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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
最強の四天王(前)
42/421

【8】

【8】


「やっと着いたぞゴラァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 さて、ここで時間は数時間ほど巻き戻り、場所も別のところへと移り変わる。

 具体的にはフォールとシャルナが山頂火口の闘技場で戦っている頃の、山麓の街に。つまりは今現在フォール達が目指している街のことである。


「うるせぇよ、バカ。時間考えろ……」


「あのな、『沈黙の森』からやっとこさ此所まで来たんだぞ!? 何でか噴火で流れてた溶岩のせいで足止めは喰らうし、馬たちは熱さを嫌がって進まねェし!!」


「そりゃ解るけどさ……、ふぁあ……」


 そして、その街の入り口で深夜にも関わらず声を張り上げているのはメタルとカネダだった。

 彼等は何処かの災害勇者のせいで『沈黙の森』を命がけで抜けるハメになり、さらには火山噴火に溶岩、地獄権化アップリケのせいで言う事を聞かなくなった馬を引っ張ってここまで来たのである。

 本来ならば魔道駆輪より遙かに劣る馬車だが、フォール達がいちいち野宿していたのに対し、彼等は最小限の休憩でここまで走り抜けたため、街まで先回りできたのだ。

 まぁ、まさか目的の人物達が照り焼きの為に死線と山を越えているとは想いもしないだろうが。


「取り敢えず宿取ろうぜ、宿……。馬車も繋いでくれるだろ……。今は、その辺りの柵にでも繋いどくか……」


「ンだよテメェ元気ねぇな。ちゃんと飯食わねェからだぞ」


「お前みたく、その場で獣だのモンスターだの狩り殺して生肉喰う奴と一緒にすんじゃねぇ……。俺はちゃんとした飯が食いたいんだよ、飯が。珈琲豆も尽きるしよぉ。取り敢えずこの街で色々と買ってかなきゃな……。食材とか……、豆とか……」


「肉喰いてェ」


「野菜喰えよ、だから。……まぁ、まずは宿だよ、宿。何よりもな。休まなきゃブッ倒れちまう……、ブッ倒れ……」


 イマイチ呂律の回ってない口から疲労を吐き出しながら、力なくふらふらと歩いて行くカネダ。そんな彼に悪態をつきながらもメタルはその背中を追っていった。

 して、彼等が訪れた街の様子と言えば、火山麓の家だけあって石や煉瓦造りが目立つ。この辺りの赤黒い土を鉱石などの接着材として使ってあるのだろう、家々は基本的に深い色合いだ。

 火山灰を防ぐためか大きな窓や煙突は少なく、基本的に岩箱(・・)のような印象を受ける。それでも換気や気温調節のためか、外開きの小窓は多く見られた。

 山麓の、風土に合わせた建築。頑強で、機能的な、『爆炎の火山』の側で生きて行くための建築だ。


「…………カネダ」


 だが、メタルの意識はそんな建築になど向けられていなかった。

 いや、家々に視線こそ向けられているが、そうではない。おかしいのだ、奇妙なのだ。

 キッチリと戸締まりされて灯りのある家々があると思えば、真逆に扉や窓が開け放たれ灯り一つとない家々もある。しかも、その家の中は決まって家具が荒れ果てていた。まるで、争ったかのように。


「臭う、臭うぜェ。こりゃ何かあったな。襲撃だ、間違いねェ。そんで人質取られてンなこれ……。クカカッ」


 下卑た笑いを零しながら、メタルは自身の剣に指を掛ける。


「オークがエルフどもの村を襲った時なんかによくある光景だ。餓鬼共は家の中に放り込んどいて、まず大人を村の広場に集める。あぁいった家の外にゃ見張り置いてよ、いつでも殺れるっつー……」


