの連射音に掻き消された。


 全弾が命中し、完全に壁が割れて崩落する。


「チェックメイト。罅を探す時間をありがとうと言っておこうか。エニシ」


 フラムが剣を既に構えていたアルムの額を照準する。


「そんな事してたのか……」

「何?! 真面目にこの壁を壊そうとする時間を稼いでいたのではなかったのか!?」


「縁殿は頑固でござるから、単に口喧嘩で負かしたかっただけだと某は気付いていたでござるよ」


 片足で立ち上がっていた百合音が苦笑した。


「止めてくる。そっちは頼むぞ」

「任せろ」


 走り出して今も動いているコンソールへと向かう。

 アルムは銃の前に動けず。

 残っているのはサナリのみ。

 少女は今までの話を聞いていたはずだが、やはり立ちはだかるようだった。

 その手には小さなナイフが握られている。


「来ないでッ!!」

「人を殺してまであいつに虐殺させるのか?」

「ッッ!! そうしたのは共和国ですッッ!!!?」


「だが、裏切り者だからって昨日まで一緒に笑ってたかもしれない同胞を殺すのに自分の手も汚さないのは明らかにマナー違反だろ。それに戦争のルール違反は無くても、騎士と名乗った男に不名誉を擦り付けるのはあいつを支えてる奴がやっていい事じゃない」


「綺麗事を言ったって!! じゃあ、どうすればいいって言うのです!?」


「黙って投降して関係ない同胞の為に死ぬか。死なずに逃げて無関係に暮らせ。此処には少なくとも白黒でどうにかなる回答なんて無い。自分の幸せな未来とやらが欲しくなくとも、子供達の未来くらいは守ってやれよ。大切な家族なんだろ?」


「―――ズルイ。そんなのズルイ……」


 震えた短剣が、無表情の仮面。

 いや、たぶんは押し込めていたのだろう感情の壁が砕けると同時に落とされた。

 後は何も言う事など無い。

 コンソールに向かう。

 やはり、生きているキーボードが一つ。

 その上、英語と日本語が入り混じるモニターには複数の通知があった。


(落ち着け。これがもしも衛星みたいな酷く緻密な計算を要求される代物なら、この出てる数値を出鱈目に書き換えれば、どうにかなる可能性が高い。慎重に試すんだ……)


 幾つかの項目を脳裏で日本語に翻訳し、それに即して数値のインプットを行ってみる。

 すると、衛星への命令とやらが確かに送信されている事が数秒で分かった。


(何処から電波を出してるのか知らないが、この衛星のマイクロ波の照射地点を変えればいいんだ。せめて地球上以外が指定出来るように祈るか……)


 数値を何度か入力して確認し、ようやく地表ではなく。宇宙空間と思われる場所への変更が出来た、ように見られたが実際にどうなっているのかは分からない。


 集中している間にもう数分が経っていた。


「オイ!! 今、照射地点を変更した!! これで攻撃する事は不可能だ!!」

「くくく、はははは」


 その言葉にアルムが可笑しそうに嗤っていた。


「何がおかしい!?」


「本気で言っているのか? この力は全てを焼き払うものだ。海を全て塩にするくらいのな!!! 細かい調整なんて最初からしていない。そいつはあの月から直接作用する力だと外伝にはあった。お前がやっていたのは無駄な作業だ!! ファースト・ブレッドさえ焼き払えば、後は施設を爆破しても逃げ延びさえすればどうにかなる!!」


「ありがとうよ。やっぱりか」

「?!」


 アルムの顔色が変わる。


「今ので大体の事は分かった。内容を全部精査してる時間があるのか分からなかったからな。お前の反応で別のところを操作すればいいってのが分かって大助かりだ」


「騙したのか?!」


 猛烈に食って掛かろうとするアルムの足元にフラムのガバメントから銃弾が打ち込まれる。


「詐欺師は訂正する。ありがとう。優しい騎士団長様」

「ッッッ?!!?」


 煽るだけ煽っておくのは貴重な情報をまた零してくれるかもしれないという理由故だ。

 画面が切り替えられる。

 そして、その中から月に関するものを見付けるのに然して時間は掛からなかった。


「ジェネレーター出力? これか? 行動の……選択……コマンドは選択式!!? これだ!! ただちに出力を全カット。危険な操作? 知った事か!! 不正な、操作の……可能性……? 何だ!? オートで照準?! 指定地域は?!」


