【2】
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「解せぬ」
ぐつぐつ煮え立つ鍋の上。つり下げられた魔王様。
きっと美味しいスープができることでしょう。紅く煮えたぎるスープができることでしょう。果実の入ったスープができることでしょう。
群がる蟻さん勇者の群れ。さようなら魔王様、これより貴方はスープに溶けて真っ赤になるのです。
「ねぇ妾の扱いひどくない? 格好良く決めて来たのにこれはなくない?」
「よく言う。その姿に戻った上に初代魔王のサインまで見せびらかすとは良い度胸だ」
「リゼラ様……、残念ながら完全に取引して調印貰って来たようにしか……」
「そんなモノ取って来る暇があるならローのようにデザートの果実を取ってこいという話だろうが」
「そっちなのカー」
「フォール君もうちょい右! 吊すのもうちょい右!! 見え、パンツ、見えっ! 見える!! もうちょいでパンツ!! おぱんちゅ!!」
何かもう大体いつも通りの夕飯時。何故か全盛期の姿へ戻ったのに未だリゼラは悲惨なままだった。
まぁ元が元なので仕方ないと言えば仕方ないのだが、それにしてもあんまりな扱いである。折角、初代魔王カルデアの誘惑も一蹴してフォール達を選んだというのに、帰るなりこんな悪魔の生贄のような捧げ方があろうものか? せめて少しぐらい慈悲や情けというものをくれてやっても良いのではないだろうか!
「何でじゃー! 妾裏切ってないじゃーん!! うぉーそれが勇者のやり方かー!!」
「ところで聞くが貴様が帰るなり空中に浮いて七割が消えたこのサラダ皿をどう思う」
「……………………いや、それは今関係ないじゃないッスか」
はよ死ね魔王。
「やだぁあーーー!! 死にたくないのやだぁーーー!! 本来の姿に戻ったのに死にたくないのやだぁああああああーーー!!」
「えぇい往生際が悪い。面倒だから貴様も初代魔王と一緒にさっさと滅べ」
「ちくしょう死んでたまるか! 助けろ!! おい誰でも良いから妾を助けろ!! そ、そうじゃ、犬っころ!! 妾と初代魔王のサイン色紙を山分けして儲けようと企んだじゃないか!! 助けろ犬っころ!! 犬っころォオオーーーッッ!!」
「グールハウンドなら生ゴミでも見るような顔で色紙持って帰ったゾ」
「何でじゃあああああああああああああああーーーーーーーーーッッッ!!」
転売、ダメ、絶対。
「全く……、この姿になって多少はマシになったかと思えばこの有り様か。カルデアの誘惑を撥ね除けたのだから飯の誘惑ぐらい撥ね除けろ、阿呆」
「そうだよリゼラちゃん! 誘惑に負ける弱い心なんて捨て去るべきなんだ!!」
「じゃあまず貴殿の頭に被ったその下着を捨て去ろうか」
「嫌だぁああああああああああ! ロリゼラちゃんの可愛いおぱんちゅも好きだけどやっぱり大人リゼラちゃんのエロ下着の方が良いんだぁあああああああああああああ!! これは僕の家宝にするんだぁあああああああああああああ!!」
「ロー、やれ」
「フシャァアーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
「え、ちょっと待ってその加速は顔面ごとガブフッ」
「……さて、決戦前に四天王一人と魔王が死んだわけだが」
「待ってまだ妾死んでない! 待ってまだ妾死にたくない!! うぉおおおおおやめろ争いが何を生むんだぁあああ!! 平和こそ我等の生きる道ではないのかぁあああああああ!! 人類皆平等! 友情! 努力!! 勝利!!」
「暗殺、投毒、放火?」
「ちくしょうやっぱり悪魔じゃねぇか!! こんな事なら初代魔王様の誘いの乗っておけば良かっ、アッ、待ってやめて妾はスープ飲みたいだけでなりたくはない!!やめ、おま、ちょ、ヤメロォオーーーーッッ!!」
