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ごパン戦争  作者: TAITAN
大主食撃滅戦~悪兎渡来挙姻~
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第218話「真説~預言~」

―――外伝????書終章最終節


『天より来る光の河、地に落ちて、紅の泉と出会わん。黒き箸、破滅を遠ざけり。彼の者に導かれし者共、蔓延りし善悪の使徒、退けん』


 薄暗くも横に広い室内。

 円盤状の巨大な洞。

 冷え冷えとした振動一つにも切れ味を増すかもしれない空間。

 床も壁も硬質な青白い輝きに満たされた何かで作られ。

 塵一つ無い曇り無き場所に歩く者の足音が響く。


「北部取り纏め役、推参致しました」

「西部取り纏め役、出頭致しました」

「東部取り纏め役、到着致しました」

「南部取り纏め役、現着致しました」


 蒼のローブを羽織った四人の男達。


 空間の中央、未だ何かしらの書を読み解く者達を囲んだ彼らが畏まるのを前にして、その中心部の天井。


 遥か上から何者かが降りて来る。


 今まで読み聞かせていた声の主は四人の男達と同じくローブ姿で顔も姿も見えない。


 しかし、誰もがその相手の降り立つに合わせて平伏し、床からまるでくり抜かれるようにせり上がってきた簡素な玉座に座るのに合わせ、その眼前へと移動する。


「報告致します。御子様が黒き箸を出現させられました」


「報告致します。アメリカ単邦国の艦隊を月軌道8万3000km地点に確認。月地下内の委員会残党の殲滅に失敗。月面下への降下作戦を開始しております」


「報告致します。現在、沿岸地域において大規模な避難を開始。津波到達予想時間は旧南米大陸直上沖の○○○-983333の地殻運動エネルギーの吸収とアトラスパイル群の緊急起動により、8日後を想定。自転周期の復帰までは120年と出ました。ただ、それよりもまず大きな問題が……これは確定ではないという事ですが、本星が太陽の公転軌道を外れる可能性があると観測部門の部門長から連絡が……詳しい話は後程、レクチャーさせて頂きます」


「報告致します。大陸東の新隆起大陸が防波堤の役割を果たす事で西より東は被害は少ないと解析部門より結果が算出されました」


「報告致します。天海の階箸のオプションである絶対核防空圏の起動を確認。大陸各地に剥がれ落ちたフィルム層の99%が高度400km地点において蒸発。残りは各地の海洋に落ちましたが、そちらも983333の影響により、津波の規模拡大などの作用は引き起こさないと結論されました」


「報告致します。ポ連陸軍の大移動を確認。現在、混乱に乗じて我が方の監視網の23%が妨害と破壊によって機能を停止致しました」


「報告致します。残存していた管理下の全衛星の崩壊を確認。セブンス及びオービタル・リングの崩壊も確認致しました。天海の階箸による自動修復が開始されたと観測部門より報告が。予備システムが起動したらしく、大陸において五感情報の欺瞞は継続されていると。現在、詳細を調査中です」


「報告致します。ポ連陸軍に続いてごパン大連邦主力の全面展開命令を確認。ポ連陸軍の主力を捕捉している様子でこのままだと2か月後には大陸中央砂漠の東寄りの地点で激突するだろうと。戦略部門より、介入の意見具申が」


