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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
贄の少女と湖主の鱗
90/421

【5】


【5】


「……何でだろうね、記憶がないのよ」


 気付いたのは、少し日が傾いてた後だった。

 魔道駆輪の影で、時間丸ごとを斬り取られたかのように、彼女達は目覚めたのである。

 密会の様子が変わった様子はないし、影の中でも蒸し暑さは相変わらずだ。何が起こったのか、彼女達が理解することはない。

 敢えて言うであれば、彼女達の前に小さな机と、その上の器には魚チップスが継ぎ足され、さらには人数分の飲み物まで用意されているという変化はあったのだが、特に変わった様子はない。ご丁寧に日傘と座布団まで完備されてるけど変化はない。


「何でじゃろうな、妾もだ」


「私もだ……。妙に気怠いような……」


「ま、取り敢えず祈り捧げときましょう」


「うむ、そうじゃな」


「あぁ、それでは……」


「「「スライム神に感謝を(スラメン)」」」


 変化せんのう、ありました。


「しっかし、どうするかの。オイルも追いかけっこも失敗ではないか」


「おっかしいわねぇ……。私の完璧な策略が……」


「魚チップスとバナナじゃねーか」


「その、何だ。解っただろう、ルヴィリっ……、ルビーちゃん。あの男はこういう男なんだ。真正面からの戦闘は言わずもがな、暗殺者のように隙がない。本当に人間なのかと疑いたくなるような勇者なんだ」


「うーむ……。隙が無いからこそ隙だらけのはずが、まさかフルオープンとは……。想像させる着エロより露出重視の直エロかぁ……。おっぱいとお尻のエロさなら私はどっちも好きだわ」


「頼むから妾達にも解るように喋ってくれる?」


「貴殿の例えは、少し特徴的過ぎてだな……」


「林檎の丸囓りより兎さん、ダンベルよりバーベルよ」


「「智将……!!」」


この例えで納得する辺りどうなのか魔族。

 ともあれ、未だ諦めることを知らない智将は次の、いいや最後の策略を繰り出した。

 今までは遠回りな策略だったからダメだったのだ。回り込みの道行く最中で突如の豪雨が如く、あの男の予測不可能な邪魔が入る。

 だからこそ、今度は邪魔のしようも逃げようもない、直線的な策略で行こうではないか。


「最後の策略……、それは『割ってドッカン!? 闇に惑いて逝くがよい! 地獄のスイカ割り』~~~!!」


「……大体想像つくんじゃが、その策略の内容は?」


「スイカ割りのスイカをこの超巨大爆弾とすり替えるのよ!」


「「…………」」


「あれ、乗り気じゃない!? 今までで一番確実なのに!?」


「「爆発オチは前回やったんで……」」


「あるェ!?」


 まさかの被りである。


「しかし、実際のところ可能性としては一番だな。あの男ならばこんなイベントは嬉々としてやりそうではあるし……」


「って言うかルヴィリア、妾フツーにスイカ割りやりたいんじゃが」


「えぇ、最近の高いからフェイク用の一個しか買ってきてない……」


「世知辛ぇ」


「ま、まぁ、それならばフォールを爆破した後に行えばよろしいではありませんか。ルう゛ぃっ、ちゃ……、ルヴィリア。まず奴に普通のスイカを見せて、その後に目隠しをさせてからすり替えれば良いんだろう?」


「……そうだけど、シャルナちゃんもリゼラちゃんもルビーちゃんって呼んでくれないね」


「よ、呼びにくくてな……」


「むぅー。ぷんぷんだお!」


 こりゃ後で耳舐めしながらねっとり囁いて貰わないとねぇ、なんて気色の悪いことを呟くルヴィリアを筆頭に、彼女達はスイカを抱えてフォールの元へと向かって行った。

 魔道駆輪の影から出ると、勇者は巨魚の残り身や皮、骨を処理しており、どうやら干し物にして保存しようとしているらしかった。彼女達がいざ声を掛けてみれば男はその手を止め、何だと零しながら振り返る。

 そしてスイカ割りの提案を聞くと、面白そうだと一言。リゼラが双角で支える果実から目を離さない辺り、かなり興味津々らしい。


「どーよフォール君! やってみないかネ!」


「……確か、何だったか。目隠しをしてから数回転して棒で果実を叩き割る遊びだったか?」


「そーそー!」


「むぅ……、是非と言いたいが、どうにもな。目隠しできるようなものがないのだが」


「心配ごむよーう!! ちゃんと用意してありますとも!!」


 ルヴィリアが懐から引っ張り出したのは真っ白な、細長い厚編みの布地だった。

 大体、フォールの腹から爪先までの長さだ。目元を隠すには少し長いが、幅と言い材質と言い、丁度良い代物だろう。


「ふむ、これは……。何だ、心なしか臭うな」


「あぁ、まぁずっと胸にあったからねぇ」


「そうか、後で洗濯しておこう。これを巻けば良いのか?」


「うんうん。じゃ、それで目隠ししてね、うん! じゃ、あっちの開けたトコに行ってくれる? リゼラちゃんがスイカを置くついでに引っ張ってってくれるからさ」


「そうか。では頼もうか」


「クックック……、愚かな勇者め! 今の御主は妾の支えなくば歩けぬ状態ぞ、さぁ我が手を感謝感激に涙して宝珠を賜るが如く畏敬の念を持って恐る恐る触れるがよあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?!?」


 問答無用の圧縮プレスが魔王を襲う!