 英語を読み解きながらの情報を何とか目で追いながら、現在照準されている場所が映像で出力された。


 それは間違いなく。


「これで全部終わりか。外伝には不正な操作でこの遺跡は消し飛ぶと書かれていた」

「クソッ!? 自爆プログラムなんて仕掛けてんじゃねぇ!!?」

「自爆!?」


 フラムが思わずこちらを見た瞬間。

 青年の身体がコンソール類が埋め込まれた管制装置の背後に隠れる。

 咄嗟に撃たれた弾丸が一発、肉を穿つ音。


「フラム!! もういい!! この場所は危険だ!! この映像が映ってるのを撃って完全に破壊しろ!!」


「命令するな!!」


 フラムが数発モニターに弾丸を撃ち込むと何処かの配電がショートしたらしく。

 すぐに画面はブラックアウトした。


「行くぞ!! 此処は直に灼熱地獄だ!!」


 未だに震えたまま立っているサナリの手を掴む。


「ッ?! 離して!! 離しなさい!!」


「楽になりたいなら止めないが、駄々捏ねてないでサッサと行くぞ!! あの子達を野垂れ死にさせるか? 共和国に理不尽な罰を与えられるかもしれないのに見捨てるのか?! 柵なんて面倒な事は抜きでよく考えろ!! 今、あの子達より大事なものがある時だけ、此処に残って死ね!!」


「―――」


 まるで魂を引き裂かれたような顔。

 どれだけの痛みを胸に受けたのか。

 握られた拳が白くなる。

 諦めたように項垂れた少女は唇を震わせていた。


「行くぞ。お前は見捨てられない。少なくとも、あの子達はお前を絶対に見捨てない。大人達が撃たれてもお前の盾になろうとしたように」


「……分かりました」


 フラムが青年の逃げ込んだ台を警戒しながら早くと手振りで示してくる。


「団長。あの子達の事をこれから見てこないとならないので……行きます」


『そうか。色々と無様な事を言って幻滅させたな。もし、生き残ったら、あの子達にはオレはただ死んだとだけ教えておいてくれ』


「一緒に行きませんか?」


『いいや、最後にあの子達が憧れた格好良い団長でいさせてくれ。部下達を起こしてこの場所から逃げるようにと。それと全員に今日を持って騎士団は解散。ペロリストからは足を洗えとも。責任は僕が持っていく』


「………分かりました」


 最後の別れ。

 それは誰にも邪魔されるべきではないだろう。


「縁殿。こっちは何とかなりそうでござるよ。痛み止めを打ったら、だいぶ良くなってきた」

「そうか。悪い……」

「いいんでござるよ。某の精進が足りなかった故であるからして」


 百合音がニコリとした。

 サナリがこちらを見て頷く。


「撤収だ!!」

「く、20(フタマル)式!!? 我が戦友よッ、サラバ!!」


 片足でピョンピョン跳ねるようにして急ぐ幼女が一番早いのはさすが羅丈と褒めるべきか。


 続いてフラムとサナリ。

 最後に体力の無い自分と続いて。

 少女がポツリと呟いた。


―――さようなら兄さん、と。


 元来た道を戻っていく。

 広間には未だに男達が死屍累々の様子で横たわっていた。


「某に任されよ」


 百合音が懐から取り出した小瓶を地面に叩き付ける。

 すると一瞬で花のような芳香が周囲へ広がり、ビクッと男達が起き出した。

 百合音を見て再び戦おうとする誰もにサナリが現状を伝えていく。

 戦いに敗れた事。

 団長が死んだ事。

 例え、死んでも言いくるめるという少女の気迫にこちらへの険しい視線も僅かに揺らいだ。


「今は逃げましょう。生き残って負けたなら負けたらしく堂々と。騎士はそうあるべきでしょう?」


 説得された男達が互いに肩を貸し合いながら螺旋の道を登っていく。

 そうしてようやく縄梯子のところまで辿り着いた。

 フラムとサナリが先に上がり、百合音が両手と片足だけですぐ昇り抜けた。


 ようやく辿り着いた場所では先程のように百合音に起こされた男達がサナリに説得されている。


 男達は苦戦しながらも次々昇ってきた。

 最後の一人が出てきた時点で既にもう10分そこらは経っていると見て間違いない。

 誰も彼も傷だらけ。

 無事なのはサナリとフラムと自分だけだ。


 だからこそ、率先して足手纏いにならぬよう先へ向かっていたわけだが、その瞬間は不意に訪れた。


 白い砂漠の最中に何かが光ったのだ。

 ソレだけでまた身体が動いたのは僥倖。

 狙われたのはサナリだ。

 理由なんて知れている。


 先程の最後の言葉が本当ならば、騎士団長の側近、それに類する者を狙って騎士団を無力化するのは方策の一つとして正しい。


 上から覆い被さって壁となる前に左手が肘辺りから宙を舞った。

 それが落ち切る前に二発。


 一発が左足の根元を吹き飛ばし、どうして自分はこんな事を冷静に感じられるようになったのだろうかと何とも不思議な心地となる。


 百合音の声が聞こえた気がした。


 しかし、銃撃戦となったらしい最中に自分の血飛沫だけが視界を塗り潰して、意識は途絶えた。

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