待たせるな(マタセルナ)
○1度目
~夏休み 気づけば明日は 始業式~
吉川 大介
中学1年の夏休みが終わる。宿題は最初の1週間で少しだけ手をつけてから最終日までは手をつけないのが夏休みあるあるだと思う。友達とプールに行ったり、夏祭りに行ったりと遊び面はとてつもなく充実した。
冒頭の5・7・5も勿論最終日に書いた。最初の1週間目で書いていたら、なんとなく良い作品のような気がする。宿題としては簡単な5・7・5さえも最終日までもつれ込んだのにも、ほかの宿題ができなかったのにも理由がある。
それは、夏祭りのせいだ。
僕は夏祭りに行って、同じクラスで隣の席の加藤夏美に偶然会ってその笑顔に恋をしてしまった。隣の席で何度も笑いながら話だってしていたのに、なぜか夏祭りで加藤のことを好きになってしまった。それがなんでなのか、どうしてなのか、その理由が知りたくて毎日考えているうちに最終日になった。でも、夏休みが終わればその答えがわかるかもしれないとドキドキしながら最後の読書感想文を書き終えた。
翌朝、学校についたのは遅刻ぎりぎりだった。
「おはよ!新学期早速休みかと思ったよ!」
僕は遅刻するかどうかの瀬戸際で焦っていて忘れていた。好きな人が隣の席だということを。
「お、おはよ。昨日遅くまで宿題やってたから寝坊しちゃって。」
加藤は笑っていた。
僕はいつも通りに話すらできなくなっている自分に恥ずかしくなった。それから何も夏の最後の答えがわからないまま、本当に好きなのかもわからないまま2週間が過ぎた。
そんなある日の授業中に加藤から{話したいことがあるんだけど}と僕のノートに書いてきた。 僕が{なに?}と書くと、{ここじゃ言えないから放課後、裏庭きて}と書いてきた。僕はまたドキドキしながら{わかった}と書いた。
加藤は僕のほうを見て笑ってから黒板へと目線をずらす。僕は放課後が来るまで授業に全く集中できず上の空だった。
「大介、ごめんね急に話したいことあるとか言って。」
僕は平然を装い返事した。
「いや、全然大丈夫。」
それから少し間が空いてから加藤が笑顔でしゃべり始めた。
「実はね。」
僕は自分の部屋の天井を見つめ、今年の夏の最後の宿題の答え合わせができた。あれは確かに恋だ。確実に加藤のことが好きだ。本当に好きということが証明できた。
それが好きな人からの恋の相談で答えがわかるとは思わなかった。
上を見ていないと、好きだという証明が目から溢れてしまう。
○2度目
~ガキ使を 見てると日付は 変わってる~
吉川 大介
この中学は最後まで5・7・5を宿題にしてきた。そのおかげなのか、たまに5・7・5を頭の中で作ってしまう。一つ言えるのは、作る上手さは何も成長していない。
中学生最後の冬休みに突入して1週間が過ぎた。最近はクラスメイトでチャットやメールが流行っていて、僕も仲の良い友達にはアドレスを教えた。
僕は中1の夏に失恋してから好きな人ができていない、それに高校受験も控えてるから尚更する気もない。
そんなある日、友達からメールが届いた。
{明日クラスの何人かでカラオケ行くことなったから大介も行くぞ! 明日13時にいつものバス停集合!}
僕は特に予定もなかったし、勉強ばかりやっていたので息抜きもいいかなと思い返事した。
{わかった}
バス停にいたのは、いつもの男友達4人だった。それからバスに乗り込み、他愛もない話をしながら約20分で目的の場所に着いた。
カラオケ店の中に入るとそこにはクラスメイトの女子5人の姿があった。そこには、加藤もいた。
「よし、全員揃ったから行くか!」
僕は一瞬戸惑ったが周りは普通に話している、僕は誰が来るかなんて聞いてないし男だけだと思っていたから、どうやら知らなったのは僕だけだったようだ。
「大介も来てくれたんだ!受験勉強は大丈夫なの?」
加藤もいつも通り話しかけてきた。
「たまには息抜きしないと死んじゃいそうだからちょうど良かったよ。」
初恋の加藤とは3年間同じクラスになり、その加藤は中1のあの夏に僕と同じく失恋していたらしい。
カラオケを終えて僕はストレス発散ができて良かった思いながらお風呂上りにパソコンを立ち上げた。そこには新着メール1件の表示があった。
{こんばんは!今日はカラオケ楽しかったね!あとアドレスも教えてくれてありがと!}
それは、アドレスを教えた加藤からのメールだった。
{こんばんは。息抜きできて楽しかった!こちらこそメールしてくれてありがとね。}
当たり障りのない返信をした。その約10分後、加藤からメールが届いた。
{冬休み中にもう一回遊びに行かない?勉強で忙しかったら全然大丈夫だからね!}
僕はすぐ返信した。
{いいよ!勉強もある程度終わってるし、宿題もほぼ終わってるから!}
{ありがと!じゃあ1月3日に初詣行こうよ!}
