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ごパン戦争  作者: TAITAN
大主食撃滅戦~悪兎渡来挙姻~
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第247話「既知への誘い」


 USA宇宙軍との第一次大規模戦闘は終結した。

 浸透した残存戦力は殆どがNVを持ち込む事すら出来ず。


 生身と携行火器類。


 それに僅かなドローンのみを引き連れ、大蒼海上部ブロックまで到達。


 月面地下施設内から外部への通信を遮断されながらも果敢にシステムにアタックを掛け、最終的には大蒼海と世界の果てと呼ばれる岸壁までのルートへと突入。


 恒久界内部へ到達するまでには凡そ20日程の期間が必要である、と判定された。


 定期的にドローンを周辺区画で徘徊させ、相手の動きを奪いながら疲弊を狙う。


 恒久界内部に侵入出来たとしても、水と食料と気力は削り取るのは確定。


 正気を失わない程度まで搾り取る事となった。


 月面外の陣地周囲に動きが無い事も手伝って、軍関連施設や臨時のHQこそ常時可動させていたが、魔王閣下はこうして短い休暇と相成ったわけだ。


 勿論、その合間にやる事は一杯。


 その際たるものが浚われたフラウの救出である事は言うまでも無かったが、此処で月竜へ偵察に出していた部隊からの急報。


 月竜の首都の無人化及び何者かとの戦闘での崩壊を聞かされれば、また諸々を考えざるを得なくなってしまった。


(潜入部隊からの報告は信用出来る。戦闘してる連中を3~4人確認したらしいし……報告された人相も一致。恐らく、もう一人のオレがあの軍人達と一緒に何かしたな。オブジェクトである芋虫の力を削ぎに行ったか、戦闘になったわけだ。だが、無人化の影響でフラウの確保に必要な位置情報がロスト。調べ直すのは骨だな……一旦、月竜首都をオレが見て回ってから……オブジェクトの情報を仕入れる必要がある。月蝶の端末へ辿り着く前にやる事が多過ぎるな……)


 お茶を一口。

 溜息を吐く。

 首都でのお嫁様達の攻勢から難を逃れて三時間半。

 ようやく落ち着いた輸送機の中。

 個人用装備を出来る限り外套の中に仕舞い込みつつ。

 ヒルコに自動操縦された機体の外。


 そろそろ朝になろうという時間にも関わらず薄暗い世界を下に見る。


 魔王軍というか相棒によって敷かれた航路は現在も兵士達のピストン輸送を続けている。


 数十分前。


 ようやくこちらが要望した水準まで達した魔王軍としては初めての実戦投入可能な部隊が出来上がったとの報告を受けた。


 即座に大蒼海より先の敵主力の侵攻ルート上のメインシャフト付近に投入して陣地構築を始めさせたが、合計で百万人規模の軍を駐留させる予定の施設整備は元々あったものを再利用しても、恒久界水準での技術知識レベルに合わせる関係上、すぐにというわけにはいかなかった。


 兵士達に与えられる知識や技術にも制限を掛けると決めていたので一週間くらいで可能な事は大規模な受け入れの事前準備くらいだろうか。


「まったく、次から次へと寝る暇も無いな」

「それは君が全てを自分でやろうとするからではないかな?」


「―――ギュレン・ユークリッド」


 輸送機のハッチも近い通路側の椅子に座り込んでいたのだが、いつの間にか主神がシレッと紙袋頭に白いタートルネックにジーンズ、スニーカーといういでたちで緊急用の通路にある固定格納された座席に座って紅茶を嗜んでいた。


「やぁ!! カシゲ・エニシ……親友よ。愉しんでいるかい?」

「その挨拶は一言で気味が悪い」


「ギューレギュレギュレギュレ♪ それは一体、何処が気味悪いのだろうね? 果たして、君はこの今を《《知らなかったとでも》》?」


「……何の用だ。オレは少なくともまだお前のMODとやらのおかげで大忙し。あの芋虫野郎に浚われたお姫様の救出中だぞ。構ってられるか」


「アレはこの世界にとっては都合の良い保管用システムの一部にしか過ぎない。本質的に誰かを脅かすようなものでもない。脅威なのは君だからだよ。エニシ……」


「オレ、だから?」


「気付いているだろう? 何故、あの芋虫は君にちょっかいを掛けた。何故、あの芋虫は君に対して人質を取り、君を揺さぶるような手ばかりを打ってくる。どうして、あの宇宙からの侵略者達は君がいた―――を狙えた?」