 ドンッ。

 メタルの言葉を潰すように、カネダの頭が彼の唇に衝突した。

 大した衝撃ではなかったがメタルは思わず仰け反り、歯の当たった唇を押さえ込む。血は出ていないようだが、説明を途切れさせるには充分な痛みがあったようだ。


「ってェなぁカネダァ!! 急に立ち止まるんじゃねェ!!」


「……メタル、聞きたいんけど、そのやり方ってオークだけ?」


「あ? ン……、いや、人間の盗賊とかもやるなぁ。単に見張りの数と騒ぎを最小限にするためのモンだしよ、ちと頭が回ればモンスターだってやるこった。狩りのやり方さ」


「ゴブリンも?」


「やるなァ」


「ハイウルフなんかも?」


「やるんじゃねェのォ」


「……ドワーフも?」


「カッ……、カカカカカッ! 馬っ鹿テメェ、ドワーフは亜人だぜェ? オークみてェなモンスター崩れとはワケがちがァ。アイツ等は伝統や礼儀礼節を大事にするクソつまんねぇ頑固野郎共だ! しかも奴等、鉱石をバリボリ喰うんだぜ!? 石喰っときゃ充分な奴等が、そんなーーー……」


 盗人紛いのことなんかするかよ、と。そこまで言いかけた辺りでメタルの頬端をナイフが駆け抜けた。

 ふつりと切れた頬端から鮮血が零れ落ち、後を追うように汗が滴っていく。髪先も、ぱらりと。


「……ドワーフが、何だって?」


 引き攣った半笑いで振り返った、カネダの先。

 そこには数十人、いやもっと、百人ほどの屈強なドワーフ達が堅固な装備に身を固めて、殺意の眼光と共に構え立っていた。

 今から戦争するのだろう、と。何も知らぬ者がこの光景を見ればそんな感想しか浮かぶまい。いや、その通り彼等は戦争しているのだ。していた、のだ。

 人間の街を襲撃するという、戦争を、つい先程までーーー……。


「…………う、ぉ」


 縛り上げられた人々を取り囲むように、ドワーフ達はじりじりとカネダ達へ迫ってきた。

 決して素早く、ではない。その重圧な身代に相応しい警戒心を隠さない、慎重な接近だ。しかし、だからこそ風貌から放たれるプレッシャーがカネダの脚をその場に縫い付ける。

 人間をドワーフ達が襲うという異常事態、しかも数十人程度ではなく数百人という数、さらに深夜までの疲労と眠気も相まって、彼は思わず動揺してしまったのである。


「……クッ、カカッ」


 だが、そんな彼とは相反して、メタルの表情はそれはもう喜々としたものだった。

 最高のご馳走を前にしたケダモノと称すべきか、涎こそ垂らしていないが、殺気という欲望を駄々流しにした、彼は。


「カネダァアアアアアアッッッッ!!! ハッハッハッハッハァッッ!! 幸先良いじゃねェかエェッ!? 最ッ高の舞台だぜェアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


「ば……、ばっ!? やり合うつもりか!? アレだけの数のドワーフと!?」


「ドワーフとやり合うなんざ滅多にねェんだ。この機会を逃す手はねぇゼェエアハハハハハハ!!!」


 剣を抜き、意気揚々と大軍に突っ込んでいくメタル。

 狂気的なその姿に押されて、ドワーフ達は一瞬の怯みを見せた。しかしそれも直ぐさま持ち直し、彼等は武器を構えていく。来るなら来い、やってやる。そう叫ばんばかりに。

 メタルもまた、その様子を気に入ったのだろう。ならば望み通り殺し殺されやってやらァ、と。捕縛され、怯える人間達など視界の端にも入れず、ただ、突っ込んで、いく、はずだった。


