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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
決戦! 魔王城!!
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【6】

【6】


 随分と階下への見晴らしがよくなった魔王の間に、彼等の姿はあった。

 そこらに落ちていた瓦礫へ腰掛ける勇者と、彼の前でキッチリ正座した魔王と側近の姿が。

 どうやらあのトンデモ騒動も落ち着いて、今は勇者の罪人処刑に移っているーーー……、わけではなく。何故か勇者に相談・未婚さんいらっしゃい編と化していた。


「ぶっちゃけ純愛したいけどさ……。やっぱ魔王的には男囲ってフハハハとか三段笑いしてた方がっぽいじゃん? あくどさっていうか?」


「ですよねー、三段笑いは基本ですよねー。あと逆光」


「あるわー。その為にステンドグラスあんなトコに付けたしな」


「ねー」


「……そういうものか。あの、ところで話をだな」


「こちとら最後の話題ですよ!? 大人しく聞いてください!!」


「……すまん」


「私や魔王様だってね、本当は男の子と手を繋いだりしたいんです! 月刊魔族のイケメン覧見てきゃっきゃしたいんです! ガイアの囁き聞いたりしたいんです!! ……あ、勇者さんよく見るとイケメンですね。どうです? このあと暇ですか?」


「媚び売りか?」


「ひぃっ!」


「ま、待て勇者! 殺すな!! 側近はまだ彼氏もいない奴で……」


「殺しはしないが……。貴様等は俺を何だと思っているんだ」


「怪物」


「化け物」


「良い度胸だ」


 すらりと抜刀する勇者、短い悲鳴と共に抱き合う魔王と側近。

 威厳とは何だったのか。


「じょ、冗談ですよ、冗談……。って言うか、彼氏いないのは魔王様もでしょ。やっぱ高望みが過ぎますって……」


「……それは、なぁ。妾の美貌に相応しい奴とか中々いないし」


「まぁ、ですよねぇ。私達のレベルまで男が来ないっていうか……」


「……こう言うのは何だが、他人に求めるよりもまずは自分から与えるべきではないか。そして他人を評する時、自分はその二割引で評されていると考えるべきだと俺は思うがな」


「びぇえええええええええええええええええええええええええ!!」


「ちょっと、マジレスやめてくださいよ! 魔王様泣いちゃったじゃないですか!!」


「そうか……」


 何かもう悪の魔族っていうか年頃の町娘に見えてきた魔王と側近を前に、勇者は一際大きなため息を零した。そろそろ本題に入って良いか、と。

 夜風が背筋へ垂らした一まとまりの髪先を揺らし、頬を撫でる。自分でやったとは言え、壁が全て爆散している上に、斬り抜けた階下から風が昇ってくるので、少し肌寒い。魔王城だった(・・・)残骸が風を防いでくれるはずはないので、当然と言えば当然だが。

 ――――全て、彼がやったのだ。その鈍らで、やったのだ。


「見ての通りだ。俺は幼少の頃から、何故か異常な力を持っていた」


「い、異様な力……、か……。グスッ」


「仔細は省くが、赤子の頃からそうでな。この身は確かに人から生まれ落ちたものなのに、人ならざらぬ力を持っていたのだ」


 人ならざらぬ力。

 それが何なのかは、魔王と側近にも魔王城の惨状と、先の追跡として嫌でも解った。


「やっぱり化けも……」


「言うな側近殺されるぞ。怪物にしとけ」


「やっぱり怪物……」


「貴様等には反省という言葉がないのか?」


 ないです。


「……兎角、今ではその力も多少は抑えることを憶えた。だがしかし、どうしても子供や弱いモンスターには察知されてしまう。……草食動物が察知能力に優れているように、弱い者ほど危険を感じ取る能力が高いのだろうな」


 物悲しそうに、掌を握り締める。

 この手で掴めなかったものが、掴もうとしたものが滑り落ちる感覚。

 男はただ、それを無くしたいだけだった。あの時(・・・)のような思いをもうしたくないから、無くしたいだけだった。

 魔王リゼラに持ち掛けた望みさえも、それ故に。


「……御主は」


 魔王リゼラは息を呑む。この男の言う危険(・・)は、自身も知っている。

 あの時ーーー……、自身と対峙した時に見せた、殺気。この世全てを喰らい潰さんほどの、狂気。

 人間がその身に宿すには余りに禍々しく、悍まし過ぎた、刃。


「な、何者なのだ……? それ程の力を持つ御主は、いったい……?」


「フォール……。勇者フォール。女神の加護を受けし者だ」


 信じたくはない。魔王リゼラは強く奥歯を噛み締め、空気の塊をのみ込んだ。

 だが、信じなければならない。この巫山戯た、余りにデタラメな男は本当に勇者なのだ。あの結界を超えて、ここまで来た。四天王達を無視して直接魔王城に乗り込んできて、勝利した。

 自分が夢描いた勇者と魔王の関係など、この男からすれば塵芥に過ぎなかったのだろう。あの事件(・・・・)の謎を解くという大命、世界を混沌に渦巻かせるという願望さえ、塵芥だ。

