【エピローグ1/2】
――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。
今のままの貴方では、きっとあの強敵には太刀打ちできないでしょう。
求めるのです、新たなる力を。その古の聖なる剣を再び新たなる姿に甦らせるのです。伝説の天兜、殻鎧、脚装に続く新たなる力を手に入れるのです。
爆炎噴き出すその火山にて、どうか一刻も早く、その力を手に入れてくださいーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、主従を誓い続けてきた東の四天王と魔王。
必然なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女達のーーー……。
「少女よ、魔王に憧れるのは解る。だがその名を騙るのは褒められたものではないな。いや、解るぞ。私だって昔は先代に憧れ、彼の行動を真似ていたものだ……」
「……なぁ、ちょっと昔話をしてやろうか。とある四天王の話だ」
「だが、憧れとは理解から最も遠い感情……、何? 昔話?」
「とある四天王がいてな、無理やり合コンに誘われたそ奴は渋々席につくも、筋肉量とおっぱいっていうか胸板な胸のせいで男側に座れと怒られ、相手を全員殴り倒したことがあるという……」
「…………」
「…………」
「もう一度言うぞ。妾こそ第二十五代魔王、カルデア・ラテナーダ・リゼラである」
「………何……………だと……」
感動の物語である!!
【エピローグ1/2】
「痒いところはないか」
「……な、いです」
「……何故、敬語なのだ? 別に普通の言葉で話してくれても構わんのだがな」
どうしてこんな事になったのだろう。
解らない。どうしてこんな事になったのか、全然解らない。
景色の全てが湯煙に滲んでしまうようだ。ほんの少ししか離れていない地堀り温泉が、遙か彼方にあるようだ。
あぁ、もういっそのことあの湯船に飛び込みたい。何もかも隠してしまいたい。この褐色の肌も、真っ赤な顔も、どうしようもない鼓動も。
自身の髪を洗ってくれている彼の姿を、この視界からも。
「恥ずかしがることはあるまい。後で俺の頭も頼む」
「ひゃ、ひゃあ……」
最早、彼女ーーー……、シャルナの発する言葉は、言語としての意味を成していない。
どうしようもない困惑と後悔と、幾度も跳ね上がる心臓がそうさせる。靄霧のような湯気が彼女の思考を曇らせる。時折触れる男の指先が、それを加速させていく。
本当に、どうしてこんな事になったのだろう。どうして自分は勇者フォールと野良温泉に入っているのだろう、しかも髪を洗われているのだろう。
本当に、いったい、どうして、こんな事になったのだろう。
「気持ち良いか? シャルナ」
「き、きもち、いいれす……」
――――本当に、どうして。
彼女は思い返す。今日一日の出来事を。何ということはない、ただ平穏だった一日の出来事を。
今となってはもう遅いけれど、それでも彼女はただ、今日のことを思い出し、後悔する。
何処で、いったいどうして、こんな事になってしまったのか、と。
けれど、シャルナはまだ気付いていなかった。そこにあった擦れ違いのことを。絶対に気付くべきだった擦れ違いのことをーーー……。




