【エピローグ】
【エピローグ】
「「「…………」」」
大惨事が巻き起こった天国から視点は戻って、地上の『始まりの街』。
残されたシャルナ達はフォールの死を嘆くどころか、天空を覆い尽くしていたスライムの紋章を目にすることで、先程までの涙は何処へやら完全な真顔で空を見つめていた。『また何かやりやがったなあの野郎』と言わんばかりに、ただ、唖然とそれを見つめていた。と言うかルヴィリアは実際にぼそりと呟いた。
そりゃ唖然としようものである。感動のエンディングに入るどころか絶対天国で何かやらかした男は、本当に、何と言うべきかーーー……、最期の最後まで、とんでもない奴だったのだから。
「……は、はは。何と言うか、フォールらしいと言うか、何と言うべきか」
やがて、夕暮れの雲のように徐々に薄れゆくスライムの紋章を前に、シャルナは力抜けるような微笑みを浮かべていた。
――――それは、きっと彼なりの別れの挨拶だったのだろう。自分達に対して、この世界に対して、『さようなら』の言葉代わりだったのだろう。彼のことだから天国で女神はこてんぱんにぶちのめされているだろうし、ついでに魔王も大変な目に遭っているに違いない。色々な問題だって、一挙に片付けてしまったに違いない。
「本当に……」
彼はーーー……、最期まで不器用な男だった。別れの挨拶もなく、目的を達成することもなく、けれど残すモノは残して、逝ってしまった。自分達に、この世界に、託すべきモノを託して、逝ってしまった。あの紋章はまるで、その託したモノを『頼んだぞ』と背中を押すような、そんな、別れの挨拶の意味も込められているように思う。
何処までも不器用な男の、精一杯の別れの挨拶。それがあの紋章だったのだろう。
「……けれど、嗚呼、貴殿。私はそんな後押しよりも、どんな平和よりも、再び貴殿に会えた方が何倍も良かったよ」
褐色の頬を伝う、一筋の涙。シャルナはそんな涙を拭うように、彼女の肩を抱き寄せた。ローもまた彼女に同意するように力無き鳴き声を零し、大地に頭を垂れる。
その男の存在は何処までも大きかった。良くも悪くも、この世界にとっても、誰かの運命にとっても、そして彼女達にとっても、何処までも大きかった。例えそれが必然の運命だったとしても、奇異なる運命の果てだったとしても、それが決まっていた終わりの形なのだ。
彼女達だって解っている。きっとフォールはこんな哀しみは望まないことを。前を向け、と。そう言うであろうことを解っている。何を泣く暇がある、だとか。そんな暇があれば片付けでもしていろ、だとか。そんなことを言うに、決まっている。
もうーーー……、その声を聞くことは、決してないのだけれど。
「私との約束を……、護って欲しかったな」
シャルナは彼だった泥と土塊を掴みながら、もうこの大地のそれと見分けも付かない残骸に指先で触れながら、静かに吐き零す。
やがて彼女達は新たな物語を歩んでいくだろう。この物語の結末を乗り越え、新しい道を進んでいくだろう。
だが今だけは、今この一時だけはせめて、その頬に伝う涙のようにーーー……。
「…………うにゃ?」
と、そんな皆が悲嘆に暮れる中、不意にローが気が付いた。
背後でかなり乱雑に埋められた魔王の墓が光り輝いていることに。眩く、まるで宝物が埋まっていると言わんばかりに漆黒の光を放っていることに。
ローは不思議に思いながらもルヴィリアの服裾を引っ張ってその光を指し示す。ルヴィリアはその光を見て一度は頷き、けれど首を振ってローもまた抱き締めようとして、不意にーーー……。
「………………あっ」
その事実に、気付く。
「待ってシャルナちゃん……。その涙、流すにはまだ早いかも知んない」
「…………ぇっ?」
「そうだ、そうだよ。そのはずだったんだ! そもそもアイツまだブルースライムだけでこの世界のスライムに全然会えてないじゃん!! それで彼が諦めるワケがなかったんだ!! そうだよ、ブルースライムは確かに目的だったけれど、それは目的そのものじゃなくて、あくまで目的の始まりだ!! あぁちくしょうあのスラキチ野郎、僕が気付くと思って全投げしやがったな!!」
ルヴィリアは慌ててリゼラだったアレを掘り起こすと、その首で燦々と漆黒の邪悪な輝きを放つネックレスを確認する。
――――間違いない。嗚呼、間違いない! あの勇者は絶対一発殴った方が良い!!