 それ程にこの男は圧倒的。圧倒的過ぎる。何が女神の兵器だーーー……、兵器などいらない。この男一人で、充分だったのだから。


「ふ、ふふ……、ふっ……」


もう、笑うしかなかった。どうにでもなれ。

 無駄だったのだ。この地位に恥じないためと重ねてきた努力も、何もかも。

 幾万という書物を漁り読み、手足が滲むような訓練を行い、この角の手入れを怠った日などない。

 努力、してきたのに。今まで魔王として、頑張ってきたのに。勇者と魔王の戦いに憧れて、今までーーー……。


「もう良い……、殺せ。妾は疲れた」


「そ、そんな! 魔王様!!」


「すまぬ、側近……。我が悲願叶わずここで潰える妾を赦せ。あの事件の解決は、御主に任せよう。構わぬだろう、勇者よ。此奴だけは逃がしてやってくれ……。我が身は御主にくれてやるから、それで満足するが良い。これ程の美貌、御主なぞには一生手のとどくものではあるまい?」


「駄目です、魔王様! 貴方でなければあの事件を解き明かすことも、人界を恐怖に陥れることもできません!」


「側近……、御主が側近で良かったと心から思っておる。何回か妾見捨てようとしやがったけど……」


「王位も私に譲れません!!」


「勇者ちょっと待っててコイツ殺してからにして」


「うぉおおおおおお私が魔王だぁあああーーーーー!!」


 ぎゃあぎゃあと取っ組み合う二人の眼前で、瓦礫が爆ぜ飛んだ。

 勇者が石礫を踏み砕いたのである。いや、正しく述べるならば、足踏みの衝撃だけで地面を貫き、階下の天井から床面までを貫通粉砕したのである。

 魔王と側近は静かに元の姿勢に戻り、説教を受ける子供のように縮こまった。


「……話を続ける」


「はい……、ホントすいません……」


「それと、まず言っておくが、俺は別に貴様等に興味はない」


 スッパリ。


「……はぇ?」


「聞いてなかったのか。俺は取引をするためにここに来た。この力を封じる方法を調べる中で、魔族の長が代々受け継ぐという封印アイテムを求めてだな」


「ま、待て、勇者の責務は?」


「知らん」


「妾の体は?」


「興味もない」


「栄光とかそういうのはぁっ!?」


「くそ喰らえだ」


 やはり、スッパリ。

 真紅の双眸は揺るがない。先の殺気ほどではないが、揺らがないその視線が嘘などではないことを物語っていた。

 ならば何故、この男は来たのだ。わざわざ魔王城の、それも魔王に襲撃をかけたのだ。

 魔王リゼラはただただ困惑する。側近も言葉を失ってあたふたと慌てるばかりだ。この男は、いったい何が目的なのかーーー……。


「俺はただ、スライムがぷにぷにできればそれで良い」


「……何?」


その一言に、耳を疑った。


「知らんのか。スライムだ」


「い、いやそれは知っ」


「透き通った体と麗しい曲線美からくる愛らしさは最上のものであり右に出るものはなくさらには見た目だけにとどまらず動き一つ一つが愛くるしいという人間界でも愛玩モンスターとして有名で各地にはご当地スライムストラップなるものもあり俺もコレクションしているがこれがまた出来のよいもので本物のスライムには流石に劣るが素晴らしい逸品でな待て話が逸れた良いかスライムの素晴らしいところは見た目や愛くるしさだけではないぞいやそれだけでもこの世全ての芸術に勝るべきものであるが何よりも様々な種類や無邪気さといったものがあり空中を飛ぶ羽虫が自身の粘液に付着する瞬間を待って捕食する呑気なタイプから自分より大きな獲物に取り憑いてじわじわと捕食するアクティブタイプまで様々あり中には獲物の体内に寄生したり寄卵したりするテクニックタイプもいて種類にも富んでいることが特徴で特に基本中の基本であるブルースライムは空気中の塵と水を分解して食べるという優しいやつで可愛らしさもトップレベルで付近の村々では愛玩動物として飼われることも多く幼い頃はそれを遠巻きに眺めては親指を噛んだものだいやしかし最近は冒険初心者がよく狩ることがあるのだがこれは愚の骨頂というしかないな全くどうしてそういう事をするのかが解らんあの愛らしさを見て攻撃しようなどと人間どころか悪魔よりおぞましいどうしてそんな事ができるのか人間性を疑うどころかそういう事をする奴は即座に首を撥ねてやれば良いのだスライムの愛らしさは世界に轟いて然るべきでありあの動き一つを見て全ての人間がスライムを崇め讃える宗教を作るべきではないかそうだスライム教を作るべきなのだ人間世界はスライムへの愛によって守られておりスライムへの愛によって作られるべきでそれ以上でもそれ以下でもなくスライムこそがこの世の真理なのだ人間は全てスライムから産まれスライムに帰結すると言っても良いスライムがもし世界中に拡がったならばスライムの愛くるしさに誰もが武器を捨て誰もが喋ることも喰らうことも忘れて手を取り合うだろうスライムの愛は世界を救うのだ間違いないあの様々な色合いや様々な習性を見ているだけで日々を忘れ夢現になり誰もが愛を育むことができるのだよつまりスライムさえあれば人間は生きていけるしスライムさえいれば争いは起こらないいや待てそうじゃないもしかすると各種スライムの色合いや動きに関して宗派ができて争うことになるやもいいや待て待てスライムの愛らしさは全て一極に帰結するのだそんなこと起こりはしないさ例え起こったとしてもスライムの姿を見れば誰もが人々は心の平静を取り戻すだろうと言うことはやはりスライムこそこの世の真理という俺の理論は間違っていないのだスライムを抱き締めスライムを愛でれば誰もが幸福になり誰もが不幸を忘れ青色赤色黄色白色なんてどんな色を見てもスライムを想起することだろうつまりスライムこそが全ての基点で全ての原点なのだかく言う私もスライムを追い求めて長いがやはり外せないブルースライムだがいやこれは貴様等も知っているだろう先も言ったが基本中の基本だしなあぁ悪かったそうだな応用編といこうかならば爆炎の火山に生息するブラックスライムなどどうだろうか通称鬼スライムとも呼ばれるスライムで戦闘力が高く歴戦の冒険者でもブラックスライムの軍団相手では刃を引くという猛者ぶりだしかもそれだけではないぞブラックスライムは闘争意識が強く肉食で周囲のモンスターを溶解させて喰らうことでも有名だ群れで行動することは珍しくないが時折一匹狼のようなはぐれブラックスライムもいるというこの孤高さと誇り高さは人間も見習うべきものであり敬意を払うべきではないだろうかそんなブラックスライムの魅力もさることながらブラックスライムの幼少期であるグレースライムはどうだろうかブラックスライムに比べておとなしめではあるが一般的なスライムの中では凶暴で実は牙があるとされているしかしこれは俺独自の研究成果から述べるに母体であるブラックスライムから生まれ落ちたばかりのグレースライムが周囲のものや母親から与えられた食料を消化しきれなかったものが内面に残り牙の役割を果たしているだけであって決して牙ではないのだと思うもちろん牙あるスライムを邪道というわけではないぞエッグスライムを知っているかエッグスライムはスライムにしては珍しく肉体のあるスライムで他の生物の卵や抜け殻に寄生するスライムなんだこれがまた可愛らしくてなドラゴンの卵に寄生したスライムなどよちよち歩きで歩くから傍目に見れば卵が独りでに歩いているように見えるんだぞ初めて見た時は生命の神秘に涙しそうになったが何よりも他の生物の殻を借りて生きて行く彼等の健気さに驚いたものだ孤高のブラックスライムとは違って健気な彼等もまた素晴らしいとは思わないか無論それだけではないぞメニースライムを知っているかこのスライム達は個々の意識がなく群体状で生息すると言われていて数百匹単位で合体しているんだ彼等は驚くと一匹のスライムから何百という雫が散らばって逃げて行くと言われていて俺はまだ実践できていないんだがメニースライムが数十匹いるところでそれをやると辺り一面がスライムの海になると言うんだ絶景だとは思わないかきっとこの世界のどんな景色より美しいぞもしそこにダイブして泳ぐことができたなら断言しよう俺はそこから動かないはずいや待てそれを言うならスライム花畑などどうだろう俺が死ぬまでに行ってみたいところなんだが何とスライム達が好んで食べる蜜が採れる花畑らしくてな正しくそこはスライム達の天国だそうなんだ何と様々なスライムが争うことなくその花畑で過ごしていて寝転んでいるとスライム達が自分の影で休み始めて半日もそこにいるとスライム達に囲まれて身動きが取れなくなるというほどではないかあぁもう思うだけで身も心も震えてしまうような場所だ正しくこれこそこの世の天国だろうそうは思わないかスライムに触れるだけでも最上の喜びだと言うのに俺はそんな事になってしまったらきっと死んでしまうんじゃないかと思っている当然喜びでだぞそれだけじゃないスライムの楽園と言えばそのスライム花畑も有名だがスライム釣り場を知っているか何と釣り竿でスライムが釣り放題なんだ釣ったスライムは愛玩モンスターとして持ち帰ることができるというではないかいやスライムを商売に使うような行為は気に入らないがスライム達はしっかりと飼育しているそうだし針だってスライムが好む餌を使って吸盤で釣り上げているからスライム達に怪我はなく子供でも安心して遊べる作りなのだそうだなそういった商売人のサービス精神が溢れているから俺は敢えて見逃しているいや違うな正直に言おう俺もそこで遊びたいのだ生け簀の中のスライム全てを捕まえて家でぷにぷにしたいのだもうぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに」


「待、ちょ、待っ……、おい側近ヤベェぞコイツ!!」


「うふふ、おうちかえりたい」


 真紅の眼の奇妙な輝きが凄まじい早口と共に揺らめく中、曇天は未だ晴れずして月光遮り空を漂うばかり。

 この話が終わるのはーーー……、さて、いつ頃であろうか。



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