 結果、両拳で双角とこめかみを挟まれて持ち上げられた魔王はそのまま、勇者の手によってナビよろしく方向を指示するだけの機械と成り果てた。


「懲りないな、あの方も……」


「そこがリゼラちゃんのカワイイとこでもあるんだけどねーん♪」


 と、そんな二人の後ろ姿を眺めながら、シャルナとルヴィリア。


「よし、後は手早くすり替えるだけだな」


「そそ、シャルナちゃんお願いして良い? 私だと気取られそうで」


「あぁ、勿論だ。……しかし、ルヴィリアよ。よくあんな目隠しを持っていたな。見たところ随分と使い込まれてはいたが、上等な素材だろう?」


「そりゃもう極上の、お金には換えられないブツよ!」


「そうだったのか……。良かったのか? そんな上等な品を……」


「え、うん。だってシャルナちゃんがまた巻いてくれれば良いし……」


「え?」


「え?」


 ――――丁度良い長さ、臭う、胸にあった。

 臭う、臭う、臭うーーー……、臭う。


「…………」


 振り返った彼女の視線の先にあるのは、魔道駆輪の側に置かれた着替えの山。

 しっかりと畳んで調えて置いたはずの龍紋衣は荒らされており、その中に押し込んであったはずの()も見当たらない。

 と言うことは、今、あそこで、あの男が、巻いている、目隠しは、つまり。


「…………お」


「お?」


「おああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!」

 

 獣のような慟哭と共に、覇龍剣を構えて突貫するシャルナ。

 その様は最早、殺気だとか殺意だとか憤怒だとか憎悪だとかそういう次元ではなく、純粋に、狂気による凶行だった。

 勇者フォールの顔面に巻き付けられたそれ(・・)を奪う為だけに、ただそれだけの為に、何をも厭わぬ、純粋過ぎる狂気の凶行だったのだ。


「おいシャルナどうしうわぁああああああああああああああああああああ!!!」


 魔王が見たのは何だったのか。

 骨肉隆々な褐色筋肉女が大泣きしながら、自身の身の丈ほどあろうかという大剣を暴風雨が如く振り回して突貫して来る姿だろうか。

 それとも周りの見えていない彼女が蹴り飛ばし、こちらに転がってくる巨大な爆弾の姿だろうか。

 はたまたそこでポロリというカンペを構えながら魔眼を発動しているド変態か。


「落ち着けシャルナ止まれシャルナ静まりたまえシャルナぁっ!? アカン、アカンて!! その転がってくるブツを止めろぉおおおおおおおおおお!!!」


 彼女の必死の叫びも、号泣しながら大剣を振り回す女にはとどかない。無慈悲に転がってくる特大爆弾にはとどかない。高速タップダンスで興奮するルヴィリアにもとどかない。

 ――――ヤバい。このままでは、後ろで呑気に素振りしてる馬鹿にシャルナが斬り掛かってしまう。目隠しにより視界を封じられ、陽気な鼻歌と素振り音のせいで聴覚は無意味な、周囲の現状を何も解っていない男に斬り掛かってしまう!

 このままでは勇者が完全なる不意打ちにより亡き人にーーー……。


「…………」


 あれ、別に良くね?


「よっしゃシャルナ好きなだけ斬り殺してこい!!」


 その小柄な体格を生かし、リゼラはアクロバティックハイスティックマトリックスなアクションで暴風雨の隙間を潜り抜ける。具体的には芋臭い前転で潜り抜ける。

 交錯ーーー……。魔王と四天王の刹那が、そこにはあった。最強の魔王と最強の四天王が、各々の敵と対峙する為の交錯が、そこにはあった。

 斬撃の閃光と漆黒の眼光の交錯が流星が如き曲線を描き、刹那の狭間を蹴り飛ばす。勇者まで、爆弾まで、あと、一メートル未満。


「ほう、妨害ありとは面白い」


 だがこの時、リゼラは重大なミスを犯していたのだ。

 暴風雨、爆弾、ド変態、自身の身体能力、後ろの勇者。その全てを視野に入れた上で、勇者をシャルナに斬らせ、自身は爆弾を遠ざけるという選択肢を選び抜いた彼女が犯した、ミス。