それは4日後のことだった。 それから次の日大晦日も加藤とメールをしていた。例年通りなら、ガキ使をみて知らぬ間に年越ししているはずが今回は加藤からのメールで年越しに気づいた。
そして3日の午前9時に待ち合わせしていたバス停についた。そこには、加藤しかいなかった。僕はまたしても同じミスをしてしまった。今回も数人で行くものだと思っていたが、たしかにそんな話はしていなかった。さすがに二人きりだとは思わなかった。
少し緊張しながらバスに乗り、そして時間は進み目の前にはお賽銭箱があった。
「大介は何をお願いしたの?」
「僕は受験が成功しますようにって。加藤は?」
加藤は推薦で私立の高校に決まっているから受験のお願いはしないと思った。
「私たち春から高校生でしょ、勉強も部活も恋もうまくいきますようにって!大介は好きな人とかいないの?」
中一の夏以来好きな人はいないなんて言えず、受験でいっぱいいっぱいだと答えた。
お昼になりファミレスまで人通りの少ない路地裏を歩いていると、加藤が口を開いた。
「私たちって3年間同じクラスだったね!それでさ、一応はクラスメイトとして仲良しじゃんか。それでね、、、」
加藤が言葉に詰まるのは初めて見た。
「なんていうか、もっと大介と仲良くなりたいといいますか。」
それは突然のことだった。まさか、初恋の相手から2年越しに告白のようなことをされるとは思ってもいなかった。
「大介って学校でも人気あるし学年があがるにつれて遠い存在になってるような気がしたりして、いつのまにか気になってて、その、好きになって。せっかく中学最後に二人でデートできたから伝えときたくて。」
その場には沈黙があった。だが僕は素直に嬉しかった。僕はまた加藤に教えてもらった。僕のほうこそずっと加藤が好きだったんだ。
「僕も好きだよ。僕はずっと加藤のこと好きだったんだ。でも本当に好きなのかわからなかった。それを確かめる勇気もなかった。でもずっと好きだった。」
「僕と付き合ってください。」
「うん。」
○3度目
~成人し 迎えた夏も 寂しけり~
吉川 大介
20歳を迎え、専門学校で課題と遊びに精を出す今日この頃。 俺は高校時代ずっと続けてきたサッカーに更に夢中になり1年付き合った夏美に振られた。 付き合っているのに放置されれば誰でもそうなるだろうと思い、反省した、そして2度好きになっても終わりは呆気ないんだなと感じた。
そんな俺は別れて以来彼女も好きな人もできていない。 アプローチは何度かされたが好きになれなかった。
友達の川西と二人で飲みにいったある日、川西が同じく二人で飲んでる女の子たちをテーブルに連れてきた。俺は人見知りが発動してあまり顔を見ることができなかった。
「こいつは俺の友達の大介!お互い二人で飲んでるんだったら四人で楽しく飲もうよ!」
女の子たちは笑顔で承諾し、その中の髪が胸くらいでカールしてる女の子が僕の隣に座ってきた。
「大介、久しぶり。」
俺はこの子に何度驚かされるんだろうと思った。
「夏美!なんでここにいるんだよ!」
「なんでって、大介の友達がナンパしてきたんでしょ。」
夏美と会うのは別れて以来だ。すっかり大人な女性になっていた。川西がすかさず口を開く。
「二人とも知り合いなのか!」
「中学のクラスメイトなの!ね、大介!」
その後も他愛もない会話をし川西が騒ぎ、何年か振りに夏美と同じバスに乗った。
同じバス停で降りて俺の家は、ここから徒歩5分で夏美の家は徒歩10分だったから家まで送ることになった。だが、途中のコンビニで缶酎ハイを4本とおつまみを買って公園で軽く2次会をすることにした。 そこで今までの話をお互いしていると、お互い恋をしていなかったことがわかった。それから昔話で盛り上がったり、将来のことを語り合ったりした。
すると酔いが回ってきたのか、これまた意識して触れなかった昔の話をしてきた。
「あの時は自分勝手に別れを選んでごめんね」
いきなり神妙になったが、酔っていると思って少し陽気な感じで答えた。
「そんなこと全然大丈夫だって、俺ががサッカーだけに夢中になっちゃったから仕方ないって!」
「そういえば、僕って言ってたのに俺にかわってるね、、、、あのね、大介のせいじゃないの、私がわがままだったから。」
なかなか神妙な雰囲気から脱け出せないがもうひと押ししてみる。
「もういいんだって、気にしないでよ!お互い子供だったんだよ!二人とも子供だったっていう話だよ!」
この場の雰囲気を変えることができなかった。そして2分くらい沈黙があっただろうか、その中で夏の夜風が酔いを醒ましてくれるのを感じた。
「もう、子供じゃないよ。」
それは沈黙を破り、夜風よりもはっきりと酔いを醒ましてくれた。
俺は酔っぱらいすぎだぞと注意しようと夏美の方へと顔を向けるが、その瞬間に夏美の口が僕の口に重なり喋らせてもらえなかった。