「シャルナちゃん、フォール君は生き返る! ……いいや、生き返らせてみせる!!」
「ま、待て貴殿! どういう事だ!? な、何がどうなってるんだ!?」
「思い出すんだ! このネックレスはフォール君が邪龍を倒した時にリゼラちゃんにプレゼントしたっていう邪龍の鱗のネックレスさ! きっと今、天国のリゼラちゃんのそれと共鳴してるんだと思う!! これを使えば天国のリゼラちゃんをこっちに引っ張り戻せるはずだ!!」
「でもそれで引っ張り戻せるのはリゼラ様だロー? フォールじゃないんじゃないカー?」
「違う、違うんだよローちゃん! 思い出して、シャルナちゃんは何の末裔だい!? そうだよ、邪龍の末裔じゃないか!! そして、その邪龍の末裔がなけなしの魔力を込めて作ったブレスレットをフォール君は身につけてる!! リゼラちゃんのネックレスを通じてフォール君に魔力を送れば、きっと、連れ戻すことができる!!」
そこまで耳にすれば、シャルナの表情に見る見る内に生気が戻っていった。
いや、彼女だけではない。ローも、ルヴィリアも、間違いなくあの男が残したたった一つのパーツを前に、今、涙を拭って再び立ち上がったのである!
「可能なんだな!? ルヴィリア!!」
「確率はかなり低い。お呪いみたいなモノだからね……! けれど彼は勇者だ。初代魔王カルデアが霊体で存在していたように、彼をこっちに引き戻せば必ず同じ本質のフォール君は復活できるだろう!! そしてそれができるのは、邪龍の末裔であり彼の身に着けているブレスレッドに魔力を込めた君だけなんだ!!」
「それは……、いったいどうすれば……!」
「魔力を込めて訴えかけるんだ! 彼を、彼をまたこの世界に呼び戻すんだ!! 僕も片目だけど魔眼で補助するから、君はただ強く念じて魔力を込めるだけで良い!! 僕の残存魔力で何処までできるかは不安だけれど、やるしかない!!」
「…………る、ルヴィリア。それはもし、失敗したら」
ゴヅゥンッッッ!!
一瞬迷い欠けた彼女の頭蓋に、凄まじい頭突きが激突する。
その一撃はあの鋼鉄の筋肉を持つシャルナでさえふらつかせたが、しかし、その眼差しを真っ直ぐに見つめる獣の双眸があった。
「失敗したとか成功したとかじゃないだロ。これしかないんだ。だったら、これをやるんダ。失敗や成功なんか考えてる暇ないゾ。これでフォールが戻って来るなら……、それをやるしかないだロー!!」
「…………あ、あぁ、そうだ。その通りだ! 馬鹿虎娘め、貴殿に気付かされるとは思わなかった!!」
シャルナはその腕でローを抱え上げると、同時にルヴィリアの手も掴んでリゼラだったモノを取り囲む。
その首で燦々と邪悪な輝きを放つ漆黒のネックレス。かつてフォールが気紛れで彼女に与えた、いいや、奇異なる運命が紡がれたその先にある軌跡の奇跡に、祈りを捧げるために!
