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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
エルフの故郷
95/421

【1】


【1】


 さて、時間をーーー……、一晩飛んで、数十分ほど戻すとしよう。

 エルフ集落から少し離れた『平原の湖』のほとりに、彼等の姿はあった。フォールの指示の元、リースが作り上げた野菜スープとジャガイモの蒸し上げという朝食を間食した、一行の姿がだ。


「ほ、ほら、昨日の夜と今日の朝! 飯造ったんだから王女様を返せよ! なぁ!?」


「まぁ待て、話を聞け。女王の身が惜しくばな」


 三流悪党がここにもいました。


「……とは言っても、実際のところ俺は別にエルフ女王などどうでも良い。味は気になるが」


「こ、このゲスガキ……!!」


「いや、この男の場合リアルに味じゃからな。エロい意味じゃなく」


「むしろそういう意味の方が良かったと思えるぐらい本気だぞ、こいつは」


「えぇ……」


「話の腰を折るな、阿呆共。……して、リースよ。俺が気に掛けているのは神託についてだ。謂わばお告げのようなものだろうが、その形態はどうなっている? 予言か、それとも授言か」


「……えーっと?」


「つまりその神魚とやらは勝手に喋るのかそれともこちらの質問に答えるのか、ということだ」


 リースは生意気な子供の問いに困惑しながらも解らない、と答えた。

 何せ百年に一度の神事だ。話には聞くが大人は詳しく喋ってくれないし、所詮は噂話程度の認識である。


「ふむ、ならば試す価値はあるな」


「え、おい、何するつもりだよ……」


「神事の権利を強奪する」


 空気が、凍り付く。シャルナもルヴィリアもリースも、眼を見開いて喉を詰まらせた。

 まぁ、ただ一人だけ、魔王は鍋に残った野菜スープを寄せ集めて飲み干していたのだが。

 はいはいスライムスライム。


「スライムの楽園の場所を問う」


「……すら、何?」


「ふぉ、フォール? 流石に一種族の行く末とスライムを天秤に掛けるのは……」


「スライムは全てを凌駕する」


 問答無用の勇者スライムキチは恐ろしいものである。


「いや、それを言えば御主なら女神の神託あるじゃろーが。あっちにしろ、あっちに」


「今日の天気と運勢を知ってどうなる」


女神の神託(あさのニュース)って……」


「お、おい待て! それより変な調子で話を進めるんじゃねぇ!! 駄目だぞ、神託はエルフ達が生きて行くのに欠かせないモンだ!! それを、何でスライムか知んねぇけどっ……! そんなのに使えるわけないだろっ!!」


「待て、リース。考えてみろ。その神魚とやらに頼り切り、誰かを犠牲に得る未来に何の意味がある? 貴様等は今もこうして生きているではないか、歩んでいるではないか。誰しもが常に前を向き、歩いて征くものだ……。預言に頼り、傀儡が如き生を得た上で、貴様はその犠牲になった贄に胸を張れるのか?」


「ッ……! そ、それは……」


 リースは言葉を詰まらせ、そのまま俯いた。

 心の何処かに、ささくれが如く残っていた違和感。それに真っ直ぐ刃を突き立てられたかのような気分だ。

 ――――解っている、解っていた。だがいつしか、周囲がそうだと思っているからそう思ってしまった。いつの間にか、染まってしまった。当たり前なのだと信じて疑わなくなった。

 だが、世界を旅してーーー……、今この男と出会って、この言葉を突き付けられて、ようやく気付いてしまたのだ。そのささくれという違和感に。


「スライムじゃなけりゃ良い台詞なんじゃがなぁ……」


「リゼラ様、良いところですからお静かに!」


 現実とは時に残酷である。


「と言う訳で今からエルフ集落に乗り込むぞ。話を聞く限り、条件はその生贄が必要なのだろう? つまりその者を拉致すれば良いだけだ」


「ま、待てよ! でも結局、神託を受けるには生贄を出すしかっ……!!」


「殴り倒せば良いだけだろう」


「信仰もクソもねぇなあんた!?」


「我が信仰は全てスライム神に捧げているからな」


「そこは女神じゃないのか御主……」


 自身の膝上でフォールとリースが言い合い、隣では密かに勇者の分の芋を貪る魔王がいる中、シャルナはふとある事に気付く。

 こんな事態になれば必ず食い付いてきそうなルヴィリアが終始無言なのだ。いや、無言と言うよりは喉を締め上げるように言葉を押し殺しているかのような、困惑に塗り潰されて声が出ないようなーーー……。額に大粒の汗を浮かべ、緋色の眼を忙しなく揺らしている様など、正にそれだろう。


「……ルヴィリア、どうかしたのか?」


「ひゃっ!? な、なんでもないよシャルナ!! ぼくっ……、わ、私いつものハッピハッピきゅん☆だよんっ♪」


「そ、それなら構わないが……」


「だから言っているだろう。スライム神こそこの世全てを御創りになった万来の神であり我等を救済なさる救世主メシアなのだ。あの方が御降臨された時こそ我等が真なる救済を得るのである、と」


「だけどスライム神様の御降臨はいつになるんだよ!? 旅の途中、ある村じゃこの世に災禍が訪れているって話を聞いたぜ!? あの方の半流動体のぷにぷに感があれば全てを浄化なさるが、その時がいつなのか解らなきゃ意味がねぇ!!」


「オイだから御主洗脳すんのやめろや!! 言っとくが魔族より余ほどタチ悪いからなそれ!?」


「何を言う。同胞が増えるのは良いことではないか」


「御主の場合は増やすっていうかやすじゃからな!? ほぼ呪いみたいなモンじゃからな!?」


「…………」


「あだだだだだだだだ!? 小さくなったのに力変わってなだだだだだだだ!!?!?」


「おい馬鹿、喧嘩すんじゃねぇよ。こういう時こそスライム神様に感謝を祈って互いに今生きていることをあのぷにぷにぼでーに感謝するもんだぜ? ほら、一緒に祈ろう。スライム神に感謝を(スラメン)


「シャルナぁあああああああああああルヴィリアぁあああああああああああ助けろぉおおおおおおおおおおお!!!」


 三流魔王が残念な末路を向かえる中、部下達は奇妙な空気を誤魔化していた。

 特にシャルナは同胞の気まずそうな姿に、怪訝さを含んでいる。彼女が何かを隠していることを確信していたから。


「ともあれ、これからエルフ共の集落に向かい、その神託とやらを行う神魚を脅す。……その為にもまずは餌が必要だな。生贄になる者という、餌が」


「ほ、本当にやるのかよ? そりゃあたしだって生贄になる奴がいるのは……、あんまり……」


「当然だ。悪しき風習は因襲、良き風習は伝統だ。そして全てに勝るはスライムだ」


 フォールはシャルナの膝上から立ち上がり、湖面を眺め見る。

 そこに揺蕩うのは木製の船。唯一の道を閉ざされたこの壁を渡る為の唯一の梯子。

 彼の欲望を叶えるための、梯子。


「……さぁ、エルフの集落を襲撃しようか」


「あだだだだだだだだだだそれより妾を解放しろだだだだだだだあああああああああああああああ!!?!?」


「いい加減話してやれよぉ!?」


 と言う訳で彼等は動き出す。

 スライムの為に、全てを擲ってでも生きる馬鹿が、動き出したのだ。

 エルフ集落の神を、脅し倒す為にーーー……。



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