と言う訳で本日の夕食は前菜『フォール流リゾットの包み焼き』、サラダ『リゼラが完食しかけた茹で野菜と焼き野菜のサラダ&ピリ辛酸味のキノコソース』、スープ『リゼラが沈みかけた肉茹で特性スープ』、パン『フォール特性ピザ』、魚料理『干し黄金蛸と怪魚のソテー』、ソルベ『輪切りのソルベ』、メイン『グルヴ牛の特性ステーキ』、フルーツ『ローが取ってきた果実』、デザート『大樹の蜜アイス』というフルコースである
旅路の途中に味わえるとは思えないような豪勢な料理の数々。その圧巻たる姿を前には、さしものシャルナやルヴィリアも涎を我慢せずにはいられない。後ろで飯をどちらが多く喰うかで殺し合っているローと簀巻きのリゼラなど言わずもがなだ。
これぞフォールの旅の集大成とも言えるフルコース料理ーーー……、彼にとって思い出が詰まった数々の品である。
「ふ、奮発したな……! 貴殿……!!」
「どうせ最後だからな。これぐらい奮発してもバチは当たるまい」
「あっ、この茹で野菜と焼き野菜のピリ辛酸味の! 懐かしい~。レースの時に食べたヤツだよね?」
「にゃっ! 黄金蛸!! 黄金蛸じゃないカ!! 何かすっげーでかいのも入ってる!!」
「このリゾットは帝国の時の……。あの時と同じく芋まで入ってるのか。嗚呼、『知識の大樹』の蜜も懐かしいな。待て、このスープは『爆炎の火山』で食べたアレか!? 今回はちゃんとアポリブ種も入っている!!」
「そうだ。そちらのピザは帝国前の関門で造ったモノだな。それとステーキだが……、リゼラ。貴様の注文通り食い放題だ。死ぬほど喰え」
「え、マジで!? やったー! 喰いまくれるヒャッフゥ!! あといい加減に縄解いてもらって良いッスか!!」
「面倒だから自分で解け。それと食い放題とは言っても明日の戦いに備えて多少は加減を……、いや、今日ぐらいは良いか」
珍しく、いやそれどころか奇跡的に許可を出されたことで暴走的に縄を引き千切って料理へ貪りつく魔王とロー。
しかし今回ばかりは彼女達だけでなくシャルナとルヴィリアも控え気味ではあるものの、嬉しそうに料理へと手を伸ばす。本来ならばフルコース料理なので順番があるのだが、この連中相手に順番などまどろっこしいことをしていたら数秒の待ち時間に皿ごと喰い尽くされるだろうという勇者なりの名采配だ。
実際、予想通り会食始まって二秒でステーキの山が崩されかけているからタチが悪い。
「こ、この包み焼き、パイ生地か! 凄いな、全体的にもちもちだ……。チーズと芋のお陰でとろっとろとだ……。凄い、伸びる! チーズが伸びる!! 焼いてあるから香ばしくて、パリパリだけど、もちもちで……。貴殿、何だこれは? 何なのだこれは!? 中身のリゾットもチーズと芋が甘くて食べ応えがある!」
「このピザも懐かしいなあ……。おっ、そっちのリゾットがあるから甘みとチーズは控えめなんだね? タバスコかけてあるから辛いけど、にゅふふ、これぐらいピリ辛な方が食欲が湧くねぇ。見てホラ、カリカリのサラミや柔らかいマッシュルームまで丁寧に味付けしてる。丸一枚どころか二枚も三枚もいけるよ」
「この黄金蛸とデカイ魚肉のソテーもうめーぞ! 弾力がスゲー! 弾力! にゃははははは!! むちむちだ! かみ切れそうでかみ切れねー! メッチャ味染みてる!! 噛んでも噛んでも味が染み出してくる! 海のあじだ海の味!! こうばしい? にゃはははは! むっちむち!! むちむちーっ!!」
「ステーキうまいぞオイ! ソースが飲めるソースが!! ジュゥウウウウシィイイイイイイイ!! ぬははははは言うまでもないこの美味さ!! 肉だ肉だ肉だ!! これぞ肉だ!! ングフフフフこれ以上美味い肉の喰い方はあるまい!! 正しくして原初にして頂点よォ!!」
「ふむ、果物とアイスを一緒に食べても中々良いな。悪くない。……おい、俺の分のステーキも残しておけよ。アイスで口の中をさっぱりさせてから喰うんだからな」
やいのやいのと大騒ぎ。静かな夜の平原があっという間に宴会顔負けの喧騒振りだ。
無理もあるまい。いつもは倹約質素で工夫を重ねることを信条とし、相手を暗殺する時以外の散財には厳しいフォールが高級食材を大量に買い込み、さらにはいつもの工夫まで凝らしたフルコースメニューをお披露目したのだ。そりゃ魔王やローじゃなくても食い付こうというものである。さらには追加でフォールの秘蔵酒であり『花の街』特産品のエールまで出してきたのだからもう止まらない。