「準備は良いね!? いくよ!!」
瞬間、ルヴィリアが魔眼を発動すると同時にネックレスから凄まじい光りの柱が放たれる。
柱は天空を貫き雲の果て、遙か彼方まで伸び、途轍もない魔力の閃光を煌めかせた。何処までも何処までも何処までも、この世界中の何処までも届く光と共に、その架け橋は天国と現世を繋いだのである。
「祈るんだ……! どんな形だって良い!! フォール君との思い出を、どんな思い出だって良い!! 彼に、彼が帰ってくるために!! 願うんだ!! 君達の思い出を、僕達の思い出を!! この旅路の思い出を!!」
その言葉と共に、シャルナは強く瞼を閉じて祈りを捧げる。ローも、魔眼を発動させるルヴィリアも、光りの柱に祈りを捧げる。
色々なことが、この旅であった。それは決して楽しいことばかりではなかったし、時に辛いこと、悲しいこと、馬鹿馬鹿しいこと、大変だったこと、とんでもないこと。数え切れないぐらいの出来事がこの旅路にはあった。
そしてその出来事にはいつも彼がいた。何処までも常識外れで奇想天外、目的の為には卑劣だろうが凶悪だろうが手段を選ばない外道、その称号とはかけ離れたやり方で何度も何度も騒ぎを巻き起こし、敵に回った相手には例え仲間だろうと容赦しない、暗殺・放火・服毒が三原則のトンデモ鬼畜スラキチ野郎。
けれどーーー……、そんな彼だからこそこの旅はここまで来れたのだ。彼がいたから、彼といられたから、この旅路はここまで来れた。多くの人々と出逢い別れ、多くの人々と語り合い、時にぶつかり合い、それでもここまで来ることができた。
「フォールぅ…………!」
確かに、旅路には終わりがあるのだろう。その物語の終わりはきっと今に違いない。
けれど、それは一つの物語の終わりだ。彼は言った。『終わりは始まりに過ぎないのだ』と。
ならばまた訪れるその始まりに、彼はいなければならない。いいや、いるべきだ! これからどんな物語が始まるかは誰にも解らないし、もしかするとそれは苦しい物語だったり、悲しい物語だったり、辛い物語だったりするかも知れない。
しかし、彼がいればーーー……、フォールがいればそんな物語も乗り越えられる。彼と過ごしたこの旅路があれば、きっと、乗り越えられる。
「フォール君…………!!」
これから先の物語だって、必ず。
「フォールーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
彼女達の叫びは、天貫く光りの柱を大きく、何処までも強く輝かせる。
その柱は消え逝くスライムの紋章を再び煌めかせ、この世に、満点の蒼き奇跡を降り注がせる。星々よりも彩り豊かな輝きと虹色の天の川となって、それらはこの大地に降り注いだ。
花は大地へ瞬く間に咲き誇り、深淵に飲まれた大地には草木が生い茂り、傷付き倒れた森までもが力強く根を張って再生していく。戦いで割れた山には恵みの水が流れ、砕けた大地にはその水が流れ込んで湖となった。全ての傷を癒すかのように、今、奇跡が降り注いだのだ。
「…………う、うぅん」
そして、そんな奇跡と共に魔王は目覚める。
祈りによって魂を呼び戻された彼女は、今。
「……崇め讃えられてる!?」
違う、そうじゃない。
「り、リゼラ様! フォールは、フォールは!?」
「あ? フォール? 何で……、ってあのクソ野郎!! 妾と女神にあんなおぞましいモンぶつけやがって死ぬかと思ったわ!! いや実際死んでたけど消滅より酷い目に遭うかと思ったわ!! 良かったぁ生き返れて!! マジにヤバかったぞ今回は!!」
「リゼラ様それよりフォールだフォールぅーっ!! フォールは何処ダー!?」
「いやだからあんなスラキチ野郎のことなぞ知るか! どうせそこら辺にいるんじゃ……」