「、、、いきなりごめん。」
「ほ、本当だよ!いきなりそんなことされたら誰だって驚くよ!酔いすぎだな、そろそろ帰るぞ!」
「、、、ずっと忘れられなかった。大介のSNSをたまたま見つけたときに女の子がまた遊び行こうねとかコメントしてるの見て嫉妬じゃないけど少しずるいって思ったりした。だから再会できたことが凄い嬉しかった。平然を装ってたけど本当は凄い凄い嬉しかった。」
「そうだったんだ、全然わかんなかった。」
「大介、もう一回やり直せないかな。」
ドキドキした。この感情は3度目だった。
俺はやり直したいけど来年には東京で就職が決まっている事実があってなのか、その場で返事が出来ず夏美を家まで送った。
1週間考えた、本当のことを打ち明けると夏美は大学卒業後に東京に行くと言うだろう。俺はそれが嫌だった。夏美には夏美の考えで進路を決めてほしいからだ。 夏美の通う大学は仙台にあるため、返事をする前に仙台に戻っていた。
俺は久しぶりに夏美にメールを送った。
{すぐ返事できなくてごめん。やっぱりやり直すことはできない。}
俺は3度目の恋を自分の手で終わらせた。これで良かったんだよな。
○4度目
~あと二日 仕事がんばりゃ 25です~
吉川 大介
この夏は1週間の休みをもらって1年ぶりに岩手へ帰省する。そして、連休前の仕事が終わり約5時間後の夜行バスで岩手へ向かう。3列シートのゆったりタイプで25歳の誕生日を迎える。自分へのささやかなご褒美だ。
疲れが溜まっていたのか夜行バスが快適だったのか、熟睡していた。カーテンの隙間から朝日を浴びて目を覚ますと、そこには見覚えのある風景があった。
スマホには何件かラインが来ていて、この1週間はかなりのリフレッシュができそうだ。
帰省したその夜、久しぶりに母さんの料理を食べた。やっぱこれが1番だなと食事を楽しんでいると、一つの話題に触れてこようとする家族の目線に気が付いた。それは仕事のことでも息子の健康状態のことでもなかった。
そういえば、好きな人がいるとか彼女ができたとかそういった話はしたことがなかった。25歳になったし、そろそろ結婚相手をみつけなきゃいけないのかもしれないが相手は相変わらずいない。
「早く相手みつけなさいよー」
「わかってますよー」
プルルルルルル、、、、それは川西からの着信だった。
「もしもーし、どしたの、飲み会明日でしょ?」
「大介お帰り!飲み会は明日なんだけど、今まだ21時でしょ、花火しようぜ!」
川西はいつも突然だ。 久しぶりだし2時間くらいで終わると思い、指定された河川敷に車を走らせた。
河川敷には1着のようだ、その5分後1台の車がこっちに向かって走ってきた。川西だと思い向かってくる車をみるがライトで見えない。
車は駐車したが運転手はなぜかライトを消さずに降りてきた。
「大介?」
俺はまたもや誰が来るかを確認せず来てしまった。
車のライトが消され、その人が近づいてくる。
「大介も帰省してたんだ。」
俺はこれまた平然とした態度で接した。
「久しぶりだね、今東京で働いててさ今日帰ってきたところなんだ。」
「なんだっ、私も東京だよ!、、、あれ以来大介、SNS更新してないでしょ。だからどこで何してるか知らなかった。今日だって川西君と美咲が誘ってくれなかったらきてないしさ。」
5年前に再会したとき川西は夏美と一緒にいた美咲ちゃんと連絡取り合うようになって今は恋人同士になっていた。
夏美と再会して前より沈黙が重く長くなっている気がする。それにしてもあの二人は呼び出しておいて、いつまで待たせるのだろう。
「二人とも遅いね。」
「うん、電話してもでないし、あと30分したら帰るか。」
俺はこの雰囲気に耐えれなくなっていた。
「あのさ、、、、5年前、、私のために断ったの?」
俺は何も言えなかった。
「それだったら、小さな親切大きなお世話だよ!私、最初から東京行くって決めてたし、遠距離だって平気だったし、あの時も言ったけど、もう大人だし!」
いきなりのマシンガントークに俺は思わず笑ってしまった。
「平気だと 強がる夏美は まだ子供」
「なにそれっ、相変わらず下手くそな5・7・5!」
中学3年間で5・7・5を作っていたことで話は盛り上がり、いつの間にかお互い笑っていた。俺は夏美の笑顔をみれて素直に嬉しくなった。
「俺やっぱ夏美の笑顔好きだわ。」
俺は何度も驚かされてきたけど、夏美の驚く顔を初めて見た気がする。
「私は大介の笑った顔も大好きだよ。」
同じ人に4度目の恋をした。自分が単純なのかそれとも、これが運命なのか。
「俺と付き合ってください。」
「うん、もう離さないでよっ。私は絶対離さないからなっ!」
「離さねーよ。」
夏美の手を強く握った。なぜか、そのタイミングで向こう岸から打ち上げ花火が上がった。
待っていたのは俺たちじゃなかったようだ。