【1】
これは、永きに渡る歴史の中で、戦乱を刻み続けてきた傭兵と盗賊。
奇抜なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「……ところでお前、見付かった時、俺呼びに来なかったよな?」
「メタル、言いたいことがある」
「何だよ」
シーンーーー……。
「……てへぺろ☆」
「おいまずこいつブッ殺すかぁー!?」
衝撃の物語である!!
【1】
「飯を食わねば戦はできぬ、ってな」
深夜の、松明台の灯りのみに頼った、然れど『爆炎の火山』により薄明るい広場で、彼等は向かい合っていた。
木箱に座った男と、その側に立つ金髪男。そしてその二人の前で上等な石椅子に腰掛ける屈強なドワーフ男、と。
二人組に剣を突き付け、槍を構え、弓を引き絞る、数十人のドワーフ達。
まるで猛獣でも扱うかのようなやり方だった。いや、それ以上の、もっと酷い何かを。
少なくともそれが、人と亜人の話し合いの場として相応しくないことは確かだった。
「だが、テメェ等は逆だった」
しかし、幾十の殺気を向けられようとボサボサ頭の男は狼狽えていない。
もう一人の金髪男は本当に大丈夫か、なんて怯えてはいるけれど。ボサボサ頭はそれに答える必要さえないほどに、確信を持っていた。
「飯がねぇから戦をしたのさ」
ドワーフ達にざわめきが拡がっていく。
そんな彼等を落ち着けるように、中心の、即ち男達と向かい合っていた隻眼のドワーフが片手で不穏を打ち払った。
「……その通りだ。我々は、ドワーフ族は今飢饉に瀕している」
「だろうなァ、クカカカッ……」
「……あのー、説明してもらえる?」
恐る恐る手を上げた金髪男、カネダ。
そんな彼を前にボサボサ頭ことメタルは呆れ返ったため息を零した。零して零して零して零して零して零しまくった。そぉんな事も解らないんですくぅぁ~? てな感じで。
「……根に持ってる?」
「べっつゥにぃ~? 人を見捨てて逃げようとした奴より俺が有能なだけですしぃ~? YU・U・NO・Uなだけですしぃいいいい~~~!?」
「は、腹立つっ……!!」
「……仲間割れなら他所でやってくれないか」
そんな二人に辟易した隻眼のドワーフ男は深く眉根を顰めた。
赤黒い、この土地特有の土色と同じ髪色を持ち、片目に傷が刻まれたドワーフ。彼は自身をドワーフ族の族長だと名乗った。
今回の襲撃を決行した責任者であり、ドワーフ族を率いる者であり、またドワーフ族最強の戦士である、とも。
「まァ、仕方ねぇ。そこまで言うなら説明してやろうかァ」
メタルはそんな彼を前に、そしてカネダを露骨に見下ろしながら、高々と鼻を伸ばしつつ説明してやった。
ヒントは噴火だぜ、と。一々回りくどい言い方をしながら。
「つまり奴等は」
「あぁ、成る程。火山の噴火で食料となる鉱石の採掘ができなくなって人里を襲ったのか。地震で落盤が起こったのか? 幾らドワーフ達だって、鉱石なら何でもってワケにはいかないもんな。だが人里なら既に採掘した鉱石がある。装飾品なんかだって素材によっちゃ食えるし……、いや、違うな。もっと被害は大きいのか? 家を荒らしたのは資材を奪うためでーーー……」
「そこまでだ。そこまでで良い」
ドワーフ族の族長はカネダの言葉を打ち切らせ、共に肯定のため息をついた。
つまりは、そういう事なのだろう。先日の噴火により、ドワーフ達の住居区、少なくとも食料になる鉱石の採掘場が被害を受けたということだ。人里を襲わねばならなくなるほどに、大きな被害を。
「…………」
なお、一言二言だけでカネダに真相を見破られたメタルが酷く不機嫌そうだったのは無視するものとする。
「まっ……、アンタ達ドワーフ族が身内を守る為に何をどうしようが俺達は知ったことじゃないさ。人を襲うなら襲えば良い。資材を略奪するなら略奪すれば良い。後々の関係だとか、流通経路だとか……、その辺りがどうなるかは知らないがね」
「……承知の上だ。その場凌ぎだとしても、同胞を死なせるわけにはいかない」
「そうかい。だが俺達には関係ないことだろ。このまま逃がして貰えると嬉しいんだが」
「そういうわけにはいかないのだ。我々は諸君等を雇った」
『等』? 等とは何だ。どういう事だ。
嫌な予感と共に、カネダが視線を向けた先には何処のチンピラかと思うほど小悪い目付きでオラオラ言ってるバカがいた。
何で勝手に雇われたの? と問えば一言。
『紙』だそうで。
「すいません俺こんなのとは関係ないんで」
「こんなのって何だよテメェ!!」
「バカじゃねぇの? バッカじゃねぇの!? 何で俺を巻き込んだの!? しかも報酬どういう事なの!? 何だよ紙って!!」
「うるせぇあの時の俺からすれば世界平和より大切なものだったんだよクソッタレめ!!」
「俺は世界平和より俺の平和の方が大切ですけどね!?」
「ハッハー! テメェの平和なんかトイレットペーパーにも劣りますゥ!!」
「上等だテメェ殺し合うかあァン!?」
双銃撃ち放ち刀剣薙ぎ払い。
そんな彼等の醜い争いにたじろぎ、ドワーフ達は距離を取った。
主に関わり合いになりたくない的な意味で。
「……あの、族長。本当にあんな人間達を雇うんですか? 正直、何というか、蛮族みたいというか」
「だが実力は確かだ。……彼等なら、あの場所を突破できるかも知れない」
「なっ……、しかし我々でも全然っ……」
「……殺しにまで手を染めないためだ。盗みの責務なら儂だけが背負える」
ドワーフ達は俯いて武器を下げた。族長の表情に落ちた陰が、そうさせたのだろう。
伝統を大切にする彼等だからこそ、誇りを持つ彼等だからこそ、この現状は余りに不服であり、屈辱だった。生き残る為とは言え盗みを働き、交流ある人里を襲ってまで食料と資材を強奪した。
蛮族行為にさえ、身を堕としてまで。
「我々は、生き残」
「お前の腹の中にも寄生虫ブチ込んでやろうかアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!?」
「生き残」
「うるせぇクソ野郎! 文字通りクソ野郎!! 生肉詰め込むぞオラァアアアアアアッ!!」
「生」
「「やんのかゴラあァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!?!!?」」
擦った揉んだで殺し合い。何とも醜い人間の争いがそこにあった。
何とも言えない空気の中、族長は静かに立ち上がって武器を取る。
そして、ドワーフ達が止める間もなく、良い感じの台詞を邪魔した二人に斬り掛かったのは言うまでもない。