「あ、あの……、みんな。あれって……」
リゼラの言葉を証明するようにルヴィリアは空を指差した。
そこには天の蒼き輝きの柱に揺られて、安らかに瞼を閉じたまま花畑へ降り立つ男の姿があった。本当に、眠っているかのように安らかに、大地へ横たえられる、その男の姿が。
「…………フォール!!」
全員が、いやリゼラ以外だが、一斉にフォールへと飛び掛かる。
しかしフォールに反応はない。抱き付いても揺すっても、いいや、そもそも呼吸さえしていない。
必然だろう。それは確かにフォールだった。だが、見てくれがフォールだけの、魂なき肉体なのだから。
「そんなっ……! まさか、失敗したのか!? る、ルヴィリア、どうにかならないのか!? どうにか、フォールを!!」
「…………残念だけど、儀式は失敗だったんだ。彼の体を甦らせることはできたけれど、魂までは」
「ふぉーりゅうぅううううっ! ふぉぉおおーーーりゅぅうううううう!!」
だが、運命は残酷だ。時にどうしようもなく、残酷だ。
フォールの体は奇跡的に甦った。しかし、奇跡はそれで終わり。それ以上の幸運は訪れない。
いいや、或いは今まで奇跡など無かったのかも知れない。全てが巡り合わせ、機運の組み合わせだった。ありとあらゆる可能性を考慮し、常に最善を尽くしてきた男だからこその奇跡。それが、最期の最後に一手誤っただけのこと。これは必然なのだ。
「貴殿! 約束を……、約束を果たしてくれると言ったじゃないか!! それなのに、どうして、こんなっ……!! こんな残酷なことがあって良いものか!! 貴殿、嘘だ……! 嘘だと言ってくれ! こんなこと、嘘だとっ……!!」
そう、必然のーーー……。
「キュピッ?」
不意に、その声が鳴り響いた。
ただ一匹、つい先刻まで死闘を繰り広げていたその一匹が、不意に鳴いたのだ。
神の加護を受け、降り立ったその体にーーー……、美しきこの世界の奇跡を前に、ただ、鳴いたのだ。
「…………声が、聞こえる」
そしてその鳴き声は、スライムという全ての始まりの鳴き声は。
「神の声が聞こえる……!!」
天よりその男の魂を呼び戻す。
――――勇者、復活!
「やはりスライムこそ世界の真理……! 我が宿命……!! 魂の愛ぃウグッ」
ゴキャッ。
「………………」
「………………」
「………………」
勇者、再昇天。
何と言うか、えっと、あの、はい。
「貴殿! 約束を……、約束を果たしてくれると言ったじゃないか!! それなのに、どうして、こんなっ……!! こんな残酷なことがあって良いものか!! 貴殿、嘘だ……! 嘘だと言ってくれ! こんなこと、嘘だとっ……!!」
Take2、入ります。
「キュピっ?」
「何度でも……! 何度でも俺は甦るぞ……!! このこェグッ」
「よしシャルナちゃんもう一回だ。次こそいける次こそいける」
「貴殿! 約束を……、約束を果たしてくれると言ったじゃないか!! それなのに、どうして、こんなっ……!! クソァッやっぱり甦らないじゃないか!! ふざけるな貴殿どうしてスライムなんだこの場面でもスライムなんだくそがァッ!!」
「フハハハハハ! ザマァないのう勇者めがァ!! 妾と女神をスライムに置換して世界征服など企むからこんなザマになるのだぁ!! 妾がスライムになるわけないだろうがバーカバーカ!! フハハハそのままリスキルされまくるが良いわァ!!」
「リゼラ様の角、何かぷにぷにになってないカー?」
「ローちゃん世の中知らない方が良いこともあるんだよ」
と言う訳で結局この後、シャルナ達が観念する数百回に到るまでスライムの声でしか目覚めなかったスラキチ勇者はリスキルされ続けることになる。ヒロインよりスライムってそれもうどうなのかとは思うが、彼にとってはヒロインよりスライムの方が遙かにヒロインなので気にしてはいけない。
