【2】
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「…………で、何でこうなるんだ!!」
『平原の湖』。そこにあったのはルヴィリアの言葉通り、何処までも果てしなく続く湖だった。いいや、海だった。水面から吹き抜けてくる風に塩辛さはなく、水面には泡沫も高波もない。ただ風に薙ぐばかりの純蒼の世界が、そこにはあったのだ。
と、それはどうでも良い。そこはどーでもいい。問題は旧式スク水(名札入り)に身を包んだリゼラと、真っ白なビキニに顔を赤らめるシャルナの姿だ。さらには紐水着のルヴィリア、海パン一丁で佇むフォールの姿も付け足そう。
そう、つまりそういう事なのだ。最早言うまでもないだろうが、これはそういう事なのだ。
――――断言しよう。サービス回である。
「シャルナちゃぁああああんっ! あぁもうおっぱいって言うか胸筋でムチムチなお胸かんわいぃ~っ♡ 見てほら見てほら!! 腹筋、このエロく割れた腹筋犯罪級だわ!! 競泳水着か白ビキニかで悩んだけど腹筋の見えるビキニで良かった褐色の映える白で良かったぁあああああああんっ!!」
「やめろ腹筋に頬を擦り付けるな! や、やめろと言っているだろう!!」
「見てこれこっちリゼラちゃん最高じゃない!? あぁもう王道の良さっていうか黄金比率っていうか神々の数字っていうかもうこれ犯罪級っていうかロリにスク水っていうね、もうね!? はぁあああん最高よもぉおおおおおやったぁあああああああああ生きてて良かったぁあああああああああ!!!」
「えぇい擦り寄るな鬱陶しい! 鼻息が荒いのだ御主は!!」
「ごめんねー! んーちゅっちゅっ♡」
「…………俺は?」
「え、いる? 評価」
「どうせなら欲しい」
「似合ってんじゃない?」
「そうか」
ちょっと満足気なフォールさん。それで良いのか。
「しかし、何だ。聞いてはいたが実際見てみると途方もない広さだな、この湖は。陸地ならまだしも、海上の湖でこれとは……」
「あんま深いトコまで行くと溺れるわよーん。つまり浅いとこできゃっきゃうふふするのが『平原の海』の遊び方なのダ!」
意気揚々にうきうきとはしゃぐルヴィリアと、成る程と頷くフォール。
そんな空気をブチ壊さんが如く、リゼラとシャルナはルヴィリアを一瞬で魔道駆輪の影へと引き込んだ。
『いやぁもうなぁにぃ~? エロいことするのぉ~?』とか抜かす馬鹿に拳一発を撃ち込みながら。
「期待した結果がコレだよ……!!」
「やげぼっふ……、リゼラちゃぁ~ん。おっひさしぶりぃー!」
「様をつけろ、愚か者!! 魔王リゼラ様の御前であるぞ!! さっきはフォールの前だったから見逃したものを貴殿、こんな辱めと共にっ……!!」
「まぁまぁ落ち着いてよんシャルナちゃん。えぇやん、こう、エロいしエロいしエロいし。エロは世界を救うのよ?」
「世界の前にまず妾たち救ってくれる!?」
「もっちのロンロンタンヤオ! その為にここまで来たんだからね~ん♪」
相変わらずへらへらと笑っている彼女だったが、避暑帽子の奥に潜む眼には緋色の灯火が灯っていた。
氷より冷たく、氷柱より鋭く、氷水より澄んだ、灯火が。
「一言で言えばさ、あの男は危険過ぎるワケよ」
「き……、けん?」
「だってそうでしょう? 殺気だけでモンスター達を消滅させ、最強の魔王と四天王に何一つ失わず勝利し、どころか形の差あれど仲間として、今もこうして平然と旅を続けている。……侵略? 破壊? ノンノン、これは染蝕。あの男の色に染め上げられ、蝕まれてるのネ」
「……何が言いたいのじゃ、ルヴィリア」
「ルビーちゃんよ、リゼラちゃん。つまり私はあの男の危険性について説いてるわ、けっ♪」
ルヴィリアが魔道駆輪の影から覗けば、その危険を孕む男は屈伸運動をしていた。
軽く手足を曲げて、伸ばし、筋を和らげるように。
「今でこそ大人しくしてるけど、いつまでも本当にそう思う?」
その言葉に、シャルナが魔道駆輪の影から覗き込む。
彼は、水面を走っていた。
「いつあの男が異常性という牙を剥くか解ったモンじゃない」
顔を青ざめさせて戻ってくるシャルナと入れ替わりに、リゼラが魔道駆輪の影からひょっこり顔を出した。
フォールは、自身の数千倍はあろうかという、あの怪鳥並の巨魚を素手で取ったどーしていた。
「だから私達は今すぐにでも」
「大人しくしてない」
「牙剥いてんじゃねーか」
「あるェ?」
既に大惨事である。
「あの状態で既に!? 軽い運動みたいなモンじゃないの!?」
「あの男にとっては準備運動かも知れないが、我々にとってか軽くできる事ではないだろう!? 私だってできるかどうか……」
「やめとけシャルナ、アレ絶対無理じゃわ」
「待って準備運動頑張らないと無理って何!?」
「いやどう考えても水面疾走は頑張らないと無理だ!!」
「頑張っても無理じゃってばだから超漁猟は」
「えぇ……。私、一時期寝る前の日課だったのに……」
「シャルナ、御主『最強』の称号こいつに譲ったら?」
「嫌ですよ!? わ、解りました。ならば私は片足で挑戦してみせます!!」
「やめとけ死ぬぞ!? ありゃ妾達全員で掛かっても無理だ!!」
「そりゃ全員で掛かればダメでしょう!!」