「アハハハハハハぁああへぁあああ~~~……」


 彼は失速し、へろへろとその場に倒れ込んだ。

 駆け出して数メートルも進んでいない。ドワーフ達も思わず固まってしまうほど、情けなく倒れ込んだのである。


「はぁあああああああああーーーーーーーーーーっっっ!?!??!」


「お、ぐ、ふっ……」


「お前何やってんの!? ま、まさか毒! 毒か!? さっきのナイフに毒でも塗ってたのか!?」


「おなかいたい……」


「腹ぁ!? 何で腹が……」


 待て、そうだ。そうだった。

 この馬鹿、その辺で飼った獣やモンスターの肉を喰いまくっていたではないか。生が美味ェとか血が美味ェとか言いながら、、ムシャムシャバクバク喰いまくってたじゃないか。

 つまり、そうか、そういう事か。。こいつーーー……、当たり(・・・)やがった。


「何でこの場面でぇええっ!?」


「と、といれ……」


「やめろよお前漏らすなよ頼むからマジで!! ここで漏らしたら人としての威厳とかそういうのが全部吹っ飛ぶからな!! 地平の彼方だからな!!!」


「へへっ……、悪くない……人……生…………」


「諦めるなメタル!! お前そのまま死んだら誰も埋葬してくれないぞ俺も埋葬しないぞ!?」


「グッバイ、マイ・ソウル……。埋葬だけに」


「お前実は結構余裕あるだろ!?」


 などと言っている内にも、彼等を追い込むように風切り矢の雨あられ。

 カネダは情けない悲鳴をあげながらメタルの脚を引き摺って抱え上げ、全力で闇の中を駆け抜けた。後方から迫る矢が足下に刺さるわ頭上を駆け抜けるわガンマン帽子の端を貫くわで散々である。

 なお、その逃亡中に漏れそうと呟いた荷物野郎を投げ捨てかけたのは言うまでもない。


「か、かねだぁあ……どうすんだぁ……? このかざんはやつらのすみかだぞぉ……うまをつかってもにげきるのは、む、むずかっ……、は、はらがああああ……」


「案ずるな策はある! と言うか最悪お前を投げ捨てる!!」


「やめろぉおお……見捨てるなぁあ~…………」


「じゃあもうちょっと頑張ってね!? 主に尻!!」


 叫ぶなり、カネダは暗闇に向けて一度だけ発砲。それから即座に踵を返して扉の開け放たれていた民家へ飛び込んだ。

 既に荒れ果てた家具の上に落ちる音、大の男二人が叩き付けられる音。メタルが肛門から伝わる衝撃に呻く音。幾ら暗闇とは言え、そんな騒音を立てては直ぐさま追っ手に発見されることになっただろう。

 だが、その音と追っ手を馬の悲鳴が引き付ける。カネダの発砲によって尻を撃ち抜かれた馬車の馬は、繋がれていた手綱を柵の柱を引っこ抜いて、馬車の車体を薙ぎ倒しながら山道へと逃げて行った。

 追っ手はカネダ達が馬に乗って逃げたのだと思ったのだろう。それ以上追いかけることはせず追跡を諦めたようで、舌打ちしながら広場へと戻っていった。


「や、やるじゃねぇか……。ちっとばかし見直した……ぜ……」


「これでも伝説の盗賊なんでね、注意を引き付けるのは基本中の基本だ。……それより尻は大丈夫だろうな」


「お花畑が見える」


「今そのお花摘みに行ったら射殺もやむを得ないからな」


 なお死体遺棄も含む。

 

「それよりこの現状をどうするかだ。このままコソコソしててもいずれ見付かるだろうし、街から出ても、馬を逃がしたから山道の何処かで野垂れ死ぬのがオチだろうな」


「取り敢えずトイレ行きたい」


「もうお前見捨てていい?」


「は、はらがぎゅるぎゅるいってんだよ……、たの、たのむってまじで……」


「ったく、仕方ねぇな……。この家のトイレ借りてこい」


「お、おう、すまねぇ……」


 ずりずりと残骸の中を這いずっていくメタルと、その情けない姿に肩を落とすカネダ。

 最強の傭兵っていうのはもっとこう、カッコイイものだと思っていたが。腹痛一つに負けるってそれどうなの。


「……ま、そんな事よりだ」


 あのアホは放っておくとして、気に掛かるのはあのドワーフ達だ。

 亜人という希少種に出会うこと事態珍しいが、彼等が人間を襲うことの方がもっと、いや、聞いたことさえない。

 メタルも言っていたが、ドワーフは頑固者で有名で、また部族に伝わる伝統を重んじる、人間とも交流の深い亜人だ。エルフのように人を見下しているわけでも、モンスターのように人を喰らおうとしているわけでもない、対等な存在のはず。

 それを可能としているのは彼等の技術だ。ドワーフ達は鉱石と関係の深い種族で、鉱石を食物として強固な体を作っていることから、それ等の加工や生産といった技術力がとても高い。だから人間も彼等の技術を重宝し、ドワーフ達も人間の作る調味料や流通経路を尊重し、対等な関係を保っているはず、なのにーーー……。