 完璧だった、完璧だったはずなのだ。ただ一つのミスを、たった一つの要素を、失念していたことを除けばーーー……。


「それでこそスイカ割りというものだ」


 勇者は、突き抜けた馬鹿であるという要素ミスを。


「む、ン」


 剣技も何もない大剣の腹を、勇者の刀剣が爆ぜ抜いた。

 視界を封じられたが故の感覚。僅かな風の動きで、そこに物体があることを察知したのである。

 激突は凄まじい衝撃を生み、周囲の草木を机上の雑貨を打ち払うが如く薙ぎ倒した。ただの衝撃が、斬撃との激突が、そうさせたのだ。

 ―――否、衝撃が薙ぎ倒したのは草木ばかりではない。今ここに転がって来ようとしていた塊も、また。


「や、ばーーー……」


 特大爆弾が、浮き上がっていく。吹っ飛んでいく。細く小さな両腕から滑り上がり、そのまま、蒼く果てしない空の彼方へと、湖の煌めきと太陽の輝きの中へと、消えていく。走馬燈のような喪失と共に消えていく。

 やがてその影さえも白で塗り潰された時、彼女は自然と息を呑んでいた。

 あの爆弾が落ちれば、どうなる。落下の衝撃を受けたら、どうなる? いや、論ずるまでも考えるまでもない。業火と爆風の嵐が、この一帯を埋め尽くすことだろう。

 抵抗虚しく、この身さえ、灼き尽くされることだろうーーー……。


「はーい、そっこまでー♪」


 ぱちんっ。

 乾いた破裂音が、鳴り響いた。

 それは在り来たりすぎた閉幕の合図。何ものよりも確かで、何ものよりも使い古された合図。

 然れど、その合図による閉幕は、何ものよりも異様な閉幕だった。


「いやぁ、ごめんごめん。おフザケが過ぎちゃった☆」


 気楽な、飄々とした声。力どころか気さえ抜けてしまいそうな軽々しい声。

 リゼラが振り向くと、そこには特大の球体を指先で弄ぶルヴィリアの姿があった。

 たった今、空へ打ち上がったはずの球体。それが何故だか、彼女の手の中にあるのだ。

 いや、それだけではない。フォールとシャルナの激突によって薙いだはずの草木はまたそよ風に揺らぐばかりとなっているし、暴れ狂っていたはずのシャルナはリゼラの隣で眼を回しながら気絶している。そして、その眉間の上には彼女が追い求めていた帯があった。

 ――――だからそれは、時間が吹っ飛んだ、と、そう例えるより他ないほど奇妙な閉幕だったのだ。

 ただ一人、刀剣を振り下ろした態勢のままの男を時の長針と短針の間に取り残して、数字の基盤だけを無理やり捻って進めてしまったかのような、異様すぎる閉幕だったのである。


「る、ルヴィリア……」


「歓喜のあまり我がおっぱいにカムヒアァンッ!!」


「……いやこれ御主のせいじゃろ?」


「あはァんっ♡」


 ド変態は揺るがない。


「まっ、今回は久々に皆と会えて楽しかったからね、はしゃぎ過ぎちゃったわ。ちょっと無理したけど、その対価には全然足りないぐらいよ」


 彼女は指先で弾いた球体を受け止める。

 そして踵を返す、と言うよりは、陽気な小娘のように、御転婆なお姫様のように、くるんと一回転して。


「それじゃ、夕暮れも近いし……、私はもう行くわ。今日は充分に楽しめたしネ」


「……な、何じゃ、もう行くのか?」


「まーねー。智将は表に出るものじゃないからサ」


「ルヴィリア……」


「ご心配なく。私はいつだって貴方達を見てるし、知っている」


 燦々と輝く陽光に照らされているはずなのに、彼女の表情が読めない。

 緋色の眼だけが、ただ純白の光を遮る様に妖しく煌めいていた。その双眸だけが、闇に光る灯火が如く、否、闇を創り出す灯火が如く。


「『最智』は全てを見通し、魔族の名の下に世界を混沌に陥れ、阿鼻叫喚の深淵叡智を実現すべく、暗躍し続ける。私は影、貴方は闇。影は闇の中に潜むもの。だから私は、いつでも貴方のな」


「御主が持ってるそれ、スイカじゃね?」


「えっ?」


「えっ?」


 二人して見上げた空から落ちてくる、真っ黒な球体。

 ドスンッという重々しい音。カチリという何かスイッチが入った音。

 咄嗟に逃げ出したルヴィリアと、そんな彼女を盾にしたリゼラと、自身のサラシを抱いたまま気絶するシャルナと、スイカはそこかと走ってくる馬鹿。

 そんな彼等を、陽光よりも眩しい白色が塗り潰す。湖面に大きな波が立ち、草原に爆炎と爆風の嵐が吹き荒れ、晴天高く火柱が打ち上がることになってーーー……。


「結局、爆発オチじゃねぇかちくしょぉおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!!!」


 魔王の叫びと共に、周囲一帯は軽々と吹っ飛ばされるのであった。

 ――――格好付けた台詞は言い切れない。これ鉄則です。



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