「へいへい落ち着いてヘイウェイ! 解った、何だか認識に差があるようだけどノープロブレムだわ。安心して、ぼっ……、私は何処までもみんなの味方だよ!! みんなのおっぱいとお尻と[放送禁止]の味方だよ!!」
「「控えめに言って最低」」
「あっはァんダブル言葉責めクルぅんっ!!」
ビクンビクンと体を震わせるド変態ことルヴィリア。
リゼラとシャルナはそんな彼女をただ死んだ目付きで眺めていた。具体的にはまな板の上に乗って首を落とされてから七回忌ぐらい向かえた魚の目的な感じで。
――――そう、こういう人物なのだ、ルヴィリアは。四天王随一の頭脳を持ちながらド変態。四天王随一の策略家でありながらド変態。四天王随一の特質持ちでありながら、ド変態。
その頭脳は女の子のパンツを盗むためにあり、その策略は女の子のお風呂を覗くためにあり、その特質はエロいことをするためにある。そんな、ド変態。
かつて四天王の同胞に『あの頭脳と特質さがなければ即刻処刑』とまで言わしめたド変態。それこそが彼女、ド変態なのである。
失礼、ルヴィリア・スザクなのである。
「……まっ、認識に差はあれど、それさえ埋めるのが私の策略なワケなのよ」
と、気を取り直してド変態。
「この策略に必要なのは一に信頼、二にチームワーク、三四がエロスで五もエロス!」
「つまり信頼とチームワークがあれば良いんだな」
「釣れないなぁもうっ。でもコレが結構重要なのよ。良い? 私のこの策略は奴を確実に仕留められるわ……。だけどその分、難易度が高く、準備が難しい」
「……ど、どういう策略なのじゃ? それは」
「オッケー。じゃあ説明しよっか」
ルヴィリアが言うには、その策略は概要自体は単純だと言う。
――――まずこの先にある向こう岸への渡り橋。そこまでフォールを誘導し、隙を見て水面に彼を突き落とす。
突然のことでパニックになった彼はそのまま溺れるだろうが、さらに追撃として私の特質ーーー……、魔眼を使って、この湖の主である巨魚を操り、奴を食らわせて湖底へ引き摺り込む、と。
「あの男の隙の無さはさっきの会話だけでも充分に解ったわ。だからこそ確実な計画を用いるの」
「「諦めろ」」
「そう、私の信頼こそ……、えっ」
「溺れる云々以前にあの男にそんな浅策のが通用すると思うなよ」
「何が主だンなもん既に狩られとるわ」
「え?」
「え?」
「えっ」
「「「…………」」」
魔道駆輪の影から、一太刀で主の活け作りを完成させたあの男の達成感溢れる無表情を眼にした時、この光景は一生心に残ると思いました by魔族一同。
「……ごめん、色々見誤ってた」
「いや、仕方ないさ……。誰もが通る道だ……」
「そうじゃな。計画の為に準備したこの水着代ぐらいの犠牲で済んで良かったと言うべきか……」
「え? いやいや、何言ってるの。それ趣味だから」
「おいシャルナ手伝えコイツ沈めるぞ」
「ですね、主の消えた湖の礎となるでしょう」
「おっと同胞が殺しにきてるゥー! 待って待って汚名返上のチャンスを頂戴!! この智将の名に賭けて、奴を倒す策略は他にもあるってば!!」
「ほう、言ってみろ」
「まず私がリゼラちゃんとシャルナちゃんをエロい感じで責めるじゃん?」
「シャルナ、鎖」
「はい、ここに」
「あっれぇおっかしいなぁ!?」
「うっせぇ痴将沈めんぞ」
「じょーだん! 冗談だってば!! 解った解った、ちゃんと計画言うから!!」
鎖を構えた、何処のスケバンかと思うほどの殺気を放つ二人を前に正座するド変態。
曰く、フォールを倒すのは決して難しくないとのこと。この次点でリゼラとシャルナは彼女の沈没ポイントを決め始めていた。
「いやでもサ? 私だってアイツ見てたけど正直なトコ隙だらけじゃん?」
「御主さっき隙がないとか言ってたじゃねーか」
「そっちの隙じゃなーいの! 確かに隙はないけど、そうじゃない。隙がないからこそ隙だらけってワケ」
「ワケ解らん。シャルナ、御主解るか?」
「……少し、解ります」
「でっしょぉ? さっすがシャルナちゃん!」
「おい、どういう事だ! 妾にも説明せぬか!!」
「よくお考えください、リゼラ様。あの男は確かに隙の無い暗殺者……、ではなく、勇者ですが、それでいて慣れてないというか、何処か世間ズれした部分があります。それは今まであの強大な力を持っていたからこそできた隙なのでしょう」
「そそ。戦闘になれば隙はないけど、それ以外は隙だらけってワケ。よーするに頭のスイッチを入れなきゃいーのよ」
ルヴィリアは活け作りの盛りつけで悩むフォールを一瞥してから、素早くリゼラとシャルナを抱え込んだ。
秘密のお話と言うよりは密会のように、至極あくどい表情を浮かべながら。
「だからアイツが油断するような……、水辺の遊びで倒す! 夏の風物詩っていうか、思わずあの男が楽しんじゃうよーな遊びでね! そう、つまりオイル塗りのような!!」
「成る程……、水辺でランニングだな」
「スイカ割りじゃな」
「え?」
「え?」
「えっ」
イベント盛りだくさんな楽しい季節がやってくるけどその前に策略です。
取り敢えず各々のイメージが全て欲望に直結している辺りどうなのかとそれぞれが考えたが、口にしたら絶対面倒なことになるので彼女達は皆、視線を合わせることなくその言葉をのみ込むのであった。




