【エピロ-グ】
――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。
その街は、貴方が打ち倒した者により肉体の器を失ってしまった者達の街です。
しかし彼等はそれに気付くことなく生きています。苦しみも悲しみもなく、ただ和やかな平穏にのみ生きているのです。
果たしてそれは、正しいことでしょうか。彼等は間違いなく幸せでしょう。幸福の夢の中で生きているのですから。
貴方はその街に何を思いますか。貴方はその夢に何を描き、そして、何を信じますかーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王と四天王。
奇怪なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「そ、それで、リゼラ様の野生児化は治ったのか……?」
「解らない、少しテストしてみよう。……リゼラ、俺が誰か解るか?」
「ワラワ……ニンゲン……クウ…………、オヌシ……アタマ…………マルカジリ……」
ドグシャァッ!!
「何やってるのだ貴殿ンンンンンンンンンンッ!!?!?」
「案ずるな、ショック療法だ。これで治る」
「んもー☆ 女の子に手ェ出すなんていけないぞぉ~! リゼラちゃんぷんぷんっ☆ でもぉ~? フォールくんなら赦して上げてもい・い・か・な♡ なーんて、きゃーっ☆」
「…………」
「…………」
爆動の物語である!!
【エピローグ】
「「「…………」」」
薄暗く、泥が淀んだような空気の酒場に彼等は踏み入ってきた。
突き放すように開け放たれた扉と、そこから現れた人影。無表情のまま異様な雰囲気をまとった彼等に、荒くれ者達は鋭い視線を向ける。
しかし彼等は無表情のまま、そして無言のまま突き進んでカウンターへと腰掛け、それぞれ一言。
「バッペル酒」
「ミルク」
「オレンジジュース」
店主は畏まりましたと言うでもなく、ただ彼等の前に手早く注文の品を置いていった。
彼等はそれを一気に飲み干し、器をカウンターへと叩き付ける。奇妙なほどシンクロし切ったその動きに、荒くれ達は一端喉を詰まらせてーーー……。
そこから一気に吹き上げた。
「だぁーーはっはっは!! そら見ろ、やっぱりダメだったろう!?」
「俺等でも超えられねぇのにお前等に超えられるかよなぁ!!」
「お前等も諦めてこっち来いよ、負け犬同士仲良く飲もうぜ!!」
ゲラゲラと笑い転げる荒くれ者達を背に、カウンターの彼等はーーー……、シャルナ、フォール、リゼラはさらにもう一杯の追加注文を行った。
そしてまた、仰ぎ飲む。フォールはただ、二杯目のミルクを口にしながら思案していた。シャルナはただ、二杯目のバッペル酒を飲みながら思案していた。リゼラはただ、パフェの追加注文を取ろうとしただけなのにフォールに角を持ち上げられていた。
――――思い返すのは、たった数時間前の出来事。この酒場に訪れたのが一度目だった、あの時の事。
あの時はまだ良かった。荒くれ達の話に頷くだけで済んだ。ただの情報として聞くだけで済んだ。答え合わせのように耳を傾けるだけで良かった。
だが今となっては頷くだけでは済まず、情報として伝えるだけでは終わらず、耳を傾ける前に口を開かねばならない。
まさかーーー……、あんな事になるなんて思いもしなかったから。
「……何というか、うむ」
ミルクで真っ白な髭を作りながら、フォールは大きくため息をついて。
「大変なことになったな……」
ただ一言、窓から目を逸らして、そう呟いた。




