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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
亡霊の街
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【プロローグ】


【プロローグ】


「エルフ?」


 街の宿に魔道駆輪を駐めていたフォールは、その言葉に思わず首を捻っていた。

 彼にそれを教えてくれたのは空き地を掃除していた宿のオヤジで、さらにはこの先に進むのは止めた方が良いという忠告まで付け足してくれた。

 どうやらその理由がーーー……、森の賢者と讃えられる、エルフなのだそうで。


「エルフとは、あのエルフか」


「そーそー、森のな? エルフだよ、エルフ。耳が長くて木の実とかばっか喰ってる……。奴等の若い連中が森を占拠しちまったそうでなぁ。理由は、まぁ、何でも人間がエルフを滅ぼすとかどーとか……」


「……あぁ、若いエルフにありがちな敵対思想、だったか。聞いたことはある」


「エルフってのは長寿で他の種族を見下すらしいからなぁ。はぁー、ったく面倒な奴等に絡まれたモンだ」


「しかし、その言い方だと前からいたわけではないのだろう。最近になって現れた、ということか?」


「そうそれ、そうなんだよ! やっこさん、思いついたようにぽーんっと現れてな。儂も詳しい話を聞いたのはつい昨日のことなんだが、街の冒険者達は何日か前から異変は感じてたらしいぞ」


「……ふむ」


「まぁ、儂が知ってるのはこれぐらいさ。詳しい話を聞くなら酒場に行けば良い。あそこは冒険者の仲介所みたいなこともしてるからな、色々と聞けるだろうよ」


「解った、感謝する。話を聞いてみるとしよう」


「おう、もし行くなら気ぃ付けてな。最近この街もザワついててあんま良い気はしないからよ……」


 宿のオヤジの忠告も程々に、フォールは後ろ手で返事をしながら宿部屋へと入っていく。

 安っぽい木造の扉を抜けて、オヤジの奥さんがやっている受付で部屋の鍵を受け取って、廊下を歩いて行ってーーー……、と。そんな中でもフォールは密かに思案を続けていた。

 ――――土台、奇妙な話だ。エルフが人間と良い関係を築くことは少ないと聞いたことはあるが、それはあくまで人間が自身達の領域に踏み込むからだ。土着精神が強く、保守的な彼等にとっては自らの領域に無断で踏み込まれることほど嫌うことはない。

 だが、今回に到っては何故か、向こうから踏み込んできたというではないか。土着精神から宗教や魔術、呪術でで創り出すような彼等が軽々しく産まれの地を離れるとは思えないがーーー……。


「……ふむ、解らん」


 彼は自身の部屋の扉を開いて適当に荷物を放り込みつつ、懐から一枚の地図を取り出した。

 この街に来た時に行商人が売っていた地図だ。南地域の一部分とは言え、大範囲の地図は珍しいので購入したがーーー……、嗚呼、やはり間違いない。

 この先の森を抜けないと、次の目的地には向かえない。大きく拡がった森を迂回するルートがないわけではないが、そうなると何日も遠回りするハメになるし、その間、物資の補給もできないときたものだ。


「やはり森をどうにかしなければ、か」


 フォールは地図を畳んで再び懐へと押し込んだ。

 となれば、あの二人にも知らせておかねばなるまい。今日一日はこの街で休息を取る予定だったが、急遽変更だ。


「しかしエルフの若者は何を思って森の占拠など……」


 ブツブツと抑えられない思案を呟きつつ、彼は部屋を出て隣の部屋の扉を叩く。

 中から返事はない。いや、そうではなく、返事以前に何やら騒がしい声ばかりが響いている。

 もしかしたらそこにほんの少しでも返事があったのかも知れないが、思案中のフォールに雑踏混じりの声など届くはずもなく。


「……入るぞ」


 彼は躊躇なく扉を開いた。そして、ブッ倒れた。

 何が、起こったのだろう。視界は真っ暗で、顔面にはよく解らない衝撃が響いていて、何だか生暖かい息が鼻先に掛かっていてーーー……。

 フォールの相変わらずな無表情が崩れることはないにしろ、流石の彼も何が起こったのか解らないらしく、数秒ほど固まっていた。


「…………」


 それから間もなく平常心を取り戻した彼は、自分の顔に張り付く何かを引き剥がす。

 彼の指先からぶら下がっていたのは魔王だった。魔王っていうか、何か珍獣だった。


「キシャアアアアアーーーッ!!」


「ふぉ、フォール! 捕まえてくれたのか!!」


「……シャルナ。何だ、これは」


「それが……、先日の野生児化の影響がまだ残っているみたいなんだ。どうにか正気に戻っていただくよう、干し肉をチラつかせながら呼びかけたのだが、やはりどうにも……」


「人はそれを調教というのだが」


「ちょっ、ち、ちがう! ちがうぞ!!」


「そうか。……しかし困ったな、今はこの馬鹿に構っている場合ではないぞ」


「そ、それはそうだが、どうすれば戻るのか私には見当が付かなくて……」


 馬鹿は否定しないのか、という言葉をのみ込んで。


「ショック療法は試したしな……。こうなれば、次の手段を執るしかあるまい」


「次の手段!?」


「催眠療法だ」


 取り出したるは裁縫セットと小銭入れ。

 彼はパパッと糸と五ルグ玉で催眠術でよく使う在り来たりなアレを作ると、そのまま引っ提げたリゼラの前へと持って来る。


「……大丈夫なのか?」


「俺を信じろ。こういうモノには自信がある」


「経験が……?」


「あぁ、一度やってみたかった」


 飛び掛かるシャルナ、避けるフォール。大道芸顔負けの殺陣である。


「どうしてリゼラ様で試す!?」


「何だ、貴様で良いのだぞ」


「なっ……! 私に催眠を掛けてどうするつもりだ、この下郎!!」


「取り敢えず毎晩毎晩寝る前にフンフンうるさいストレッチをやめさせる、だな」


「あ、あれは日課でだなぁ!?」


 などと言い争っている内にも、リゼラの前でコインがゆーらゆら。

 シャルナの猛攻を躱して、彼は催眠を深めていく。貴様は段々眠くなる、貴様は段々眠くなる、なんてお決まりの文句を添えながら。


「きしゃあああ~……」


「よし、催眠状態になったな。これで後は、そうだな、うむ……。…………」


 しばしの、停止。


「……何を言えば良いんだ?」


「どうして貴殿がそれをわかっれないのら!?」


「『段々眠くなる』を言いたかっただけのようなものだからな。そうだな、語尾に恥ずかしい文句でも付けさせるか」


「ふらけるな! そんにゃの、認めにゃいにゃん……、ごろごろ」


「…………」


「ふみゃあ……」


「……何故、貴様が掛かる?」


「キシャアアアーーー!!」


「どうして貴様は掛からない?」


 催眠術には個人差があるので用量用法をよく守って使いましょう。

 なおその後、ゆらゆらと揺れる五ルグ玉を巡って獣化した二人が争い出したり、執拗にフォールの脇腹へタックルをカマしまくったり、再び催眠療法を試したら人格が入れ替わったりと色々大惨事になるのだがーーー……、その辺りは、まぁ、割愛するとしよう。

 


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