 ザリッとギュレンの姿に僅かなノイズが奔る。


 そして、一部の箇所がまるで虫食いのように声が途絶えた事に気付いてか。


 肩が竦められる。


「至高天。ザ・スプレマシー・ヘブン……地獄を歩いた男が最後に辿り着いた極致……何故、お前らはよく分かりもしないものが好きなんだ。オレに説明もせず言いたいだけ言って消える奴は大抵ロクでもない奴ばっかりだぞ。自覚があるなら、多少は種明かしくらいして欲しいもんだが」


「君が考えた予想、予測の中にある程度の代物が至高天と呼ばれる。それ以上の意味があるのはその地に立った者のみだろう。ちなみにボクはね。あんなのが存在しなければと思う者の一人だ」


「あんなの、ね。また、ロクでもなさそうなでげんなりする……」


「ギューギュレギュレギュレ♪ ワレ・シジマウ・ウタカタノゴトクナリ、だ」


「何だって? 吟遊詩人でも始めるのかHENTAI紙袋さんは……」


「同類よ!! 君は二つ勘違いをしている」


 グルンと首……は無いが、紙袋が90°くらい回転してこちらを見やる。


「勘違い?」


「1つ、狂っているのは《《ボクら》》じゃない」


「世界の方が狂ってるとか言い始める狂人にはなりたくないな……」


「2つ、君にとって敵と言える相手はこの世界に一人だけだ」


「……お前じゃない事を祈ろう」


「それが君の良いところだ。そう……君はそれでいい……いつだとて、敵を作るのは自分自身だと理解すればこそ、君は此処までやってきた」


「買い被ってくれてありがとう。手加減しながら行動不能にしてやるから首を洗って待ってろ」


 クツクツと紙袋の唇の端が吊り上がる。

 そうして、パチンと指が弾かれた。


 すると、虚空に恒久界全土の地図が浮かび上がり、その影域に小さな点が灯る。


「行ってみるといい。君が知っている事を再確認しに……」

「再確認てオレは何も知りはしな―――」


 振り向けば、もう其処に誰もいなかった。

 地図もまたいつの間にか消えている。


 しかし、記憶した場所をレンズ内に投影した地図で確認すれば、其処が麒麟国の中心部。


 首都のとある地点を差している事が分かる。


(ある程度予想はしてたが、結局は蜥蜴連中の懐か……)


 詳しいオブジェクトの情報を得る為には接触は必須であろうとは思っていた。


 だが、この戦争中に向かうとなれば、それなりの準備がいる。

 敵も警戒はしているだろう。

 本国へ直撃させる部隊を月蝶が持っていないはずもない。


 実際、麒麟国周辺にはまるでこれから陣地戦でも始めるのかというような長大で重層的な堀や塹壕を主軸とした陣地が多数構築され、監視用の人員が多数動員されているという。


 今のところ人間側に対して目立った弾圧などは行われていないようだが、色々と最初期から比べても麒麟国の内情的なものが見えて来たので人間に対する相手の扱いに付いてはかなり気を付けて見ていなければならなくなった。


(人類憎悪の塊……だが、それにしても相手側の合理性はかなり高い。全部、今の統率者であるあのロート・フランコのおかげか。あるいは純粋に衝動を抑えられるだけの個体が標準的なのか……どっちにしても、あっち側にちょっかいを掛けないとならなくなった以上は慎重に、だな)


