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ごパン戦争  作者: TAITAN
大主食撃滅戦~天海の階箸~
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第142話「相打つ者」

 ライフル弾の弾道は正確を極める。

 逆に言うならば、予測の範囲内。


 だが、その予測の範囲で避けられぬ一手にまで状況を絞り込む事こそが相手の狙いか。


 しかし、それを読めるならば、何の事は無い。

 問題は常に弾丸だけだ。


 それも空間内に存在する全ての弾道を予め頭の中に入れていれば、その場所への対処を行うだけで大抵事足りる。


 そう、まったくSFとオカルト漬けな現在。

 あの非常に痛い……というか。

 実際、殺された事もある弾が怖くない。


 相手の前衛は死なない肉体と人体の限界以上の力を出力する筋肉馬鹿。


 だが、それをしても、予測能力は常に数十手先までを見通して負ける要素は極めて少ない。


『これはこれはその細い身体の何処にそんな力があるのか知りたいね』

『ああ、本当にね』


 ライフル弾を弾くこちらの芸当に二つの声が……十人前後の男達の誰かから発される。


 まるで双子のようでいて違う響き。

 周辺には現在火炎瓶よろしく退路を立つ為に放たれた火の手が燃え盛り。

 周囲の空気は熱に歪んでいる。

 だが、そんな最中にも奇跡のように弾道を計算するのか。

 炎の揺らぎの先から複数の弾丸がこちらを狙い撃つ。

 それに合わせて仕掛けられるのは3人×3回のブレード波状攻撃。


 左右後、前方3方向、円を描くようにして最後の三人がその背後から味方の肉体を盾にして接近しつつ、刃を背後から貫通させるようにして飛び出させる。


 まったく、意表を付くわ。

 仕掛けが多重で何処から防いでも腕が二本では足りないわ。

 やっていられないわけだが、こちらとてただ黙っているわけではない。


 体を捻りながら諸撃の二本の斬撃を回避し、それに合わせて続く四本の内の二本は腕の甲で弾き、残る二本を脇の下から生やした触手をカーボンナノチューブを束ねて紐にし、先端を曲線の刃も鋭い錨状にして筋肉で射出して弾く。


 残る三本が味方の肉体を貫通しながら迫っても、こちらは錨を射出した勢いを使って上に跳躍。


 続いてそれを待っていたかのようにやってくるライフル弾が合計七発。


 ほぼ時間差0.1秒差で殺到するが、こちらは体を限界以上に捻りながら回避する。


 人間の関節というのは案外柔軟性もあるものだ。


 無論、それだけで避けられるのは3つ程だが、胴体に直撃するはずの残り4発は体を捻った際にブレードを弾くのに使った錨と紐を上手く当てて使えば、軌道を逸らせる事が可能。


 ザックリ8秒程で猫の体は液体!! 

 なんて称されるくらいの極めて非人間的回避行動が終わった。

 次弾装填まで4秒。

 しかし、下で相手は待っている。

 何て優しい話か。


 この状況で相手はこの化け物みたいな相手が常識を無視しないと信じ切っているのだ。


 その彼らの一般論は極めてこの場では間違いであると証明出来る。

 人間は落ちるものと考える故の待ち。

 それこそが敗因で勝因だろう。

 虚空で捻った肉体が余分に射出していた錨が周辺の木々に食い込み。

 こちらを即座に引き戻す。

 それは回避行動、ではない。


 錨の下にいるバイクに乗って射撃していた1人の頭をブレードで飛ばした。


 この疎らな山林での高速移動。

 いや、飛翔。

 ワイヤーアクションである。


 問題はその動力がこちらの無限に再生する筋肉であるという事だろうか。


 錨を樹木から切り離し、飛ばし、打ち込んでは飛翔しながら相手の攻撃の要である狙撃手を一体ずつ屠っていく。


 こちらの速度に追い付こうにも、相手は人体のフルスペックまでが限界だ。


 触手というのは実に便利なもので……少なくとも、こちらを何処かのロボアニメ張りに動かす舞台装置として十分に機能していた。


 こっちの狙いを察して、移動しながらの狙撃に相手が切り替えた時には4人が餌食。


 炎のせいで周囲の酸素が薄くなっている以外は然して問題無いだろう。


『人間止めてるよね』

『うん。その動きは反則だよね』


 バイクのエグゾーストがこちらの移動先を見据えて距離を取りながら響き渡る。


 敵前衛がようやく背後に付けたものの。

 それは手の内だ。


 少なくとも付いてくるしかない、という時点で乗せられているのはあちら。


 相手は不死身だし、攻撃自体は何とか防げてもこちらから打って出るなんて普通は無理だろう。


 そう、普通なら無理だろうが、生憎とこちらが普通なわけもなく。


 首を飛ばした狙撃手のライフルから小さな触手でくすねていた弾丸を、触手を平たく形成してカーボンで覆った板で挟みサンドイッチ状の弧を展開して、人差し指で留めた親指を弾く動作と同時に腕を振り抜き、一斉に激発。


