【2】
【2】
「ったく! なぁーにが後で話をするから部屋にこい、だ!!」
数時間後。既に夜も更け、各ご家庭では夕飯を囲み終わって団らんを過ごしているであろう時間帯。
彼女、勇者フォールによる無音暗殺劇から奇跡の生還を果たした魔王リゼラはそんな時間に目覚めていた。
しかし、いざ目覚めてみれば部屋には誰もおらず、自分の隣に部屋番号と伝言が走り書きで書かれた紙が一枚あるだけ。
全く、何たる扱いか! この魔王リゼラに向かってあの勇者に四天王、放置して部屋に籠もるときたものだ。どーせ今頃は仲良く美味いものでも隠れ喰っておるのだろう!!
「えぇい、妾に隠れて美味いものを喰うなど天地開闢赦そうとこの妾が赦さぬぞ!!」
ずかずかと廊下を踏み荒らしながら隣の部屋へ。
そのまま思いっ切り扉を突き飛ばして、奴等が喰っているものを強奪してやろうとした、が。
「あ、だめだ勇者、ぁっ、んっ……。こんなの……」
聞き慣れた声に、その腕が凍り付く。
「どうだ、良いものだろう」
「だ、だめ、ほんとうに……。ち、ちかい、から。だめだ、わたし、その……」
「何、遠慮するな。触ってみると良い。本当は貴様も触りたいんだろう?」
「ぁ、ぁっ……」
「気持ち良くなれるぞ。さぁ、その身で感じるんだ……。さぁ!」
「あ、あぁっ……♡」
ダメだ。これダメなやつだ。
具体的にはR表記的な意味でダメな奴だ。扉を開けた瞬間なんか色々終わりそうなぐらいダメな奴だ。
ヤッてる。何をとは言えないけど絶対ヤッてる。あの男め普通の性癖ではないと思っていたがまさかド貧乳筋肉ゴリラに手を出すとは思いもしなかった。あの合コン猛者である魔貴族達でさえ女だと判明した瞬間に『ちょ…、ちょっと確認したいんだけどここは合コン会場だよね?』とか『うおっ、人類の夜明けだわこりゃ』とかまで言わしめた、あのシャルナに!
「くっ……、止めるべきか、止めぬべきか……!!」
ここで止めて何か気まずい感じになったら、二人の関係性はぷつりと消えるだろう。
だが、そうなったら、間違いない、シャルナは一生独身だ。龍族が絶滅し四天王の跡取りはいなくなり、彼女自身、ひっじょーに寂しいアフターを過ごすことになる。
良いのか、それで良いのか。魔王としては止めるべきだろう。勇者と四天王の情事などあってはならない。しかし彼女の友人であればここは見逃して、結婚式にブーケを受け取るのが筋で、えっと、えっと、えっと。
「だぁああああああああああーーーっ! うだうだ考えても埒が明かん!! えぇい妾は魔王!! なればシャルナ、御主の不祥事は妾が責任を取ってやるわぁあああーーーっ!!!」
思いっ切り扉を突き飛ばした、その先。
そこにいたのはーーー……、スライムくん人形片手にはぁはぁと息を荒げる、シャルナの姿だった。
「……え」
「り、リゼラ様……、ご覧下さい! この『爆炎の火山』限定スライムくん人形を!! この溶岩に立ち向かう凛々しい姿、黒煙打ち払う逞しい触覚!! 何と、嗚呼、何と素晴らしいのでしょうか!!」
「…………御主、まさか」
瞳輝かせ、紅潮した頬と止め処なく溢れる唾液で今にもなめずりそうなシャルナの肩に、ぽんと手を置くフォール。
――――そうだ、それで良い。
彼の呟きが、全てを示していた。ついでに言うと『はい、師匠!』とか言って感涙しているシャルナの行動も、示していた。
つまるところ、そう、単純に。
「洗脳されとるッ…………!!」
――――スライムは全てを魅了する。
スライムくん人形、好評発売中!