『婿殿。もうそろそろ月竜領土の直上に入るぞよ』


「了解。首都まで無事に辿り着けたら、こっちはそのままダイブする。首都と月竜から一番近い輸送ルートは確保しておいてくれ」


『うむ。既に終わっておる。それと嫁子達全員からの伝言じゃ……【ちゃんと帰って来い】……以上』


「それ以上に頼もしい言葉も無いな」


『ふふ、不便を押して嫁子達の庇護の為、通信手段すら制限しておる身には嬉しいであろうよ』


「そういうのは言わないお約束だ」


『本来ならば、護衛の一人二人は付けるべき身分なんじゃぞ? 話し相手として適当な人材くらい載せても構わんというのに……ほんに過保護で心配性じゃのう』


「オレのいない間にオレがいなくても連中が自分達の事を十分に守り切れるなら、それでいい。オレはこの身体だ。ハッキリ言って物理強度が違う人間を精神や利便性の為に同行させるなんてのは愚の骨頂。オレ自身も敵対連中の目標になってる以上、普通の連中にとっての死地になる可能性の高い場所へ誰かを連れてなんて行けない。これは信頼とか信用とかの問題じゃないんだよ」


『……最も苛烈な矢面に己の身を晒す。それは同時にお主を少なからず思う者達の心配事でもあると肝に命じよ……』


「分かってる。でも、生憎とオレは何処かの物語みたいに誰かと一緒にピンチを切り抜けるとか。そういう感動や外連味に一々要らぬ合理主義を持ち込むタイプだ」


『今までは連れ歩いていただろうに……』


「オレの力がこれっぽっちも無かったからだ。オレは今みたいな身体も覚悟も使えるリソースも無かった。だが、今は違う。一々、誰かをオレ個人で解決出来ると思える事に連れて行って危険に晒すなんてのは以ての外だ」


『これが現在、世界最大規模の軍を創っている者の言葉とは……まったく誰が思うものか』


「フン。ストーリーテラーなんぞ爆死させてやる。あの時、あいつを連れて行く必要なかっただろ。いや、そこはそうじゃない。確実に重要な場所へ死にに行くと知ってて連れて行くとか有り得ない。感情に流され過ぎて言う事言わずに別れるのか。ホウレンソウもせずに何を阿吽の呼吸でやれると言うんだ。さぁ、とっとと五分で終わるラスボス攻略を終わらせよう。こういうのが本当の《《オレ》》だ」


『うむ。物語にケチを付けまくり。正しく吟遊詩人にまったく優しくない魔王様じゃな。行間を読めと言わんばかりの“しょーとかっと”……まぁ、生憎と魔王節のストーリーで巷のギルドは“ふぃーばー”しておるが……』


「連中が盛り過ぎなんだよ」


『今度、魔王様物語全集でも出すかのう♪ 売れそうじゃ!!』


「勘弁してくれ……」


 思わず溜息が出た。


『ふふ、肩の力が少しは抜けたかや?』


「……骨までフニャフニャだが、やる事をやってから大使館に帰ろう。まず差し当たってフラウ(あいつ)の救出から、だな」


『予定地点の上空に到達まで残り32秒。外部望遠レンズの情報をそちらに送る。うむ……大規模な破壊とガラス化した地面を確認。高熱原体の乱舞と恐ろしくデカい何かが歩いたような足跡……まるで婿殿の開いたファイルにあった《《カイジュー》》でも暴れまわったようではないか』


「お前……男の娘とどうやって仲良くなったんだ? 接点とかあったか?」


『布教されたのじゃ。いぐぜーりおーん♪』


「出来る限り、回収は無人機でな」


 ハッチが開くと同時に奔り出し、その小さな扉から外に飛んだ。


 儘ならないのは世の常と言うが、だからと言って諦めてやれる程に潔くもない。


 凡人に出来るのは重箱の隅を突いて自らに不利な可能性を潰して回る事くらい。


 それを分かっているのかいないのか。

 唯一神を名乗る男の言葉は胸の何処かに引っ掛かる。


 征くべき先は未だ遠く……しかし、確かに予想される範囲内、既知に近しい程度の話にしか思えないのは果たして何故なのか。


 漠然としたものは姿を見せず。


 しかし、ゆっくりと背後で積み上がっているような気がした。

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