 追撃者の7名の内の6名がまったく運悪く頭部のど真ん中を打ち抜かれて、完全に命令を下すはずの頭脳を爆ぜさせた。


 相手方向へと錨を射出し、逆向きに体を捻って即座ブレーキを掛け、ブレードを振り切る。


 最後の一人は速度が殺せず。

 何とか刃で受けたが、それで詰みだ。

 こちらは片手。

 あちらは両手。

 こっちの開いた手は一本。

 それが指先に黒く鋭い爪を生やして一閃。

 前衛最後の首が飛んだ。


 その勢いのままに錨を伸縮させながら移動した勢いのままに跳んで元いた位置。


 今も動かずにこちらを眺めていた己の前に着地する。

 その後には二人の後衛が控えていた。


『並みの旧世界者プリカッサーなら即死なんだけどな』

『あの妖精円卓ブラウニー・バンドだって、此処まで理不尽じゃないよ』


 まるで冷静な声。

 溜息を吐いた己がこちらを何か物凄い渋い様子で見ている気がした。


「それなりに力は見せたつもりだが、これでも対等には程遠いか?」


 こちらの問いに肩が竦められる。


「それで勝ったつもりか?」


「いや、お前らの強さが想像出来るくらいには感じられた。だが、こちらもある程度の確信は出来た。オレは少なくともお前らと戦争をすれば、勝てない」


「戦争、ね」


「だが、オレが戦争ではなく。ゲリラ的にお前らを叩いて回るなら、絶対に負けもしない。そして、お前らが生き延びた共同体だと言うのなら、その中枢となる人員やシステムを破壊するのにオレは届くだけの力があるだろう」


「………」


「オレの結論はこうだ。お前らが真正面から戦うと決断出来ない限り、オレにはお前らに付いていくだけのメリットが無い。互いに限界までの消耗戦で泥沼になったとしても、オレは単独なら生き延びられる。この意味は解かるな?」


「いいだろう。少なくとも自分が人間止めたのは分かった……上にはそちらの言い分を報告しておく。少なくともこれでお前の肉体を奪うという道は絶たれた。だが、それは相手も同じだろう。オレ達の行動基準はさっき話した通り、精々教団との関係には気を付けるんだな」


『まぁ、君が決めたなら、いいんじゃない?』

『ああ、君が決めたなら、僕らがどうこう言う事もない』


「これから“天海の階箸”に向かう。どちらが何をしていても不干渉にしておけ。少なくともオレ達はお前らとは違って攻撃オプションにも遺跡の電力とやらにも興味はない。引き上げるぞ」


 その号令にゾッとする程に統制の取れた物音が背後から多数。


 それは頭部を切り離された肉体が立ち上がり、手直にある首を拾って付ける音。


 肉が蠢きミチミチと再生していく。


 また、頭部をライフル弾で粉微塵に散らしたはずが、その残った首から上の僅かな部分が急激に骨と肉を再生させて……まるでゾンビのように半壊したまま動き出す。


 ゾロゾロと進む亡者を引き連れた三人が背中を向けて去る最中。

 兵達の幾人かが周囲に何か手榴弾のようなものを投げたかと思うと。


 すぐにブボッと白い粉が爆発するように広がり、辺り一帯の消火が刹那で終わった。


「………」


 バイクのエグゾーストが次々に遠ざかって消えていく。

 残されたのも束の間。

 ドッと精神的な疲労感が押し寄せてきて、溜息一つ。


 早めに合流しなければと先程の要領で錨と紐を手の袖内部から整形した筋肉の発射機、まるで空母のカタパルトのようなソレで射出して木々にブチ当て、己を引っ張って高速で移動を始める。


 自分という相手を前にしての厄介事に一段落付いたが、それで何が解決されたわけでもない。


 此処からが本番だと気を引き締めた。


(あっちも随分と変わったんだな……)


 人体を破壊する様をまるで映画でも眺めるように決して震えずに見ていた。


 それは少なからず命の遣り取りをしてきたからこそのものだろう。


(オレも変わった……“他人”の事は言えないか)


 自分と相手にきっと然して違いなんてない。


 あるのはきっと出会った人達と、どう共に生きるかという事だけだ。


 感傷を振り切って速度を上げる。

 ヘリの不時着しただろう方角へ向かう事とした。

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