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2 王宮

 “バロダの書”――この古びた緑色のぶあつい本はそんな風に呼ばれているんだって。

 これには色んな薬の調合の仕方が書いてある。基本的な薬の作り方から、すごく難しいものまで、それこそ何でも。わたしも小さいころからこの本を片手にずっと勉強させられたっけ。

 グノンおじさんにこの本を届けることが今回のわたしが王都までやってきた目的なんだけど、手渡すだけじゃものたりない。本当なら昨日の夜か今日の朝にでもこの本を渡しちゃえばそれで終わりだったんだけど、そうしなかった。おじさんも急いでなかったみたいだし。

 わたしはこの本を、これからおじさんの職場まで届けに行くんだ。その職場はなんと王宮!おじさんは王宮薬師なんだ。

 王宮に入るチャンスなんて、めったにない。年に一度のお祭りのときなんかは前庭まで入って、王族の姿を見ることが許されているけど、そんな普通の入り方じゃだめなんだ。

 それだと、王子さまやお姫さまを一目みたいって気持ちはかなえられるんだけど、わたしがみたいのは国で最高の知識と技術がある王宮薬師の部屋。この国のために日夜、薬の研究をして、その知識が王さまやそのご家族が具合を悪くしたときなんかには一番に発揮されるのはもちろん、新しい知識が国中の街に村にと広がっていって、みんなの健康を守っている。

 お昼ごはんを食べると、わたしは“バロダの書”をかかえて街へ飛び出した。昨日つれてきてもらった路地を間違えないように進んで、広場に出る。広場から湖のほうへ向かって歩くと、昨日ごはんを食べた湖畔亭が見えてきた。昨日の人たちに会えないかなって思って、そのへんをきょろきょろしてみたけど、やっぱりそう都合よくはいかないか。

 湖畔亭の横を通り過ぎて、湖沿いに高台のほうへ進む。ゆるやかな坂道をしばらく登っていくと、王宮が見えてきた。大きな門の奥には庭園が広がっていてその向こうには立派なお城がどーんと建っている。

 大きな門の前には、2人の兵士が長い槍を地面に立てて、直立不動でたっていた。

 どきどきと他の人にまで聞こえてしまいそうなくらい大きな音をたてる心臓を抑えながら、門番に近づいた。

「あの、わたし王宮薬師の部屋に行きたいんです!」

 じぶんでもびっくりするくらい大きな声が出た。通りかかった人が足をとめてこっちを見ている。しかも、笑われてる気がする。

門番たちは無言で顔を見合わせた。すると、道のもう少し奥にあった小さな門から門番と同じ制服を着たおじいさんが飛び出してきた。おじいさんに小さな門のほうに引っ張っていかれる。

「お嬢ちゃん、お前さんみたいな子どもが王宮にはいれるわけないだろう。お姫さまごっこは家でやるんだな。早く帰りなさい」

「わたしは本当に薬師の部屋に行く用事があるのよ」

 わたしはバロダの書をぎゅっと強く抱きしめた。お日さまの下では、よごればかり目立ってしまう。なにせ古い本だからなあ。

「この本をグノンおじさんに届けるの」

 制服のおじいさんに向かって、本を突き出すけれど、あやしそうに本を見つめて、やっぱり首をふられてしまった。

「バロダおじいちゃんの秘伝の書が王宮で必要だっていうからもってきたの」

 おじいさんは『バロダ』という名前に動きを止めた。

「バロダって、あのバロダさんか・・・?」

「そうよ、世界一といわれる薬師のバロダよ。わたしはその孫のアスタ。バロダおじいちゃんの知識と技術をあますところなく伝えられているの」

 うそ八百だ。孫は本当だけど、おじいちゃんの果てしない知識と技術のうちの半分もまだわかっていない。

 おじいさんが『ううん』と首をひねっている。これでなんとか納得して、と願いをこめてみつめていると、男の人の大きな声が、門の向こうからきこえてきた。

「その子が薬屋ってのは、本当だぞ」

 大きな剣を腰に差したおじさんが門の向こうから姿を現した。昨日の剣のおじさんだ!

「昨日もニセ薬を売りつけようとしていた詐欺師を捕まえてたもんな。まさかバロダさんの後継者だとは思わなかったけど」

 笑みを浮かべながら、門の外まででてきた。おじいちゃんの後継者って言われると・・・それはちょっとうしろめたいんだけど。

 おじいさんは困ったように、わたしたちを見た。

「そうはいっても、こんな子どもを勝手に中にいれたりしちゃあ・・・」

「じゃあ、俺の来客ってことで、入れてやってよ。おれが薬師部屋まで責任もって案内するからさ」

「まあ、ドルガス隊長がそうおっしゃるなら」

おじいさんはやっとわたしを門の内側へ入れてくれた。


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