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3 王女さま

 わたしは結局、見習いさんと一緒にイリーナ姫の部屋へきた。見習いさんの手にもわたしの手にも同じ薬湯がある。これは白いさらっとしたもので、見た目にはまるでただのお湯みたい。味も甘いはず。

 これは、新しいバロダの書に書かれていた子ども向けの薬湯をおじさんが作ったんだ。つまり、わたしが小さい頃からずっと飲まされてきたものだ。いまはわたしも苦い薬だって飲めるようになったから、甘くつくった薬湯なんて滅多に飲まないけどね。イリーナ姫の目の前でまずわたしが飲まないと飲んでくださらないってあんまりにも言われたから、わたしもついていくことにしたんだ。

 部屋の前の侍女に声をかけると、すぐに中に通された。

 お姫さまは窓辺の椅子に腰掛けていた。

「今度は苦くないのをもってきてくれたの?」

 ちょっと笑いながら微笑みかけてきたお姫さまに、わたしはしばらく見とれてしまった。桃色の唇には笑みが浮かんでいて、目はパッチリと大きい。肌も白くて、腰まで届きそうな蜂蜜色の髪はゆるく波うっている。わたしを含めた世の中の多くの女の子は、こんな姿で生まれてみたかったなあ、と考えずにはいられないと思う。

「そちらの方は?」

 お姫さまの目がこっちをむいた、なんだか恥ずかしくなって、後ろに下がってしまう。でも見習いさんはわたしのことをぐいっと前に押し出した。

「この子は、アスタといいます。姫さまと同じ年頃だと思って、薬湯の味見につれてきました」

「まあ、さっき言ったことを本気にしたの?」

 口に手をあてて、驚いている。そんなしぐさも上品で美しくって、とてもわたしよりも一つ年上なだけだとは思えなかった。

「ごめんなさい。冗談だったのよ」

 椅子から立って、わたしたちにほうにお姫さまが歩いてくると、わたしのもっている薬湯に目をやった。

「それはなあに?もしかして薬湯?」

「はい、そうです。これなら、苦くないからわたしでもお姫さまでも飲めると思います」

 わたしは、手に持っていた器から、一口飲んで見せた。

「やめてちょうだい、あなたは飲まなくてもいいのよ。わたくしだって、最初からこちらの薬湯をもってきてくれたら素直に飲んでいたと思うわ」

 ということで、お姫さまは素直に見習いさんの持っていた器から薬湯を飲んでくださった。

「ところであなたは、どちらからいらしたの?」

 そう尋ねてくださったから、わたしはここまで来た経緯を説明した。

「じゃあアスタさんは、薬師のグノンの親戚みたいなもので、ドルガスとも知り合いなのね」

 知り合いっていうほど知ってるわけじゃあ・・・と思ったけど、お姫さまの目がなんだかきらきらしているから、あいまいに頷いておいた。

「ねえ、それならわたくしのお友達になってくださらない?」

「へ?」

 言われたことが信じられなくて、変な声が出てしまった。

「ダメかしら?その、特別な知識を持ったおともだちってわたくしにはいないものだから・・・いろいろお話したいなって思ったのだけれど」

 残念そうに目を伏せるイリーナさまをみて、わたしは夢中で首を縦に振っていた。

「なります!いえ、やらせてください!ぜひ!」

 きっとこんな不審な動きをする人はイリーナさまの近くにはいないんだろうな。ちょっと驚いた顔をして、そのあとに嬉しそうに笑ってくれた。

「じゃあ、さっそくおちかづきのお茶を準備をしましょう」

 イリーナさまが侍女に何かを言うと、部屋のテーブルの上に次から次へとお茶やお菓子が運ばれてきた。

 見習いさんは、さきに戻っているといって部屋を出て行った。

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