けれど、何はともあれこうして勇者は再びこの現世へ甦った。今度は偽物の体などではなく人間としてこの世に舞い降りたのだ。命ある本物の体に、本物の意志が宿ったのである。
まぁ、この後も彼は色々あって昇天することになったりするのだが、それは別のお話としておこう。彼女達に飛び掛かるように抱き付かれて押し潰されて大変なことになり、天国で大号泣している一部スライムになった女神に『何で戻ってきてんの……』と呆れられたりするのだが、あと序でにそんな彼の死体を焼却しようとした魔王も天国へ送り返されたりするのだが、やっぱり別のお話としておこう。
――――斯くして彼等の物語は終わりを迎える。永きにわたる旅路は、新たなる人生の始まりという形で終わりを迎えることになる。
決して楽な旅ではなかった。いつも騒がしくて、とんでもない事ばかり起こる旅路だった。けれど、それこそが彼等の旅路だった。この物語だった。
ならば、これから始まる物語もまた騒がしいモノなのだろう。いつか、何処かで、紡がれる物語もまたーーー……、どうしようもなく騒がしい、未来への道を歩んでいく物語なのだろう。
誰もが自分の強さを持って歩んでいく、そんな物語なのだろう。
「…………フフッ」
それと、オマケにもう一つだけ。
彼等が彼等の終わりを迎えたのなら、こちらの面々も終わりを迎えることになる。
彼等を追って旅を続けてきたこの一行もーーー……、運命の反逆者として、その物語を歩んできた彼等も、また。
「ん? どうした、ガルス」
「いえ、何でも……。ただ、やっぱりハッピーエンドは良いモノだなて思っただけですよ」
「ひゃははははは俺はバットエンドだけどねェ!! ちくしょう今回で遂に全財産ゼロだぞ!! 大破産だ!! ミツルギ商会に根っこから吸い尽くされたわクソァッ!!」
「良いじゃないですか貴方には帝国で帰りを待つ女性がいるんですから」
「地獄の間違いだよね?」
「些細な問題です」
安心して欲しい。毎朝、鋼鉄を溶かしたスープが出てくるだけである。
「それにしても大変な戦いでしたね……。本当に、まさかフォっちがこんな運命に巻き込まれてるなんて」
「だぁー! 馬鹿馬鹿!! メタルに聞かれたらどうするんだお前……!! 一応カルデアがフォールってことになってんだぞ? もし本物のフォールが生きてるなんて気付かれたらまたどんだけ面倒臭いことになるかっ……!!」
「いえ、大丈夫みたいですよ?」
ガルスが示した先では、燦々と降り注ぐ陽光と草原の花々を揺らす風に撫でられながら、胡座をかいて数多の残骸に座す男の姿があった。
その背中からは、何処かーーー……、物悲しい哀愁が感じられる。
「あの人からすれば唯一の目的だったフォっちを倒しちゃったわけですからね。きっと色々燃え尽きちゃってるんでしょう……。まぁ一時的なモノだとは思いますけど、これからどうするんでしょうか? カルデアを倒した以上、きっとこの世にあの人より強い人なんていなくなるでしょうし……」
「そ、そりゃあそうだろうが……」
「フォっち達の旅が終わったっていう事は僕達の旅も終わりってことですからね。……まぁ、少し寂しくなりますが、新たな旅立ちに別れは必要なものです」
ガルスは懐から小さな手帳を取り出した。
びっしりと、見るだけで目眩がしそうなほど掻き込まれたページの数々が風に揺れてぱたりぱたりと捲れていく。それは彼が禁書や古代遺跡などで得た様々な情報を元に創り出した魔剣の秘密やカルデアを打倒するために編み出された生命破壊魔法の魔方陣などが記されたものだ。
「ですが、新たな旅立ちにはそれよりも多くの出逢いがある。別れは永遠の別れではなく……、隣を見れば、いつだって培った出逢いの絆がそこにある」