今宵は宴。戦の前には酒を交わし肉を喰らうものというのは昔からのしきたりだ。士気向上や決起固めなど様々な理由があるがーーー……、しかし、この宴だけは、そんな無粋な理由のためではない。
ただ、晩餐。魔王に捧げる最後の晩餐ではなく、彼等にとっての、旅の締めくくりなのだ。
「ははは……。懐かしいな、このスープは。『爆炎の火山』での出来事を思い出すようだ。あの時は突如現れた変態が何者かと思ったが、うむ。覇龍剣の試練や貴殿の言葉のお陰で私は新たな道を歩むことができた。他にも色々、変態的な面子はいたが……、今にして思えば掛け替えのない思い出だよ」
「そんでシャルナちゃんとフォール君の出逢いの思い出でもあるわけだ」
「そっ、それは、まぁ、そうだが……」
「この黄金蛸と怪魚のソテーもね、懐かしいなぁ。あの時はお刺身だったけれど……、僕とフォール君の出逢いの品だ。あの時は、君のお陰でリースちゃんと僕は救われたんだ。その後の『あやかしの街』の時だって……、君のお陰で僕は変われたんだぜ? 親友
「それは何よりだルビーちゃん」
「…………あの、それ一応黒歴史の部類なんでスルーでお願いします」
「こ奴の意外な弱点が見付かったのう。その後のこのピザとリゾットは、うむ。帝国か。帝国は色々と大変だったのう……」
「ローそれ知らねー! 何があったんだー?」
「あぁ、馬鹿虎娘はあの時はまだ居なかったからな……。いや、その、何と言うか、うむ。人の醜さと魔族三人衆との邂逅というか……」
「フォール君が女装したりホモとかヤンデレとかクソレズとか筋肉とかの十聖騎士たち暗殺しまくったり黒幕がロリコンだったりシャルナちゃん最大のライバルが現れたり帝国の宗教政治ブッ壊したり世界最大国家に喧嘩売って逃げたりしまくったことかな」
「私が言い方を考えたというのに貴殿!!」
「大体事実だからな。だがその結果としてエレナをスライム神様の教えに導く事ができた」
「救えたと言え救えたと! ……全く、そしてその後は『知識の大樹』だったか。あの頃は顔貌に手を焼かされたものだな。本当に、色々あった」
「いやぁ、顔貌も結末を考えればちょっぴりだけ気の毒だけどね。……でもまぁ、顔貌と言えば『花の街』での一件はマジにヤバかったぜ」
「ふん、妾とそっくりなどという不遜極まりないあの小娘め! だがまぁ、『滅亡の帆』を墜としたことだけは褒めてやっても良い。エレナもそうだが、あ奴も、ロゼリアも一歩前に進むことができた。それだけは認めてやらんこともないがな」
「ローも頑張ったからナー! メッチャ頑張ったからナー!!」
「うんうん、ローちゃんも頑張った頑張った。まぁ僕としては未だにアテナジアちゃんに女騎士定番のアレを言わせられなかったのが心残りなんだけどネ……。四肢と元気にやってるかなぁ」
「そうか、安心して墓まで持っていけ。……ま、まぁ、私も恋愛同盟のアテナジア殿に伝えることもできたワケだが? だが!?」
「んなう-! ローが知らない話ばっかしやがっテ!! でも『花の街』の後はローも知ってるからナ!! 寒い山とか、アゼスのトコとか!! ……でもあんま活躍はできなかったナ。んなぅ」
「何言ってんのローちゃん! 地底都市はローちゃんなしには戦い抜くことなんてできなかったんだぜ?」
「それ以上にこのスラキチ勇者がやらかしただけであっての。魔道駆輪が変形ロボ化した時はどうしたモンかと思うたわ。妾死ぬし」
「あぁ、アゼスと『氷河の城』での決戦も、何とまぁ無茶なモノをと……。本当にーーー……」
「「「「………………色々あったけど大体勇者が悪い」」」」
「解せぬ」
まぁ事実その通りなので是非とも罪を贖って欲しい。どうせ脱獄するだろうけれども。
しかし何はともあれそんな思い出話に花も咲き、酒も入って宴の渦は益々勢いを強めていく。豪勢な料理と酒と思い出話となれば盛り上がらないワケがないーーー……、のだが、何と言うか、そう。その料理と酒が悪かった。
余りに美味すぎて全員無言になってきたのだ。蟹を食べる時は黙るあの宇宙真理絶対の法則である。
夜の平原で豪勢な料理を無言のままに貪る集団など軽くホラーでしかない。これならまだ騒いでた方がマシだろう。もし道行く人あらば怪談話の題材になることは間違いない。
しかも実際飯食ってる連中一人一人がホラーより遙かにホラーなものだからタチが悪い。特に勇者とか。
「……さて、では暗殺会議を始めよう」
そして始まる対カルデア作戦会議。それ見たことか。
「現状……、俺達はカルデアに対し何ら対策は持てていない。今すぐ奴が現れようものなら敗北は必至だろう。リゼラとローが戻って来たのでもう一度説明するが、俺はこの件については全てルヴィリアに一任するつもりだ。そしてルヴィリアは初代魔王カルデアを殲滅するつもりでいる……。そうだな?」
「もち。ただ対カルデアについてはリゼラちゃんが来てくれたことで希望が倍以上になったぜ。歴代最高の魔力を持ち、最強とすら讃えられた魔王リゼラがいれば勝率はぐっと上がる。何より僕の魔眼だってリゼラちゃんの魔力を分け与えて貰えればかなり使い回せるしね」
「うむ……、伝説に聞く初代魔王カルデアは剣技と魔道を極めし邪悪なる存在だと聞く。流石に霊体であり完全なる復活を成し遂げていないだけあって神代の頃より衰えてはいるだろうが、それでも強敵には違いない。私とローで接近戦を封じたとしても、魔道戦だけはどうしても分が悪くなる」
「つまりリゼラの協力が不可欠ということか。……だそうだがリゼラ、いけそうか」
「んぐぅ」
「喉にステーキ詰まらせて死んだゾ」
「いけるそうだ」
逝ってます。
「実際のとこ、戦略はさっきも言ったかもだけど幾つか練ってあるんだ。完璧とは言わないけど上等まで押し上げることはできる。僕の魔眼とリゼラちゃんの無尽蔵に近い魔力、そして接近戦のエキスパートであるシャルナちゃんとローちゃんがいれば……、勝率は半を上回るはずだ。ま……、所詮は希望的観測だけどね」
ルヴィリアはアイスをスプーンで掬って一口食べると、そのままこつりと額を叩く。
「むしろ僕からすりゃ怖いのは奴の目的の方だぜ……。まさか女神と初代魔王カルデアが元々同一存在だったとは……。そのうち女神を捕らえて神様背徳えっちを期待してたけど、危なかった。危うくTS地雷を踏むところだったじゃないか……」
「貴殿の下らない理由は捨て置くにせよ、確かに恐ろしい目的というのは同意だ。恐怖による支配や世界征服なんてものであれば、まだ、首も縦に振れただろう。いや望ましくはないが……、そこには秩序がある。最低限、支配と征服には秩序が存在する。だが初代魔王カルデアが求めているのは混沌だ。秩序じゃない……」
「よーするに暴れたいとか食べたいとかそんな欲望ばっかってことだろー? ローもなー、確かにそうは思うけど、それは群れのためだからナー。そんな自分勝手やってたらぶくぶく太るだけだゾー。贅肉着いてんのはどっちだって話ダナ」
「あぁ、全くその通りだね。リゼラちゃんはどう思う?」
「ふん、決まってもおろう。己で何かを為すつもりがないからそんな戯れ言が口にできるのだ。観察者はやがて果たす野望のために観察者たるのだ。それが、何も果たすつもりもなく眺めるだけならばただの傍観者に過ぎんわ。そんな唐変木にこの偉大なる魔王が負けてやる謂われはないな」
「流石はリゼラ様……。ところで何か透けてません?」
「え?」
「えっ?」
「「………………」」
「御主等……、この旅行は実に楽しかったなあ……。いろんなことがあった……。まったく、フフフフフ…。本当に…、楽しかった…、1年間じゃったよ」
「リゼラ様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!!」
魔王、また死す。
「いやいや何でだ!? 馬鹿な、リゼラ様が喉にステーキを詰まらせた程度で死ぬわけがない!!」
「……あー、もしかしてこの姿に戻ったせいであの不死身力が損なわれたのかな? いやまぁ、元々あの幼女化がおかしかったワケで、有り得ない話じゃないけどさぁ」
「馬鹿な、そんなまさか! リゼラ様にはちょくちょく死につつ初代魔王カルデアの手札を全て明かしていただくという御役目があったというのに、それもできないというのか!?」
「君、忠臣の称号変換した方が良いと思う」
「どーすれば良いんだコレ? 叩くのカー? 叩けば良いのカー? 叩くゾー。あ、貫通した……」
「「確実に逝ったぁああああああああああああーーーーーーッッッ!!」」
まさかの決戦前に魔王死亡である。
「……それで、フォール。御主は初代魔王カルデアの目的を何とみる?」
「魂状態で話しかけてくるなさっさと肉体に戻れ」
まぁ、それはそうと初代魔王カルデアの目的について、だ。
シャルナ達は自身の意見もあるだろう。他ならぬリゼラもまた、自身の意見を通した。初代魔王カルデアは打破すべき敵であると明確な意見を示した。
だがフォールはーーー……、彼はどうであるかは解らない。ある意味でカルデアに最も近く、けれど最も遠いこの男は、自身を創りだした者の分身であり、また自身の身代を狙う邪悪に対し何を思うのか? ある意味、それを問うリゼラ(魂)にとっても重要な質問であろう。
「別に、どうでも良いとしか……」
まぁ、でしょうね。
「繰り返すが俺の戦いはもう終わっている。アゼスが俺にとっての最大の難関だった……。だがそれに勝利し、俺はあとスライムとの邂逅を残すのみだ。そしてそれは明日、果たされることになる……。つまり、何だ。目的と手段が逆転した者の事などどうでも良いし、逆に目的を知れば手段が知れるかも知れないから知りたかっただけであって、それも無駄だと解ればどうでも良いとしか答えようがないな」
「御主って何かもう……、アレじゃよな……。本当に自分の目的しか見とらんよな……」
「当たり前だ。俺は貴様と出会ってから今日この場所に到るまでスライムを追い求め続けてきた。足跡も、匂いも、形すら文献でしか見たことがなかったが……、追い求めてきた。ぷにぷにするためだけにな」
「ケッ、知っとるわ! そのアホみたいな理由のせいで魔王城が爆散し、妾まであの姿になってたっつーの! と言うかそもそもスライムの為だけに魔族へ真正面から喧嘩売ったスラキチに理由云々を聞いた妾の方が馬鹿じゃったわ!!」
「案ずるな。真正面からではない」
「あぁうんでしょうね!?」
「そして貴様は元から馬鹿だ」
「ブッ殺すぞこの勇者!!」
だが死んでいるのは魔王である。
「……ふんっ! 御主のせいで妾の覇王道がえらく遠回りになったわ。勇者を倒して我こそ最高の魔王と証明するはずが、いつの間にやら初代魔王を倒して証明するハメになったしの。あの日、御主が魔王城の天井ブチ破って来たせいで妾の魔王計画は散々じゃアホめ!」
「案ずるな。貴様はどうせ側近辺りに反旗を翻されて終わりだ。事実見捨てられていたしな」
「やかましいわ! それもこれも御主のせいじゃろーが!! と言うか大体全部御主のせいじゃろうが!!」
ぎゃあぎゃあと、元の美貌を手に入れたも大差無い魔王様。そもそも威厳もクソもないので覇王道だの魔王計画だのどころの話ではない気がする。
――――しかし、まぁ、思い返してみれば、何かと言って一番付き合いが長いのはこの二人だ。
勇者と魔王、あの日、こんなに美しくはなかったけれど、夜天の元で出会ったこの二人。
馬鹿やって死にかけてと言うか実際何回か死んで、魔王の矜持を貫き通した見た目幼女とスラキチを貫き通してしまった見た目どころか全般的に暗殺者。この旅路は、全く、珍道中という他なかった。
仲間になった四天王達も、多くであった者達も、訪れ去った国や街も、共に過ごした日々も、何気ない一言に到るまでが、何処までも、何処までも、何処までも。
「……存分にスライム、堪能してこい。スラキチ勇者」
「あぁ……、頼んだぞ、マヌケ魔王」
それはきっと、旅路を締め括る最後の夜。
これより来たる戦いに備えた、ただ、ほんの少しだけのーーー……。