「ご報告致します……御子様からの直接的なメールが届きましてございます」


 その場のローブ姿の者達。


 そして、玉座の主もまた左前方の空間から歩いてくるスーツ姿の男に視線を向けた。


 半貌を焼け爛れさせた壮年。

 スーツの色は本日に限って蒼。

 胡散臭い笑みを浮かべた相手の名はアザカ。

 今現在、表向きの空飛ぶ麺類教団のトップという男。


『無礼であろう!! 礼衣を纏わず!!』


 男達の幾人かが気色ばんだ様子で立ち上がろうとしたが、玉座の主が片手を僅かに上げて、その場で男達を制止した。


「良い。アザカか。申せ。御子様は何と?」


 その玉座の主に男はニコリとした。


「何分、私個人へのものなので、かなり失礼な口調になってしまうのですが、ご了承頂ければ」


「許す」


「……では、こほん。『このメールが届いてるって事はそっちは世界破滅級の天変地異の最中って事だ。もしもの時の為にコレを遺す。お前が本当に上層部連中の行方を知らないのか。あるいは単にブラフってだけか。分からないが、分かる事が一つある。お前個人だろうと上層部だろうとこの世界の現状を手放したくないと考えてるなら、一時の共闘くらいは出来るだろうって事だ。オレからの要求は三つ。一つ、大陸全ての国家への避難勧告と避難誘導。二つ、避難後の国家支援にお前らが隠してる各種生産設備を総動員する事。最後に現在の空飛ぶ麺類教団の一番偉い奴にコイツで大陸の維持をやってもらいたい』……添付されていたファイル内に我々が探していたアトラス・パイルのマスター・コードが入っていました」


 周囲が大いにざわつく。


『まさか、こちらの事情を知っていたのか!?』


『機能の2割を使えるとはいえ、補修と新規建造しか出来なかった我々がまさか……そのコードを手にする日が来るとは……』


「静まれ。続きは?」


「『オレが生還したら、その時はそのコードで一つやってもらいたい事がある。コレは教団に対する報酬だ。オレが挙げた最初の三つの要求が堅実にやられてたなら、お前らには更に追加で報酬を払おう。戦争の要らない時代が欲しかったら期待して待っててくれ』」


「それで最後か?」


「いえ、最後に一つ……『追伸。悪いがオレは、《《オレ達は》》、生憎とお前らに付き合う精神性は持ち合わせちゃいない。宗教ごっこがしたいなら、別人に当たる事をお勧めする。これはきっと、どの時代の、どんなオレに聞いても同じだろう』と」


 場に声は無く。

 静まり返る。

 しかし、玉座に座る者がフッと口元を歪めた。


「報告、ご苦労であった。アザカ」


「いえいえ、この場にはまだ2度目。新参である私にも等しく情報を開示して下さった事は感謝しています。《《教主》》よ」


「では、命を下す。南方封主アザカ。汝にその要求に対する全権を与える。須らく民を救ってみせよ」


「ご下命賜りましてございます」


 アザカが片膝を折って一礼する。


「他の者も各自の部署において全ての問題に対処せよ。方針は変わらず。《《あの女》》の動向を探り、彼奴の張り巡らせた謀略を破壊するのだ!! 空飛ぶ麺類教団、教主エーリが許す。教団の全資源リソースの5割開放を宣言する」


 次々のローブ姿の者達が一度頭を下げてから其々来た道を戻って空洞のあちこちへと散らばっていく。


 ある者は床の中に沈み込み。


 ある者はせり上がった床に運ばれて開いた天井の穴の先に消え。


 ある者は其処に残る。


 教主と名乗った玉座の端にはローブ姿の二人が臥すようにして今も待つ。


 最後の残っていたアザカに声が訪ねる。


「何か言い残した事でも?」

「……教主よ。二つだけ訊ねたい」

「許そう……何を知りたい?」


「こう見えても、彼とは結構な知り合いのつもりなのですが、さっきの言葉はきっと余程の事が無ければ曲がらないでしょう。それでも彼を御子として扱うので?」


「無論だ」

「では、もう一つ」

「何だ?」

「貴女もまた彼のご親戚ですか?」

「………」


「実は近頃、彼の近辺の方々や関係者の情報を遺伝情報単位からファイルしているのですが、とても興味深い結果が出てきました。この星に存在する現生人類の内の上位階級者の半数以上が実は《《複数の時代を起源とする特異な遺伝情報》》を持ちながらも、《《同一の人物》》を祖としている、という。これがまったく不可解な話なのです」


「ほう?」


「蒼き瞳の英雄。調べてみましたが、本当に面白いのは《《彼》》の血が現生人類に混じっているおかげで今も人々は生きていられる。五感を欺瞞するシステムも維持されている、という点です」


「と言うと?」


「結論から申しましょう。とっくの昔に“神の屍”は遺伝情報の崩壊で世代間の器質的な劣化を埋められずに少子化と低寿命化で消えているはずなのです。先程のファイルを解析した結果として言えば。ですが、そうはなっていない。それは確実に彼のせいだ」


「………」


「《彼》の血を引く者達が彼本体と同様に最初から幾らかの“機能”を備えている事も分かりました。現在、最新の身体を動かしている彼は最初NINJIN城砦に行くまで普通の肉体だった、という話は聞いていたのですが、その当時の細胞を手に入れて解析してみたら、これがまた……私の想像の遥か上でしたよ。彼が吐き出す吐息、彼の排出物、彼の血、彼の毛髪、彼の汗、何もかもに聊か特異な反応が出ました」


「特異とは?」


「言わば保菌者キャリアーと言うべきかもしれませんね。いや、細菌ではなく彼が持っているのは彼を構成する細胞そのものですが……血が混じった者には明らかな寿命の増加と資質の改善。食料耐性も全体的な底上げが見られる。物理的な皮膚での接触や粘膜接触、生活空間にいる僅かな時間でさえ、生体に影響が出る程の改善があらゆる分泌物を媒介にして行われる。血を浴びるなどの行為は正しく、宗教が説く神の御業に等しい激的な反応を起こす」


「………」


「彼の血族もまたかなり微かながらも同じ機能を備えている。それが人類を今も存続させている」


「………」


「恐らく、彼が最初に手に入れた能力は遺跡で出たという化け物から再生力を貰ったというだけなのでしょう」


「………」


「今の言葉を裏付けるように大陸の王家も皇家もあらゆる上流階級者層は……器質的に恵まれた彼の血統……旧世界者の殆どいない我らが麺類教団もまた彼の親類縁者が溢れている」


「………」


「一際強く隔世遺伝した個体は大半が蒼い瞳を持ち。彼らはこの世界を導いて来た。確率的な問題から言えば、指導者層の大半は本当に優秀な人間と本当に器質的に恵まれた彼の血族。この二つの人種しかいない」


 僅かな拍手が教主より発せられる。


「それで?」


「……別に何が変わるわけでもありません」


 男はニコリとする。


「ただ少し疑問だったのですよ。どうしてバレルがあの地下施設内部まで入り込み、あの身体を強奪する事が出来たのか。確かに彼らはNVを始めとする兵器を所蔵していましたが、あの施設を短時間で突破出来る程ではなかったはずだ」


「………」


「全ては掌の上。そう考えるべきなのだとすれば、貴方達の持つ【外伝】は正しく全てを見通していた事になる。だが、深雲へのアクセス権限が限定されているはずの教団に本来は知る術など無いはずだ。考えられるパターンは三つ。委員会すら知らない情報を教団の前身組織が持っていたか。委員会から教団が強奪した情報にソレがあったか。教団に深雲へアクセスするコードを持った者がいるか。最初の可能性は十分にある。しかし、それならば、何処かで自分達の有利な時期に仕掛けて現生人類の大半を掃滅し掛けていた時期に反旗を翻さなくても良かったはずだ。二番目の可能性は逆に委員会が自分達の破滅を座して待っているはずがないという事で消える。となれば、一番信憑性があるのは三番目でしょう?」」


「どうやら、取り立てた目に狂いは無かったようだ」

「それは保証致します」

「だが、口は過ぎるようだ」


「実は近頃、彼の影響か。貰った情報で人を出し抜くのが楽しくなってきまして……」


「一つだけ教えておこう」


 教主が玉座から立ち上がる。


「今の可能性に付いてだが、現実は小説よりも奇なりとも言う。全てだ」


「全て?」


「そうだ。アザカ、貴様が考えた可能性の全てが《《一部の真実》》に該当する」


「?!」


「己の職務に励め。期待している」


「……ハッ、お尽くし致しましょう。《《教主殿》》」


 来た時とは逆に天井へと開いた穴へと静かにローブ姿の教団トップはすぐに浮遊するよう消えていった。


「全て……全て、か。だとすれば、恐らく……そういう事ですか。まったく、彼も大変だ。今頃、月で何をしているやら……」


 遺されたアザカが僅かに呟く。


 空間内の灯りがゆっくりと明度を落としていって、最後にはフッと消え去る寸前。


 男の口角は微かに吊り上がっていた。

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