その手帳を閉じると、彼は懐から一本のマッチを取り出して火を灯した。
手帳に記された内容は世界を救うための手段だ。だが、世界を救った以上、もうこの禁忌は必要ないだろう。もしかすれば何かの火種になってしまうかも知れない。だから、彼はその前に導き出した禁忌を燃やしたのだ。
瞬く間に燃え逝くその手帳を風魔術で天に送りながら、ただ、彼はーーー……。
「ならば、また新たなる道へ歩み出そうではありませんか」
優しく、微笑みを浮かべるのであった。
「そして、どうかーーー……、願わくばこれからの出逢いが良きものであらんことを」
斯くして彼等の旅路もまた、終わりを迎える。
奇異なる運命から始まった彼等の旅路と共に歩んできた、奇焉なる運命に紡がれたその旅はーーー……、青き空の元、平和なる物語への花束を贈って、静かに終止符を打ったのだ。
「……ちょっとメタルの奴慰めてくるよ。何だかんだ、喧嘩することも多かったけど一緒に旅をしてきた仲だしな」
「えぇ、それが良いと思います。僕はここで待ってますね!」
満面の笑みで一歩下がったガルスに違和感を覚えたカネダだが、彼は特に気にするでもなく背中に哀愁漂わせる男へと歩み寄っていく。
そして彼の肩にぽんと掌を置いて『お前も色々あるよな』と男同士の友情の元に慰めようとした、が。
「もうちょい……、もうちょい……。そこが、よし。うん、ここだ。オッケイ」
メタル、異次元開通。
「よし異次元開けた」
「イジゲンヒラケタ?」
「おうカネダか。もうこの世界にまともな相手いねェっぽいから取り敢えず異世界行くことにしたわ。フォールの使ってた深淵が良いヒントになってなァ。対消滅現象の物質が転送されるっつー空間になら、もしかしたら俺を楽しませてる相手がいるかもしれねェからちょっくら行ってくるぜ。こっちの世界にも気が向いたら戻って来るからその時になったらこの前借りた金返すからよろしくな」
「……………………………………ウン、キヲツケテネ」
「クカカカカカッ! 開くのにちと手間取ったがこれでまた愉しめる相手が探せるなァ! 感謝するぜフォール……、新たな出逢いに乾杯だァ!!」
いつも通りの笑い声と共に、明らかに見ちゃいけないタイプの怪物が跋扈する異次元へ飛び込んでいく狂気の権化。それから亀裂の隙間から聞こえるこの世のモノとは思えない、と言うか実際この世のモノじゃない悲鳴と絶叫。
カネダは振り返り、ガルスを見た。確実に距離を取ってゴーレム軍団を盾に『もう大丈夫そうですね!』と満面の笑みで親指を立てる畜生を見た。
そして狂気の現実と外道の連中から目をそらし、蒼い空を眺める。何処までも蒼い、雲一つない綺麗な空を見つめて、頬から涙を流しながら一言ーーー……。
「まともな奴がいねぇ……」
大体その一言に尽きるという悲劇。
さらば世界、こんにちは世界。これより新たなる物語が幕を開ける。誰も知らない、誰かが知っている物語が幕を開ける。この世界で、誰かが誰かと出会って、新たなる物語を紡いでいく。いや若干一名ほど異世界に行ったしとある男と魔王は天国に再発送されたけど、紡いでいく。
きっと、その物語は楽しいモノばかりではないだろう。けれど、その誰かは前へ進むのだ。一歩ずつ、ゆっくりとでも、前へと進んでいくのだ。
真っ直ぐじゃなくても良い。休むことも、戻ることも、遠回りすることだってある。けれど彼等はいつか辿り着くだろう。自らの強さのカタチを胸に歩んでいけるなら、例え誰だって、いつだって、何処だってーーー……。
いつかきっと、必ず。
読んでいただきありがとうございました
最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ




