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3 王女さま

 テーブルの上には、色とりどりのお菓子が並んでいる。こう言っちゃあなんだけど、昨日おばさんの家で食べたおかしよりも数倍豪華な種類のものがたくさん並んでいた。そりゃあそうだよね。だって、わたしはいま本物のお姫さまと向かい合っているんだから。

「アスタさんは、どういうお菓子がお好き?」

 お姫さまにこんなふうに尋ねてもらえるなんて、一生の自慢になるなあ。村に帰ったら、村中のみんなに自慢しよう。ただ、現実感がなさすぎて信じてもらえない可能性もすごくあるけど。

「わたしは、あの、何でも。それに、ただ、アスタと呼んでください」

「そう?それならアスタはわたくしのことも名前で呼ばなければだめよ?」

 いらずらっぽくそう笑う姿は、わたしの学校のともだちとあんまり変わらなくって安心した。

 そこからは、わたしの学校の話とか、ふだんおじいちゃんに厳しくきたえられる話とか、この街までどうやってきたのかとか、イリーナさまは面白そうに聞いてくれた。イリーナさまも、王宮での生活の仕方とか、行儀作法の勉強が大変だとか、レモンティーがお好きだとかそういう話をしてくれた。

 王女さまっていっても、感じていることはわたしたちとそんなに変わらないのかもしれない。

 そのうち、家族の話になった。わたしはイリーナさまのお父さまの肖像画をみてきたことを話した。すごく立派な王さまだったって、ドルガスさんが言っていたということも含めて伝えた。

 でも、それはちょっと失敗だったかもしれない。さっきまであんなに楽しそうだったイリーナさまの顔に、影が差してしまった。

「あの、ごめんなさい。お父さまが亡くなっているのに、わたし無神経でした」

「いいのよ、お父さまとはいってもわたくしはほとんど覚えていないの。生まれてすぐになくなってしまったのだから。でも、お母さまはとても大変そう。お父さまが若くしてなくなってしまったから、お母さまは国王としてのお仕事もしなくてはならないし、わたくしたちの母親としても働かなければいけないでしょう。わたくしにはお兄さまがいるのだけれど、お兄さまはお体が弱くて、お母さまはいつも心配されているわ」

 その王子さまのことはわたしも知っている。たしかお名前はソレイユさま。でも、体が弱いなんて知らなかった。

「どのようにお体が悪いのですか?なにかご病気なのですか?」

 つい問診みたいなことを始めてしまったわたしをみて、イリーナさまは笑った。

「さすが薬屋さんね。でもね、誰にもわからないのよ。少し運動をしたり、長くお話をしているだけで、せきがとまらなくなって寝込んでしまうの。でもね、体調がいいときには、一緒に庭をお散歩したり、宮廷画家に絵をかいてもらったりすることもあるのよ」

 イリーナさまが部屋の棚にかざっていた額を取り出す。そこには、ご兄妹でよりそっている絵が飾られていた。ソレイユさまはイリーナさまとおなじ蜂蜜色の髪と、青空の瞳をしていて、女の子ならだれでも騒いでしまいそうな王子さまだった。

「ご兄妹で仲がいいんですね」

「そうね、兄妹げんかをしたことなんて一度もないかもしれないわ。お兄さまがいつも優しいから。わたくしもお兄さまのことが大好きよ。わたくしがどんな話をしても決して叱らないで聞いてくださるの。いつかこの城を出て、旅に出たいって言ったこともあるわ。ふつうの人なら、そんなことができるわけがない、って叱るでしょう?でもね、お兄さまは違ったの」

「何て言ったんですか?」

「旅に出るなら、伝承の洞窟から、病に聞く薬をとってきてほしいって、そう言ったのよ。伝承の洞窟の歌は知っている?」

 伝承の洞窟ってつい最近どこかできいたような・・・。あ、「湖畔亭」で歌い手のお姉さんが歌っていたやつだ。

「知っています。すてきですよね。青く光る神秘的な洞窟を冒険して宝物を探すなんて」

「ねえ、それを見にいきたいとは思わない?」

 イリーナさまがこっちに身を乗り出して、侍女に聞こえないような小さな声で言った。

「そりゃあ、思いますけど・・・」

「そうよね!」

 イリーナさまは目を輝かせる。でも湖の向こうへ行く手段もないし、魔物も出るし、無理ですよ。という言葉を言うひまはなかった。

 イリーナさまが侍女に声をかけた。3人を呼んでちょうだい、と。

「3人?」

「すぐにわかるわ」

 しばらくすると、ノックの音がして侍女に通された人が入ってきた。

「姫さま、お呼びにあずかりまして、歌い手のリズが参りました。今日はどのような歌をご所望でしょうか?」

 さすが王宮出入りの歌い手。片膝をついて挨拶するすがたはとても優雅だけど、わたしは驚きで声が出なかった。

「顔をあげて立ってちょうだい、リズ。湖の向こうにある伝承の洞窟の歌をうたってくれるかしら」

「よろこんで」

 立ち上がると黒髪がさらりと揺れた。磨きこまれてつやつやと光る竪琴を構える。

「では、王女さまと、勇気ある薬屋のお嬢さんのために、心から歌わせていただきます」


 青き輝きに誘われて 足を踏み入れる旅人たち

 はるかに続く道を 迷わずに進み

 襲いくるあまたの魔物をたおし

 青の光の導くまま 

 かえらぬ旅人のなきがらを踏み越え

 勇気ある者だけ たどりつく先 宝はねむる

 ふりそそぐほどの黄金か

 どんな魔物も両断する剣か

 抱えきれぬほどのサファイアか

 どんな病も治す薬か

 その宝は 行き着く者だけが知る


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