【6】
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「ラヴィス様が?」
「あぁ、至急ということだ」
大樹の中を掘り抜いて造られた、薄暗い住処。日中だと言うのにランプがなければ書物も読めない木陰の闇で、紫緑のローブに身を包んだエルフはその髪の毛を受け取った。
その者はこの集落一の呪術使いであり、今し方、侵入者の処分を命じられた者である。
彼が受け取ったエルフのそれよりも濃い金色の髪は侵入者のものであり、これを使えば、相手を即死とはいかずとも行動不能にできることは間違いない。
しかし、彼はその毛先を受け取るなら喉を唸らせ、首を傾げた。呪術や髪の毛に関することではなく、むしろ同胞の行いがただただ不思議でしかなかったからだ。
「……解った。やろう。しかし大丈夫なのか? 本命はあちらだろう」
「あぁ、兵も引き上げてる。だが生贄を、リースを捕まえないことには何も始まらないだろう」
「それもそうだが……。まるで、その、ダークエルフであることを利用しているみたいで……」
「しっ! 他の誰かに聞かれたらどうする。これは俺達と女王、ラヴィス様だけのぉほっ」
かっこーん。術士エルフの頭蓋に立派な木の枝が打ち付けられた。
彼は白目を剥いてその場に昏倒し、ぴくりとも動かず気絶する。仲間のエルフが何事かと眼前を見上げた時にはもう、自分にもそれが振り下ろされている最中で。
かっこーん、と。また良い音が。
「ひゃああああ……、ごめんなさいぃい……」
白目を剥いて倒れる二人のエルフを前に、彼は、ガルスは膝をがくがくと奮わせながら一人謝り倒していた。
ガルスはカネダの外道人質行為の後、彼の言葉に従って行動していたのだ、が。
土地勘はないし何処に行けば良いか解らないし見付かったら終わりだしで逃げに逃げて、気付けばこんなところに。
術士がカネダの髪を持って呪うだの何だの言っていたから殴り倒したのだが、とんでもない事をしてしてしまった気がする。いや、事実してしまったのだけれど。
「あ、あわわ……。死んでないよね? 死んでない、うん、たぶん……」
こんな事は初めてなので、不安そうに彼等を見回すガルス。
一応は回復姿勢を取らせる辺り、甘いというか何と言うか。
「それにしても……」
エルフ達の姿勢を確認し、ガルスは喉を躙るように唸り捻った。
「彼等は何を話していたんだろう……。ダークエルフであることを利用するって……?」
違和感が、あった。
まだ上手く言葉にはできないけれど、彼の中には違和感があった。
まるで真実という瓦礫に、嘘という僅かな土嚢を被せたような、杜撰な取り繕いの違和感。
見えている。真実は直ぐそこに見えている、はずなのにーーー……。
「……駄目だな。カネダさんやメタルさんなら、パッと思いつくものなんだろうけど」
少し、間を置いて。
「……いやメタルさんは無理かな」
ガルスも結構染まりだしている辺り、彼等も結構影響力の強いのかも知れない。
「それはそうと、ダークエルフであることを利用する……? エルフ族は保守的な部族だから、外部と交わった末に産まれるダークエルフを忌避することが多いとは聞く……、けれど、明らかにそんな意味合いじゃなかったし……」
むしろ、彼等の口調には何処か憐れむような様子さえあった。
何故? いや、そもそもそのダークエルフは何処にいる? その子が贄になるのか?
だとすれば、えっとーーー……、つまりーーー……?
「……仕方無い、かな」
彼は意図を読むことを知らない。常に変動する心を読むことを知らない。
だが、定められ、作り上げられた問題文ならーーー……、二重三重に重なるのではなく、幾枚であろうと一重までなら、充分に解明できるのが彼だ。
だからこそ、彼は立ち上がる。申し訳なさで震える膝を押さえながら、立ち上がる。
「し、調べさせてもらいます……!」
|カネダの言葉通りに動くなら《・・・・・・・・・・・・・》、もう時間はない。
けれど、それはそうだけれど、これを調べるべきだと思うのだ。調べなければいけないと思うのだ。
「……あ、後で片づけますので!!」
それでもやっぱり甘さを捨てられない辺り、染まってもガルスというか何と言うか。
彼が染まりきるのは、それとも自分色になりきるのは、さていつになる事やらーーー……。




