5 布袋
朝方、城に戻ってくると、わたしは眠い目をこすりながら王宮薬師部屋の前に来た。
昨日は、イリーナさまの部屋にいったっきり帰ってこなかったから、きっとおじさんはすごく心配したと思う。怒られるだろうなあ、と覚悟してドアをあけた。
「こら、アスタ!」
その途端に、グノンおじさんの大きな声が飛んできた。
「ごめんなさい!」
まけじと大きな声で叫び返しながら、これ以上ないほどに腰を曲げて頭を下げた。わたしだって悪かったと思っている。
しばらくの沈黙のあと、おじさんがはぁ、と息を漏らすのがきこえた。
「・・・無事でよかった」
頭をあげると、むこうからシアンさんも歩いてきた。
「まったくもう。どれだけ心配したと思ってるの。俺も父さんも一晩中ねむれなかったんだから」
腰に手をあてて、怒っている。しばらくお説教をきかなきゃいけないことを覚悟したけど、そうはならなかった。
「ドルガス隊長が、昨日の夕方説明しにきてくれたんだよ。おれのこともこの部屋に呼んでね。隊長はおれたちが反対するならアスタのことは連れて行かないって言ってくれたけど、父さんは反対しなかった」
「なにせ、バロダさんの孫だからな。血は争えないと思ったんだ。あの人も、薬の研究にためなら危険をかえりみず色んなところへ行ってしまう人で、いつもはらはらさせられてたよ。でも、それがバロダさんの天才たるゆえんだからな。アスタもそういう道を歩くなら、いい機会だと思ったし、邪魔しないほうがいいと思ったんだ」
やっぱり血って争えないのかな、わたしも、イリーナさまも。思わず笑ってしまうと、こら、とシアンさんの声がまた飛んできた。
「すごく心配はしたんだよ。湖の向こうの洞窟は危険なとここだから。いくらドルガス隊長たちが一緒にいくっていっても、ケガしてないかとか、怖がってないかとか。心配の種はつきなかったよ」
寝不足の赤い目をした二人にそういわれてしまっては、わたしもごめんなさいと素直にあやまることしかできなかった。一生懸命あやまっていたら、グノンおじさんはふと表情をやわらげた。
「初めての冒険は楽しかったか?」
「うん、行ってよかった。怖かったけど、わたしの夢をかなえるために必要なことが少しだけわかった気がする。あのね、わたしは薬のいろんなことをもっともっと知りたい。それに、自分の身を守れるくらいには強くなりたい。それから・・・」
もっといろんなことが言いたかったはずなのに、眠気が頭の中を支配しはじめて上手く言葉が出てこなくなっていた。
「アスタ。詳しい話はまたあとで。母さんも聞いているときに話してよ」
シアンさんの声を聞いたのをさいごに、頭の中は白いもやに覆われてしまった。