 そんな彼等がどうして? いったい、あのドワーフ達に何があったと言うのだろう。


「ちょっと入念に準備しといた方が良さそうだな……」


 思案の袋小路に入りかけた瞬間、彼の頭がかくんっと下がった。


「……あぁ、駄目だ。それにしても眠いな、頭が回らない。せめて馬車の中でしっかり仮眠を取っておけばなぁ」


 今更後悔しても仕方ないことではあるが。

 カネダは自身の目頭を摘み上げつつ、朦朧とする意識を引き留める。このまま落ちたら、次に目覚めるのは断頭台の上か、縛り首の最中か。まぁ、ドワーフがどんな処刑方法をするか知ったことじゃないが、あんなずんぐりむっくり共に殺されるのは勘弁願いたいものだ。


「銃の残弾も心許ないな……。魔法だけで乗り切ってみるか……? いや、俺あんまり魔法得意じゃないしな。とは言っても道具アイテムだけで乗り切るのも……、うぅん」


 大体の荷物は馬車に積んであったし、今の手持ちであの軍勢を超えるのは不可能だろう。

 かと言って取りに行けば暗闇の中で道具を探し分けねばならず、物音を立てて見付かることになるのは容易に想像できる。有り体に言ってどん詰まりだ。

 しかし、そんな状況の中でも、この現実を十分に理解していても、カネダの瞳に絶望や諦めの色はなかった。むしろ、何処か楽しんでいるようにさえ。


「ま、こんなピンチは今まで何回もあったしな。その度に知恵振り絞って乗り越えてきたモンだ。この程度、ヌルいヌルい」


 一国の大軍勢に追い詰められたときは、数百人規模の殺し屋をギルドから差し向けられた時は、聖堂教会の秘宝を盗み出した時は、こんなモンじゃなかった。

 なぁに、まだ手足は動くし毒を盛られたわけじゃない。こんな孤立した村で寝不足で道具不足なんか日常茶飯事だとも。いやちょっと盛ったわ言うほど日常茶飯事じゃないです。

 だが、諦めてる場合じゃないのは変わらない。どうにかして脱出の方法を探ろうではないか。何、こちらには最強の傭兵もいるのだ。独りでやるよりは成功率も高いというものだ。

 万が一になったら見捨てれば良いし。


「……それにしても遅いな、アイツ」


 脱出計画を練るなら、奴を計算に入れない手はない。

 その辺りしっかりと話し合っておきたいのだが、当人がいつまでも便所から帰ってこないときたものだ。

 いや、まぁ、急かすわけじゃないが、敵地ど真ん中で落ち着けるのならとんでもない馬鹿ということになる。


「…………」


 思い返す、ここ数日の奴の行動。

 カネダは軽くため息をつくと、微笑みながら首を傾げた。

 あいつ馬鹿だったわ、と。至極当然のことを、思い出しながら。


「次からは生肉を食わせないようにしよう……」


 銃弾を弾倉へ込めながら、カネダは身を乗り出して扉から外を覗き込んだ。

 先程の偽装ウマで追っ手は散らしたが、恐らく警備は強化されているだろう。だとすれば尚更脱出が難しくなる。

 馬車屋の馬を盗むか? その馬を使って、見張りに見付かる前に逃げてーーー……、いや、山を越えて先回りなんかされたらコトだ。もっと慎重に考えねば。


「そこか」


 瞬間、カネダの鼻先を槍が貫いた。

 火山灰で煤けた扉に突き刺さる、銀。槍が投擲されたのだと気付いたのは数秒ほど後のことだった。


「……嘘だろ、おい」


 槍をなぞるように、金色の双眸が流れていく。

 そして捕らえたのは、数十人近いドワーフの戦士達。そしてその中央に立つ、一際異様な雰囲気を放つ、ドワーフの男。


「捕らえろ」


 彼の、地響きのような声と共に戦士達は大地を蹴り飛ばした。

 同時にカネダは双銃を引き抜き、そしてーーー……。



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